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呼吸を止めて六秒(ジニ爆)

2025/04/02 13:52
仕分け前
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 いち、
 「ただしく怒る方法」についての授業があった。全三回の講義だ。一回目担当の相澤先生も二回目三回目担当の外部講師も、こちらばかり見て話す。だからバカほど授業態度良く聞いてやった。これは一つ後ろの席の出久に向けて言っているんだろうなともいくつかのトピックでは感じた。どっちにしろ壇上からの視線はこちらを向いている。こっち向いてばっかりで他の奴らは興味をなくしているんじゃないかと思い、目を盗んでちらと見回すと、どいつもこいつもしゃんとお行儀良く話を聞いている。ここは雄英であり、座っているのはヒーロー志望である。そうもなる。要は自分の怒りの手綱を握れっつう話だった。少し雑に言い過ぎだろうか。
 それを折に触れて思い出している。参考にならない時の方が多い。
 六秒ルールは諸説あるらしいが、お前には役に立つんじゃないかと相澤先生は授業中に俺を名指しで呼んだ。なので翌日切島が俺の部屋でノートに消しゴムをかけてそのゴミを適当に払おうとした時、六秒数えてやろうと思って言った。
「六、五、四、」
「お前それ実力行使までのただのカウントダウンじゃん!」
「マネジメントしろマネジメント」
「イライラしてんなあ!」
「テメーらさっきからおんなじ所で詰まって進まねえしよ」
「ヤベ飛び火してきた」
 ゼロになったタイミングで爆破すれば切島は硬化して容易く受け止める。
「わかりきってるタイミングできてもあんま訓練にはなんねえな!」
 今度はノータイムで爆破した。

に、
「目が赤いな」
「俺の眼はずっと赤ぇが今気づいたンか? 初めて眼が合ったのか?」
「知っているさ、違う、白眼が充血している。花粉症か?」
 花粉症についてはけして認めていないので黙った。ごそごそとベストジーニストはデスクを探りながら言う。市販の物でも目薬は貸したら薬機法に引っ掛かるかな? 知らねえよ。
「そもそも粘膜に触れるモン貸し借りすんの不衛生だろ」
「粘膜って言われると確かにそうだが。きみ回し飲みとかもダメか」
「容器の都合がつかないとかならともかく好んでするもんじゃねえ」
 それはそうだな、と言いながら出してきたのは未開封の目薬だった。なんだこれ、と眼で問うと今季の予備だと言う。
「花粉症は年々酷くなるんだ。今年はあらゆるところに予備を置くようにしてる。ヒーロー活動中は平気なんだが」
「あんたのコスのあの部分って不織布なワケ?」
 だからいつも最後に口まわりを残しながら布地を消費しているのだろうか。
「歴としたデニムだ。まあ一躍買ってはいるだろうな」
「ふーん」
 その春から大・爆・殺・神ダイナマイトの二月から四月のコスは襟元がより高くなっているとかいないとか。ふ、ぁ、くしゅん。

さん、
 轟は「愛してるゲーム」に死ぬほど強いらしい。こういう時はさっさと自室に引っ込むに限る。不戦敗とかではない。断じて。断じて。背後は騒がしい。オレともやろうぜ。試合相手? そうそう!嫌か? いい。⋯⋯愛してる。う⋯⋯うおぉ、顔熱い、反則だろおまえ! 叫ぶ声がして峰田が机に突っ伏す。負けたらしい。
「トーナメント組むからかっちゃんも試合してよぉ」
 なるべく静かに上に上がろうとしていた俺を見つけて上鳴が声をかけてくる。嫌に決まってんだろと言えば負けるの怖いんだと返ってくる。
 見え透いた挑発だ。六秒数えてやろうと思ったが三秒ぐらいで答えが出た。ムカつくもんはムカつく。上鳴の顎を引っつかむ。
「えっなになに強引に! オレキスでもされんの!?」
 同意無しにそういうことすんなよ! すんなら愛してるって言え! とかなんとか。言ったらいいのかよ。大丈夫かこいつ。
「地面とキスしてろ」手を離す。
「爆豪の罵倒バリエーションって割と豊富なんだ」
 お前って『愛してる』もそのまま言わなそうね。そのまま背を向けて無視する。ふと玄関が開いて、相澤先生が顔を出す。珍しい。
「轟いるか?」
 いる、と轟が答える。違和感。先生が言う。
「お前アイシテルしか言えなくなる個性事故に遭ったって事実か?」
 あ⋯⋯てる。促音も発音できないのか。ああ。いっ言えよ轟ィ! いや言えねえのかごめん! てっきりお茶目にサプライズでゲームはじめたとばっかり⋯⋯。いい。意思。うおお轟ぃー!
 解除条件は伝わりきるまで好ましい相手に愛を伝えることらしい。轟はそれから二週間ぐらいクラスの奴らに「愛してる」と言い続けた。
 


よん、
 プチ炎上をしたので方方から声をかけられる。あれプチっていうのは基準がおかしくなってるよけっこうがっつりした炎上だよと言うのが幼馴染で、まあエンデヴァーよりずっとマシだし大丈夫だろ、炎上っていうか線香花火みたいなもんだ、と言ったのが轟だ。幼馴染の基準は教員として多少厳し目としても、どう考えても感覚がおかしくなってるのは轟である。俺が無数に受けている気がするコンプラ研修はお前こそ受けたほうがいいんじゃないか。
 火気厳禁という話だったので拳で殴った。当然敵をだ。その場にいた他のヒーローが説得に失敗したのをみて、向こうより先手を取るべきだ、と判断してすぐ殴った。俺基準の『すぐ』は大抵の奴より早い。一応簡単な査問にもかけられてその判断は間違っていないとお墨付きをもらっている。もう慣れっこになった査問の責任者はホークスなのであっちもエンデヴァー基準の可能性は無くはないが。いや、さすがにねぇか。
 研修会場は公安の建物の中で、いつもの講師を待っていたらベストジーニストが現れた。なんでだよ。
「七回も研修を受けて態度が変わらないならアプローチを変えてみようという公安委員長のアイデアだ」
「人ってそんな簡単に変わんねえだろ」ホークス疲れてんのか?
「お前が言うのか」
 どういう意味だよ、と聞けばベストジーニストは笑う。なんだよ知ったように。
「知ってるよ。見てきたさ。君がヒーロー名を決めていなかったときから」そう言ってベストジーニストが笑う。


ごー、
 ワン、ツー、さん、し、と脳内でカウントが走る。通っていた音楽教室の指導者が四拍子をそうやって数えていた。子ども心に英語か日本語かどっちかにしろよと思った記憶があるし実際口にも出した。確か一拍目と三拍目が強くなるのだからワンとさんで強く置きに行くのが丁度いいのだとかなんとか。韻も踏んでるし、とか。
 あんまり納得できた記憶ではないのだが、気がついたら俺自身も四拍子はそうやってカウントしていた。愕然とした。
 耳郎とカウントの話になってそう言ったら笑われた。反骨精神? ロックだねえ! てか反抗期か! あはは! でも爆豪の音楽の基礎ってその先生のおかげなわけじゃん感謝しとこ!
 イヤホンで音楽を聴きながらランニングをしていると四ビートの曲はどうしてもワンツーさんしで数えてしまって左右の踏み込みが偏る気がする。今度から超高速ワルツとかで走ろうか。曲が終わる。スパートをかける。ワン、ツー、さん、し、カウントを止めたって慣性がある。決して急には止まれない。ワン、で踏み込んだ勢いをツー、で次に渡してさん、で整えて四拍目。この拍は次の小節に踏み切るためのエネルギーを持っているんだよ、と脳内で懐かしい声が喋る。四のあとの五は一拍目と重なってまた次のエネルギーを循環させる。
 なんだかもっと速く走れそうな気がする。



ろく、
 死にかけた。走馬灯の中の割と長い尺が高校時代のマジでどうでもいいやり取りなんかに割かれていてなんとも言えない気分になった。
 ベッドサイドに誰か居んなと思ってしぶしぶ目線を向ければベストジーニストだった。泣いている親とかでなくてよかったな、と思う。さすがに親相手には心の準備をする時間がほしい。いちチームアップ相手であって付き添う義理があるわけでもないだろうが、サイドキック時代に目覚めてすぐナースコールも押さず立ち歩いて大目玉を食らって以来、意識消失して目が覚めると必ず誰かが居る。その当番になったのだろう。あれから目覚めには大抵小言がセットだ。
 ばちり。ベストジーニストと目が合う。こん人も怒ってんのかな、と思って頭の中でカウントをする。いーち、にーぃ、さーん。気分は雷光の後に音がするまでを計ろうとするのと同じだ。
 よーん。なんにも言われないのでこちらもなにも言わない。ごー。ガン飛ばされてる気分になっている。ろーく。目を逸らしたら負けな気がする。
 なな。ベストジーニストは何も言わない。
 走馬灯の一部だ。いつかの上鳴が脳裏で笑う。
「六秒見つめ合える相手とは心理的にキスができるらしーよ!」

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