短文ノック

 インターン生との個人面談はベストジーニスト本人がやると決めている。近い未来にこの事務所にスカウトするつもりで話を持ちかけているところもあるからだ。矯正が必要だと思ったときはそれのために時間を作っている。
 会話は案外とゆっくり行き交っていた。開始からまず爆豪は「こんな長え時間何話すんだよ」と文句を垂れたが、それからは比較的落ち着いたトーンで話をしている。
 がなるように喋るから聞いていて心地がいいのとは少し違うのだが、滑舌がいいのと喋る内容がはっきりまとまっているから爆豪の話は聞きやすい。ストレッチデニムのように褒めて伸ばそうと思いそういうようなことを言った。爆豪は少し訝しんで見せた。
「ああ、あんた、背ぇ高いから普段人の話聞きにくかったりすんの」
 そもそも褒め言葉として受け取ってはもらえなかったようだ。言い方の問題かもしれない。個性の使用センスについて褒めたときは「トーゼンだろ!」と年齢相応に嬉しそうな顔をして見せたものだが。ひとまず爆豪の疑問に答える。
「そうでもない。自慢じゃないが結構耳はいいんだ。身長が離れていてもよっぽど下を向いて小声で話されない限りは問題にもならない。衣擦れの音で素材の特定くらいならできるな」
「キモ……」
 ひどい言い様だ。布地への理解はベストジーニストにとって生命線でもあるというのに。
 そもそも爆豪は褒めて伸びるタイプではないのだろうか。デニムをリジッドな状態からストーンウォッシュしていくように、ぶつかり合い、洗われ、磨き上げられていくことで高められるタイプなのかもしれない。職場体験時くらい強気でいくという手もあるが、そうするには今現在のベストジーニストは爆豪のヒーロー性について眩しく感じすぎている。
 爆豪がこのインターンで何か得られるものがあるといいと思ってベストジーニストが思いを巡らせている間に、当の本人はその沈黙に退屈になったようだ。おもむろに言葉を発した。
「聞きてえことあんだけど」
「! なんでも言ってみろ」
「あんた年棒どれくらい?」
 絶句した。
「……デリケートな話だからそう易々と聞くものではない」
「なんでもっつったのそっちじゃねーかよ」
 ふい、と顔を背けられる。眉間に皺が寄って、つまらなそうな顔だ。もしかして単純な興味のほかに何か思うことがあって聞いたのか。確かになんでもと言ったのはベストジーニストだ。答えないのも不誠実に思って、慎重に言葉を選んだ。
「それなりの額面にはなる。ヒーロー活動以外のコラボ商品の作成とかでも金銭は動くし」
「つまり?」
「『調べてみました!』系サイトで出てくる金額の一・五倍くらいかな」
 へえ、と相槌を打って、爆豪はその場でスマートフォンで調べ出した。なるほど、と頷いている。
「おまえがここに入ると決めるのならもう少し細かい話ができるんだが」
「まだ考え中。やりてえことあんだよ」
 爆豪に何か考えていることがあるというのはこれまでも何度か聞いていて、それでも詳細は教えてもらえていない。
「それに私は噛ませてもらえないのか?」
 爆豪は首を振った。
「あんたが入ると話が変わる。どうせいつかわかる。そんな先の話にはしねえよ。指咥えて待ってろ」
 どうにも寂しく思える返答が返ってきたものだ。きっと悪いことをするではないのだろうけれど。さっきの金銭的な話も関係があるのかもしれない。ベストジーニストもヒーローの例に漏れずお節介な質ではある。どうしても気になるが、言っていいと本人が判断した話ならすでに爆豪はしているだろう。惜しいと思いつつ引き下がることにする。
「まあきっと」
 指を組みながら言葉を落とした。
「おまえがやると決めたことなら、完全に、最高なものを、やりきってしまうのだろうと思うけれど」
 ベストジーニストは座っていても背が高いから、見下ろすと色々なものが見える。例えばコスチュームの高い襟に隠したつもりであろう爆豪の口元がむずがるように動くところとか。
 今度の言葉はちゃんと褒め言葉として伝わったようだ。
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