短文ノック
後進に任せられない仕事はもうない。なんなら自分より上手くやるだろう。ある日そう気がついたので、ベストジーニストはヒーローを引退することにした。そう発表したら、ありとあらゆるところから連絡が入って忙しくなった。かつて面倒を見たヒーローたちからの礼などはありがたく受け取ったけれど、かつて散々手を焼かされた敵から「また自分と戦え!」と叫びながら飛び出して来られることがしばしばあって、これには辟易した。
遅れをとることなんてあり得ないが、あまりにも量が多い。もう一人前のヒーローとして各地に散らばっているかつてのサイドキックたちが日替わりでボディーガードしに来てくれることになった。そう厳重に守られてはすっかり年寄り扱いだなと思って少しおかしく思う。皆多忙だから、仕事ということにでもしないとベストジーニストの元に来る理由が作れないのだろう。それぞれ来るたびに思い出話をしながらパトロールをした。貴重な時間だった。だから余計突然現れる敵の矯正にも思わず強めに力が入った。何も衰えてないじゃないですか、としばしば後輩は嬉しそうに笑った。
今日のボディーガード当番は大・爆・殺・神ダイナマイトだった。この男にも散々手を焼かされた覚えがある。独立してからもメディアで見るたび炎上の種を蒔いていて、ベストジーニストは自事務所のコンプライアンス研修に不安を覚えたくらいだ。散々言ったしやって見せたはずなのに、ついぞ態度は改善されなかった。ベストジーニストの矯正の記憶の中で燦然と輝く黒星である。これ以上ないくらい優秀なヒーローではあるのだが。
「引退して何すんだ。蕎麦屋でもやんのか」
今日会って一言目がこれだった。敬意明らかな態度ができないわけではないことが紙原を通してわかっているから余計タチが悪い。
「おまえはどう思う? 私の打った蕎麦食べたいか?」
「なんか動きそうで嫌だ」
「じゃあやめておこう」
歩いて街を回るにはちょうどいい気候だった。引退を発表してから街で声をかけられる機会も格段に増えて、パトロールの時間はずっと長くなった。
「惜しまれてんな」
「嬉しいことだよ」
「本当に辞めんの」
ああ、と頷くとそーかよ、と応えが返ってくる。この男にも引退を惜しまれていることがわかって、ほのかに感じるのは嬉しさだろうか。
「もう私でなければできない仕事がないことに気がついたから。大・爆・殺・神ダイナマイトも含めて、私の後進は優秀なんだ」
爆豪が眉根を軽く寄せて見せるのが照れ隠しだとわかったのは遥か昔のことだ。あの時だって優秀なヒーローだったが、今の大・爆・殺・神ダイナマイトほど頼れるヒーローではなかった。一度強く目を瞑って、爆豪はこちらを見た。これは変わらない。強い視線だ。
「ベストジーニストがいなけりゃ大・爆・殺・神ダイナマイトってヒーローはいなかったよ」
思わず微笑んだ。これ以上ない餞の言葉だった。
遅れをとることなんてあり得ないが、あまりにも量が多い。もう一人前のヒーローとして各地に散らばっているかつてのサイドキックたちが日替わりでボディーガードしに来てくれることになった。そう厳重に守られてはすっかり年寄り扱いだなと思って少しおかしく思う。皆多忙だから、仕事ということにでもしないとベストジーニストの元に来る理由が作れないのだろう。それぞれ来るたびに思い出話をしながらパトロールをした。貴重な時間だった。だから余計突然現れる敵の矯正にも思わず強めに力が入った。何も衰えてないじゃないですか、としばしば後輩は嬉しそうに笑った。
今日のボディーガード当番は大・爆・殺・神ダイナマイトだった。この男にも散々手を焼かされた覚えがある。独立してからもメディアで見るたび炎上の種を蒔いていて、ベストジーニストは自事務所のコンプライアンス研修に不安を覚えたくらいだ。散々言ったしやって見せたはずなのに、ついぞ態度は改善されなかった。ベストジーニストの矯正の記憶の中で燦然と輝く黒星である。これ以上ないくらい優秀なヒーローではあるのだが。
「引退して何すんだ。蕎麦屋でもやんのか」
今日会って一言目がこれだった。敬意明らかな態度ができないわけではないことが紙原を通してわかっているから余計タチが悪い。
「おまえはどう思う? 私の打った蕎麦食べたいか?」
「なんか動きそうで嫌だ」
「じゃあやめておこう」
歩いて街を回るにはちょうどいい気候だった。引退を発表してから街で声をかけられる機会も格段に増えて、パトロールの時間はずっと長くなった。
「惜しまれてんな」
「嬉しいことだよ」
「本当に辞めんの」
ああ、と頷くとそーかよ、と応えが返ってくる。この男にも引退を惜しまれていることがわかって、ほのかに感じるのは嬉しさだろうか。
「もう私でなければできない仕事がないことに気がついたから。大・爆・殺・神ダイナマイトも含めて、私の後進は優秀なんだ」
爆豪が眉根を軽く寄せて見せるのが照れ隠しだとわかったのは遥か昔のことだ。あの時だって優秀なヒーローだったが、今の大・爆・殺・神ダイナマイトほど頼れるヒーローではなかった。一度強く目を瞑って、爆豪はこちらを見た。これは変わらない。強い視線だ。
「ベストジーニストがいなけりゃ大・爆・殺・神ダイナマイトってヒーローはいなかったよ」
思わず微笑んだ。これ以上ない餞の言葉だった。