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目を開けると、すっかり明るくなっていた。
手を額に当ててみてると、もう熱はない。
気だるい感じも取れて、普段通りに戻ったみたい。
(熱中症やったんかな、やっぱり……)
庭から聞こえてくる勇ましい声は、朝稽古中のみんなだろう。
隣で寝ていた平助くんも稽古に行ったのか、すでにいなかった。
(そうや、総司くん……)
昨夜座った縁側に目を向けたが、もちろんそこには誰もいない。
起き出してバッグを覗くと、iPhoneが返してある。
ささっと着換えを済ませ、隣の部屋を覗いた。
(──あ、寝てる)
行儀よく、真上を向いて寝ている姿に、思わず頬が緩んだ。
(やっぱ、昔の人って寝相ええねんな~)
そう思ったとたん、バサッと右脚が布団から投げ出された。
(なんや、寝相悪いんや)
くすくす、と笑うと、むっくりと総司くんが起き上がってきた。
「ひとの寝込みを襲おうったって、そうは問屋が卸さないよ」
「あれ、起きた?」
「ここの床、軋むだろ?
それで目が覚めちゃうんだよ」
「ああ、そっかごめん」
「──別に、いいよ。
もう起きなきゃならないしね」
総司くんはあくびを噛み殺しながら伸びをした。
「昨日は、ありがとう」
「──うん、ああ、……
例のもの、君の所に返しておいたから」
「スマホ?
また、聴きたなったら勝手に使ってくれていいよ」
総司くんは少し視線を泳がせて、ありがとうと言った。
小憎たらしいのがウリの彼は、こういう普通のやり取りが気恥ずかしいのかもしれない。
「あのさぁ」
「うん?」
「いつまでそこに居るつもり?着替えたいんだけど」
「ああ、ごめんごめん」
あたしはその足で井戸に向かった。