短文ノック
「出張」という言葉が大嫌いになりそうなくらい散々な目に合った。しかも天候の影響で新幹線が止まった。計画運休自体はわかっていたことだというのに隣にいる高校生は苛立ちを隠しもしない。正直同感ではある。
袴田は先ほど急いで予約を入れるように頼んだホテルに繋いでいた電話を切るとため息をついた。またこの男を苛立たせる要因が増えた。
「天候の影響から莫大な数の部屋の予約とキャンセルが行き交って結果として我々の泊まる部屋が無くなったらしい」
「あ……あぁ?!」
ああやっぱりこうなる。目尻が余計吊り上がってしまった。案外静かな顔をしていることだって多いのに、パブリックイメージの方に寄ってしまった。
「どーいう計画なんだよこれは。ミッションの段階からひたすら待ち待ち待ち待ち……。出番が来たと思ったら連絡の行き違いでヒーロー過多。やることなし。極めつけに帰れないし休めない。んだこのインターン。雄英にチクるぞ」
「そうしてくれ。二度とこんなことが起こらないようにしなくては」
今回は単なる人的ミスだったから良かったものの――いや何も良くはないのだが――敵の攻撃で作為的にヒーローがひと所に集められたならそれは重大な事態を引き起こしかねないだろう。対策が必要だ。考えることにかけては雄英の校長以上のことができる人はそういないのだから、報告をあげてもらうべきだ。こちらも公安委員会の方に報告をしなくては。ホークスは自分が委員長になったことに対して「一時しのぎですよ」と笑っていたが、結局降りるタイミングを失いそうなくらい忙しくしているように見える。
少し思考を飛ばしていると、爆豪がため息をつくのが聞こえた。
「んで何だ俺らは野宿か? ヒーロー用の宿泊施設とかねえのかよ」
「あっても……いや、あるな」
あるのか、と復唱する声音は先ほどより幾分か落ち着いている。思考で仮免の高校生に遅れをとったなと思いつつ、『宿泊施設』を思い返す。ため息が出そうになった。人には覚悟を決めなくてはいけない瞬間というものがある。
「疲れているだろう」
「トーゼンな」
「これからもっと疲れる」
「はあ? なんで」
自分が相当うんざりした顔をしているだろうなと思いつつ告げる。
「ヒーロー強化合宿施設がある。西の山の中だ。徒歩……三時間だっただろうか、十年前の私の足では」
「車は?」
「道がない!」
ヒーロー科に在籍する以上概ね似たような経験はしたことがあるはずだ。爆豪は少し上を見た後、ちょうどいいや、と呟いた。袴田は驚いて声が出そうになった。
「どうせ今日何もできなくて鈍ってたんだ。ジーパン! どっちが早くつくか勝負な!」
口元が隠れていることを確認して口角を少し上げる。成長を感じることが多いが、こういう子供なんだなと納得するような瞬間もある。凝り固まった肩を回して「いいぞ」と答えた。個性柄こちらの方が不利なことはわかった上でこの子供は笑っているのだろう。ナメられている。クソガキめ。年の功というものがある。聞こえないように言ったつもりが、爆豪はすぐに振り返って「あんたそんな言葉も使うのかよ!」と笑った。