天下統一計画(仮)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
和海の手を掴んだ瞬間、よく似た少女が姿を見せた。
優しい笑顔を浮かべる彼女の首を俺が締めていた―――。
「マジか……」
一瞬で移動した事よりも、和海に似た少女を殺した瞬間を見たことに驚いた。
「うっわー」
和海の声で現実に意識が戻る。
目の前は戦場、農民たちが襲われているところだった。
「どうするチカ、観光って感じじゃないけど」
「ほっとくわけにいかねぇだろう!」
「……だよな」
和海は武器である手袋を装備し、拳を打ち付ける。
戦う気満々だった。
「農民の保護、織田軍の排除。伊達軍とは共闘できればいいな」
「任せろ」
なんとなくだが、和海のそばにいるのが気まずかった。
胸の内に沸く不快感を振り払うように、農民を襲う兵を蹴散らしていった。
どうして西海の鬼が、なんて声も聞こえたがそんなことはどうでもよかった。織田軍との戦いではあるが、相手は明らかに手を抜いている。名のある武将もいるが、本気ではなかったようだ。
適当に暴れて織田は撤退していった。
「大丈夫か、いつき……。よく耐えたな」
「青いお侍さん……さっき紫色になってなかっただ?」
「Ha?何言って……」
独眼竜が俺に気づいた。
「おい、西海の鬼がなんでこんな場所に居やがる。海に帰れ」
野良犬でも追い払う様な素振りを見せられ頭に来た。
「んだと…!だったら竜の宝をよこせ、そしたら帰ってやる!」
「ふざけんな!欲しけりゃ盗ってみな、Bring it on!」
俺が独眼竜と宝の取り合いをしている間も和海は怪我をした農民たちの手当てをしていた。
一瞬、また髪の色が変わるのかと思ったが、いつもと変わらない黒い髪のままだ。手当ても応急処置のようなもので、俺を治した時のような事は起きていない。
……さっき見えた、和海に似た少女は一体誰だったのだろうか。
答えが分からないまま、モヤモヤしていると独眼竜の方が刀を仕舞った。
「上の空じゃねーか。やり合おうってんなら、もう少し気合入れろ」
確かに、他の事が気になって、竜の爪どころではなかった。
「しかし…なんでザビー教の奴がここに居るんだ?」
独眼竜の視線の先は和海だった。
「……Ha!また会えるとは思わなかったぜ!」
和海の顔を確認するや否や、独眼竜は一目散に駆けていった。
どういうことだ?独眼竜は和海と知り合いなのか?
「Hey!今回はザビー教か和海」
意気揚々と独眼竜は声をかけるが、反応はいまいちだった。
「政宗様の知り合いか?」
片倉に問いかけられているが、和海は困っているようだった。
「誰かと勘違いされているのでは?」
愛想笑いを浮かべ何とか話題をそらそうとするが、和海は腕を掴まれて引き寄せ、独眼竜の腕の中に納まった。何故か無性に腹が立った。
「そんな寂しい事言うなよ、知らないふりか、今回は覚えていないのか―――」
「ですから、一体何のことか…」
「独眼竜!まだ決着はついてねぇぞ!」
何が何だか分からないという顔をしている和海を無理やり独眼竜の腕から奪い返した。
こうして抱きしめるのは初めてなのに、何故か懐かしいような気もする。
「勝負はさっき着いただろう。山ほど話したい事がある。和海俺に付いてこい」
独眼竜の目に俺は移っていない。とても懐かしそうに和海の事を見つめていた。それがひどく気に入らなかった。
和海は俺たちに出会う前の事は何も話してくれない。過去に興味がないのか、そういった話題になる事すらない。
「ほら、来い」
独眼竜は和海の手を引いて馬の方へ行こうとする。
「和海をどこへ連れて行く気だ!」
「……どこって、俺の城に決まっているだろう。和海は馬に乗れないんだ、俺のUMAに乗せてやろうと思っただけだ」
「アンタ、馬乗れないのか?」
「まぁ……乗ったことは無いな」
少し考えてたら和海は頷いた。今までどうやって戦場を駆けてきたのか…いや、陰を使って移動できるのなら馬の必要はないな。
それに和海の足は速い。馬に乗るより速いだろう。
「俺の連れだ。俺が乗せていく」
馬を借りて、和海と二人で乗ることになった。
しばらく、会話も思いつかず無言の時間を続いたが、和海が沈黙を破った。
「チカが馬に乗れて助かったよ…」
本当に助かったという様な感じだった。あの時、独眼竜を選ぶつもりがなかったとわかって、ほっとした。
「まさか和海が馬に乗れないとは思わなかったぜ。それで…独眼竜とは知り合いなのか?」
「いや、知り合いじゃないと思う。一方的に知られている感じだな。はは、俺も有名人になったって事かな」
明らかに独眼竜は知り合いという様子だったが、和海は知らないという。
ふと、嫌な想像が脳裏をかすめた。
……俺が見た、和海に似ている少女を殺す夢。あれは夢ではないとしたら―――
「本当に知り合いじゃないんだな……その、夢とかで会ったとか…」
「はは、随分ロマンチック…じゃなくて、情緒的な事言うじゃないか。夢の中で俺と伊達政宗が知り合ったとでも?」
、和海は時々俺の知らない言葉を口にすることがあった。余計に独眼竜と知り合いだったという可能性が濃くなっていく。
「和海は時々独眼竜みたいな言葉遣いをするからな。もしかしてと思ったんだよ」
「そんな訳ない、それに…夢は夢だ。この現実とは別の話だろう。
夢の中じゃ何度も俺は死んでるぞ」
笑っているが、、和海の体は震えていた。細い首を執拗に撫でている。……和海も俺に殺される夢を見たことがあるのだろうか?
「変な事言って悪かったな……。夢は、夢だよな」
夢であってほしい。ただの考えすぎであってほしいと思った。
けれど、独眼中との会話で、和海は何かを思い出したようだ。
その時、和海の瞳は金色に変わっていた。
「前世、アンタはそういったぜ」
それが本当なら、和海は何度死んでこの時代を生きているのか。
二人は二人でしか分からない話を続けていく。
和海はいきなり自分の手を傷つけるし、まったくついていけなかった。
「……なぁ、チカ。どんな夢を、何を見たんだ?
俺はチカに対して特に何も見えていない。けどチカは何か見たんだろ」
思わず、和海の顔を見てしまった。金色の瞳はこちらをすべて見透かすようで、俺は目をそらした。
「俺を殺す所じゃないのか―――」
「違う!あれは和海じゃない。あいつは……」
誰なんだ?必死で否定しようとしているが、和海に見つめられて、忘れていた部分が少しづつ戻ってくる。
毛利軍の兵士、俺と毛利が協力関係を結んだ際に人質という形で俺の軍に参加していた。
かなり毛利に気に入られていて、あいつが誰かを気に入るなんて珍しいと思っていた。
ただ、それは俺が和海に対して興味を持つように仕向ける毛利の作戦でしかなかった。
結局毛利に裏切られ、俺は…この手で―――
バチンと頬を勢いよく和海の手に挟まれて、意識が夢から戻ってくる。
和海の瞳は見慣れた琥珀色の瞳に戻っていた。
「チカ、違うっていうのなら忘れろ、そんなもん覚えていたっていい事なんかねぇんだから。
お前は、俺を見ろ。今の俺を見てろ」
「……そう、だな」
目の前の和海は似ているが違う。
「仮に前世で関係があったとしても、今は関係ない。
俺は俺なんだ、過去の存在と重ねるのは止めろ」
だけど、重ねるのは止められないかもしれない。重ねるつもりはないが…結局今回も同じなんだ。
思い出してしまったから、あの時俺は確かに和海の事が…それは今も同じだった。
やっぱり俺は、アンタの事が好きなようだ。
―――――――
一晩、独眼竜の城で泊まり和海の体力を回復させることで話がまとまった。
ただ眠れなかった。
俺は和海の事が前世とやらでも好きだったように、独眼竜も和海に対して特別な感情を抱いていたんじゃないのか?
それをしっかり覚えているように見える。
「和海……起きてるか?」
「ああ、起きてる。チカ、何か気になる事でもあるのか?」
俺に視線を合わせるように体制を変える。女中が着替えを用意してくれており、俺は初めて和海の着物姿を見た気がする。
ザビー城で看病していた時も、ずっと信者の服を着ていて一切肌を見せるようなことは無かった。
今回着物姿になったが、今まで服で隠れていた部分はすべて包帯で隠されていた。
前世の和海の肌は傷一つない、きれいなものだったのに……何があったんだろうか。
じっとこちらを見つめてくる和海に何か返事をしないとと思い、とっさに夕食時の独眼竜の事を問いかけた。
「独眼竜の様子だ、何かあっただろう」
「織田の残党でもいたんじゃ―――」
そこまで言いかけて、和海は勢いよく立ち上がった。
「チカ、出れるか?政宗がヤバイ」
「どういうことだ」
包帯で肌を隠しているからといっても、いきなり着物を脱がないでくれ。ちょっと驚く。
あっという間に和海は着替えを済ませ、戦闘の準備まで始める。
「多分、政宗が吹き飛ばされて死にかける。俺はその政宗を吹っ飛ばそうとするやつと話をしなきゃなんねーんだ」
「……前世の事は引きずらないんじゃないのか」
……この時代でも和海は元主であった独眼竜が忘れられないのだろうか?
「前世とか生ぬるい話じゃねぇんだ…アイツはヤバイ。松永久秀、あれがいるなら天下取りなんて悠長な事言ってられなくなる」
和海が怯えにも近い表情を見せるのは初めてだった。その松永って男が一体、何をするというのだろうか?
不安を抱えながら、和海とともに、陰に飛び込む。
その男は、すぐに和海に気づいて、何のためらいもなく攻撃を仕掛けた。
一瞬の出来事だ、俺は手を伸ばすが届かない。俺が落ちないように、片倉が俺の腕をつかんでいた。
「離せ!」
「やめろ、お前まで落ちてどうする!」
「うるせぇ!手を放せ!」
次の瞬間、世界が揺れた。俺はどうやら殴られたらしい。
「テメェは少し頭を冷やせ。助けたいんなら、着いてこい!」
独眼竜は川の下流に向かって走っていった。急げば間に合うはずだと。
川の速さがどのくらいかわからない、川までかなりの高さもあった。
落下の時点で死ぬ可能性だってある。いやな想像ばかりが脳裏をかすめる。
「はいはーい、お探しの人は彼女かな?」
「お前は…なんで真田の忍びがここに居るんだ」
ずぶ濡れの和海を抱きかかえた忍びがいた。どうやら独眼竜とは顔見知りのようだ。
「旦那におつかい頼まれてね。あとまぁ野暮用でコッチに向かっていたら誰かが落ちてきたからさ。
びっくりしたよ、なんで南の大将が降ってくるんだってね。
はい、俺様が偶然駆けつけてなきゃもっと下流まで流れてただろうね」
冷たい川の水に体温を奪われ、唇は紫色だ。
「早く手当てをした方がいいよ。いろんなところ怪我してる」
そんなこと言われるまでもない。けど、城に戻るまで和海耐えられるのか?
「……1回、貸って事で」
「その貸しは俺に付けとけ」
「独眼竜の旦那に貸し作っても、いい事無いんだけどなぁ。
はい、鬼の旦那、ちょっと和海ちゃん預かっててくれる?」
忍びは慣れた手つきで火をおこし、人ひとりを寝かせられる場所を確保すると和海の手当てしはじめた。
「緊急事態だから、大目に見てよね。ほら、アンタ達は後ろ向いてなって」
「まさか服を脱がせるのか!」
「そういう事。ほら、覗き見ようなんて思うなよ」
いわれるがまま、後ろを向いているしかできなかった。
それほどかからず、処置が終わったらしい。
「何か着せないとね。鬼の旦那、上着貸して」
服はなく、包帯で全身を覆われた和海はまるで死んでいるようで怖くなった。
また、和海の死を見ることになるようで、不安だった。
「ちゃんと生きてる。ただ、ひどい怪我だからしばらく起きない可能性はある」
「すまねぇ…」
「気にしなくていいって、竜の旦那にしっかりつけておくからさ。あーそうそう、真田の旦那がそろそろ手合わせしたいってぼやいてたよ」
「そいつは最高の誘いだが、生憎今は忙しくてな…」
「残念。いやー残念、まぁ俺様としてはあんたが来ると騒ぎだから、来ない方が助かるよ。それじゃ、仕事の途中だから」
忍びはすっと姿を消した。
優しい笑顔を浮かべる彼女の首を俺が締めていた―――。
「マジか……」
一瞬で移動した事よりも、和海に似た少女を殺した瞬間を見たことに驚いた。
「うっわー」
和海の声で現実に意識が戻る。
目の前は戦場、農民たちが襲われているところだった。
「どうするチカ、観光って感じじゃないけど」
「ほっとくわけにいかねぇだろう!」
「……だよな」
和海は武器である手袋を装備し、拳を打ち付ける。
戦う気満々だった。
「農民の保護、織田軍の排除。伊達軍とは共闘できればいいな」
「任せろ」
なんとなくだが、和海のそばにいるのが気まずかった。
胸の内に沸く不快感を振り払うように、農民を襲う兵を蹴散らしていった。
どうして西海の鬼が、なんて声も聞こえたがそんなことはどうでもよかった。織田軍との戦いではあるが、相手は明らかに手を抜いている。名のある武将もいるが、本気ではなかったようだ。
適当に暴れて織田は撤退していった。
「大丈夫か、いつき……。よく耐えたな」
「青いお侍さん……さっき紫色になってなかっただ?」
「Ha?何言って……」
独眼竜が俺に気づいた。
「おい、西海の鬼がなんでこんな場所に居やがる。海に帰れ」
野良犬でも追い払う様な素振りを見せられ頭に来た。
「んだと…!だったら竜の宝をよこせ、そしたら帰ってやる!」
「ふざけんな!欲しけりゃ盗ってみな、Bring it on!」
俺が独眼竜と宝の取り合いをしている間も和海は怪我をした農民たちの手当てをしていた。
一瞬、また髪の色が変わるのかと思ったが、いつもと変わらない黒い髪のままだ。手当ても応急処置のようなもので、俺を治した時のような事は起きていない。
……さっき見えた、和海に似た少女は一体誰だったのだろうか。
答えが分からないまま、モヤモヤしていると独眼竜の方が刀を仕舞った。
「上の空じゃねーか。やり合おうってんなら、もう少し気合入れろ」
確かに、他の事が気になって、竜の爪どころではなかった。
「しかし…なんでザビー教の奴がここに居るんだ?」
独眼竜の視線の先は和海だった。
「……Ha!また会えるとは思わなかったぜ!」
和海の顔を確認するや否や、独眼竜は一目散に駆けていった。
どういうことだ?独眼竜は和海と知り合いなのか?
「Hey!今回はザビー教か和海」
意気揚々と独眼竜は声をかけるが、反応はいまいちだった。
「政宗様の知り合いか?」
片倉に問いかけられているが、和海は困っているようだった。
「誰かと勘違いされているのでは?」
愛想笑いを浮かべ何とか話題をそらそうとするが、和海は腕を掴まれて引き寄せ、独眼竜の腕の中に納まった。何故か無性に腹が立った。
「そんな寂しい事言うなよ、知らないふりか、今回は覚えていないのか―――」
「ですから、一体何のことか…」
「独眼竜!まだ決着はついてねぇぞ!」
何が何だか分からないという顔をしている和海を無理やり独眼竜の腕から奪い返した。
こうして抱きしめるのは初めてなのに、何故か懐かしいような気もする。
「勝負はさっき着いただろう。山ほど話したい事がある。和海俺に付いてこい」
独眼竜の目に俺は移っていない。とても懐かしそうに和海の事を見つめていた。それがひどく気に入らなかった。
和海は俺たちに出会う前の事は何も話してくれない。過去に興味がないのか、そういった話題になる事すらない。
「ほら、来い」
独眼竜は和海の手を引いて馬の方へ行こうとする。
「和海をどこへ連れて行く気だ!」
「……どこって、俺の城に決まっているだろう。和海は馬に乗れないんだ、俺のUMAに乗せてやろうと思っただけだ」
「アンタ、馬乗れないのか?」
「まぁ……乗ったことは無いな」
少し考えてたら和海は頷いた。今までどうやって戦場を駆けてきたのか…いや、陰を使って移動できるのなら馬の必要はないな。
それに和海の足は速い。馬に乗るより速いだろう。
「俺の連れだ。俺が乗せていく」
馬を借りて、和海と二人で乗ることになった。
しばらく、会話も思いつかず無言の時間を続いたが、和海が沈黙を破った。
「チカが馬に乗れて助かったよ…」
本当に助かったという様な感じだった。あの時、独眼竜を選ぶつもりがなかったとわかって、ほっとした。
「まさか和海が馬に乗れないとは思わなかったぜ。それで…独眼竜とは知り合いなのか?」
「いや、知り合いじゃないと思う。一方的に知られている感じだな。はは、俺も有名人になったって事かな」
明らかに独眼竜は知り合いという様子だったが、和海は知らないという。
ふと、嫌な想像が脳裏をかすめた。
……俺が見た、和海に似ている少女を殺す夢。あれは夢ではないとしたら―――
「本当に知り合いじゃないんだな……その、夢とかで会ったとか…」
「はは、随分ロマンチック…じゃなくて、情緒的な事言うじゃないか。夢の中で俺と伊達政宗が知り合ったとでも?」
、和海は時々俺の知らない言葉を口にすることがあった。余計に独眼竜と知り合いだったという可能性が濃くなっていく。
「和海は時々独眼竜みたいな言葉遣いをするからな。もしかしてと思ったんだよ」
「そんな訳ない、それに…夢は夢だ。この現実とは別の話だろう。
夢の中じゃ何度も俺は死んでるぞ」
笑っているが、、和海の体は震えていた。細い首を執拗に撫でている。……和海も俺に殺される夢を見たことがあるのだろうか?
「変な事言って悪かったな……。夢は、夢だよな」
夢であってほしい。ただの考えすぎであってほしいと思った。
けれど、独眼中との会話で、和海は何かを思い出したようだ。
その時、和海の瞳は金色に変わっていた。
「前世、アンタはそういったぜ」
それが本当なら、和海は何度死んでこの時代を生きているのか。
二人は二人でしか分からない話を続けていく。
和海はいきなり自分の手を傷つけるし、まったくついていけなかった。
「……なぁ、チカ。どんな夢を、何を見たんだ?
俺はチカに対して特に何も見えていない。けどチカは何か見たんだろ」
思わず、和海の顔を見てしまった。金色の瞳はこちらをすべて見透かすようで、俺は目をそらした。
「俺を殺す所じゃないのか―――」
「違う!あれは和海じゃない。あいつは……」
誰なんだ?必死で否定しようとしているが、和海に見つめられて、忘れていた部分が少しづつ戻ってくる。
毛利軍の兵士、俺と毛利が協力関係を結んだ際に人質という形で俺の軍に参加していた。
かなり毛利に気に入られていて、あいつが誰かを気に入るなんて珍しいと思っていた。
ただ、それは俺が和海に対して興味を持つように仕向ける毛利の作戦でしかなかった。
結局毛利に裏切られ、俺は…この手で―――
バチンと頬を勢いよく和海の手に挟まれて、意識が夢から戻ってくる。
和海の瞳は見慣れた琥珀色の瞳に戻っていた。
「チカ、違うっていうのなら忘れろ、そんなもん覚えていたっていい事なんかねぇんだから。
お前は、俺を見ろ。今の俺を見てろ」
「……そう、だな」
目の前の和海は似ているが違う。
「仮に前世で関係があったとしても、今は関係ない。
俺は俺なんだ、過去の存在と重ねるのは止めろ」
だけど、重ねるのは止められないかもしれない。重ねるつもりはないが…結局今回も同じなんだ。
思い出してしまったから、あの時俺は確かに和海の事が…それは今も同じだった。
やっぱり俺は、アンタの事が好きなようだ。
―――――――
一晩、独眼竜の城で泊まり和海の体力を回復させることで話がまとまった。
ただ眠れなかった。
俺は和海の事が前世とやらでも好きだったように、独眼竜も和海に対して特別な感情を抱いていたんじゃないのか?
それをしっかり覚えているように見える。
「和海……起きてるか?」
「ああ、起きてる。チカ、何か気になる事でもあるのか?」
俺に視線を合わせるように体制を変える。女中が着替えを用意してくれており、俺は初めて和海の着物姿を見た気がする。
ザビー城で看病していた時も、ずっと信者の服を着ていて一切肌を見せるようなことは無かった。
今回着物姿になったが、今まで服で隠れていた部分はすべて包帯で隠されていた。
前世の和海の肌は傷一つない、きれいなものだったのに……何があったんだろうか。
じっとこちらを見つめてくる和海に何か返事をしないとと思い、とっさに夕食時の独眼竜の事を問いかけた。
「独眼竜の様子だ、何かあっただろう」
「織田の残党でもいたんじゃ―――」
そこまで言いかけて、和海は勢いよく立ち上がった。
「チカ、出れるか?政宗がヤバイ」
「どういうことだ」
包帯で肌を隠しているからといっても、いきなり着物を脱がないでくれ。ちょっと驚く。
あっという間に和海は着替えを済ませ、戦闘の準備まで始める。
「多分、政宗が吹き飛ばされて死にかける。俺はその政宗を吹っ飛ばそうとするやつと話をしなきゃなんねーんだ」
「……前世の事は引きずらないんじゃないのか」
……この時代でも和海は元主であった独眼竜が忘れられないのだろうか?
「前世とか生ぬるい話じゃねぇんだ…アイツはヤバイ。松永久秀、あれがいるなら天下取りなんて悠長な事言ってられなくなる」
和海が怯えにも近い表情を見せるのは初めてだった。その松永って男が一体、何をするというのだろうか?
不安を抱えながら、和海とともに、陰に飛び込む。
その男は、すぐに和海に気づいて、何のためらいもなく攻撃を仕掛けた。
一瞬の出来事だ、俺は手を伸ばすが届かない。俺が落ちないように、片倉が俺の腕をつかんでいた。
「離せ!」
「やめろ、お前まで落ちてどうする!」
「うるせぇ!手を放せ!」
次の瞬間、世界が揺れた。俺はどうやら殴られたらしい。
「テメェは少し頭を冷やせ。助けたいんなら、着いてこい!」
独眼竜は川の下流に向かって走っていった。急げば間に合うはずだと。
川の速さがどのくらいかわからない、川までかなりの高さもあった。
落下の時点で死ぬ可能性だってある。いやな想像ばかりが脳裏をかすめる。
「はいはーい、お探しの人は彼女かな?」
「お前は…なんで真田の忍びがここに居るんだ」
ずぶ濡れの和海を抱きかかえた忍びがいた。どうやら独眼竜とは顔見知りのようだ。
「旦那におつかい頼まれてね。あとまぁ野暮用でコッチに向かっていたら誰かが落ちてきたからさ。
びっくりしたよ、なんで南の大将が降ってくるんだってね。
はい、俺様が偶然駆けつけてなきゃもっと下流まで流れてただろうね」
冷たい川の水に体温を奪われ、唇は紫色だ。
「早く手当てをした方がいいよ。いろんなところ怪我してる」
そんなこと言われるまでもない。けど、城に戻るまで和海耐えられるのか?
「……1回、貸って事で」
「その貸しは俺に付けとけ」
「独眼竜の旦那に貸し作っても、いい事無いんだけどなぁ。
はい、鬼の旦那、ちょっと和海ちゃん預かっててくれる?」
忍びは慣れた手つきで火をおこし、人ひとりを寝かせられる場所を確保すると和海の手当てしはじめた。
「緊急事態だから、大目に見てよね。ほら、アンタ達は後ろ向いてなって」
「まさか服を脱がせるのか!」
「そういう事。ほら、覗き見ようなんて思うなよ」
いわれるがまま、後ろを向いているしかできなかった。
それほどかからず、処置が終わったらしい。
「何か着せないとね。鬼の旦那、上着貸して」
服はなく、包帯で全身を覆われた和海はまるで死んでいるようで怖くなった。
また、和海の死を見ることになるようで、不安だった。
「ちゃんと生きてる。ただ、ひどい怪我だからしばらく起きない可能性はある」
「すまねぇ…」
「気にしなくていいって、竜の旦那にしっかりつけておくからさ。あーそうそう、真田の旦那がそろそろ手合わせしたいってぼやいてたよ」
「そいつは最高の誘いだが、生憎今は忙しくてな…」
「残念。いやー残念、まぁ俺様としてはあんたが来ると騒ぎだから、来ない方が助かるよ。それじゃ、仕事の途中だから」
忍びはすっと姿を消した。