短文ノック

 同棲。二文字でよくこれだけ情報量を詰め込めるものだ。いざ生活を共にするにあたって、爆豪と袴田が擦り合わせておかなければいけないことはいくらでもあった。何せ他人なので。
「まずは自己紹介でもしようか」
「本気で言ってんのか?」
「もちろん」
「じゃあそっちからドーゾ」
「わかった。袴田維、職業はヒーローだ。ヒーロー名はベストジーニスト。狼が好きだ」
「デニムじゃねえの」
「デニムはライフワークだから好きとか嫌いとかの次元ではないな。性格は細かい方だと思う」
「思うじゃなくて実際そうだろ」
「貴重なご意見ありがとう。細かい方だ。一人暮らし歴は三十年を超える。家事は一通りできるが忙しさを鑑みてプロに任せた方が合理的だと思う。しかしデニムの手入れは絶対に自分でやりたい」
「ずっと一人暮らしだったのかよ」
「ああ。私の頃は寮もなかったしな。引越しは何度かやった。得意だ」
「あんたの個性って便利だよな」
「私も自分の個性がとても気に入ってるよ」
「あとは? 俺の知らなそうなこと」
「コントロールフリークと言われたことがある。問題に思ってしばらくカウンセリングに通っていた」
「そこまで?」
「一応言っておくがカウンセリングは軽い気持ちで行ってもいいものだよ。私の場合は『そこまで』だと思ったから行ったんだが」
「一緒に暮らすにあたって問題になりそうなレベルなのかよ」
「どうだろうな。相手によると思う。あまりにも自分が生活に振り回されている感じがすると好ましくない」
「自分で思ったように動ける方がいいってことか」
「おまえに生活における負担を負わせる気はないよ」
「負担は折半」
「生活における負担を押し付けるつもりはないよ」
「よし。他には?」
「そうだな……。爆豪勝己のことが好きだ。一緒に暮らすということは今まで以上に会えるということだろう。素直に嬉しい」
「とっくに知ってる」
「そうめんが好きだ」
「んは。知らなかった」
「岡山出身で地元に愛着がある。デニムについて話すために突発で行くこともある」
「家を空けることは?」
「多いな。そうでなくても忙しくて帰らない日もある。事務所の仮眠室のグレードがどんどん上がっている。できるだけ帰りたいが」
「無理して帰って俺がいなかったら悲しいな?」
「それは……そうだな。連絡はまめにするようにしよう」
「いつかみたいに電話もメールも無視しやがったら家の鍵変えるわ」
「もうしない。約束する」
「言ったな?」
「書面に残してもいいぞ」
「後でそーするわ。他に話すことあるか?」
「色々あるだろう。先は長いぞ」
「じゃあそれは一緒に暮らしていく中での楽しみに取っておくわ」
「そうだね。それがいい。じゃあ次は君の番だ」
 何せ他人なので、自動的に意思伝達ができたりはしない。多分自分たちは運命的に相性がいいわけではない。積み重ねていくしかない。この部屋にどれだけ住むのかわからないが、この知らない匂いが馴染む頃には、お互いの凸凹が噛み合うようになるのだろうか。
 昔は−−幼い頃は、自分の変質が怖かった。今は楽しみだな、と爆豪は思う。
「爆豪勝己。ヒーロー。好きなヒーローはオールマイト」
「私も好きなヒーローを言うのを忘れていたな。大・爆・殺・神ダイナマイトだ」
「贔屓目が強すぎる」
「いいだろ。かっこいいんだ。この気持ちを受け取ってくれヒーロー」
「……はいよ。俺の自己紹介。ヒーロー名は大・爆・殺・神ダイナマイト。ファンサは得意じゃない。実力で見せるから応援は好きなようにすればいいと思っている。支持率の投票には入れろと思う」
「わがままだ」
「轟に負けっぱなしなのが我慢ならねえんだよな」
 会話は続いた。少しずつ、相手について知っていく。一歩ずつ、一歩ずつ。
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