SSS

(ジニ爆)

2024/09/04 19:38
text仕分け済み
卒業後サイドキック時空

 九月になった途端スイッチでも切り替えたかのように気候が涼しくなった。爆豪はふうと息をつく。ずいぶん呼吸がし易くなった。あのバカみたいな猛暑はなんだったんだ。露出の多いコスの奴なんかは気温差で風邪をひくんじゃないかと思うも、脳裏に浮かんだのが切島だったのでそうでもないかと考え直した。漢気でなんとかするだろう。
 風が心地いい。事務所に入ると、まだエアコンが効かせてあって、少し肌寒くすらある。昼間はまだ夏の名残があるが、この時間になると蝉の声なんかは一切聞こえなくなった。
 もう日差しはない。所内で一番大きい窓のブラインドをあげて、ベストジーニストが外を眺めていた。
「何してんだよ」
「うん? ああ……。マジックアワーだ、と思ってね」
 西側、薄いオレンジから紺色にかけて、柔らかい明るさが空に佩かれている。太陽の姿はないのに空は薄く光る。街がグラデーションに包まれていた。
「美しいだろう」
 思わず横顔を見上げた。どんな表情を浮かべて言っているのか気になった。
 敵に向ける視線とはもちろん違う、ファンサービス中のキメた顔とも違った、ただ穏やかで柔らかい微笑みがそこにはあった。コスチュームで顔が半分隠れていてもわかる。瞳が空の光を少し反射して輝いていた。
「あんた、」
 そんな顔するんだ、と言いかけて、見ていたことが知られるのは気まずいように思った。そう言ってしまえばこの表情がかき消えてしまうことも想像ができた。
「この街がよっぽど好きなんだな」
 ぱちり、瞬きをして、そうだね、とベストジーニストは頷いた。
「ずいぶん手を焼かされてきたが、私の街だ。愛おしいものだよ。人の営みが織りなされて、続いていく。その一助になれば、これ以上のことはない」
 爆豪の方を向くのがわかって、窓の外に視線をやった。少しずつ、濃紺に空は染まっていく。
「おまえも独立して事務所を構えればわかるよ」
 想像ができなくて少し首を傾げた。実家のあるあの場所以外を自分の街と呼ぶことがあるのか。
「住めば都という言葉があるだろう。自分の守る街だと思うとどれも愛着が湧くものだ。吊るしでピンとこなくても、履けばこれ以上ないくらいフィットする、そういうジーンズもある」
 なんだか例えが遠くて余計首を傾げる羽目になった。ベストジーニストは爆豪の方を見て薄らと笑う。
「独立するつもりはあるんだろう」
「とーぜん」
 それはもちろん。いつまでもサイドキックの立場にいては稼げるものも稼げない。
「ならそれまでの間に、この街を良く見ておくといい。ノウハウを掴むという意味でも役に立つだろうし、何より、」
 ベストジーニストはゆるりと長い手を広げて見せた。背後に夜の色に染まった街が窓から見える。
「私が私の街を君に自慢したい。いい街だよ。そう『した』。そういう自負がある」
 爆豪はゆるく頷いた。いつかこの街とは関係がなくなることを想像すると、なんだか名残惜しくなるような気もした。
「独立がいつになるか決めていないなら、まずはこの街の冬を楽しみにするといい。雪が降ると……ひどいぞ」
 交通網がな、と言い出したので少し笑った。この街で見れるものは全て吸収してやろう、と心のどこかに誓う。
 



追記
短文ノックチャレンジ2本目 続くかな〜続けたいな〜……

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