ボトルメール


 散々僕に「どうせてめえは俺の知らんところで意味不明な自己犠牲精神を発揮してぺろっと野垂れ死ぬ」等々言い放ってきたかっちゃんが僕のいないところで死にました。五年前のことです。

 かなり泣いたし遺体もお骨もしっかりこの目で見たしなんなら二年強落ち込んだけど、その割にかっちゃんの気配みたいなものをずっと感じながら生きている気がする。実際に骨を見た時も、今にも起き上がって罵声を浴びせてきそうだななんて思った。でもこれについてはかっちゃんが悪い。六回…いや七回? 八回? とにかく十本の指に収まる程度には、かっちゃんには瀕死状態から生還した実績がある。というか本当に奇跡的になんとかなっただけで三回ぐらいは「生還」じゃなくて「復活」の方が似合うシチュエーションだった。死が不可逆な感じがしない。
 それに、かっちゃんと僕には、この先もう会えないんだと思ってかなり感情的になった別れのシーンも何回かあって、かっちゃんだってかなり神妙に餞別の言葉をくれたことだってあったけど、そういう時は大体その四時間後くらいには移動車の中とか張り込みのホテルの一室とかに一緒に缶詰にされてた。感動し損だった。そういう感じなのだ。別にずっとべったり一緒だったわけではなくて、何年か会いもしない時間だってあったのに、その後再会した瞬間にいつもの暴言が降ってくるような人だった。今にもその辺の路地の角からかっちゃんが現れるんじゃないかってちょっと思う。

 というようなことを轟くんや飯田くんと飲んでいる時に話したら、轟くんに「憑かれてるんじゃないか?」と言われた。本当にゾッとした。本当に……! かっちゃんの霊、それはつまり怨霊である。お祓いとかも一瞬考えたけど、本当にかっちゃんに憑かれているとしたらお祓いでなんとかなる気はしない。怨霊大闘争とかになる気がする。祀る必要がありそう。だって大・爆・殺・神だよ? 憑かれてはいないと思う。僕はこの点においてはけっこうかっちゃんのことを信じているんだけど、かっちゃんに憑かれていたらこんなほんのりした「気がする」程度の気配で済むわけがない。あと、強いてかっちゃん(霊)がいるとしたら山の頂上とかじゃないかな。仁王立ちでさ。

 多分だけど、僕の魂とか心とかなんかそういう柔らかいどこかに、あの強烈な存在感が焼き付いてしまっているんだと思う。僕とかっちゃんは仲良いかって言われたらいいえだし好きか嫌いかって言われたらちょっと回答を差し控えさせてもらうけど、それでもかっちゃんを見てきた時間に関しては随一のはずだ。その割にかっちゃんの最期は伝聞で聞くだけだけど。理不尽の極みみたいな存在だから、これに関しては飲み込むしかない。死に逃げをされてしまったわけだし。どうせこんなことになるならかっちゃんの方にも僕の痕跡が忘れられないくらいになってれば僕の、……、……やめよう、この話。なんだか薄ら寒い気持ちになってきた。やめやめ。
 だいたい僕らについて口頭でうまく説明できる気がしない。そんじょそこらの言葉ではまとまりすぎてしまうし、かと言って長々説明しても肝の部分だけ取り落としそうだ。かっちゃんならうまく言えたのかも。でもかっちゃんが存命のうちにエモーショナルなお別れを何回かしてわかったことの一つは、僕らが例えば情緒的で素敵な言葉で自分たちを表現しようとすると、どうしようもない部分がたくさんはみ出て不格好になるってことだ。別れっぱなしの今ならいけるかも知れないけど、別れのすぐ後に会った時の異様な気まずさを僕はまだ覚えている。

 どうにかこうにか僕は元気に生きているから、勝ち誇らせてもらうことにする。かっちゃんの予言、というかギリギリ心配の言葉と言えないこともないような暴言は覆った。こんな形でっていうのは残念だけど。見返してやりたいので、長生きでもしてやろうと思います。
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