NEVER MEET YOUR HERO


 大抵の町がそうであるように、わたしの町にもヒーローがいる。
 我らがヒーローの名前は、大・爆・殺・神ダイナマイト。ダイナマとかって略すと怒るらしい。
 わたしはダイナマイトが好きだ。ファンガールですって名乗れる。ビュンビュン飛び回って格好いいし、強いし。ビジュアルも盛り盛りでいい。自分には似合わないし服の文脈に耐えられないから着ないけど、ああいうゴツい意匠は見るとおおと思う。よく似合ってる。格好いい。
 助けられたりとかそういう接点がある訳じゃない。幸運にも、その手のこととはあんまり縁なく生きてこれた。ダイナマイトはパトロールとかもしてるけど、わたしのふだんの行動圏内をパトロールするのは大抵同じサイドキックのヒーローだ。彼女のことも好き。笑顔がキラキラしてカッコいい。ダイナマイトと仲が良さそうなのもすごい。
 わたしがダイナマイトに一番距離が近くなったのは、多分、町のお祭りの時。警備でいるダイナマイトがパトロールしてるときにすれ違った。その時のダイナマイトは、屋台の射的に誘われて、なんだかんだやるって盛り上がってた。人の壁みたいになっちゃって、中は見えなかったから、まさかダイナマイトが居るとは思わずにわたしは素通りしてしまったのだ。人波の内側で何が起こっていたかは後日事務所公式SNSにアップされていたから知ってるんだけどね。
 動画を再生する。射的の銃でもダイナマイトに構えられるとすごい雰囲気がある。横顔、きれい。かっこいいな。とそこで音が鳴って、命中! さすがって感じ。で、ここ、ここ見てほしいの。カメラに向けたダイナマイトのドヤ顔!! すごい、すごくない? すごいもの見ちゃったーって思ったよ。ドヤ顔としか言いようがない。楽しそう。これがわたしの半径数メートルのところで行われていたっていうんだからテンションも上がっちゃうよ。生では見れなかったわけだけど。
 わたしはダイナマイトが好き。いろいろ言ったけど好きにも嫌いにも大した理由は要らないと思う。普通に好き。わたしがダイナマイトが好きなのもまずこの町のヒーローだからっていうのがあるし。ヒーローとかアイドルとか、好かれるのが前提みたいな仕事だと思うんだけど、ダイナマイトは対人コミュニケーションが荒いから怖がられてたりもする。それもわかる。こないだ友達にダイナマイトが好きって話したら、ダイナマイトみたいなやつが好きなの? ってびっくりした顔で言われて慌てて訂正した。大・爆・殺・神ダイナマイトのことが好きなわけで、ダイナマイトみたいなやつが好きって訳じゃない。その差はかなりでかい。リア恋? って聞かれたけどそれも多分ちょっと違うんだ。ちょっと以上違うかな。
 何て言うかさ、恥じない人間になりたいわけ。ダイナマイトってすごいヒーローじゃん。すごい人じゃん。ああいう存在に、恥じない、そういう人間になりたい。そういう気持ちでダイナマイトのことが好き。わたしは。
 そう言うと、ダイナマイトの暴言まとめとかをわざわざ教えてくれるやつもいるけど、そういうことじゃない。
 良いことをするのって難しい。わたしみたいな弱い人間には、理由が必要だ。そんな時、自分がダイナマイトのファンガールだっていうのは、わたしの中で立派な言い訳として機能する。ここには本人がどんな人間かっていうのは実はあんまり関係ない。わたしの中で作り上げた像が、それで壊れないことが大事なのだ。
 生身の人間に向ける気持ちじゃないなあっていうのは薄々わかってる。だから本人には会いたくない。いや嘘、会いたくはある。双方向なやり取りはできないだろうなって思っている。一方的に見てるだけなら……ってこれなら、『会いたくない』の方がまだいいか。会いたくない。会いたくはないです。暴言、怖いし。
 今日は風に煽られて重なって倒れた自転車を立て直した。ダイナマイトが自転車を直すかは知らないけど、ダイナマイトのファンガールはやります。わたしが始めたら、近くの何人かも手伝ってくれて、案外すぐだった。協力してもらえてありがたい。さすがダイナマイトの町……なんて、贔屓過ぎ?
 ダイナマイトってわたしの中ではちょっとした神様なのかもしれない。ちょっとした呼ばわりに大・爆・殺・神サマは怒るのか、それともヒーローを神格化したりする態度に怒るのか、それともどうでも良さそうにするのかもしれない。さっぱり見当もつかない。そこまで彼のヒーローの人となりを知らない。そんなこと考えながら公式から出てるダイナマイトのカードに向かって拝んだ。今日のテスト、なんとかなりますように。
 テストはかなりなんとかなって、ご利益はあるよなあと思った。友達が次は私もダイナマ拝もーって要ってたから出来ちゃうかもしれない、宗教。でもうちらくらいの歳のやつはやったことあるんじゃないかな。ダイナマ頼み。効果は感じる気がする。めっちゃサボったとか後ろめたいことあるとダイナマイトの写真直視しにくくなるから、そっちの方が原因として強そう。ダイナマ頼み出来るやつはすでにそれが出来る程度には努力かなにかしている気がするよ。わたしの場合はテスト前日の一夜漬けがかなり効きました。

 今日もわたしはいつもの日常を送る。その窓の外で、今日もわたしの町のヒーローは、そこらじゅうを元気いっぱいに駆け回っている。それをニュースで見る。
 今日もわたしはダイナマイトが好きだ。格好いいよね。
1/5ページ
スキ