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「では、行ってまいります!」
あたしは言って、ビシッと敬礼した。
「なんだ、それは……」
土方さんが呆れ気味の顔でつぶやく。
「何て、敬礼ですよ敬礼」
「けいれい?」
「そ、最近ていうか、あっちの世界では軍隊とか警察で、こうやって上官に挨拶するんです」
「ほう?」
土方さんは、少し感心したような顔であたしを見た。
「ほんで、コードネームは何にします?」
「何?」
「あたしの別名ですよ。あたしと土方さんしか知らない秘密の名前です。
──あ、作戦名もいりますよね。誰にも知られないような名前」
「じゃあ、お前ぇの名前は【山ノ字】でいいだろう」
あたしは、じろりと土方さんを見た。
「【山】が苗字につく人って、あたしが知ってるだけでも、あたし入れて三人もいるんですよ?
【山ノ字】って出るたんびに、【それって、山南さん?山崎さん?それともあたしのことですか?】って、めっちゃややこしいやないですか!」
「他の連中は、山ノ字とは呼ばねぇからお前ぇしかいねぇよ」
土方さんは不機嫌そうに言ったが、あたしは無視して続ける。
「そーですねぇ……、お酒の名前もカッコイイと思いますけど、あたしはやっぱり甘いもんが好きなんで──」
「ああ、わかった、わかった!」
土方さんは面倒臭そうに言って、
「じゃあ、お前ぇの名は【ダンゴ】でいいだろう。作戦名は【ぼた餅作戦】だ」
あたしはシラけた顔で土方さんを見る。
「えー、ダンゴとかぼた餅とか、なんですかそれ。ほんまセンス悪いですねぇ。
そや、どうせやったら【桜餅】にしてもらえませんか。
ほんで、作戦名は──」
「なんでもいいから、さっさと行きやがれ!」
(なんやさもう、ほんまヒステリーやなぁ)
そんなことを思いながら、あたしは土方さんに背を向けた。
部屋を出たところで、近藤さんと出くわす。
「あ、近藤さん!おはようございまーす!」
バイバイと手を振って、あたしは玄関へと駆けた。