短文ノック

 また夏が終わる。
 また今年も、残暑残暑と呻いている間に急に冬が来て、年が暮れたと思ったらすぐ春になるのだろう。どの季節もデニムは人々を彩り守り楽しませる。良いものだ。春夏秋冬あらゆる季節におけるデニムアイテムをベストジーニストは愛している。それに付随する季節感のことも好きだ。
 そろそろ重ためのデニムが店頭に並ぶ頃だ。ファストファッションという産業は流行を追うあまり大量の衣類を廃棄に追いやるのでそれについては到底歓迎できるものではないし憂いているが、カスタムメイドであらゆる身体形状をもつひとたちがデニムを楽しめるこの時代は素晴らしいものだと思う。
 この事務所で服装に綾織の一つも取り入れやしないインターン生のことを思って笑みが溢れた。彼にはどんなジーンズが似合うだろうか。着こなしが浮かんでは弾ける。ストリート系やスポーツミックスなスタイルがまず思い浮かぶが、トラッドなデニムジャケットなんかも案外似合うのではないだろうか。終わりといえどまだ夏だが、厚着の季節になったら提案してみようか。タイトなジーンズは心も体も一つ芯を通してくれる。やっぱり一つ二つ持っていた方がいいだろう。
 高校最後の夏を迎える件のインターン生は、与えられたもの以上の業務量をこなしつつ、着々と過ぎゆく日々を過ごしている。当初の予定よりも多い日数実践に入っている。カリキュラムで決められたものを逸脱しているわけではないのだから、何も問題はないはずなのだが、何か言ってやりたくなるのは年長者のおせっかいだ。
「君夏休みっぽいこと何かしたか」
 爆豪が業務日誌を打ち込み終わり確認のために所長の元へ持ってきたので話しかける。案の定、鬱陶しそうな顔をする。
「流しそうめんの個性の敵ぶん殴ったな」
「そういえばそんなこともあったが」
 食べ物を廃棄しなくてはならない罪悪感も含めて後始末が大変だった。あまりいい思い出ではない。
「そういうのではなく。友達と遊びに行ったりしなかったのか」
「うぜー親戚みてぇな絡み方だな」
 うんざり、という顔をした。特に例を出さないところを見ると、本当にインターンと学業一辺倒だったらしい。帰省したとしても主に寮生活だから同期との親交はあるはずだ。特に心配してやるようなことでもないかもしれないが。
「何かやろうか。所内で時間作ってバーベキューとか」
「ギャラ出んの」
 出るなら来るのだろうか。
「おまえは案外守銭奴なんだな」
「金なんてあればあるほどいいわ。俺は無償の奉仕に興味はねえんだよ」
 言い切るとまでは思っていなかったので、少し意外で言葉が溢れた。
「有償なら君に社会奉仕を義務付けられるというのはあれだな。ヒーロー社会の偉大なる発明だな」
 ヒーローと敵は表裏一体。爆豪勝己——大・爆・殺・神ダイナマイトがどこまで行っても結局はヒーローなんだと思い知ったのはいつだっただろうか。あの戦いの中か。ヒーローにも千差万別。彼のようなヒーローがいることはどれだけも心強い。後ろ盾となる学校や事務所にこれほど頭を抱えさせる言動のヒーローもなかなかいないだろうが。
 ベストジーニストの軽口を聞いて、爆豪は口角を歪めてみせた。
「ワイドショーでいつも聴いてる『ヒーロー社会の敗北』の逆じゃん。良かったな」
「とても良かったよ」
 間髪入れずに返せば少し居心地が悪そうな顔をする。十八歳。可愛げがある。
 次の夏が終わる頃には、彼は子供としての立場を完全に捨てて、一人のヒーローとしてあるだろう。やはりそれが惜しい気がして、ベストジーニストは一つ職権を濫用することにした。
「夏の終わりに慰労会をやろう。ギャラは出る」
 早速所内連絡網に提案を入れる。手隙のスタッフから賛同の意が返ってきた。爆豪は呆れた顔をしている。
「花火とかやりたいな」
 想像して、聞かせるでもなくベストジーニストが呟くと、返事が返ってきた。
「爆破ならいつでも見れんのに」
 気のせいでなければそれは少し拗ねたような響きをしていたので、ベストジーニストは内頬を噛んでかわいいなと笑うのを堪えた。
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