短文ノック
静岡県のあたりでチームアップミッションがあって、それにインターンの俺も動員された。その場で学生は俺だけだった。どうにか波乱を一つ二つ乗り越えてミッションを終えた頃には、夜だったはずのあたりが明るくなり始めていた。
「今日雄英に用事があるんだ。送ろう、ダイナマイト」
ベストジーニストの機能の盛りに盛られた特殊車が普通に公道を走れるのがなんだかシュールだ。寝てていいぞ、と三、四回言われたが眠気はやって来なかった。建物の隙間から朝日が差し込んでくるのをスムーズに走る車の窓から眺めていた。崩壊の痛みは探せばどこにでもあるが、探さないと目につかない程度になった。新しい建物ばかりが見えるのはその痕跡の一つだ。
車中には沈黙が流れていて、それは心地よかった。眩しくなってきて助手席のサンバイザーを下ろす。光はほぼ横から差し込んでいたからあまり意味はなかった。
「寮に帰るでいいのか」
「うん」
学校までは実家から通える距離だけれど寮を使うことを選んだ。右手のリハビリにしても普段のトレーニングにしても、通学時間をほぼ考慮しなくていいのがよかった。深夜に疑問が発生した時にすぐに誰かに聞けるのもいい。寮の監督までしなくてはいけない先生たちはたまったもんじゃないかもしれないが。寮に残るでも出るでもどちらでもいいとお達しが出たのでありがたくその利益を享受している。週一くらいの頻度で実家には顔を出す。
「寮か。羨ましいな」
ベストジーニストが何か言い出した。
「何か一人暮らし始めたての頃を思い出した。寮って食堂使えるのか?」
「使える。ランチラッシュのメシ」
「う……羨ましい。今日久しぶりに寄ってみるか」
飯が圧倒的に美味いのも寮の美点だ。家事は一通り母親に仕込まれたので適当な時間になると自分で作ることもあるが、あれには到底敵わないだろうと思う。
「あんた雄英の時一人暮らしだったの」
「ああ。一人暮らし初日から衣服類がクローゼットに入らなくて。大変だった。生活水準を落としてコンディションに影響が出るのも嫌だったから一年目は本当に必死だったな」
必死なベストジーニストがすぐに想像できなかった。ベストジーニストは雄英生の頃からほとんど変わりないと言うのは紙原先輩から聞いたことがあったが、こんな高校生っていうのも想像しにくい。
「実家で果物をいつも並べてくれていたから、一人でも意地でいつも果物を用意していた」
俺の実家でも飯時には料理にプラスして果物が並ぶことが多い。なんとなく想像できる。合っているのかどうかは確かめようがないが。
「自分の生活が自分で制御できていると思うと安心するんだ」
「それくらい当然じゃねえの」
「君は得意そうだな。私は大変だった」
このヒーローもそんな風にジタバタ生活していた頃があるらしい。少し愉快な気分になる。
「今はどうなんだよ」
「一人暮らしも二年目くらいには慣れて、今はもう好きなことをして暮らしていけるようになった。楽しいぞ」
「このクソ忙しいのに?」
言動は素なんだろうが、日頃から常にヒーローをやり通しでいる。今日だって深夜にヒーローとして現場に振り回された後にインターン生の送迎までしているのに。
「ああ。『好きなことをして』生きているよ。とても嬉しいことだね」
「ふうん」
すこし、尊敬をする。車は広がる朝陽の中を静かに音を立てながら進んでいった。
「今日雄英に用事があるんだ。送ろう、ダイナマイト」
ベストジーニストの機能の盛りに盛られた特殊車が普通に公道を走れるのがなんだかシュールだ。寝てていいぞ、と三、四回言われたが眠気はやって来なかった。建物の隙間から朝日が差し込んでくるのをスムーズに走る車の窓から眺めていた。崩壊の痛みは探せばどこにでもあるが、探さないと目につかない程度になった。新しい建物ばかりが見えるのはその痕跡の一つだ。
車中には沈黙が流れていて、それは心地よかった。眩しくなってきて助手席のサンバイザーを下ろす。光はほぼ横から差し込んでいたからあまり意味はなかった。
「寮に帰るでいいのか」
「うん」
学校までは実家から通える距離だけれど寮を使うことを選んだ。右手のリハビリにしても普段のトレーニングにしても、通学時間をほぼ考慮しなくていいのがよかった。深夜に疑問が発生した時にすぐに誰かに聞けるのもいい。寮の監督までしなくてはいけない先生たちはたまったもんじゃないかもしれないが。寮に残るでも出るでもどちらでもいいとお達しが出たのでありがたくその利益を享受している。週一くらいの頻度で実家には顔を出す。
「寮か。羨ましいな」
ベストジーニストが何か言い出した。
「何か一人暮らし始めたての頃を思い出した。寮って食堂使えるのか?」
「使える。ランチラッシュのメシ」
「う……羨ましい。今日久しぶりに寄ってみるか」
飯が圧倒的に美味いのも寮の美点だ。家事は一通り母親に仕込まれたので適当な時間になると自分で作ることもあるが、あれには到底敵わないだろうと思う。
「あんた雄英の時一人暮らしだったの」
「ああ。一人暮らし初日から衣服類がクローゼットに入らなくて。大変だった。生活水準を落としてコンディションに影響が出るのも嫌だったから一年目は本当に必死だったな」
必死なベストジーニストがすぐに想像できなかった。ベストジーニストは雄英生の頃からほとんど変わりないと言うのは紙原先輩から聞いたことがあったが、こんな高校生っていうのも想像しにくい。
「実家で果物をいつも並べてくれていたから、一人でも意地でいつも果物を用意していた」
俺の実家でも飯時には料理にプラスして果物が並ぶことが多い。なんとなく想像できる。合っているのかどうかは確かめようがないが。
「自分の生活が自分で制御できていると思うと安心するんだ」
「それくらい当然じゃねえの」
「君は得意そうだな。私は大変だった」
このヒーローもそんな風にジタバタ生活していた頃があるらしい。少し愉快な気分になる。
「今はどうなんだよ」
「一人暮らしも二年目くらいには慣れて、今はもう好きなことをして暮らしていけるようになった。楽しいぞ」
「このクソ忙しいのに?」
言動は素なんだろうが、日頃から常にヒーローをやり通しでいる。今日だって深夜にヒーローとして現場に振り回された後にインターン生の送迎までしているのに。
「ああ。『好きなことをして』生きているよ。とても嬉しいことだね」
「ふうん」
すこし、尊敬をする。車は広がる朝陽の中を静かに音を立てながら進んでいった。