天下統一計画(仮)
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「……暇だ」
怪我を治せと部屋に閉じ込められて早3日。
何故か長宗我部が甲斐甲斐しく俺の面倒を見てくれている。
曰く、部下は俺しかいないから仕方なくという事らしい。ありがとう、やっと部下となることを認めてくれたんだな。
そしてそろそろ風呂に入りたい。
体をタオルで拭く程度の事はあったが、風呂に入ってのんびりしたい。傷があるから駄目だと言われていたが、そろそろ限界だった。
もともと毎日風呂に入っていた人間が、船上も含めると1週間近くのんびり湯船につかっていない。これは由々しき事態なのだ。
「というわけで、温泉を掘ろうと思う」
「温泉なんて掘っていたら、いつ入浴できるのか分からないよ」
速攻で竹中にNGを出されました。
「温泉ではないけど湯あみができる場所はこの城にはあるから、そこを使うといい」
「やった…やっとお風呂に入れる……ありがとうございます」
「泣いて喜ぶほどの事なのかな?」
「本当にうれしいです!」
よしよしと頭を撫でられ、なんだか照れ臭くなってしまった。
「ほら、一人でゆっくり入ってくるといい」
小躍りしながらお風呂へ向かうと、廊下で長曾我部にすれ違った。部屋を出ていると小言を言われたが、風呂だと伝えるとついてくると言い出した。
「いや、本当に一人で入れるから。頼むから少し俺を一人にしてくれ」
起床して、殆どずっと一緒にいる。離れられるのは着替えと厠に行く時くらいだ。
「風呂から出て、一人じゃ包帯変えられないだろう」
どうしたんだ長曾我部!急に俺の事を3歳児か何かに見えているのか?
「できるから!ってか、ずっと俺が自分で変えていたんだから平気なの!それにチカとお風呂入るとかありえないから!」
きっぱりというと、なぜかひどく項垂れてしまった。
「……やっぱり、俺の態度が悪かったからか?」
「へ?」
「アンタ、俺の事嫌いだろう?」
予想外の言葉に俺は目を丸くした。
「いや、全然。むしろ好きです。ヒュー、アニキかっこいー。」
「茶化すな」
本心なのだが。長曾我部はかっこいいアニキだよ。
「この目が、冗談を言っているように見えるのか?いたって真面目だぞ。ただお風呂に一緒に入るのだけはまだ無理。ってかたぶんずっと無理。誰に対してもそうだけど、俺は体を見られるのが嫌」
あまりにも傷の多い肌だ
一緒に風呂に入りたくない理由を告げると、やっと納得したように引き下がってくれた。
そのやり取りを角で見ていたようで毛利に笑われた。
「和海よ。はっきりと自分は女だと伝えておかねばあのバカは気づかないぞ」
「気づかないならそれでいいって。むしろ「女なんだから」みたいな気の使い方されたらこっちが滅入る。
そうでなくても、この程度の怪我でべったり心配してくるんだぞ?
そういえば毛利はいつから俺が女だって気づいてた?」
「一目で分かろう。分からぬ者共の方が多いようだがな……。あの竹中という男は気づいているようだぞ」
ああ、やはり分かる人には女とちゃんとわかるようだ。
「え?俺の事気づいてる?」
「そもそも貴様の怪我を治療するための者を手配したのは竹中であろう。そこより情報は漏れている」
そういえばそうだった。もしかして一人で湯あみをしていいと言ってくれたのはその辺の事も考えていてくれたのだろうか?
「女であることを隠すのであれば、もっと体系が分からぬように隠すことだな。必要であれば我の甲冑を貸してやろう」
「ありがとうございます」
「して和海よ。神聖ザビー教はいつ復活の予定だ?」
「へ?」
「信者たちは、新たなる教祖を待っているぞ」
……そっか、信者はザビーにしたがっていた。というか教祖に従っていたわけだから教祖の代理を用意しなきゃいけない。
「あー、えっと。近いうちにどうにかします」
どうにかなるのだろうか?頭を抱えながら一人湯船につかる。
「はぁー極楽。大きいお風呂はいいなー」
しかも一人でのんびりできるというのはありがたい。
「次の教祖か……俺に協力的なザビーがいてくれたらいいのになぁ」
そう願いながら風呂に浸かっていると、ものすごい勢いで戸を叩かれた。
「なになに?敵襲?」
「のんきに風呂に入っている場合ではないぞ!」
慌てた毛利の声に、急いで湯舟を飛び出す。一応布で隠しているが、さすがにみられるのは恥ずかしく、少しだけ扉を開ける。
隙間から見えたのはザビーの周りを飛んでいた彼そっくりの天使。
思わず戸を閉めた。
「貴様!ザビー様が挟まったらどうするつもりだ!」
「いや、ちょっと…めまいがして。あの詳しく話を聞くので少し脱衣所から出てもらえる?」
「貴様の体に興味などないわ」
「そっちはなくても、俺は恥ずかしいんだよ!」
毛利を追い払い、急いで着替えを終わらせて出ていく。先日の戦いで、着てきた服はボロボロになってしまったので、仕方なくザビー教信者の服を借りている。肌をすべて隠せるのはありがたい。
「やっと来たか、いつまでザビー様を待たせるつもりだ!」
「すいませんね。っと…本当にザビーなのか?」
毛利から手渡されたザビーによく似た何か。アイユエニーと鳴き声を上げる珍獣は何故か俺の腕の中で満足そうにしている。
「随分と貴様を気に入ったようだな」
「なんでなんだろうね…まぁ、こうしてみていると愛らしくも見えてくるような…気のせいか」
首から下はむちっとした赤ちゃんのような愛らしさがあるんだけど、顔がね…ザビーなんだよね。
「何を言う!この方ほど愛らしいお方などおらぬわ!」
「やめ、ちょまぶしい!」
どこからともなく武器を取り出す毛利を必死でなだめ、ザビー教の新教祖としてこの小さなザビーを立てることとなった。ベビーザビーの面倒は毛利が買って出てくれたので、俺は時々手伝いをする程度だったが、何故か異様に懐かれた。
それが気に入らないのかよく毛利に追い掛け回されたが、俺は悪くねえ!
もっと毛利との会話は殺伐となるかと思っていたが、サンデー毛利のおかげなのか割と穏やかに会話ができるのがありがたかった。
毛利と長曾我部の二人は結構好きで、よく遊んでいたので敵対せずに行動できることになったのは本当にうれしかった。
俺が穏やかな日を過ごしている間にも、各国は動き始めていたようだ。まさか俺が狙われることになるとは思いもしなかった。
-----------
真夜中、視線を感じてとっさに布団から飛び起きた。何も見えないが、何かがいる気配がする。
「へぇ…すごいね」
暗闇からすっと姿を現したのは黒い衣装に身を包んだ忍。一瞬風魔かと思ったが、喋ったので多分猿飛佐助だ。
「少々敏感でね、特に敵意はすぐに気づけるんだよ」
「こりゃ次から闇討ちは無理かな」
明るい声だが、殺す気満々なのがにじんでいる。忍びなのに忍んでない!
「闇討ちは諦めて、直接やるって事か」
そうだと言わんばかりに猿飛は大きな手裏剣を構える。
「勘弁してくれ…そもそもなんで俺を狙うんだよ」
「南の大将、和海だろ?」
「南の大将(仮)だけどな。この城は俺の物だけど、ぶっちゃけそれ以外何もない。俺を討ったとしてもいい事無いぞ!」
俺がいなくなって困るのは……一応同盟した豊臣軍?でもぶっちゃけいてもいなくても今の時点では関係ないよな。
「でも、いきなりアンタが死んでたら周りは混乱するだろう?」
「……混乱してくれるかな?むしろ済々したとか思われそうで」
「え?何々。ここでうまくいっていない感じな訳?」
俺の話が面白いのか武器を下げて近づいてくる。殺気は感じられなくなっていた。
「ちょっと話聞いてくださいよ、奥さん」
「あらやだどうしたの?」
ノリがいいな猿飛佐助…。
とりあえず酒…という訳にもいかず、戸棚から湯呑と茶菓子を取り出す。
「粗茶ですが」
どういう原理か、なんかからの湯飲みだがお茶を飲みたいなと思うとお茶が用意されている。茶菓子の入った器も同じような原理だ。
猿飛は仕事中だからお茶は飲まないだろうけど、俺が飲みたい気分なのだ。とりあえずお茶を片手に豊臣と同盟を結んだ経緯と部下の長曾我部とうまくいっていない事を話した。
「暗殺に来た俺様が言うのもなんだけどさ、おたくそんなに話しちゃって後で怒られない?」
ぼりぼりとせんべいを食べながら茶をすする猿飛。いや、あなたこそダラケすぎでは?
「大丈夫、大丈夫。あなたが豊臣とか竹中とか長曾我部にばらさなきゃ全然。別の国でその話をしたって、あの3人に聞かれるわけじゃあるまいし」
「いや、俺様が話したことはどうせそのうち他の人を経由して三人にばれると思うけど」
「……まじで?」
「言うだろ、人の口に戸は立てられぬってね」
「黙っててっていっても…ダメですよねー?」
「ダメだね。情報は上司に伝えなきゃいけないからさ」
俺は布団の上に手足を伸ばして寝ころんだ。
「やっべー、絶対怒られる―」
「夜は寝なさいと言っただろう!」
「うぉ!竹中!」
思わず飛び上がって正座した。
「一体ブツブツと何を言っているんだい?まさか誰かいるとか?」
「居ません!寝れなかったので今後の事を考えていました!」
「……」
無言の圧力怖い。
黙ったままじわじわ近づいてこないでほしい。
目をそらしたら顔をつかまれて、無理やり視線を合わせられる。
「ひょんとれす…あと言い訳考えてました」
「…言い訳?」
手を離してくれたけど、がっしり掴まれていた所為で頬が痛い…。
「あー…竹中さんはもうご存じだと思うんですが、俺が性別を伝えていなかった事なんですけど」
「なにか言い訳をしないといけないことがあるのかな?」
「その……お風呂の事とか?医者の手当の件とか気を遣わせることになってすみません?」
「何故疑問形なのかな?まあ、驚いたのは確かだけど、それだけの事だよ。君が隠したがっているようだったから他の人には伏せておいたけどね」
「ありがとうございます」
気遣いができる上司。そういう意味でも竹中の部下になりたかったというのはある。
「それで……僕から質問したいことがあるんだけど、いいかな?」
「なんですか?」
「君の背中……あれは家紋かい?」
傷の手当の際に見られたのだろうか…?背中には傷しかない筈。
「その…背中って自分じゃ見えなくて、どうなってたんですか」
「鳥…かな?」
血の気が引いた。向こうにいたときはそんな家紋は背中には表れていなかった。
現れないように俺は■■しようと……あれ、ダメだ。よく思い出せない。
「顔色が悪いようだ、大丈夫かい?」
「あの…はい。大丈夫だと思います。その…知らない間にそんなものが刻まれていた事実に驚いてまして」
どんな顔をしたらいいんだろうか。現れる理由は分かっている。けど、なぜ現れたのかが理解できない。
「君について、何も知らないから……いつか君から話してくれるのを待つことにするよ」
「……待ってくれて、ありがとうございます」
「あまり長い時間待つ余裕はないからね。それじゃあそろそろ寝たまえ。明日は次の戦について相談したいからね」
「分かりました」
竹中が部屋からいなくなってしばらくすると、猿飛の気配もなくなっていた。
帰ったのだろうか?
「はぁ……」
再び布団の上に寝転んで盛大なため息をついた。
背中の家紋と思しき紋は、俺が主と認めた存在ができたときに現れるものだ。
豊臣に仕官しようと思ったから、豊臣を主として認めたという事だろうか?
……本当に仕官しないでよかった。俺がそばにいると、はじめのうちはいいが最終的にはひどい目に合う。
同盟なら、ある程度で俺の方から離れれば何とかなると思いたい。
もしかして、この世界で目覚めたのは俺が主として認めるべき存在が居る所為なんだろうか。
ーーーーーーーーー
翌朝、身だしなみを整え終えたあたりで長曾我部が顔を出した。
「ああ、おはよう。……どうした、なんか眠そうだな」
「そうか?……なぁ、昨日の晩何かあったのか」
竹中が俺の部屋から出ていくのを見かけたという事だった。
「ああ、寝付けなくて起きていたら怒られただけだ。まさか竹中が見回っているとは思わなかった」
あれで猿飛が一緒にいるところまで見られていたら何を言われたかわかったもんじゃない。
「そうか…寝付けないなら、俺のところに来ればいい。話し相手くらいにはなってやるよ」
「……やっぱり優しいな。アニキって呼ばせてもらっても?」
「やめろ。アンタは一応大将なんだ。今まで通りチカって呼べばいいだろう」
あ、馴れ馴れしいって言ってたのに。チカって呼んで怒らないんだ。なんて懐が広いんだ、アニキ!
「わかった、じゃあチカ。俺は竹中のところに行ってくる。次の戦についての話があるらしい」
「ああ、俺も呼ばれているからな」
なるほど、俺と長曾我部の二人で戦に出る予定なのか。
二人で竹中の元へ向かうと、すでに書類などが並んで話ができるように準備されていた。
「おはよう、おや随分と仲が良くなったようだね」
「そうなら嬉しいけどな。次はどこと戦う予定なんだ」
仲間としてやっていくなら、やはり仲良くできたほうがいい。ギスギスした関係は胃に悪い。
「和海には姉川を目指してもらうつもりだ。……元親君、君はいい加減座ったらどうだい?」
「あ、ああ…」
なんで長曾我部は立ったままだったんだ?何か考え事でもしていたんだろうか?
「姉川…たしか浅井がいる場所だったっけ」
長曾我部の様子も気にかかったが、目の前の戦の話へ意識を戻す。
「よく勉強しているね。浅井は今は織田と同盟関係だけど、彼自身はあまり信長と折り合いが良くないようだ」
「……浅井軍、手に入れられないかな」
ぼそりとつぶやくと、竹中は笑った。
「君ならそう言うんじゃないかと思っていたよ。彼は義を通す、正義にまっすぐな男だからうまく扱えば取り入ることもできるかもしれない。
ただ、彼の妻…お市が少し厄介な存在かもしれない」
「妙案があるんだ、姉川については俺に作戦も含め任せてもらえないかな」
「君の作戦の報告書を読ませてもらってからにしよう。とんでもない作戦だったらさすがに止めさせてもらうよ」
「大丈夫、なんかうまくいきそうな気がするから」
俺がガッツポーズを見せると、生暖かいまなざしを向けられる。あれだ、初めてのお使いで頑張る子供を見てほっこりしている視聴者のような顔だ。
なんだろう、長曾我部の態度といい、俺は幼児に見えているのか?
「それじゃあ、和海が作戦を練っている間に元親君。君の方の話をしよう」
「なんだ、俺は和海とは別行動なのか?」
不機嫌そうに竹中を睨みつける。俺も驚いた、てっきり長曾我部と一緒に行動だと思っていたからだ。
「最初は君たち二人でと思っていたんだけどね、君の国の方に前田軍が向かっているという情報が入った」
「前田?」
「軍というのか、夫婦というのか……戦を仕掛けに来るという感じではなさそうだけどね、君の国の話だ。
直接出向いた方がいいんじゃないかと思ってね」
前田…いや まつ のルートでカジキマグロを釣るために訪れる話があったはず。
「なんでまた…」
意味が分からないという顔を浮かべているが、初めて見たとき俺もなんでやねんと突っ込みを入れた。
「まぁ、頑張ってくれ。きっとチカなら大きな騒ぎにならずにうまくことを収めてくれるって信じてるよ」
実際、あの話は釣りをして料理をふるまってもらって終わりだからな。戦っていうよりお料理番組みたいな展開だもんな。
「お、おう!当然だ、俺に任せておけ!」
気合十分といった様子の長曾我部を見て安心した。
「そんじゃ…しばらく俺は国へ戻るが…和海、本当に一人で大丈夫なのか?」
「大丈夫、ダメな計画立てたらここで怒られるから無理はしないよ」
何故かしょぼんと尻尾を垂らした犬のような状態になりながら長曾我部はザビー城を離れる支度を始めた。
「それで、君はどんな計画を立てるのかな?」
竹中の問いに、俺は胸を張って答えた。
怪我を治せと部屋に閉じ込められて早3日。
何故か長宗我部が甲斐甲斐しく俺の面倒を見てくれている。
曰く、部下は俺しかいないから仕方なくという事らしい。ありがとう、やっと部下となることを認めてくれたんだな。
そしてそろそろ風呂に入りたい。
体をタオルで拭く程度の事はあったが、風呂に入ってのんびりしたい。傷があるから駄目だと言われていたが、そろそろ限界だった。
もともと毎日風呂に入っていた人間が、船上も含めると1週間近くのんびり湯船につかっていない。これは由々しき事態なのだ。
「というわけで、温泉を掘ろうと思う」
「温泉なんて掘っていたら、いつ入浴できるのか分からないよ」
速攻で竹中にNGを出されました。
「温泉ではないけど湯あみができる場所はこの城にはあるから、そこを使うといい」
「やった…やっとお風呂に入れる……ありがとうございます」
「泣いて喜ぶほどの事なのかな?」
「本当にうれしいです!」
よしよしと頭を撫でられ、なんだか照れ臭くなってしまった。
「ほら、一人でゆっくり入ってくるといい」
小躍りしながらお風呂へ向かうと、廊下で長曾我部にすれ違った。部屋を出ていると小言を言われたが、風呂だと伝えるとついてくると言い出した。
「いや、本当に一人で入れるから。頼むから少し俺を一人にしてくれ」
起床して、殆どずっと一緒にいる。離れられるのは着替えと厠に行く時くらいだ。
「風呂から出て、一人じゃ包帯変えられないだろう」
どうしたんだ長曾我部!急に俺の事を3歳児か何かに見えているのか?
「できるから!ってか、ずっと俺が自分で変えていたんだから平気なの!それにチカとお風呂入るとかありえないから!」
きっぱりというと、なぜかひどく項垂れてしまった。
「……やっぱり、俺の態度が悪かったからか?」
「へ?」
「アンタ、俺の事嫌いだろう?」
予想外の言葉に俺は目を丸くした。
「いや、全然。むしろ好きです。ヒュー、アニキかっこいー。」
「茶化すな」
本心なのだが。長曾我部はかっこいいアニキだよ。
「この目が、冗談を言っているように見えるのか?いたって真面目だぞ。ただお風呂に一緒に入るのだけはまだ無理。ってかたぶんずっと無理。誰に対してもそうだけど、俺は体を見られるのが嫌」
あまりにも傷の多い肌だ
一緒に風呂に入りたくない理由を告げると、やっと納得したように引き下がってくれた。
そのやり取りを角で見ていたようで毛利に笑われた。
「和海よ。はっきりと自分は女だと伝えておかねばあのバカは気づかないぞ」
「気づかないならそれでいいって。むしろ「女なんだから」みたいな気の使い方されたらこっちが滅入る。
そうでなくても、この程度の怪我でべったり心配してくるんだぞ?
そういえば毛利はいつから俺が女だって気づいてた?」
「一目で分かろう。分からぬ者共の方が多いようだがな……。あの竹中という男は気づいているようだぞ」
ああ、やはり分かる人には女とちゃんとわかるようだ。
「え?俺の事気づいてる?」
「そもそも貴様の怪我を治療するための者を手配したのは竹中であろう。そこより情報は漏れている」
そういえばそうだった。もしかして一人で湯あみをしていいと言ってくれたのはその辺の事も考えていてくれたのだろうか?
「女であることを隠すのであれば、もっと体系が分からぬように隠すことだな。必要であれば我の甲冑を貸してやろう」
「ありがとうございます」
「して和海よ。神聖ザビー教はいつ復活の予定だ?」
「へ?」
「信者たちは、新たなる教祖を待っているぞ」
……そっか、信者はザビーにしたがっていた。というか教祖に従っていたわけだから教祖の代理を用意しなきゃいけない。
「あー、えっと。近いうちにどうにかします」
どうにかなるのだろうか?頭を抱えながら一人湯船につかる。
「はぁー極楽。大きいお風呂はいいなー」
しかも一人でのんびりできるというのはありがたい。
「次の教祖か……俺に協力的なザビーがいてくれたらいいのになぁ」
そう願いながら風呂に浸かっていると、ものすごい勢いで戸を叩かれた。
「なになに?敵襲?」
「のんきに風呂に入っている場合ではないぞ!」
慌てた毛利の声に、急いで湯舟を飛び出す。一応布で隠しているが、さすがにみられるのは恥ずかしく、少しだけ扉を開ける。
隙間から見えたのはザビーの周りを飛んでいた彼そっくりの天使。
思わず戸を閉めた。
「貴様!ザビー様が挟まったらどうするつもりだ!」
「いや、ちょっと…めまいがして。あの詳しく話を聞くので少し脱衣所から出てもらえる?」
「貴様の体に興味などないわ」
「そっちはなくても、俺は恥ずかしいんだよ!」
毛利を追い払い、急いで着替えを終わらせて出ていく。先日の戦いで、着てきた服はボロボロになってしまったので、仕方なくザビー教信者の服を借りている。肌をすべて隠せるのはありがたい。
「やっと来たか、いつまでザビー様を待たせるつもりだ!」
「すいませんね。っと…本当にザビーなのか?」
毛利から手渡されたザビーによく似た何か。アイユエニーと鳴き声を上げる珍獣は何故か俺の腕の中で満足そうにしている。
「随分と貴様を気に入ったようだな」
「なんでなんだろうね…まぁ、こうしてみていると愛らしくも見えてくるような…気のせいか」
首から下はむちっとした赤ちゃんのような愛らしさがあるんだけど、顔がね…ザビーなんだよね。
「何を言う!この方ほど愛らしいお方などおらぬわ!」
「やめ、ちょまぶしい!」
どこからともなく武器を取り出す毛利を必死でなだめ、ザビー教の新教祖としてこの小さなザビーを立てることとなった。ベビーザビーの面倒は毛利が買って出てくれたので、俺は時々手伝いをする程度だったが、何故か異様に懐かれた。
それが気に入らないのかよく毛利に追い掛け回されたが、俺は悪くねえ!
もっと毛利との会話は殺伐となるかと思っていたが、サンデー毛利のおかげなのか割と穏やかに会話ができるのがありがたかった。
毛利と長曾我部の二人は結構好きで、よく遊んでいたので敵対せずに行動できることになったのは本当にうれしかった。
俺が穏やかな日を過ごしている間にも、各国は動き始めていたようだ。まさか俺が狙われることになるとは思いもしなかった。
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真夜中、視線を感じてとっさに布団から飛び起きた。何も見えないが、何かがいる気配がする。
「へぇ…すごいね」
暗闇からすっと姿を現したのは黒い衣装に身を包んだ忍。一瞬風魔かと思ったが、喋ったので多分猿飛佐助だ。
「少々敏感でね、特に敵意はすぐに気づけるんだよ」
「こりゃ次から闇討ちは無理かな」
明るい声だが、殺す気満々なのがにじんでいる。忍びなのに忍んでない!
「闇討ちは諦めて、直接やるって事か」
そうだと言わんばかりに猿飛は大きな手裏剣を構える。
「勘弁してくれ…そもそもなんで俺を狙うんだよ」
「南の大将、和海だろ?」
「南の大将(仮)だけどな。この城は俺の物だけど、ぶっちゃけそれ以外何もない。俺を討ったとしてもいい事無いぞ!」
俺がいなくなって困るのは……一応同盟した豊臣軍?でもぶっちゃけいてもいなくても今の時点では関係ないよな。
「でも、いきなりアンタが死んでたら周りは混乱するだろう?」
「……混乱してくれるかな?むしろ済々したとか思われそうで」
「え?何々。ここでうまくいっていない感じな訳?」
俺の話が面白いのか武器を下げて近づいてくる。殺気は感じられなくなっていた。
「ちょっと話聞いてくださいよ、奥さん」
「あらやだどうしたの?」
ノリがいいな猿飛佐助…。
とりあえず酒…という訳にもいかず、戸棚から湯呑と茶菓子を取り出す。
「粗茶ですが」
どういう原理か、なんかからの湯飲みだがお茶を飲みたいなと思うとお茶が用意されている。茶菓子の入った器も同じような原理だ。
猿飛は仕事中だからお茶は飲まないだろうけど、俺が飲みたい気分なのだ。とりあえずお茶を片手に豊臣と同盟を結んだ経緯と部下の長曾我部とうまくいっていない事を話した。
「暗殺に来た俺様が言うのもなんだけどさ、おたくそんなに話しちゃって後で怒られない?」
ぼりぼりとせんべいを食べながら茶をすする猿飛。いや、あなたこそダラケすぎでは?
「大丈夫、大丈夫。あなたが豊臣とか竹中とか長曾我部にばらさなきゃ全然。別の国でその話をしたって、あの3人に聞かれるわけじゃあるまいし」
「いや、俺様が話したことはどうせそのうち他の人を経由して三人にばれると思うけど」
「……まじで?」
「言うだろ、人の口に戸は立てられぬってね」
「黙っててっていっても…ダメですよねー?」
「ダメだね。情報は上司に伝えなきゃいけないからさ」
俺は布団の上に手足を伸ばして寝ころんだ。
「やっべー、絶対怒られる―」
「夜は寝なさいと言っただろう!」
「うぉ!竹中!」
思わず飛び上がって正座した。
「一体ブツブツと何を言っているんだい?まさか誰かいるとか?」
「居ません!寝れなかったので今後の事を考えていました!」
「……」
無言の圧力怖い。
黙ったままじわじわ近づいてこないでほしい。
目をそらしたら顔をつかまれて、無理やり視線を合わせられる。
「ひょんとれす…あと言い訳考えてました」
「…言い訳?」
手を離してくれたけど、がっしり掴まれていた所為で頬が痛い…。
「あー…竹中さんはもうご存じだと思うんですが、俺が性別を伝えていなかった事なんですけど」
「なにか言い訳をしないといけないことがあるのかな?」
「その……お風呂の事とか?医者の手当の件とか気を遣わせることになってすみません?」
「何故疑問形なのかな?まあ、驚いたのは確かだけど、それだけの事だよ。君が隠したがっているようだったから他の人には伏せておいたけどね」
「ありがとうございます」
気遣いができる上司。そういう意味でも竹中の部下になりたかったというのはある。
「それで……僕から質問したいことがあるんだけど、いいかな?」
「なんですか?」
「君の背中……あれは家紋かい?」
傷の手当の際に見られたのだろうか…?背中には傷しかない筈。
「その…背中って自分じゃ見えなくて、どうなってたんですか」
「鳥…かな?」
血の気が引いた。向こうにいたときはそんな家紋は背中には表れていなかった。
現れないように俺は■■しようと……あれ、ダメだ。よく思い出せない。
「顔色が悪いようだ、大丈夫かい?」
「あの…はい。大丈夫だと思います。その…知らない間にそんなものが刻まれていた事実に驚いてまして」
どんな顔をしたらいいんだろうか。現れる理由は分かっている。けど、なぜ現れたのかが理解できない。
「君について、何も知らないから……いつか君から話してくれるのを待つことにするよ」
「……待ってくれて、ありがとうございます」
「あまり長い時間待つ余裕はないからね。それじゃあそろそろ寝たまえ。明日は次の戦について相談したいからね」
「分かりました」
竹中が部屋からいなくなってしばらくすると、猿飛の気配もなくなっていた。
帰ったのだろうか?
「はぁ……」
再び布団の上に寝転んで盛大なため息をついた。
背中の家紋と思しき紋は、俺が主と認めた存在ができたときに現れるものだ。
豊臣に仕官しようと思ったから、豊臣を主として認めたという事だろうか?
……本当に仕官しないでよかった。俺がそばにいると、はじめのうちはいいが最終的にはひどい目に合う。
同盟なら、ある程度で俺の方から離れれば何とかなると思いたい。
もしかして、この世界で目覚めたのは俺が主として認めるべき存在が居る所為なんだろうか。
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翌朝、身だしなみを整え終えたあたりで長曾我部が顔を出した。
「ああ、おはよう。……どうした、なんか眠そうだな」
「そうか?……なぁ、昨日の晩何かあったのか」
竹中が俺の部屋から出ていくのを見かけたという事だった。
「ああ、寝付けなくて起きていたら怒られただけだ。まさか竹中が見回っているとは思わなかった」
あれで猿飛が一緒にいるところまで見られていたら何を言われたかわかったもんじゃない。
「そうか…寝付けないなら、俺のところに来ればいい。話し相手くらいにはなってやるよ」
「……やっぱり優しいな。アニキって呼ばせてもらっても?」
「やめろ。アンタは一応大将なんだ。今まで通りチカって呼べばいいだろう」
あ、馴れ馴れしいって言ってたのに。チカって呼んで怒らないんだ。なんて懐が広いんだ、アニキ!
「わかった、じゃあチカ。俺は竹中のところに行ってくる。次の戦についての話があるらしい」
「ああ、俺も呼ばれているからな」
なるほど、俺と長曾我部の二人で戦に出る予定なのか。
二人で竹中の元へ向かうと、すでに書類などが並んで話ができるように準備されていた。
「おはよう、おや随分と仲が良くなったようだね」
「そうなら嬉しいけどな。次はどこと戦う予定なんだ」
仲間としてやっていくなら、やはり仲良くできたほうがいい。ギスギスした関係は胃に悪い。
「和海には姉川を目指してもらうつもりだ。……元親君、君はいい加減座ったらどうだい?」
「あ、ああ…」
なんで長曾我部は立ったままだったんだ?何か考え事でもしていたんだろうか?
「姉川…たしか浅井がいる場所だったっけ」
長曾我部の様子も気にかかったが、目の前の戦の話へ意識を戻す。
「よく勉強しているね。浅井は今は織田と同盟関係だけど、彼自身はあまり信長と折り合いが良くないようだ」
「……浅井軍、手に入れられないかな」
ぼそりとつぶやくと、竹中は笑った。
「君ならそう言うんじゃないかと思っていたよ。彼は義を通す、正義にまっすぐな男だからうまく扱えば取り入ることもできるかもしれない。
ただ、彼の妻…お市が少し厄介な存在かもしれない」
「妙案があるんだ、姉川については俺に作戦も含め任せてもらえないかな」
「君の作戦の報告書を読ませてもらってからにしよう。とんでもない作戦だったらさすがに止めさせてもらうよ」
「大丈夫、なんかうまくいきそうな気がするから」
俺がガッツポーズを見せると、生暖かいまなざしを向けられる。あれだ、初めてのお使いで頑張る子供を見てほっこりしている視聴者のような顔だ。
なんだろう、長曾我部の態度といい、俺は幼児に見えているのか?
「それじゃあ、和海が作戦を練っている間に元親君。君の方の話をしよう」
「なんだ、俺は和海とは別行動なのか?」
不機嫌そうに竹中を睨みつける。俺も驚いた、てっきり長曾我部と一緒に行動だと思っていたからだ。
「最初は君たち二人でと思っていたんだけどね、君の国の方に前田軍が向かっているという情報が入った」
「前田?」
「軍というのか、夫婦というのか……戦を仕掛けに来るという感じではなさそうだけどね、君の国の話だ。
直接出向いた方がいいんじゃないかと思ってね」
前田…いや まつ のルートでカジキマグロを釣るために訪れる話があったはず。
「なんでまた…」
意味が分からないという顔を浮かべているが、初めて見たとき俺もなんでやねんと突っ込みを入れた。
「まぁ、頑張ってくれ。きっとチカなら大きな騒ぎにならずにうまくことを収めてくれるって信じてるよ」
実際、あの話は釣りをして料理をふるまってもらって終わりだからな。戦っていうよりお料理番組みたいな展開だもんな。
「お、おう!当然だ、俺に任せておけ!」
気合十分といった様子の長曾我部を見て安心した。
「そんじゃ…しばらく俺は国へ戻るが…和海、本当に一人で大丈夫なのか?」
「大丈夫、ダメな計画立てたらここで怒られるから無理はしないよ」
何故かしょぼんと尻尾を垂らした犬のような状態になりながら長曾我部はザビー城を離れる支度を始めた。
「それで、君はどんな計画を立てるのかな?」
竹中の問いに、俺は胸を張って答えた。