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カチャカチャ──と、箸の音がわずかに聞こえる。
夜の飲み会では騒がしい面々も、この時間帯はとりわけ静か。
これが、朝食の風景だ。
新八さんによると、【武士たるもの食事の時には私語は慎むものだ】ということなのだ。
食事を終え、日課となっている食事の後片付けにとりかかっていると、土方さんから声がかかった。
「今日は午後から全員出払っちまう。
近藤さんが残るから一緒にいるといい」
「…………、えーーーーー」
「何が【えーー】だ」
「だって、近藤さんと話すことてないですもぉん」
土方さんは、顔をしかめてあたしを見下ろすと言った。
「別に話する必要もねぇだろう。
黙って手習いでもやってたらいいじゃねぇか」
「だってぇ……」
「大体、俺には勝手にペラペラ無駄話してんじゃねぇか。
その調子でやりゃあいいんだよ。
それに、近藤さんの方がちゃんと話を聞いてくれるぞ?」
あたしはムッツリしたまま土方さんを見上げた。
「だって、土方さんはなんか、しゃべりやすいんです」
「……あのなぁ、言っとくが俺は結構恐れられ──」
あたしはパチンと指を鳴らす。
「そうそう!
なんか、【お母さん】としゃべってるみたいで、あっははは」
土方さんは、ため息を落として額に手を当てた。
「それはそうと、なんか、あったんですか。全員出払うとか……」
ここへ来て初めてのことに不安になって聞き返すと、土方さんは苦笑いを浮かべた。
「お偉いさんが俺たち全員を島原に招待してくれるっていうんだよ」
「──ああ、」
あたしは拍子抜けな相槌を打った。
おじゃま虫という訳だ。
「お前ぇを連れて行ってやっても構わねぇんだが、──」
「いえ、いいです」
あたしは苦笑した。
「あたしが行くと、楽しめないでしょうし」
「悪ィな、お前ぇもいい気しねぇだろうしな」
確かに、平助くんが遊女たちに鼻の下伸ばしてるとこ見るのはちょっと嫌だ。