SSS
はればれ(ジニ爆)
2024/10/24 22:24仕分け前
『晴れの国』というフレーズを持つ県が出身なもので、袴田は自分がいわゆる雨男というやつだということに長年気がついていなかった。確かに小中学校の頃と比べて高校ではイベント事の際に雨が降っていたような印象もあるが、そこは天下の雄英だ。屋内設備がこれ以上ないくらい整備されているから、雨天時にもなんの問題もなかった。屋外で本番を迎えることもあったが、雨の中という個性によっては難易度の上がる環境下で訓練が出来て良かったじゃないかと当時の担任は笑っていたように思う。
プロデビューの日も雨降りだった。おろしたてのデニムが雨によって重みを増した感触を覚えている。雄英時代の雨天演習のおかげで苦はなかった。独立して事務所開所の日も雨降りだった。せっかくもらった開所祝いの花たちを雨を避けてロビーに入れたらむせ返るような香りが充満してしばらく抜けなかった。初期からジーニアスと繋がりの深い警察関係者は『そういう芳香剤を使っているのだと思っていた』と後に語った。
こんなことを考えているのは交際相手の家族に挨拶に行こうとしていた予定の、ちょうどその日に台風が日本列島を直撃する予報が出たからだ。台風は勢力を増して過去最高レベルの警戒が呼び掛けられている。降雨の強度は袴田の中でのそのイベントの重要度に比例している気がする。自分の人生の中でもよっぽどのイベントだということだろう、などと思いつつ、延期の連絡を交際相手に入れる。当然緊急事態が優先される。そういう職業をしている。
交際相手――爆豪は案外すぐに返信をしてきた。
『延期したらその延期した先の予定も雨降るんじゃねえの』
『その可能性はあるが警報が出ている中で事務所不在には出来ない』
『そりゃあそうだ』
自分が雨男だと気がついたのは、独立後、とある屋外ファッションショーにモデルとして出演するオファーを受けた時だ。それはもう楽しみにしていた。夏の日のことだった。祭りの催しの一つとして予定されていた中で、いよいよショーが始まる、その時になってとんでもない夕立に降られた。雨で壊れそうになる簡易テントを個性で補強していたその時にふと思ったのだ。岡山から出てからこちとら、気合を入れた局面では雨が降っているな。と。
記録を振り返ってみれば案の定要所要所で雨に降られている。逆に小中学生の頃は岡山の晴れ力で相殺されていたんだろうか、などと考えてみると故郷の愛おしさも増すというものだ。
『次のオフに延期する。気合い入れんなよあんた。流れで適当に挨拶すりゃいいだろ』
『無茶を言わないでくれ』
少しの興味と大いなる緊張をもって臨もうとしているというのに、爆豪はこの言い様だ。確かに袴田がずっと気負ったままだと大雨続きで挨拶できる日が来なくなるかもしれないが。
ひとつ思いついたので送信する。
『先に岡山の方に行くというのはどうだ。多分晴れるぞ』
『じゃあついでに岡山に俺の親呼べばいいな』
『まて』
思わず変換しないまま送信ボタンを押した。
『それが一番合理的だろ』
『感情的な部分を度外視しすぎている』
『じゃあ晴れさせろ。俺は雨男だの晴れ男だの非科学的なものに振り回されたくねえんだが』
そうまで言われると反論の言葉に困った。爆豪はとっとと事を進めたいらしい。
『君のご両親の予定もあるだろう』
『あんたよか自由が利く。俺も。新幹線が止まらなければどうとでもできる』
これは袴田が折れるべきなのかもしれない。一度こちらの実家に聞いてみる、とやりとりを終わらせた。どう答えが欲しいのかわからないまま親に連絡を取る。台風大丈夫? と開口一番聞かれて少し緊張が解ける。
「大丈夫になるようにベストを尽くすさ」
今度晴れた日に好きな人とその両親と実家に訪れてもいいか、と聞けば、『訪れる』ではなくて『帰る』でいいろ寂しいじゃろ、と返される。爆豪はおそらく両親に諾を得るだろうから、準備は整ったと言える。小さく息をつけば、そのため息未満を電話口で聞き取って笑われた。
「おめー落ち込むと日照り続きになるんじゃけ気合い入れんと」
「……昔からそうだった?」
「じゃーでー」
気合いを入れると雨が降るというより、気落ちすると異様に晴れるというのが親の見解だ。台風は季節の問題だろうということにして、気をつけるように言われて電話は切られた。爆豪に連絡を取ろうとすると、向こうからメッセージが届いていた。
『台風、温帯低気圧になる予報になってる』
調べてみると確かにそうだ。笑ってしまった。自分が落ち込んだせいだろうか。
『私の実家は大丈夫そうだ。日取りが決まれば』
『こっちも。あんた気い抜いておけよ』
無茶を言う。異様に晴れたらどうするんだ。また連絡する、とメッセージを送って、業務に戻ろうとすると、画面を閉じる一瞬前に送られたメッセージが目に残った。
『雨に負けてんなよ』
らしくて笑った。あいにく雨には慣れている。負けやしないさ、と口の中で呟いた。
プロデビューの日も雨降りだった。おろしたてのデニムが雨によって重みを増した感触を覚えている。雄英時代の雨天演習のおかげで苦はなかった。独立して事務所開所の日も雨降りだった。せっかくもらった開所祝いの花たちを雨を避けてロビーに入れたらむせ返るような香りが充満してしばらく抜けなかった。初期からジーニアスと繋がりの深い警察関係者は『そういう芳香剤を使っているのだと思っていた』と後に語った。
こんなことを考えているのは交際相手の家族に挨拶に行こうとしていた予定の、ちょうどその日に台風が日本列島を直撃する予報が出たからだ。台風は勢力を増して過去最高レベルの警戒が呼び掛けられている。降雨の強度は袴田の中でのそのイベントの重要度に比例している気がする。自分の人生の中でもよっぽどのイベントだということだろう、などと思いつつ、延期の連絡を交際相手に入れる。当然緊急事態が優先される。そういう職業をしている。
交際相手――爆豪は案外すぐに返信をしてきた。
『延期したらその延期した先の予定も雨降るんじゃねえの』
『その可能性はあるが警報が出ている中で事務所不在には出来ない』
『そりゃあそうだ』
自分が雨男だと気がついたのは、独立後、とある屋外ファッションショーにモデルとして出演するオファーを受けた時だ。それはもう楽しみにしていた。夏の日のことだった。祭りの催しの一つとして予定されていた中で、いよいよショーが始まる、その時になってとんでもない夕立に降られた。雨で壊れそうになる簡易テントを個性で補強していたその時にふと思ったのだ。岡山から出てからこちとら、気合を入れた局面では雨が降っているな。と。
記録を振り返ってみれば案の定要所要所で雨に降られている。逆に小中学生の頃は岡山の晴れ力で相殺されていたんだろうか、などと考えてみると故郷の愛おしさも増すというものだ。
『次のオフに延期する。気合い入れんなよあんた。流れで適当に挨拶すりゃいいだろ』
『無茶を言わないでくれ』
少しの興味と大いなる緊張をもって臨もうとしているというのに、爆豪はこの言い様だ。確かに袴田がずっと気負ったままだと大雨続きで挨拶できる日が来なくなるかもしれないが。
ひとつ思いついたので送信する。
『先に岡山の方に行くというのはどうだ。多分晴れるぞ』
『じゃあついでに岡山に俺の親呼べばいいな』
『まて』
思わず変換しないまま送信ボタンを押した。
『それが一番合理的だろ』
『感情的な部分を度外視しすぎている』
『じゃあ晴れさせろ。俺は雨男だの晴れ男だの非科学的なものに振り回されたくねえんだが』
そうまで言われると反論の言葉に困った。爆豪はとっとと事を進めたいらしい。
『君のご両親の予定もあるだろう』
『あんたよか自由が利く。俺も。新幹線が止まらなければどうとでもできる』
これは袴田が折れるべきなのかもしれない。一度こちらの実家に聞いてみる、とやりとりを終わらせた。どう答えが欲しいのかわからないまま親に連絡を取る。台風大丈夫? と開口一番聞かれて少し緊張が解ける。
「大丈夫になるようにベストを尽くすさ」
今度晴れた日に好きな人とその両親と実家に訪れてもいいか、と聞けば、『訪れる』ではなくて『帰る』でいいろ寂しいじゃろ、と返される。爆豪はおそらく両親に諾を得るだろうから、準備は整ったと言える。小さく息をつけば、そのため息未満を電話口で聞き取って笑われた。
「おめー落ち込むと日照り続きになるんじゃけ気合い入れんと」
「……昔からそうだった?」
「じゃーでー」
気合いを入れると雨が降るというより、気落ちすると異様に晴れるというのが親の見解だ。台風は季節の問題だろうということにして、気をつけるように言われて電話は切られた。爆豪に連絡を取ろうとすると、向こうからメッセージが届いていた。
『台風、温帯低気圧になる予報になってる』
調べてみると確かにそうだ。笑ってしまった。自分が落ち込んだせいだろうか。
『私の実家は大丈夫そうだ。日取りが決まれば』
『こっちも。あんた気い抜いておけよ』
無茶を言う。異様に晴れたらどうするんだ。また連絡する、とメッセージを送って、業務に戻ろうとすると、画面を閉じる一瞬前に送られたメッセージが目に残った。
『雨に負けてんなよ』
らしくて笑った。あいにく雨には慣れている。負けやしないさ、と口の中で呟いた。
追記
雨ニモ負ケズ~ってね
成人済み同業者お付き合い時空
なんかベストジーニストさんが雨男だったら嬉しい気持ちがあるんだけど晴れ男だったとしても嬉しいな…みたいなことが書きたかったような気がします
成人済み同業者お付き合い時空
なんかベストジーニストさんが雨男だったら嬉しい気持ちがあるんだけど晴れ男だったとしても嬉しいな…みたいなことが書きたかったような気がします