Missing Without A Trace
夢小説設定
名前変更名前の変更ができます。
※苗字は固定となっています。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
自室に戻った土方は、「くそ、」と吐き捨てた。
──迂闊だった
手紙の代筆の申し出に易々と首を縦に振るなど愚の骨頂ではなかったか。
間者ならば、その内容をそっくりそのまま記憶し、話して聞かせることくらい朝飯前である。
机の上に置かれた文箱には、のぞみが手習いに使った紙がたくさんたまっていた。
言いようのない怒りがこみ上げて、それらをつかみ取った。
(まんまと騙しやがって)
ビリ──勢いよく引きちぎる。
力任せに足元に叩きつけた。
それだけでは飽き足らず、蹴り飛ばす。
畳の上に散らばった紙切れの上に、ごろりと寝転がった。
きつく目を閉じる。
【土方さんの真似、上手いでしょ?】
よくも、のうのうと言ってくれたものだ。
そういうことが得意だからこその間者だ。
甘味屋での出来事をもう一度思い返してみる。
冷静になって考えてみると、いささか面妖な点はある。
同志と落ち合うのに、あのような表通り。
しかも、店の前に出された縁台で、というのも解せない。
あそこなら祇園が目と鼻の先だ。
普通なら、そこに部屋を取るだろう。
(──いや、裏をかいたともいえる)
当然、土方が捜しに戻る可能性も考えていたはずだ。
そんなとき、祇園の料理屋から出てきての鉢合わせでは言い訳に困る。
【団子をおごってもらってたんです】
そう言えば、疑いも持たれない。
事実、土方は疑わなかった──どころか、【さらわれなくて良かった】と安堵したくらいだ。
(この俺が、あんな小娘に騙されるとは……)
【土方さんはしゃべりやすいんです】
のぞみの笑顔が浮かんだ。
他の女たちのように甘えてくるようなことはないが、好かれていると思っていた。
(あの土州の男の囲われ女だったということか……)
最初から芝居だった──そう思うと腸が煮えた。
ふと、いつだったか交わされた会話が思い出された。
【ま、猫なら嫌になったら勝手に出ていく、か……】
(飼い主のもとに戻った、か……)
【けど、大抵そういうのって、飼い主が現れるころには情が移って手放せなくなっていたりするんだよなぁ】
土方はぼんやりと天井を見た。
髪を切り、青あざを作り、着物を脱ぎ捨てて往来に立つ──しかも、壬生狼と呼ばれる浪士組の前に。
余程の覚悟が無ければ出来ぬことだろう。
(あの男のために……)
冴えない男だった。
「馬鹿野郎……」
土方はひとりごちた。
Missing Without A Trace<1>/終