ハートのエースが出てこない!

 ヒーローズチップスというものがある。よくあるスナック菓子だ。しょっぱくてジャンクな味わいがクセになる。空腹時、一口食べたらついついそのまま一袋食べてしまうかも。そんなスナック菓子のオマケには、ヒーローのカードがついている。ヒーローズチップスを買う多くの人にとっては逆なのかもしれない。カードがメインで、スナックの方がおまけだ。カードのラインナップは定期的に入れ替わり、大人気国民的ヒーローからちょっぴり玄人好みの武闘派まで、さまざまなヒーローのカードがこれまで作られてきた。レアカードは少なくコレクター泣かせだ。そんなお菓子は昔っから今までずうっと大人気。今日もスーパーの一角で、大好きなヒーローのカードが出てくることを期待してヒーローズチップスがひとつカゴに入れられる。
 ところで天下大大手ヒーロー事務所のジーニアスオフィスにはビル内に売店というものが存在する。ちなみにランドリールーム(通常衣類用)とランドリールーム(デニム専用)なんかも存在するし、適当な服なら小一時間で衣裁に秀でたスタッフが布から作ってくれる。その気になれば暮らせるし、実際ひどく忙しい時期には何日か事務所にヒーローが缶詰になることだってある。避難場所としても機能するように、備蓄なんかも万全だ。食堂で扱わない食料品類は売店を通して入荷していて、その中には嗜好品だってある。
 ジーニアスオフィスと縁深い件のヒーロー、大・爆・殺・神ダイナマイトがついにヒーローズチップスのカードになると聞いて、売店スタッフは話し合った。ヒーローズチップス、ちょっと多めに入れなきゃいけませんね。どんなじゃじゃ馬でも、後輩というものは可愛いものだ。買ってみようと思うだろう。店長は張り切って発注した。
 発注単位が袋でなく箱であったと気がついたのは、入荷処理をするために出勤した深夜勤のスタッフであった。一箱十二袋入り。ちょっと張り切って注文した数、その十二倍のヒーローズチップスが、今、ジーニアスオフィス売店の倉庫を埋め尽くし、所の廊下まではみ出ている。これではヒーローの進路妨害になりかねない。途方に暮れて泣きそうなそのスタッフの目の前に、長身の影が現れた。影はスタッフといくつか言葉をかわし、スタッフは店長に許可を得る。話がついたその後で、最後に影は言った。
「あ、領収書もらえるかい」


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 ジーニアスオフィス各種公式アカウントには動画サイトのものもある。一番人気はベストジーニストによるデニムお手入れシリーズだ。デニムについて少しでも興味があるなら見て損はない。デニムも洗濯機で洗ってしまうけどベストジーニストの解説の声が良すぎるので動画をリピートして延々と聞く、という需要も存在する。
 そのアカウントから、ある日突然配信予定が通知され、ファンはどよめいた。配信枠のタイトルは、『ヒーローズチップス開封の儀』。その文字列を見た者たちは首を捻った。あまりにも語彙がオタクすぎる。本当に公式か? と訝しまれていると、タイトルは変更され、説明文が追加された。
『ダイナマイトカードを当てる配信』
『ヒーローズチップスのカードに我らが後輩、大・爆・殺・神ダイナマイトが登場しました。売店にたくさん入荷してしまったので、みなさんと一緒に生配信で開封していきたいと思います。ベストジーニストの挨拶の後、ジーニアスOffice所属ヒーロー総出で開封していく予定です。ダイナマイトは何枚出てくれるのでしょうか! もちろんヒーローズチップスは全て美味しくいただきます。大量消費レシピも紹介しますので、ぜひご覧ください!(登場ヒーローは未定です。事態により、配信中止や中断の可能性がございます。ご了承ください。)』


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 応援してるヒーローの出身元(と言ってしまっていいと思う。詳しいわけじゃないけど、独立前に籍を置いていたはず)の事務所が応援してるヒーロー——ダイナマイトのカードを当てる配信を今日やるらしいので画面の前に待機している。明日も仕事だからお酒はやめて、あったかい緑茶を入れる。もちろんヒーローズチップスがお供だ。何となしに裏面の栄養成分表示を見て、カロリーに驚く。こんな軽いのに。見なかったことにしよう。ダイエット一週間目、チートデイ五日目、みたいな感じになってきた。まあ冬だし、蓄えておいた方が体調崩した時にいいだろうし……とか誰に向けるわけでもなく言い訳をする。インフルとか流行ってるしね。やめるか、ダイエット! あまりにストイックさに欠けて、ダイナマイトに顔向けできないな、なんて思う。まあダイナマからしても市民は街中で低血糖で倒れられるより健康で丸っこい方が楽だろう。いや、今のなし。自分の怠惰をダイナマイトを理由にして許すのは良くないな。健康で、スタイルもカッコよく、ダイナマみたいになりたいのだ。やっぱ運動習慣が必要なのかな。
 ずずっと緑茶を啜る。ジーニアス所属のヒーローに詳しいわけじゃないけどちょっと好きな顔のタイプのサイドキックがいることは知ってる。彼女は今日の配信に出てくるだろうか。どっちにしろ先輩目線のダイナマイト評が聞けそうな予感がして楽しみだ。レッドラとかチャージとかの話すダイナマとエッジショットが話すダイナマの像にはだいぶ違いがあって、「あいつ猫かぶってるよ!」っていうのが同期のヒーローたちの言うことだ。なんか意外な可愛げがあっていいと思う。今日のニュースで映ってたダイナマイトはまた怒鳴っててちょっとファンTLの間の言及も荒れてたけど。あ、そろそろ、始まりそう。画面が切り替わって、まもなく開始します、の文字が映し出される。


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『こんばんは。ベストジーニストだ。ジーニアスオフィス公式生放送にようこそ。生配信は初めてだ。努めて準備したが、不備があったらすまない。コメント確認班もいるから、何かあったら教えていただきたい。
 今日の内容は主に二つだ。一つ、ヒーローズチップスのカードを開けていって、大・爆・殺・神ダイナマイトのカードを当てる。ああ、何袋目で最初に当たるか、配信中に何枚当たるか、予想してみてくれ。当たったら何があるというわけでもないが、拍手ぐらいは送れるよ。そしてもう一つ、大量のヒーローズチップスを美味しくいただく調理方法についての紹介だ。大・爆・殺・神ダイナマイトのカードが当たり次第こちらの内容を同時進行で始めさせてもらう。そこまで長くならないと思うが、後で編集したものをアーカイブにあげる予定でいるから、明日早い視聴者の方は早めにおやすみ。寒いから暖かくして寝ることだ。毛布を身体の下にして掛け布団との間に挟まって寝ると保温効果が高い。ちなみにデニムは睡眠時には不向きだ。悲しいが、衣類にはそれぞれ得意分野というものがある。私は一番最高の自分を見せたいタイミングでデニムを着用している。デニムは……、すまない、生配信だったな、メインに移ろう。では私から、一袋目。
 おや、私のカードだ。これは引きがいいのかな。二袋目からは我が事務所の誇るサイドキックたちが開封していく。もちろん街の警護も怠っていないから、我が街の皆も安心して視聴してくれ』


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 ベストジーニストの言う「おやすみ」ってすごいパワーだな……って思いながら私もカードの袋を開ける。あっ! イヤホン=ジャックだ! 嬉しい!! もちろん一番狙いはダイナマイトだったけど、イヤホン=ジャックも好き。なんてったって歌声が最高だし。カードの写真はクールに決めてるけど、たまにちょっとはにかむ顔がすっごい愛おしいのだ。コメントもそれぞれ開封して誰が出た、とかで盛り上がってる。私もコメント欄に書き込んで、ジーニアスのサイドキックたちが名乗ってくれるのを眺める。やっぱみんなデニムで迫力がすごい。あっ今コメント、ダイナマイト当てたって人流れてってたな。いいなー! 明日も買っちゃおうかな、ヒーローズチップス。仕事帰りにちょっと遠くのスーパーまで散歩したら運動になるだろうか。閉店時間調べておかなきゃ。


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『それじゃあ頼むよ』
『シュア!』
『じゃあ行きまーす』
『二袋目。マウントレディですね。次行きましょう』
『三袋目。お、すごい! レアカードですよ!』
『しかもショートだ。大・爆・殺・神ダイナマイトの仲良しが出ましたよ。幸先いいですね』
『いいですねえ! どんどん行っちゃいましょう。開けただけ食べれるらしいですからね』
『お腹空いてるんです? 一袋そのまま食べる用に開けちゃいましょうか』
『配信ご覧の方も食べたり飲んだりくつろいでくださいねー』
『はーい四袋目。ファットガムです』
『食べる話したから!』
『五袋目ー。ルミリオン!』
『六袋目行きます、えー、プレゼントマイクです』


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 開封はちゃきちゃき進んでいく。ショートのレアカードってトレーディング倍率がもんのすごいことになっているやつだ。チラッと見えたカードの写真も格好よくて、コメント欄はテンションの高いコメントたちで爆速で流れた。ショートとダイナマイトが仲良しなのかどうかは(主にダイナマイトの態度のせいで)ファンの間でも意見が割れるところではあるけど、ジーニアスのサイドキックの見解では仲良しでいいらしい。まあすごいもんな。連携技。恐ろしい威力だけど画面越しに見るには現実味が薄いから、少し華やかですらあって、二人の対敵制圧を遠くから捉えた動画はものすごい再生数を叩き出している。
 やっぱり人気のヒーローがカードになるから、出てくる面々を知っているヒーローばっかりだ。ヒーローがこんなにくつろいだ感じで何か食べたり飲んだりするところを初めて見るなあと思う。バラエティで食レポとかしてるのとはまた違う、何だかグッと身近に感じられる仕草だ。
『そういえば皆さん大・爆・殺・神ダイナマイトと初めて会ったのいつ頃です?』
 十三袋目にエッジショットが出てきたところで気になる話が聞こえてきた。ぱりぱり食べていた手を止めて、耳を澄ます。そうそう、そう言う話が聞きたかったんだよ。
『大・爆・殺・神ダイナマイトが雄英の一年生の時の職場体験の時ですかねー。今よりさらに跳ねっ返りもいいところでした。ベストジーニストが一対一でひたすら矯正を仕掛けてそれでもしきれなかったって言ってましたね』
『あー! 私もそうです。懐かしい。髪型だけギリギリ矯正してましたよね?』
『ええ、ハチニイに』
 何それ! 全然想像つかない! ダイナマイトは高校時代の映像はかなり出回っている方だけど、ハチニイって何? 見てみた過ぎるけど写真とかないのかな。そう思ったら画面の中で比較的若いサイドキックが代弁してくれた。
『写真とかないんですか? 見てみたいです。私が初めて会った時はもうほとんど完成形というか今みたいな感じでした』
『写真はないなー。あっても大・爆・殺・神ダイナマイトの許可が出ないよ』
『二回目のインターンの時が初めましてだった?』
『高三の頃ですね。あ、十四袋目。ベストジーニストが出ました』
『高三の時ならリハビリ中か。言動はまあずっとあんなもんだよ』
 デビューからみるみるチャートを落としたダイナマイトだけど、別にデビューで何か変わったとかではないらしい。チャート落ちたのは地金が出たからか、と言うコメントが流れていって、失礼だけどちょっと笑う。私はもうデビューして賛否両論の波が落ち着いてからのファンだから、逆にあの言動がないとダイナマイトって感じがしないんだけど。華々しいデビューの時に付いてた(そして離れてしまった)ファン的にはダイナマイトってどんな感じのヒーローだったんだろう。あのオールマイト救出の瞬間みたいな感じかな。それだったらちょっと納得かもしれない。
 二枚目のベストジーニストのカードだけ他のカードと違うところに分けて、開封は続く。


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『二十袋目。マウントレディです。最近建物壊さなくなりましたねー』
『壊す時はまあ派手に行きますけどね。本人的にデビュー直後のことはちょっと黒歴史気味らしいですよ』
『二十一袋目行きますねー。お、ベストジーニストが出ました』
『いいんじゃないですか。そろそろ大・爆・殺・神ダイナマイトにも来て欲しいところですね。調理班が準備できてます』
『それじゃあ二十二袋目! またベストジーニストが出ました! しかもレアカードです!』
『おおー!! レアカード! いいですね。我らがボスは結構来てくれてます』
『二十三袋目はー、お、烈怒頼雄斗です。大・爆・殺・神ダイナマイトとプライベートでも仲良い好漢です』
『ショート、インゲニウム、烈怒頼雄斗でこの新しくカードになったメンバーも結構出てきてくれてますね。流れ来てるんじゃないですかー?』


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 結論から言うとそれからしばらくの間もダイナマイトは出なかった。ベストジーニストは三枚出た。
『三十八袋目行きますね。期待値に収束するならそろそろ出てもいいはずです』
『まあまだいくらでもいけますよ。ヒーローズチップスはまだあります』
 四箱目が当然のように出てきて開封が続いてるけど、一体どれだけあるんだろう。無駄にならなきゃいいけど。
『本当に全部おいしくいただきますから、安心して見ていてくださいね』
 はーい。まあヒーローが食べ物を粗末にするような企画、多分通らないんだろうな。
『開けまーす。マウントレディです。……なんか俺スタートからマウントレディしか引いてない感じがするんですけど……』
『えー、感じがする、ではなく、事実としてマウントレディしか引いてませんね。六枚全部そうです』
『な、何故……』
 本当にゾッとしたような顔をしていて笑ってしまった。


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『何か因縁とかありますか?』
『なんですかその聞き方! ないですよ! ……あ。待ってください、一応ヒーロー免許取得の年度が一緒になるかな』
『なるほどー。やっぱ引き寄せてるんですかね』
『だとしたら大・爆・殺・神ダイナマイトも我々に引き寄せられてくれていいはずでは?』
『それはそうですね。ベストジーニストは五枚出てきてくれてますし』
『待って! ベストジーニストよりマウントレディの方が多く出てます?』
『出てますねー』
『俺しばらく引く役辞めてもいいですか』
『まあまあそう言わずに。三十九袋目も開けてみましょうよ』
『確かに連続で出てくることなんてそうそうないはず……、……、マウントレディです……』


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 コメント欄が笑いの記号や絵文字で溢れる。マウントレディ公式SNSが『ハズレか呪いみたいな扱い辞めてもらえません?』と投稿していると聞いて見にいったら本当に言ってた。しかも七枚目のマウントレディのカードはレアカードだったのに、引いたサイドキックは頭を抱えている。コメント欄で多分マウントレディのファンが『羨まし過ぎる!』と赤字で投げた。え? スーパーチャットできるようになってんの? あっという間にコメント欄がカラフルな文字で溢れて、何か異変だと開封が一時中断になった。ちょっとバタバタした音が聞こえて、色とりどりだった文字が落ち着く。ベストジーニストが出てきた。
『えー、配信に不慣れですまない。投げ銭機能の存在を意図せずオンにしたまま配信してしまっていたようだ。申し訳ない。今は機能をオフにした。受け取ってしまった金額は被災地復興支援基金に寄付させていただく。こちらの不備だ。大変申し訳ない。コメントは全て確認させてもらっている。見てくれてありがとう』
 別にみんな愉快犯的な気持ちでお金を払ったんだろうと思う。読んでもらえるのを期待したとかじゃなく。いいことに使ってもらえる、と明言されて、ちょっと安心する。マウントレディしか引いてない彼も浮かばれるだろう。多分。配信はさっきまでの画角に戻る。


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『配信をご覧の皆さん、申し訳ありませんでした。気楽に見てくださいね』
『ベストジーニスト、一枚開けてってください』
『ああ。……私が出たな』
『ベストジーニスト六枚目! これでマウントレディに一枚差の二位をキープですね。コメントをどうぞ』
『この日のデニムは最高の仕上がりだった。もし皆の手元に行くことがあったらじっくり眺めてくれ。それじゃあ続きを頼むよ』
『シュア! ベストジーニスト』


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 そうしてベストジーニストはまた画面から出ていく。それからもダイナマイトは出てこない。本当に全然出てこない。七十袋近くなってきたあたりで、メンバーが交代になった。あ! 私がほんのり好みだなって思ってるサイドキック! 彼女がいる! そろそろ視聴は中断しようかと思っていたけど、布団に入ってまだ見ることにする。最初の挨拶でベストジーニストはなんて言ってたっけ。毛布を敷いて、その上に自分が寝て、さらにその上から掛け布団、だったかな。掛け布団カバーの肌あたりがちょっとだけ冷たく感じて、もぞもぞ動きながら落ち着く場所を探す。コメント欄の流れは最初に比べたらずいぶんゆっくりになって、ちらほらとおやすみ、だとか、暖かくして寝るよジーニスト! とか、そんなコメントが送られたりしている。


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『じゃあ引き継ぎました。やりますか。どんどん開けてっちゃっていいんですよね?』
『調理班もうV撮り始めてるって』
『まあずっと待機じゃキツいですもんね』
『どんどん進めてっちゃいましょう』
『とっとと出てくれ、大・爆・殺・神ダイナマイト! 私は早く料理のご相伴に預かりたいんだ』


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 さっきまでのチームは一人ひとり出てきたヒーローを名前で呼んでくれて優しかったんだなって思うレベルでバリバリ開封が進められていく。ベストジーニストが出てきた時だけ報告がされる。開封されたヒーローズチップスの数が百を越えた。ダイナマイトは出ない。ホントに、一枚も。ヒーローごとのカードの枚数は、チームが変わったとたんマウントレディを追い越してベストジーニストが一番になった。二十八枚って言ってたかな? レアカードも四枚くらい出たけどだんだん感動が薄れている様子だ。それにしてもヒーローズチップス百袋美味しく食べなきゃいけないだなんて、かなりハードルが高いんじゃないだろうか。うーんちょっと眠くなって来たな。毛布と布団の間、暖かい。


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『なんかたぶん烈怒頼雄斗のカードなら開封しなくてもわかるようになってきた気がする』
『はあ、流石に気のせいでは?』
『これとそことあとあの箱の一番上にあるやつ、烈怒頼雄斗な気がする』
『開けてみましょー!……、マジだ……』
『他の二袋も?』
『ちょっとちょっと一緒に開けてくださいよ。一袋目どうぞ』
『……烈怒頼雄斗』
『二袋目はーっと。はい。烈怒頼雄斗。大・爆・殺・神ダイナマイトが出てこなさすぎるせいで先輩が変な能力に目覚めた……』


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 人によってはものすごくうらやましい能力なんじゃないだろうか。このサイドキックの個性について詳しく知らないけど、さっきのマウントレディの同期の彼と言い、なんだかもはやオカルトチックだ。コメントの物欲センサー怖すぎ、の文字に頷いてあくびをする。ジーニアスの人ってみんな大・爆・殺・神略さないなってコメントがあって、確かに、と思う。配信タイトルだけは、『ダイナマイトカードを当てる配信』だけど、ベストジーニストやサイドキックが呼ぶときは絶対に大・爆・殺・神を外さない。本人もこだわりがあるみたいだし、やっぱりダイナマイトと縁深い事務所なんだなあと思ってちょっぴりニヤニヤする。所内のあらゆる相手に向かって、大・爆・殺・神をつけろやあって叫ぶ姿が想像できた気がしたから。ダイナマイトカードが来ないのも、配信タイトルに大・爆・殺・神がついてなかったからだったりして。
 そのままちょっとうとうとして、はっと気がついたときには開封数は二百五十袋を越えていた。ダイナマイトカードはまだ出てないっぽい。何かダイナマについての話を聞きそびれたかも知れなくてちょっと悔しい。いやほんとに、ヒーローズチップス、全部でいくつあんのさ。これでまだ出てないって、製造ラインにまだダイナマが居ない時期のを買っちゃったんじゃないの、なんて思うけど。さっき開封で出てきてたイヤホン=ジャックのカードは私が引いたのと同じやつで、彼女も今回から新しく入った面子のはずなのだ。ダイナマイトも入ってるはず。今頃ヒーローズチップス製造側も胃をキリキリさせているんじゃないだろうか。入れたはずだよな……って。
 あ、待って、今気がついたんだけど、動画タイトルに大・爆・殺・神の四文字……七文字? が、足されてる! 正式名称で呼ばれてるんだからほら、行ってあげなきゃ可哀想だよ、ってなに目線だかわからないことを思う。いやほんとに疲れた顔してない? 大丈夫?
 ちょっとふわふわした頭で、そんなことを考えてたら、急に少し大きな音がスピーカーから聞こえて、画面は『お待ちください』という表示になった。自分の端末の問題かと思ったけど、コメント欄見るにそうじゃないっぽいし、配信の説明欄にある、事態による配信中断、というやつなのかもしれない。画面が切り替わる一瞬前に映っていたジーニアスのサイドキックの顔はいかにもスイッチオンです、って顔だったし。案の定他のSNSを見れば、ジーニアス管轄で規模の大きい個性の暴発が二件あったらしいことがわかる。名残惜しくて動画サイトのページを開いたまま、もう寝ちゃおうと考えつつSNSを覗く。へー、ジーニアス近辺のソレに、ダイナマイトも対応で出てるんだ。早く寝なきゃな、と思いつつスクロール、スクロール。しばらくそんなことをしていたら、スマホを握りしめたまま寝落ちていた。人の声で目が覚めた。つけっぱなしだったタブレットの動画サイトからだ。え? ダイナマイト? 夢?


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『急に中断してしまって申し訳ありません。もう見てる人あまり居ないようだけど、終わりの挨拶だけさせてください。あっこっちは大・爆・殺・神ダイナマイト、本物です。カードは来てくれなかったけど本物は呼ばれてくれました。大・爆・殺・神ダイナマイト、一袋開けてみる?』
『これ全部食うんだよな?』
『もちろん。……おっ! ベストジーニストのレアカードじゃん! 今日一日で大分見慣れてしまって感動が薄く……』
『誰狙いだよ』
『あなただよ。大・爆・殺・神ダイナマイト』


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 確かにダイナマイトだ。ふうん、と頷いて、もう一袋要求する。いいよーと快く渡された袋から、カードの袋を取り外して、簡単に開封する。
『ほら』
 するとそこに写っているのは大・爆・殺・神ダイナマイトの姿なのだった。しかもたぶんレアカード。進行役をしていたサイドキックが大声を出す。
『マジかよ! 見ましたか皆さん! これが大・爆・殺・神ダイナマイトだよ!!』
 ジーニアスのサイドキックにカードが要るか確認されて、いらねえよと返したダイナマイトはもう一度周囲を見て、ベストジーニストのカードが大量に集まっているところにうわっと引いたような顔をした。
『このカードはあそこに一緒くたにされんの』
 ダイナマが一袋目で引いたベストジーニストのレアカードを揺らしながら言う。ちょっと眠そうだ。
『大・爆・殺・神ダイナマイトが置いてくなら』
『じゃあこっちは持って帰る』
『おっけー』
 それじゃあ皆さんおやすみなさい、いろいろイレギュラーがあって申し訳ありませんでした、アーカイブにはちゃんと調理の話も入れます、そう言って配信は締めに入る。数少ないまだコメント欄にいた何人かがお疲れ様とかメッセージを送るのに手を振って、配信は終わった。


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 後日アーカイブを確認してみたんだけど、バラエティ番組みたいな編集をされたその動画では、ダイナマイトがダイナマイトのレアカード当てるところで終わっていて、ベストジーニストのレアカードを持って帰る話をしているところは入っていなかった。すごくやわっこい表情をしていた気がするんだけど、気のせいだったかも。途中のスパチャ騒動とかもカットされてて、全体的に見やすくて面白い動画になってた。緊急出動時のあの表情とかは心に焼き付いてしまっているけど。かっこよかったな。リアタイの特権だ。ヒーローズチップス大量消費レシピにはとても助けられた。うちには十袋でダイナマイトのカード来てくれました。レアではないんだけど、カッコいいから、ベットのサイドボードに飾ってる。御利益がありそう。


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「ジーニアスオフィス公式のヒーローズチップス大量消費レシピには僕は本当に助けられていてね。いまやポテトいりオムレツとなんちゃってニョッキが得意料理だよ」
「お前太ってアーマーのサイズ合わなくなったら言えよ」
「えっ、うん」
「一から鍛え直してダイエット成功させてやるから」
「ああ、そうだよね。サイズ直されるの僕の方だよね」
「当然だろ。俺があの事務所で学んだことの一つは『ヒーローコスチュームにふさわしいヒーローになれ』だよ」


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 ジーニアスオフィスには売店がある。発注作業をするPCと向き合ったときに目に入る場所に、ひとつのカードが飾られている。
 発注時のお守りである、というのが店長の談だ。入荷数に迷ったときにはカードを眺めて決めると、多すぎもしない少なすぎもしない、ちょうど良い発注が出来るのだと言う。
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