短文ノック

 相変わらず入室は乱雑だ。書類は叩きつけられるようにベストジーニストの前に置かれた。
「とりあえず座ってくれ」
 ローテーブルにお茶のペットボトルを置いて、ソファを手で示す。そうすると当然のようにペットボトルを渡されて、何かと思った。開けてもらおうとしたのだと、爆豪がしまったという顔をするのを見て気がついた。普段そうしてもらっているのだろう。取り返そうとしてくるのを避けて、キャップを回してやる。それに対する礼の言葉はなるべく正確に書き起こそうとするなら「……ッザァィス」だったがどういたしまして、とはっきり丁寧に返す。皮肉に受け取られたのか、若干めんどくさがるような顔をした。
 実際喉は乾いていたのだろう。ごくごくとペットボトルの中身は干されていく。汗の量が火力に通じる個性だ。代謝はいいに決まっている。
「本当にインターンに参加するんだな」
「するっつってんだろ。別にあんたがいなけりゃペットボトルも一人で開けたわ」
 制服の右袖に腕は通っていない。現状聞かされた限り、爆豪をインターンに呼んで双方得られるものがあるがどうかは微妙だとベストジーニストは思っている。
 それでも気が変わることはなさそうだ。絶対安静、と言いつかっていたのに勝手に院内を歩き回っていた話は爆豪を知るものなら皆知っている。遂には病院のブラックリストに載ったらしい。次大きな怪我をしたら拘束でもされるのかもしれない。
 嫌な想像をしてしまったな、と思って少し眉根が寄った。それを目ざとく見つけて、爆豪は文句を言ってくる。
「それともなんだ? 片手が十分に使いきれない仮免を矯正し切る根性もないってか?」
「リハビリと矯正は違うが」
「似たとこはあんだろ。担任の印鑑は貰ってきたぞ」
 イレイザーヘッドはなんやかんや生徒とそのヒーロー性を愛しているから押しに負けたのだろう。抵抗の痕跡のように印は斜めに傾いでいる。
「もどかしい思いをするだろうと思うぞ」
「一年時の職場体験の方がよっぽどだった。自分が今何ができないのか知って、全部俺のものにしてやる」
 なるほど。ペットボトルを他人に開けてもらうという頼り方ができるようになったのも、爆豪の一つの成長だ。きっとすぐに、本人の言うとおりもどかしさからも学んでいくのだろう。本人が「よっぽどだった」と言うあの職場体験からも、結局何か得ている。またおいで、の一方的な口約束を守りにきたのだからそういうことに決まっている。
 ならばこちらも最善を尽くすというのが道理だ。所長印を出して、一つ確かめる。
「手加減はしない。私はおまえのことを心配している。少しでも無茶だと思ったら絶対に止める。止まってもらうぞ」
「上等! ヨユーだってこと見せてやるよ」
 サインをして印を押すとすぐに書類はひったくられた。前言撤回しかねないと思われたのだろうか。
「あんた適当に死んでこの紙の効力無くしたら許さねえからな」
 ひとの大一番の賭けを「適当に死んだ」呼ばわりする仮免ヒーローだ。今年も矯正しがいがありそうだな、と俄然楽しみになってきた。
 
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