短文ノック
上鳴曰く、手先の器用な男はモテるらしい。
リハビリの一環としてマジックじみた動作の練習をしていたことがある。右手で最初は取り落としてばかりいたコインがいくらでも弄べるようになった時は達成感で肩が暖かくなった。拾った十円玉で意識せずにやっていたら、ベストジーニストがこちらをこちらを見ていることに気がついた。見返すと目が合う。
「器用だな」
「リハビリの成果」
「素晴らしい」
シンプルな感嘆は、まあ少し気分がいい。交番に十円を預けて事務所に戻る。落とし主も十円玉ともなると気がつくのは難しそうだが、一度見つけた以上取るべき行動は決まっている。
それから数日経った日だ。ベストジーニストが休憩時間に話しかけてきたものだから、何事かと思って着いて行った。業務中の他のヒーローたちの邪魔にならないあたりまで歩いていくと、ベストジーニストは虚空からコインを取り出した。
簡単なトリックだ。手の内側にコインを挟んでおくコインパームは少し練習すれば大抵のやつにはできるようになる。なんのつもりなのか意図が読めなくてベストジーニストの顔を見つめればそのまま指先でつまんでいたコインを消す。よく見たことのある指の形だ。
やり方を知っているマジックを目の前で見せられている。爆豪だって多分できる。
「すごいねって言えばあんた喜ぶんか」
「とても」
「スゴイネ」
「ありがとう」
でも俺の方がすごい。右手の人差し指を伸ばしてベストジーニストの持っていたコインに触れるのと同時に掴み取る。そのまま手の甲側の親指と人差し指の間に挟む。手のひらを広げて見せれば甲側のコインは見えない。相手が虚をつかれた顔をしたのをいいことに、そのまま左手にコインをトスして、上に投げる。ぱんと手を叩いて開いてみせる。一度手を握って人差し指と中指でできたピースサインを作れば、指の間にコインがある。それをそのまま回転させて手の甲から手のひら、手のひらから手の甲へ移動させていく。生き物みたいでちょっと怖えと切島からのお墨付きをもらったコインアクションだ。
「俺の勝ち」
「私の負けだな。どのくらい練習した?」
「言うと思うか?」
集中力はある方だ。手がうまく動かないうちは失敗する度にもどかしかったが、要領を得てからは失敗もすぐにフィードバックできて面白くなってきた。面談の待ち時間だとか暇な時によくやっていた数ある手慰みの一つだ。
「聞いてみたいよ。君の努力の話」
「なんでわざわざ言わなくちゃいけねえの」
第一、努力というほど大したものではない。
「君を讃えたいから」余計言うものかと思ってもう一度手を叩いた。
「なんだ?」
「あんたの胸ポケットの中」
大したものだ、と言いながらベストジーニストは胸元にコインを確かめた。よし。あまりやったことのないトリックだったから失敗するかと思ったが、そこにあったら上出来だ。
「もうやんねえからわざわざ出すなよ。しまっとけ」
ポケットに指を入れたベストジーニストを止める。何かの記念硬貨のようだった。大切なものの気がする。
「また見せてくれ」
「やだ」
数人にしか見せたことがない、と言うことは絶対に言うものか、と思う。
リハビリの一環としてマジックじみた動作の練習をしていたことがある。右手で最初は取り落としてばかりいたコインがいくらでも弄べるようになった時は達成感で肩が暖かくなった。拾った十円玉で意識せずにやっていたら、ベストジーニストがこちらをこちらを見ていることに気がついた。見返すと目が合う。
「器用だな」
「リハビリの成果」
「素晴らしい」
シンプルな感嘆は、まあ少し気分がいい。交番に十円を預けて事務所に戻る。落とし主も十円玉ともなると気がつくのは難しそうだが、一度見つけた以上取るべき行動は決まっている。
それから数日経った日だ。ベストジーニストが休憩時間に話しかけてきたものだから、何事かと思って着いて行った。業務中の他のヒーローたちの邪魔にならないあたりまで歩いていくと、ベストジーニストは虚空からコインを取り出した。
簡単なトリックだ。手の内側にコインを挟んでおくコインパームは少し練習すれば大抵のやつにはできるようになる。なんのつもりなのか意図が読めなくてベストジーニストの顔を見つめればそのまま指先でつまんでいたコインを消す。よく見たことのある指の形だ。
やり方を知っているマジックを目の前で見せられている。爆豪だって多分できる。
「すごいねって言えばあんた喜ぶんか」
「とても」
「スゴイネ」
「ありがとう」
でも俺の方がすごい。右手の人差し指を伸ばしてベストジーニストの持っていたコインに触れるのと同時に掴み取る。そのまま手の甲側の親指と人差し指の間に挟む。手のひらを広げて見せれば甲側のコインは見えない。相手が虚をつかれた顔をしたのをいいことに、そのまま左手にコインをトスして、上に投げる。ぱんと手を叩いて開いてみせる。一度手を握って人差し指と中指でできたピースサインを作れば、指の間にコインがある。それをそのまま回転させて手の甲から手のひら、手のひらから手の甲へ移動させていく。生き物みたいでちょっと怖えと切島からのお墨付きをもらったコインアクションだ。
「俺の勝ち」
「私の負けだな。どのくらい練習した?」
「言うと思うか?」
集中力はある方だ。手がうまく動かないうちは失敗する度にもどかしかったが、要領を得てからは失敗もすぐにフィードバックできて面白くなってきた。面談の待ち時間だとか暇な時によくやっていた数ある手慰みの一つだ。
「聞いてみたいよ。君の努力の話」
「なんでわざわざ言わなくちゃいけねえの」
第一、努力というほど大したものではない。
「君を讃えたいから」余計言うものかと思ってもう一度手を叩いた。
「なんだ?」
「あんたの胸ポケットの中」
大したものだ、と言いながらベストジーニストは胸元にコインを確かめた。よし。あまりやったことのないトリックだったから失敗するかと思ったが、そこにあったら上出来だ。
「もうやんねえからわざわざ出すなよ。しまっとけ」
ポケットに指を入れたベストジーニストを止める。何かの記念硬貨のようだった。大切なものの気がする。
「また見せてくれ」
「やだ」
数人にしか見せたことがない、と言うことは絶対に言うものか、と思う。