短文ノック

「これは俺が喉風邪を引いてる時に寂しくなってテレビつけたら漫才番組がやってて見てたら笑いすぎで咳が止まらなくなって死にかけた時の話なんだけど」
「それそこからオチあります?」
 ない……かな。とトガシさんは言った。なんで最初に全部言っちゃったんだよこの人。出し方ってもんがあるやろが。
 勢いを削いでしまった上で話の続きを促すと、おそるおそる、と言った様子で話し出す。
「あまりにも喉が痛くて、でもどの薬がドーピングになるかってわからないだろ。メディカルスタッフに連絡しようと思ったんだけど」
「はい」
「電話番号しか分からなくてさ、でももうこっちは喉が潰れちゃってるんだよ。何も話せない。仕方なくショートメール打ってさ。わかる? ショートメール」
「バカにしてます?」
「えっしてないよ! 年代によって連絡手段て違うだろ」
「逆にトガシさんてSNSのDMとか使ったことあります?」
「ギリギリあるよ。前の彼女に振られた時インスタグラムのメッセージだったよ。返信できてないけど」
「アカウントあるんすか」
 まずそれが意外で、思わず聞いてしまった。
「あんまり使ってないけどね」
 そういってトガシさんが開いたアプリのプロフィール欄はまっさらでさらに何の投稿もない。なんの個人も特定できないアカウントだった。フォロー三十とかだし。この三十の中絶対元カノ入ったまんまだろ。
 使い方よかったら教えますよ、と言って、フォローしようとすると、トガシさんは自分のプロフィールを表示するのに不慣れで謎に設定をいじろうとするので、スマートフォンを奪って操作する。QRコードを読ませているとへえと興味深そうにしている。逆にこの三十はどうやってフォローしたんだよ。俺だって昔はふるふるとかしたんだよ、って言ってくるのを無視する。それも絶対『した』っていうか『やってもらった』だろ。足が速い、それだけで人を集める求心力になることは身をもって知ってる。
 DMに適当なGIF画像を送り付けるとなんだよこれと笑う。これが俺とのチャットルームですよ、と言うと、へえとかふうんとか言いながら『よろしくね!』の一文を送ってきた。目の前にいんのに。つかLINE知ってんのに。音声通話もできますよ、と言って通話ボタンを押せば、あわあわ言いながら取る。
「目の前にいるのに、変な感じ」
「取れる時はとりますから、適当にかけてくれていいですよ。風邪ひいた時だって、言ってくれれば俺スタッフまで繋ぎますし」
「ありがとう。カバキくんて優しいんだな」
 下心込みの提案を優しいと表現されると引っ込みがつかなくなる。とりあえず気楽に連絡してくださいよ、と言えば目の前の相手は電話越しに頷く。病み上がりだというその声はいつもよりちょっとだけ掠れていてハスキーで、電話口で聞くと余計セクシーだな、って思ったのは絶対に秘密だ。ショートメールでもいいですよ、と言って電話番号も奪取した。弱っているところに付け込んでこそ欲しいものが得られるというわけで、少しずつ狙いは定まってきている。
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