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ともだちレベル1(ジニ爆)

2024/12/29 21:59
仕分け前
 中学時代の僕に「大人になった僕はかっちゃんとサシ飲みで恋バナとかするよ」って言ったらたぶん幻覚とかイマジナリーフレンドの定義とかを調べ出すと思う。人生ってわからないものだ。ちなみに今の僕にとっても現況は結構信じがたいものです。
「初恋って響きがだめだろ」
 なんか同意を求めてこられた。
「いやあ別に……そんなことは、ないんじゃないかな」
「だめなんだよ」
「君って僕の話聞いてくれないよね」
「お前は俺の言う事聞かねえじゃん」
「聞く義理がないからなあ」
「ある時も聞かねえよ」
 言外に、聞く道理のないことを言う場合があるってことは認めているみたいだ。中学時代の僕に伝えたい。伝えたからって中学時代のかっちゃんの性格とか言動とかが変わるわけではないんだけど。

 半年くらい前だったかな。かっちゃんから急に、『次の土曜メシ行けるか』って連絡が来た。その日は麗日さんとの先約があったからお断りしたら話は流れた。そのままにしていたんだけど、先々週、また同じような連絡がきて、これまたその日も麗日さんとの先約があったから無理だって返事をした。
 かっちゃんはそのまま普通に『了解』の二文字で話を終わらせたけど、なんだかちょっと座りが悪い気がしたので、別の日を指定して、『この日なら空いてる』ってメッセージを送った。多忙なる大・爆・殺・神は『空けれる』と。かくして今日の日のサシ飲みはセッティングされた。
 だからちょっと満更でもない気持ちや少しの緊張と共に待ち合わせたんだけど、現れたかっちゃんは至って普通だった。普通に個室のある居酒屋に入って、普通に話して。最近どう? みたいな。そしてかっちゃんは宣った。『恋バナするぞ』。だからもう三回くらい「僕らってそういう関係だったっけ」っていう修羅場の号砲みたいなセリフが思い浮かんだんだけど、そうなのかも。僕らって、案外そういう関係になったみたい。
 これじゃまるで友達みたいなんだけど、僕らっていがみ合いが解消されたら残るのはありふれた特別な人間関係だったらしい。友達。友達!? すごいなあ。親友ではない。比較対象がいるからわかる。僕の心のうちで、飯田くんや轟くんの座る椅子とかっちゃんのそれとは別物だ。でも、幼馴染の友達って言ったらまるで幼馴染の友達みたいじゃん。
「もしかして僕らって幼馴染の友達なの?」
「よくそれ口に出せたな。恥ずかしくねえの。学生相手にしてると感性も学生に寄るんか」
「最近の学生ってわりと精神性完成されてるよ」
 雄英ならそうかもな、とかっちゃんは頷く。相澤先生に聞かせたい。雄英生・爆豪勝己のピーキーな性格を一番よく把握していたんじゃないかと思うから。ため息くらいつくだろう。
 とはいえ幼馴染の友達、に否定はされなかったあたり今度からこの人僕の友達ですって紹介してもいいのかもしれない。いやでも……、幼馴染です、だな。やっぱり。まだ。人間関係って意図しない発展することもあるから、まだ、という言葉に何かを託しておく。
 そう、人間関係の、発展。僕らは今、恋バナをしている。
「んー、でもさ、話戻すけど。初恋だからとかはそんな関係ないでしょ。いや相手も何も知らないけどさ。問題は……かっちゃんの苦手とするところだもんね、対人コミュニケーション」
「うぜーな」
「事実じゃん」
「お前相手が克服できたんだからどうにでもなるはずだと思うんだよな、俺あ」
「僕って克服されてたんだ」
「二十年かけてな」
「長丁場だあ」
 そうなんだよ、とかっちゃんは頷く。
「二十年て長えんだよな」
 物憂げにため息をついた。え、まさか。
「かっちゃん初恋二十年引きずってんの!?」
「ちげーよバカ。それでお前知らなかったらお前バカだろバカ」
「ばかばか言うなよ」
 ありえない話じゃないだろ。自慢じゃない(本当に自慢ではない)けど僕にとってかっちゃんはけっこう未知のところがある存在だ。この人の考えてることがわかった試しなんて……本当に、少ししかない。その『少し』も戦闘中とかだ。
「相手が」
 かっちゃんは言う。
「二十歳上」
 なるほどね。かっちゃんの周辺、二十歳上、初恋。相手に目星がついてしまった。こっちは自慢だけど僕は結構な範囲のヒーローのプロフィールを暗記している。
「じゃあ出会ったの十六の頃かあ」
 僕が気がついたことに気がついたかっちゃんが顔を顰める。恋バナするぞって言い出したのはそっちだからな。何ちょっと気味悪げな顔をしているんだ。
「お前ってそう言うとこちょっとやばいよな」
 言いやがった!
「この話を始めたのは! そっちだろ!!」
「はいはい悪かったわ」
 かっちゃんが適当に謝る。十年前には信じられないコミュニケーションだ。かっちゃんって謝れる人なんだよな。この前メディアに対してめちゃくちゃ怒鳴ったのにその後一切謝る意思を見せなかったからものすごい炎上してたけど。
「うーん、なんかどうにかなりたいってこと? 仲悪くはないよね」
「まあな」
 傍目から見ても気安いコミュニケーションが成立しているし、業務面でも連携はバッチリ取れるって聞いてる。
「でもお前二十年下に告られたらどう思うよ」
「かわいらしいなって思うかも」
 少し前だったらもっと慌てた感じになってた気がするけど、今だったらなんだかあったかい気持ちになる気がする。
「耐えがてぇ」
 微笑ましい気持ちから遠い場所にいる人である。眉間に思いっきり皺を寄せて、かっちゃんは吐き捨てる。
「こっちはむちゃくちゃになってんだぞ」
「かっちゃんが? 恋で? 無茶苦茶に?!」
「黙れ」
 ちょっと衝撃すぎて忘れられない告白である。かっちゃん⋯⋯。かっちゃん⋯⋯!
「僕応援するよ!」
「嫌だ」
「嫌だ?! なにが?! 僕に応援されることが?!」
「わかってんじゃねえか」
 酷い人だなあとしみじみ思う。だったらなんで僕と恋バナしてるんだよ。
「今日何を話しに来たのさ」
「愚痴。有益な話があるならアドバイスをもらってやってもいい」
 偉そう。
「なんで僕?」
「ババアが聞くとしたらお前かなって思って口止め。あと呼び出せそうなので恋人がいるやつがお前だったから」
 噎せ返る。
「あっあの⋯⋯」
「お前と麗日のことならみんな知ってるわ」
「みんなって、みんな?」
「みんな。あと先生とかも。お前のこと知ってて麗日のこと知ってるやつはみんなお前と麗日のこと知ってる」
 顔がめちゃくちゃ熱い。みんなかあ。通りでなんか最近みんなニヤニヤしてたわけだ。僕が先生かつヒーローしてるのがそんなに愉快なのかと思ったけど、揶揄してくるような人たちじゃないし(ここでのみんなについてかっちゃんは万が一に備えて除いておく)、なんだろうと思っていた。というかなんで先生が知ってることを僕より先にかっちゃんが知っているんだ。先生? 僕その話別にしてないですよね? 僕にその手の話を振ってきたこともなかったですよね?
「おい俺の話聞けよ」
 ちょっと考えているとかっちゃんから声をかけられる。
「横暴だなあ。王様?」
「大・爆・殺・神」
「神かあ」
 理不尽とか司ってるんだろうな。
「聞くよ。何?」
「どうしたら勝てると思う?」
「勝ち負けじゃないと思うよ」
「完全勝利を決めてえんだが」
「勝ち負けじゃないと思うよ」
「偉そうにすんな!」
「してないよ! 偉そうなのはいつだってかっちゃんの方だよ!」
 ぜえはあ。個室と言えど外に声聞こえてるんじゃないだろうか。
「百歩⋯⋯万歩譲って勝ち負けだとして、どうなったら勝ちなのさ」
「⋯⋯」
 黙るのか。
「向こうも⋯⋯、」
「うん」
「俺くらい、めちゃめちゃになったら」
「そっか⋯⋯」
 それは、すごく。
「ジーニスト相手に難易度高すぎない?」
「うるせえ! あと名前出すなや!」
 絶対かっちゃんのほうがうるさい。
「初恋なんですずっと好きでしたって言っちゃえば」
「お前恋人と上手くいってるからって調子のんなよ。ある弾使い果たして負けるだけの終わりじゃねえか。絶対ヤダ」
「勝ち負けじゃないと思うよ」
 威嚇してくるのをいなす。お前と麗日が上手く行ってるのは八割麗日のおかげだろ、とか言うのにはまあ頷く。
「あのさ、かっちゃんの勝ち負けの基準に照らせば僕のほうが勝ってるわけじゃん」
「殺すぞ」
「だから聞いときなよ。確かに麗日さんはずっと想ってくれてたって聞いてる」
 口に出したら顔がまあ熱い。
「で、なんか急に僕の方は彼女が特別に大切な人だってことに腹落ちしたんだよ」
 かっちゃんのおかげでもある。
「なにが言いてえの」
「向こうからも特別が向けられることはなくもないんじゃないの」
 君がずっと気づいてないだけで。かっちゃんは黙った。
「負ける前提なんてらしくないだろ」
「ワンチャンあるって?」
「言い切れないけどさ」
 この人から特別を向けられてたらなんかいい気がしたりするもんじゃないだろうか。僕の特別酷い扱いはたまったもんじゃなかったけど。
 友達にならそのくらい言ったっていいだろう。
「ちょっとくらい僕の例も参考にしなよ」
「テメーは特殊!」
「かっちゃんに言われたくなさすぎる!」
 やっぱりあんまり僕の話聞いてくれないなこの人! でもちょっと顔が赤い。お酒もあるけど、それだけじゃなく。僕は笑った。僕の幼馴染の友達が、相談相手に僕を選んでくれたことが嬉しくて。



「まあ十六歳の頃から好意を向けられてたりしたら高校教師としてはその相手はやめろって言うけど」
「お前応援するなら全部前向きなこと言えよ!」

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