短文ノック

 トガシくんには勘違いされている気がするのだけど、別にガムテープで何でもなおせるって思ってるわけじゃない。ちょうどよく、使えそうなのがそれだっただけだ。ドアに引っかけたらビリ、と音を立てて破れた上着を脱いで、そのまま更衣室のゴミ箱に入れようとしたら、え、と驚かれた。
「君のことだからガムテ貼ってそのまま着るかと思った」
「しないよそんなこと」
 他に着るものあるの? と聞かれたので、めんどくさくて走ってれば身体あったまるでしょ、と言えば、トガシくんは大げさにやれやれと首を振ってみせる。
「クールダウンも済ませたのにまた走ろうだなんてナンセンスだ」
 ちょっとむっとする。気づいているのだかいないのだか、トガシくんは言葉を続ける。
「貸すよ、上着。今日肌寒いらしいし」
「トガシくんはどうするの」
「今日は病院の日だから、先輩が車で拾ってくれる」
 ならいいかな、と思って借りることにする。着るまでもなく、このさわやかな色が自分に似合わないことはわかる。手の中で遊ばせながら、ありがとう、と言えば、明瞭な発音でどういたしまして、と返ってくる。
「先輩と仲がいいんだね」
「だいたい俺が一方的にお世話になってるだけ。やさしい人なんだよ」
 僕のイメージする『センパイ』とは違う存在なんだろうなと思う。
「先輩と仲良くできて、いいな」
「君だって財津選手と仲いいだろ?」
「ううん……あの人って先輩かな」
 言われてみればそうかも。僕は財津さんの運転する車には乗りたくないかもしれないな、と思った。密室であの哲学をぶつけられたら、なんか心酔するかすごく嫌いになるかしそうだ。
「君が僕の先輩だったらな」
 ふと思い付いて言ってみると、トガシくんはひどく嫌そうな顔をした。
「嫌だよ」
 口にも出した。そんなに僕って後輩としての可愛げがないだろうか。別にトガシくんは僕の先輩ではないからいいけども。
「なんだか、海棠さんの気持ちがわかっちゃいそうだろ」
 なんだよ、よくわかんないな。共感も思い込みだとか言っておいて。
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