短文ノック
どうせトガシは気が付かないのだからと、ひどく乱暴に、こっち向けよ、と樺木は思う。ヘラヘラどこ見て笑ってんだよ。こっち見ろよ。行動に起こすとしたら胸倉を掴んでいるくらいの勢いで思っている。当然向こうは気が付きはしない。思っているだけだから。
本当にこっちに目線が欲しいなら方法は簡単だ。トガシさん、と声をかければいい。なに? どうかした? と、いとも簡単に振り向いてこちらに歩いて来てくれるだろう。でもそういうことじゃない。自分のこの熱に、見合うだけの反応が欲しい。わがままで自分勝手だということなんて知っている。知っているから、表に出さない。そう努めている。
いつからだろう。初めて見た時からだろうか。見惚れているのかと自分でも思っていたけど、気がつけば、もっと暴力的な眼差しで見ている。視線に熱が乗るようだったらトガシはとうに火傷している。
眼差されることには樺木だってそれなりに慣れているのだから、トガシだってそう変わらないだろう。目を惹く人だ。ショートケーキの上に乗っかった苺みたいな、きらきらしいところがある。自覚はさすがにあるだろう。本人に聞いたことはないが、少なくとも、あるべきだ、と思う。
その瞳に映るものが、トラックであることを望んでいる。そうでないなら、こっちを向けよ、と思う。俺が走るところでも見ていろよ。あんたみたいにはできないかもしれないけど、俺だって実力のあるスプリンターだ。こっち見ろ。こっち見ろよ。なんか言ったらどうだよ。
直近の実績からしたら逆であっていいはずなのに、なんだってこんな眼中にない感じがするんだ。いや、実績なんて関係がない。樺木はトガシのことをそれなりに知っているが、トガシは樺木のことなんて後輩以上に見たこともないだろう。いや、後進の脅威のスプリンターとしては知っているか。そんな、たった、表面だけ。
それ以上に踏み込んでやろうか。無理矢理。そんな野蛮な思考が思い浮かんで、苛ついて塗りつぶす。そんなことがしたいわけじゃない。ふっと瞼を閉じる。思考を断ち切る。そのくらいできる。
目を開ければ、心象のリセットはできている。今日のトレーニングに思いをやる。次の大会のことを考える。ヒリつくあの研ぎ澄まされた世界のことを考える。よし。
樺木がそうやってマインドの整理を終えたところで、声がかかった。
「カバキくん!」
トガシが小走りでこちらに向かってくる。なんか気のせいだったら悪いんだけど、こっち見てたような気がして、とトガシが笑う。樺木は叫びたくなる。人の気も知らないで。
本当にこっちに目線が欲しいなら方法は簡単だ。トガシさん、と声をかければいい。なに? どうかした? と、いとも簡単に振り向いてこちらに歩いて来てくれるだろう。でもそういうことじゃない。自分のこの熱に、見合うだけの反応が欲しい。わがままで自分勝手だということなんて知っている。知っているから、表に出さない。そう努めている。
いつからだろう。初めて見た時からだろうか。見惚れているのかと自分でも思っていたけど、気がつけば、もっと暴力的な眼差しで見ている。視線に熱が乗るようだったらトガシはとうに火傷している。
眼差されることには樺木だってそれなりに慣れているのだから、トガシだってそう変わらないだろう。目を惹く人だ。ショートケーキの上に乗っかった苺みたいな、きらきらしいところがある。自覚はさすがにあるだろう。本人に聞いたことはないが、少なくとも、あるべきだ、と思う。
その瞳に映るものが、トラックであることを望んでいる。そうでないなら、こっちを向けよ、と思う。俺が走るところでも見ていろよ。あんたみたいにはできないかもしれないけど、俺だって実力のあるスプリンターだ。こっち見ろ。こっち見ろよ。なんか言ったらどうだよ。
直近の実績からしたら逆であっていいはずなのに、なんだってこんな眼中にない感じがするんだ。いや、実績なんて関係がない。樺木はトガシのことをそれなりに知っているが、トガシは樺木のことなんて後輩以上に見たこともないだろう。いや、後進の脅威のスプリンターとしては知っているか。そんな、たった、表面だけ。
それ以上に踏み込んでやろうか。無理矢理。そんな野蛮な思考が思い浮かんで、苛ついて塗りつぶす。そんなことがしたいわけじゃない。ふっと瞼を閉じる。思考を断ち切る。そのくらいできる。
目を開ければ、心象のリセットはできている。今日のトレーニングに思いをやる。次の大会のことを考える。ヒリつくあの研ぎ澄まされた世界のことを考える。よし。
樺木がそうやってマインドの整理を終えたところで、声がかかった。
「カバキくん!」
トガシが小走りでこちらに向かってくる。なんか気のせいだったら悪いんだけど、こっち見てたような気がして、とトガシが笑う。樺木は叫びたくなる。人の気も知らないで。
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