NEVER MEET YOUR HERO



 綺麗だと思った。はっきりと。他のことなんて考えられなかった。
 だから恋とかではない。多分。

 大・爆・殺・神ダイナマイトって知ってる? いや知ってるか。そりゃあ知ってるよな。有名だもん。俺この前会ったの。会ったっていうか、助けられた。
 ついこの間のことだ。ちょっと落ち込むことがあって、ボーッと歩いていた。それなりの人混みのなか、この中で誰よりも俺がどうしようもない人間なんだろうなと思って、早く帰りたかった。それでもめちゃくちゃだるくて、全然進まない。そんな感じで注意力散漫だった。だから後ろの方で大きなざわめきが起こったことにも気づかなかったんだ。
 ぐわん、と地面が揺れて、ようやく俺は異常に曝されていることに気がついた。逃げようって思ったけど足元がぐにゃぐにゃで、しかもどっちに逃げたらいいんだかわかりやしないもんだから呆けちゃった。
 その時だ。大・爆・殺・神ダイナマイトがとんでもない勢いで現れたのは。
 空中を蹴った、としか俺には思えなかったんだけど、飛んでるちっちゃい人影が見えた、次の瞬間に俺の目の前に居た。そんで脇腹を抱えられて、また加速した。
 絶叫系のアトラクションとか好きだけど、それどころじゃなかったね。何が起きてるんだかよくわかってなかったから。そして、どれくらいだったんだろう、俺にはかなり長く感じたけど、多分一瞬だったんだろうな。何の異常もない平坦なコンクリ敷にたどり着いて、俺はダイナマイトから下ろされた。びっくりしたんだけど、俺以外にも二人、ダイナマイトは抱えて飛んでたらしい。さっぱり気がつかなかった。
 ダイナマイトが俺達三人に無事か? って聞いて、もう必死で頷いたよな。三人とも。
 それでさ、ヨシ、って言って振り返って現場に飛んでっちゃったわけだよ。俺は、その瞬間が忘れられないの。
 綺麗だった。活力に満ちた眼がふっと後ろに向かうのも、行く先を見つめる横顔も、空気抵抗を避けるためだろう、くっと低くした姿勢も、その両手から放たれる爆破の光も。そして、遠ざかっていくその軌跡。どれもびっくりするくらい綺麗だったんだ。
 俺の辞書の「綺麗」の例は全部あの日見た光景に書き換えられちゃったわけ。それからずっとダイナマの情報追っかけてる。ファンも多いけどアンチも多いから流れてくる情報はグッチャグチャだ。それを精査して見る。あのときより綺麗なダイナマがどこかにいるんじゃないかって。今のところ、あれよりすごい写真なんかには出会えてない。実際の現場って、風も吹いてて、向こうから光が差してて、何か声が聞こえて、写真に納めるにはあまりあるからね。難しいんだろうな。俺が見たのと同じくらいの綺麗さを誰かが写してくれれば、それを眺めて満足できる。はず。あのときより綺麗なダイナマを誰かが写したら……、ちょっと嫉妬するかも。なんてな。べつに俺だけのヒーローじゃないんだし、嫉妬とかするもんじゃない。気楽に行きたい。そりゃあ俺にとっちゃダイナマイトは特別なヒーローだけど、そういう特別じゃないし。綺麗だったんだよ。ダイナマはよく言われてる形容詞は怖いとか格好いいとかだけど、俺にとってのあのヒーローは綺麗だ。そうだ、それに尽きる。
 ダイナマイト出演情報まとめっていうものすごくありがたいアカウントの投稿を確認して、テレビをつけた。番組名がバラエティーっぽいのがちょっと不安だけど、生放送だ。見ないわけにはいかない。ダイナマイトをできるだけ見たい。
 オープニングが始まる。ダイナマイトはまだ出てないな。出演者がゲームしたり都内のお店を巡ったりするVTRを見てるうちに、どんどん緊張してきた。え、ダイナマイトがこの番組に? 馴染まなくないかな?
 そんなこと思ってたら出てきた。うわ、なんだか、コスチュームじゃないからか、なんだか若く見える。同期だっていう雄英卒のヒーローも一緒だ。うまくいなされている。紹介が終わったら番組の次のパートに移った。ゲームするんだ。バラエティーらしい。ダイナマは絶対負けねぇって全然本気だった。意外なような、納得するような。
 テーブルゲームの拡大版みたいなやつを出演者が二チームに分かれて対戦する。ダイナマってやっぱ頭良いな。ダイナマのチームが勝った。かなりMVPだったと思う。勝ち誇ってる。へー、そんな顔するのか。
 罰ゲームだっていって負けたチームは激辛料理を食べさせられるらしい。あれ、ダイナマイトって辛いものが好きだってなんかに聞いたことあるな。これダイナマが負けても全然罰じゃなかったんじゃ……。
 そう思ったらダイナマの同期もそう言った。司会が笑って、じゃあダイナマイトも食べたら? 何て言う。えっ、ダイナマイトが話に乗った。食べた。口でっかいな。食べ方が綺麗だ。美味しそうじゃん。
 全然大した辛さじゃねえ、とダイナマイトが言って、それじゃあ、と料理を口に運んだ同期のヒーローが一口食べる。するとみるみる顔が赤くなって、思いっきりむせこんだ。だ、大丈夫かな?
 ちょっと心配になったときにカメラが切り替わって、ダイナマイトが写った。ダイナマイトは笑ってた。とっても、イタズラっぽく。
 ええ、同期の前だとそんな顔して笑うんだ。そっか。
 ふーん……。なんか、かわいいところが、あるっていうか……。
 頭の中がその笑い顔でいっぱいになる。そんな顔もするんだ。いやするか、そりゃ。まだ若いしな。ああもう、ああ、いいな……。
 あーあ。ガチ恋ファンってどうやったらいいんだよ。助けてくれヒーロー……。
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