短文ノック

 ベストジーニストが風邪を引いたらしい。トップヒーローも風邪を引くのかとも爆豪は一瞬思ったが、トップヒーローも人間である。風邪くらい引く。その上内臓が傷ついて損なわれている身体のはずだ。ただの風邪といえどそう油断はできないだろう。そう思って休憩時間に私用のスマホを持ち出して心配のメッセージを送る。
『大丈夫かよ』
 返信はすぐに返ってきた。
『ありがとう』
 なんだか殊勝だ。そんなに具合が悪いのか。
『大丈夫だ。熱があるくらいで』
 そーかよ、と口の中で呟いて、追加で送る。
『なんかやった方がいいこととかあんの』
 今度は返事に少し時間がかかった。
『きみのする看病というものに興味がある』
 なんか案外大丈夫そうだなこいつ。放っておいても多分すぐに普段の調子に戻るだろう。
『期待して待ってろよ』
 とはいえ看病には行くことにした。そういう間柄でもあるし、何より爆豪の方は弱った袴田維というものに興味があったので。
 私用のスマホを落として、爆豪はヒーローの仕事に向かった。

 仕事はやや長引いた。捕縛寸前に無駄な抵抗しやがって。その根性を別のところに向けてくれ。
 メッセージから約八時間が経って、もう熱は下がって全快の可能性もあるな、と思いながら袴田の家に向かった。この近くは高級スーパーしかないことを今までで散々思い知ったので、食材はもう調達済みだ。
 合鍵で扉を開けて中にはいる。この時なんと言えばいいのかずっとよくわからないでいる。お邪魔します、だ。とりあえず。
 リビングの電気は消えていた。寝室で寝ているのだろう。マスクをつけて、扉を静かに開ける。
「起きてるか」
「……気配で起きた。今何時だ」
「夜の十一時」
「寝過ぎたな……」
 顔色はそんなに悪くない。少しぼうっとしている雰囲気があるが寝起きだからだろうか。
「気分は」
「悪くないよ。というか熱出るくらいならあまり辛くないんだ。わかるだろう」
「油断じゃねえか」
 それより痛いことには散々巻き込まれたことはあるだろうが、風邪の軽視だ。いかがなものか。まあ爆豪にも感覚はわかるのだが。皮膚の下の中身がどうにかなっている痛みは、慣れるまではこの部分を取り外してどうにかできないかとトチ狂ったことを考えていた記憶がある。
「熱測れよ。平熱でもやってやるから。看病」
 そうなったら大の大人二人バカみたいなごっこ遊びだろうが、袴田は楽しそうに頷いて、体温計を手に取った。
「お粥がいいな」
「あんたそういうの好きそーと思って材料買ってきた」
「スタンダードには寂れない良さがあるだろう。デニムもそうだ。リーヴァイスの——」
「あんたもう結構本調子だな。まあ待ってろよ」
 勝手知ったる広いキッチンに向かう。弱った姿はあまり見られなかったが、これから先、多分いくらでも見る機会はあるのだろう。手を洗って、少し気合を入れて調理を始める。
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