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ありふれたただの(王宵)

2024/07/20 02:55
text仕分け済み
 まさか宵越くんの方が僕より先にこの学校からいなくなるなんて思ってはいなかった。でも止められないなあと思うのは、自分がずいぶん勝手をしてきた自覚があるからだ。彼に何か言えるような大層な立場じゃない。いなくなる人達をこれまで何度も見送ってきたし、僕自身は誰にどれだけ必死にやめろって言われてもカバディをやめない。そんな奴が言えることなんてないだろう。
 足の調子は大丈夫なんだろうか、と頭の片隅で思いながら観戦した一年生達の勝負において、僕は全くの部外者だった。試合に入ってないっていうだけじゃなくて、彼のサッカーには、僕らにどうこうできるような隙間はなく見えた。相馬が翻弄されている。そこで何が起きていたのか目で追えなかった。卓越したボール捌きは、黄金の彼の脚にボールが必ず応えている、という感じだ。何回やってもそうできるんだろう。素人目に見てもすごい。そう、僕はカバディにおいてなかなかの評価を貰ってるし事実強いけど、サッカーは出来ない。というか球技全般が無理だ。ボールってなんか急にどっか行っちゃわない? そんな人間からでも、彼はサッカーにおいて、きっと特別な人なんだ、というのをよくわかった。そして彼にとっても、サッカーは特別なんだ。そうじゃなくちゃ、こんな話にはならない。
 その試合の結果は一つ容赦のないものだったけど、その場にいる人、僕含め、見ている人全員にもよくわかっただろうと思う。宵越竜哉は稀有なサッカー選手であることが。それはどうしようもなくさみしくて、同時に、テレビの前で試合中継の入場を眺める時みたいな高揚を生んだ。伝説を垣間見ている、という感覚がある。サッカー部なんてみんな号泣してる。
 彼が半年カバディ部に居たことの贅沢さに改めて実感がわいてしまって、僕は振り返って慶の方を見た。「すごい、ね」「アイツボール触るブランクあるはずなのにな」「うちの攻撃手って呼んだら怒られるかな」「あんなの魅せられちゃあなあ」完全にサッカー選手だ、彼は。この場において。「僕がコート出てても何も出来なかっただろうなぁ」そうだな、と慶は少しうつむいて笑った。
 サッカーに出戻りした竜哉は、今までのような距離感でカバディをすることはないんじゃないか。そう思うと、あの、決勝戦がどれほどのものだったかと思う。記憶がどんどん思い出補正で厚底を履いていく。後半任せられたことが嬉しいし、悔しいし、最高の試合だったし、ああ同時に、あの竜哉と戦ってみたかったなとも思うのだ。僕は欲深い。
 その日の帰り、サッカー観戦ガイドを一冊買った。これで彼の見える世界がわかるなんて思っちゃいないけど、竜哉がカバディに向けてくれたように、僕もサッカーに……いや彼にかな、敬意を示せたらと思って。
 でもやっぱり少しだけ思う。これは秘密だ。勝負に出てもいないんだから。
 サッカーに竜哉とられちゃったなぁ。


追記
王カバ大前提で宵サカ前提の宵カバ前提の王宵 来週答えを貰うまで
1000字ちょっと超えちゃった

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