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「お菊、新人隊士の姉ちゃんや」
さっきの子守の女の子に、少年はあたしをそう紹介した。
「あ、どうも。
のぞみです」
「菊どす」
慌ててぺこりとお辞儀をしてから、彼女はにっこり笑った。
笑くぼが可愛い少女だ。
「子守してんのん?えらいなぁ」
菊ちゃんは、ううん、と首を横に振る。
「あての仕事なんどす。うちは、あてが一番年若やさかい」
「子守奉公や」
さっきの少年が言った。
「お菊は、うちの女中なんや。
ほんまは、もうちょっと若い子ぉが子守するんやけど、うちはお菊がいちばん年が若いよって」
「ふうん、」
子守奉公──というのがあるのか。
八木さんのうちにも男女のお手伝いさんが何人もいる。
(農家いうんは、昔も今も結構金持ちなんやな……)
サラリーマンや侍という給料取りが、案外裕福でないのはいつの時代も変わらないんだなと妙に納得する。
「
のぞみ、早よせえよ」
さっそく、少年が呼び捨てる。
「五平はん」
一応侍らしい恰好のあたしに気兼ねしたのか、菊ちゃんがたしなめた。
あたしは、菊ちゃんの肩をぽんぽんと叩いた。
そして、五平に向かってにやりと笑う。
「五平やな、鬼ごっこするんか?」
「うん、鬼ごっこがええ」
「鬼ごっこ」「鬼ごっこ!」
鬼ごっこコールが沸き起こり、
「ほな、あたしが鬼でええか?」
やったー、と歓声があがった。
「ほな、逃げやー!
いーち、にーい、10まで数えたら捕まえにいくでー」
「きゃーー!」
「さーん、しーい、ごーお、ろくしちはちくぅじゅう!!」
お約束の数え方で10まで数えると、あたしは駆け出した。