<1>
毎日総司くんに張り付いていても、反って成果があげられない。
ここは、いったん距離をとって、相手を油断させる作戦に出よう。
勝手にそう決めて、今日は、左之さんと新八さん、平助くんについて河原町までやって来た。
「
のぞみ、足は痛くねぇか?」
左之さんが振り返る。
「うん、大丈夫。この下駄にもだいぶ慣れてきたし」
「今日は俺がいるから大舟に乗ったつもりでいていいぞ、
のぞみちゃん」
「ま、新八の舟は泥舟だけどな」
左之さんが笑った。
ちょっとした心遣いがとても心地よい。
たぶん、それを自然にできる人なんだと思う。
「それにしても、暑いなぁ」
左之さんが、額に手の平をかざす。
あたしがここへ来たのは宵山だった。
といういうことは、指を折って数えてみると──。
確かな日数は分からないが、とにかくこの日差しは八月のものに違いない。
「そうや、ちょっと鴨川に入らへん?」
「
のぞみ、なかなか大胆なことを言い出すなぁ」
左之さんは苦笑した。
「俺、のった!」
平助くんが手をあげる。
「行こうぜ、
のぞみ!」
平助くんに手首を引かれて、あたしは駆け出した。
まだ護岸整備されていない鴨川は、川原から水の中へ入って行ける。
平助くんと先を争うように河原に下り立ち、袴の股立ちを高く取った。