天下統一計画(仮)
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空は青く、周囲は青い海、そして私は妙なデザインの船の上。
そして誰かが争っているのか、賑やかな声が響いていた。
おかしいな、夢というにはあまりにも鮮明で、太陽の温かさも潮の香りも感じられる。
頬を抓ってみると、痛みも感じる。
異世界転生…するには、まだ死んでいないはず。大体服が私の私服そのまんまだったからだ。転生しているなら、この世界に合った格好をしているはずだ。
何かしらに召喚された…という事なのだろうか?いやいや、そんなゲームや小説でもあるまいし、ありえない選択肢だろう。
それなら、これは明晰夢だと思う方は筋が通る。
この船……どこかで見た事があるからだ。
とりあえず声が集まる方へを足を進める。無数の人々が争い、倒れて消えていく。消えてしまうあたりが現実ではないと告げているようなものだ。
戦う兵たちにもやはり見覚えがある。極めつけは雑兵とは違う大将クラスの人物の姿と声だ。
「…竹中半兵衛、長宗我部元親」
そうだ、見たことがあるはずだ。
彼らはゲームの登場人物だ。戦国武将をモデルに作成されたスタイリッシュアクションゲーム、戦国BASARAの面々だ。
どうしたらいいんだろうか。巻き込まれて死んだら、雑兵のように消えてしまうんだろうか?それで目が覚めるのなら試す価値はある。
別に…死んで悲しむ人がいるわけでもない。
ゲームのエンディングまでたどり着けば目が覚めるだろうか?
命を長らえさせるなら、強い軍に入るべきだろうか。
戦う二人を眺め思考を巡らせる。そして妙案が思いついた。
「豊臣の兵になったらどうだろうか?」
問題は兵力と認められるだけの実力が自分にあるかどうかだ。少しばかり体は鍛えているが、実践に対応できるかどうかは分からなかった。
試してみるしかないだろう。船の上で逃げ場はない。ここで戦が終わった際に、不審者として何も言い訳もできずに処分されるよりはいいはず。
「どうかお目通りを!」
戦っている二人に大きな声をかける。
「ああ?なんだテメェ」
乱入者である私を見て二人は動きが止まる。
「豊臣軍に仕官したく」
「…君のような子供が?面白い冗談だね」
非常に不機嫌な長宗我部とあきれて鼻で笑う竹中にこちらも苦笑いを浮かべるしかなかった。
私だってこんな奴が急に現れたら同じような顔をしそうだ。
「どうか一度機会を。私が彼を打ち倒すことができれば考えてはいただけないでしょうか?」
「鬼を舐めてんのか?」
彼が怒るのもご尤もだ。彼よりも小さく華奢な子供が出てきて、いきなり倒すなんて言われればそういう反応にもなるだろう。
「舐めてはいません。貴方ほどの方と戦える機会は今を逃せばもう二度とないかもしれません」
恭しく頭を下げ、どうか私に機会をと情に訴えてみる。
「ちょっと待ってろ、このよくわかんねぇガキの相手が済んだらテメェの番だからな!」
そういってため息をつきながらも長宗我部は私と戦う気になってくれた。竹中は高みの見物とでもいうように武器を下げて数歩後ろに下がった。
「そもそもテメェは得物を持っていねぇじゃねぇか」
「この体が武器ですので、お気になさらず。いきますよ」
一気に距離を詰めるために駆け出す。長宗我部の持つ錨をかわし、懐へ飛び込み拳を腹部へ叩き込む。バランスを崩して前のめりになったところを下から顎を思い切り蹴り上げた。思い切り脳を揺さぶられ、彼はその場に倒れこんだ。
「…さて、どうでしょうか?」
「止めは刺さないのかい?」
「生きていれば、使える兵になると思います」
…というより、できれば殺しはしたくない。
「そうだね、確かに君は強い。けれど信用には値しない」
「そうですか……それは残念です」
長宗我部が手放した錨を拾い上げて竹中へ向けて構える。
「交渉決裂、豊臣軍の兵になることは諦めます。代わりに私が大将になります」
「それがどういう意味か分かっているのかい」
竹中も武器を構える。丁寧なふるまいはもう、必要ないだろう。
「ああ、アンタをぶっ飛ばして豊臣もぶっ飛ばすって事さ!」
「猫をかぶっていたのかい?やはりね、君はどこか信用できない感じがしていたんだよ」
流石に竹中の武器と素手でやり合うのは怖かった。長宗我部の武器で長く撓る竹中の刀をからめとり、力任せに引っ張る。
バランスを崩して倒れそうになった竹中だが、さすがに自身の刀の扱いに長けている竹中は鞭のように撓らせ、絡まった刀をほどいてすぐに反撃に移ってくる。
「豊臣軍へ入ってどうするつもりだったんだい?味方のふりをして秀吉を狙うつもりだったのかな」
「いいや、そんなつもりはない。ただ豊臣に天下を取ってほしいと思っていただけだ」
政治とか難しい事は私にはわからない。駆け引きもできない。今みたいにすぐにぼろが出る。
「それならおとなしく、ここで倒れるといい」
「それじゃ楽しくないだろう」
知らなかった。命を懸けた戦いがこれほどまでも気持ちを高揚させることを。
楽しくて、戦うこと以外の事がすべてどうでもよくなる。
「俺はもっと戦いたいんだよ!」
錨を竹中に向けて投げつける。いなし切れないと察して身を翻した彼の背後に回り首を締め上げる。
「そのためには、豊臣軍って肩書が欲しいんだよ。俺じゃ誰にも相手にされないから…安心してよ。殺す気はないよ、軍師様がいないと困るからね」
気を失った竹中をなるべくきれいな地面に寝かせて、豊臣のいるであろうこのステージの最終面へ向かう。
「お前は…どこから現れた」
腕を組み、こちらを睨みつける豊臣秀吉。
サイズがおかしい、ゲームでも思ったけど大きいな…。
「さぁ?俺もよく分かんねぇ。それで……一つお話があります」
「それがお前の遺言か?」
「もうせっかちだな。先ほど竹中軍師には断られたんだけど、俺を雇う気はない?悪いようにはしないよ」
「はっ、半兵衛に断られたという事はお前は我が軍には不要という事よ」
「……やっぱりダメか。それじゃあ仕方がない。俺がアンタを倒して豊臣軍をもらい受けよう」
「はっ、何を馬鹿なことを。お前のような餓鬼がこの天下を取ろうとでもいうのか!」
大気を揺らす豊臣の覇気に怯えるどころか、俺の体は闘争心に満ち溢れていく。
「やってみなきゃわかんねーだろう!手始めにアンタを倒して、俺の配下にする。負けたら従ってもらうからな」
「世迷いごとを!」
「ははっ、世迷いごとかどうか。いっちょやってみましょうや!」
突き出された豊臣の拳を自身の拳で受け止める。
こちらは籠手の一つもつけていない。身を守れるようなものは何一つない以上、攻めるしかない。
攻撃こそが最大の防御とはよく言ったものだ。守っているだけではこちらは消耗するだけだ。
とはいえ、打撃に打撃で応戦していても削られるのは俺の方だ。殴打の隙をついて飛び上がり豊臣の首に足を絡めてそのまま、自身の上半身をひねった勢いで地面に倒し、首を絞めつける。
「ぐはっ…」
「ははは…これは俺の勝ちかな」
息も絶え絶えになった豊臣から技を解いた。
「対人では有効でも戦向きではないな」
負けを認めたのか、反撃をしてくる様子はない。
「今日は得物持ってないからね…次に戦場に出るときは何か用意しておくよ」
「そうか……お前はどうして天下を狙う」
「どうして……か。
早いところ戦を終わらせて太平の世を迎えたいっていうのが建前で」
「……建前」
「この国の強い奴らと戦いたい。豊臣軍ならいろいろな国と戦うことになるだろうから、ここに居るのが一番いいと思ったんだよ。
だから、俺はアンタたちを利用しようと思ったんだ。アンタ達は俺を利用してよ。片っ端から俺が国を取ってくるからさ」
横たわる豊臣に手を差し伸べる。
「よかろう。ならば我とお前は今日より同盟軍だ」
「あー…そのことなんだけど、軍っていうか兵とか俺持ってないんだよね。俺単体しかいないんだ……やっぱり領地とか兵持ってた方がいいよな?」
「単身でこの場に乗り込んできたというのか…なんと命知らずな」
自分でも笑ってしまう。普通どこにも逃げ場がない、船上での戦になんか乗り込んでいくなんてありえないだろう。
「そう、俺は無鉄砲なわけ。うまく使ってくれよ」
俺の手を取り、豊臣と同盟という形で天下統一をいったん目指すことになった。
「半兵衛はどうしている」
「気絶させた。下で寝ていると思う」
「そうか……ところで名は何という」
「和海だ、よろしく」
「和海か…。身を粉にして働いてもらうぞ」
「ほどほどに頑張りますよ」
俺は笑いながら気絶した二人を迎えに行った。
まだ竹中は気を失っているが、長宗我部は意識を取り戻して周りを見回している。
あ……武器を投げたとき竹中がよけちゃったから海に沈んだんだった……
「あー…どうも?」
「お前は!おい、俺の武器どこに行ったか知らないか?」
「その…不幸な事故がありまして海に落ちてしまいました」
「なんだと!」
「まぁ落ち着けって。というか、仮に武器があったとしても渡すことはできない。アンタは俺に負けた。今は捕虜なんだ」
「捕虜だと!」
胸倉をつかまれ宙に浮く。豊臣も大きいけど、長宗我部も背が高い方だよなと意識を明後日の方向にもっていく。
いけない、現実逃避をしている場合ではない。
「このまま大人しく捕まるか、俺の配下となるか、海に沈むのとどれがいい?俺としては部下募集中だから配下になってくれると嬉しいんだけど」
「なんだ、俺を倒して晴れて豊臣軍に入ったってわけか」
「豊臣とは同盟だよ。入れてもらえなかったんだ。だから俺の下に着いたからって、豊臣の兵になる訳じゃないから安心してよ。気に入らなきゃ俺の寝首をかけばいいだけだから、簡単だよ」
長宗我部は俺から手を離した。
「…俺の部下はどうした」
「戦が終えた時点で生き残った人たちは全員捕虜となっている。俺の部下になるなら全員解放するよ」
「…俺に選択肢なんてねぇだろうが……」
「仲間思いなんだね、素敵な人を部下に迎えられて俺は満足だよ。それじゃあこれから宜しく」
手を差し出したが叩き落とされた。仲良くするのは難しそうだ。
その後、俺は豊臣の船に乗せてもらい南を目指すことになった。
一応部下である長宗我部も一緒に南を目指し、ザビ―城攻略を命じられた。
「君も一応は豊臣との同盟軍なんだから、城の一つも構えてもらわないと困るからね」
と竹中に言われたからだ。
本来は竹中と豊臣がザビー城を制圧予定だったが、俺の城にするために俺が戦に出ることになった。ザビー城を足掛かりに島津、毛利も手中に収める予定らしい。
ザビー……か、首を絞めるにも首太くて難しい。本格的に得物をどうするか考えないといけないな。
「それにしても自分の城か……手に入ったら嬉しいな」
「なぁ……アンタはなんでここに居るんだ。一人で天下を目指せるんじゃねえのか?」
甲板で黄昏ていると、声をかけてきたのは長宗我部だった。
「一人きりで天下を取ってどうするんだよ。俺以外誰もいないなんて……それこそどこのぞ魔王のような独裁者になっちまうよ。
正確にはいろんな奴と戦いたい、天下を取るっていうのはおまけみたいなもんなんだよ。そんなおまけ感覚の奴に天下取られたら死んでいった奴らは報われないだろう?
だから表向きは豊臣軍が天下を取るって形にしたいんだ」
「……天下を取ったら、アンタはどこに行くんだ?ずっと豊臣と戦いを共にすんのかよ」
いつの間にか俺の隣に立って、同じように海を眺めていた。
いい男だよな、長宗我部って。体格もそうだが顔もいい。兄貴として慕われているところも、結構好きだったりする。
「さぁ…天下の先は考えていないな。そういえばチカはどうして海の上で豊臣とやり合っていたんだ?」
「いきなり馴れ馴れしいな…。俺は大海原へ旅立とうとしていきなり豊臣軍と遭遇しちまったんだよ」
「運悪いね」
「うるせえ…さらにわけわかんねぇガキに負けて部下になれとか…ほとほとついてねぇよ」
「本当だな、まぁそのうち良いことあるさ」
俺は笑っていたけど、長宗我部の表情は暗い。どこか悲しそうな顔で俺を見ていた。こんな奴の部下になってしまったと本当に悲しんだろうな。
「あ、そうだ。武器…本当に悪かった。まさか海に落とすことになるとは思わなかったんだよ。ザビー城を手に入れたら、その資金で武器買って返すから」
「別に予備があるから問題ねぇよ。それよか、アンタの得物は何なんだ」
「特にこれといったものがある訳じゃないんだ。なんだって使えるから。でも…そうだな手になじむのは釵 なんだけど、集団相手の武器じゃないんだよな。まぁなんか丈夫な棒でも持っていく予定だ」
「戦を舐めてんのか?」
ひどい顔で睨まれた。
「違う、っていっても信じられないか。まぁ次の戦は俺一人で出るから結果を楽しみにしててくれよ」
「……いいや、俺もついていく。俺がアンタに負けたってのまだ信じられねぇよ。アンタの実力、見させてもらうぜ」
「どうぞご自由に。……所で雑談するために出てきたのか?」
「いや、竹中がアンタを呼んでるぜ」
「おい!そういうことは早く言ってくれよ!それと、アンタじゃなくて和海だから。覚えておけよ」
俺は急いで竹中のいる場所に向かった。
急いだけど、それ前にゆっくり長宗我部と会話をしていたせいで到着時間は遅かったため、非常に竹中は不機嫌だった。
「秀吉が同盟を認めたから仕方がないけど、僕はいまだに君を認めてはいないから」
「分かってますよーっと。それより、何の話だ。問題でも起きたのか?」
「いや、朗報だよ。ザビー城に島津と毛利が現在滞在しているようだ。一網打尽にできるんじゃないかな」
「……え」
その状態、記憶に残っている。
二人はすでにザビー教の信者になっているという事だ。
「どうしたんだい、まさか怖気づいたとか…?どうしても無理だというのなら僕と秀吉が出るよ」
「怖気づいたわけじゃないし、ぜひとも俺が戦に出たいと思っただけだよ。いやホントよ?ちょっと笑いを堪えていただけだから」
つまり、俺はサンデー毛利に会えるのだ。初めて見たとき腹筋が死んだ。今回は耐えられるだろうか……。
「所で、部下とはうまくやって行けそうかい?」
「まぁ、ぼちぼち。何とかやっていくつもりだよ……出会い方が悪かったからものすごく嫌われているんだよな」
「僕はどんな出会い方でも君と仲良くなれる気がしないよ」
ズバッと冷たい声で切り捨てられてしまった。
「手厳しい」
「始めは物腰が柔らかいかとおもったけど、随分と口調が荒くなって。そちらが本性かな」
「本性でもあるし、舐められないように?ほら、俺ってば迫力無いからせめて口調だけでもね?」
身長は低く、どちらかといえば童顔だといわれる。
それに鍛えているとはいえ、武将に比べれば細い。
なにより女ともなれば、相手から舐められる可能性が高い。
「確かに君のような男の子がポンと戦場に現れても、だれも武将とは思わないだろうね」
「つまり奇襲向け?」
「相手の動揺を誘う事はできそうだね」
「いいね、いいね!驚かせるのは好きだよ」
そのあともしばらく竹中と戦場での行動について議論をした。意外と話が合い、楽しい時間だったけど、竹中がむせ込んだため、おしゃべりは終わりを迎えた。
……やっぱり竹中の未来はそれほど長くないのだろうか。
ゲームで見ている分にはまだ平気だったけど、目の前で血を吐かれるとやはり心配になるし、不安になる。
とはいえ、俺が何かできるわけでもない。
俺にできるのは戦に勝つことだけだ。……あれ?そういえばさっき竹中は俺の事を「男の子」って言ってた?
男子に見えるって事だろうか?それはそれでありがたいな。
翌日、船は予定していた港にたどり着いた。
「はぁー…すっごい城だ」
目の前にはザビー城。ここを落とせば俺の城となるんだが……
「趣味悪いな」
部下からは不評です。
「珍しくていいと思うんだけどな。それに、日当たりはいいし、畑づくりに向いてそうな気がする」
「なんだ、農民を目指すのか」
「天下統一後の楽しみ的な?まぁ食料を自給自足できるのはいいことだよ。城内の敷地に畑を作れたら兵糧攻めの心配とかなさそうだし」
「そうか?」
俺の話を胡散臭そうに聞きながら、後ろからついてくる。
「しかし、こんな場所に毛利の野郎がいるってのは本当なのか?」
「竹中の情報だからあっていると思うけど……どうする?チカが相手したいなら譲るけど」
「まぁ…本当にいるっていうなら俺が相手してやってもいい」
まだまだ壁はあるけれど、一応俺の味方してはくれるようで安心した。
「それじゃあ、ザビー城攻略と行こうか!」
城門の閂に使われている金属の支柱を引き抜く。
「おい、まさかそれが得物だなんて言うんじゃねーだろうな?」
「そのまさかだよ。さあ、行くぞ。遅いと置いていくからな」
俺は置いていくつもりで走り出した。
思った以上に、雑兵が弱い。刃のない支柱を選んだというのに一撃当たれば消えてしまう。雑兵は消える宿命なのか……。
「おい!ちょっと待て!!」
息も絶え絶えに走ってきた長宗我部。俺が雑兵は倒し切ってしまったから走ってくるだけのはずでそれほど疲れることはないはずなのに何故?
「どんだけ足が速いんだよ!」
……そういえば、この世界に来てから今までと自分の体が違う気がする。
今まで以上に力の加減ができていないんだろうか?
「チカを置き去りにするつもりで走っていたからね。追いつけなくて当然だ。それより……扉を開けるぞ。覚悟しておけよ」
「なんだよ急に…ああ油断はしねぇよ」
この先に誰がいるのか、俺は知っている。
耐えろ、俺の腹筋。
扉の先にいたのは、ザビーの肖像画に祈りをささげる緑の男。
「来たな…我が名は日輪の申し子、サンデー毛利!!」
俺は耐えきれず膝をついて崩れ落ちた。
「本当に居やがった…おい、どうした和海」
「ダメだ……俺はもうだめだ…笑いが堪えられない。日輪の申し子じゃな無くて日曜日の申し子じゃん、無理…しんどい」
ひーひー言いながら笑っていると、すごくかわいそうな子を見るような目で見てくる長宗我部といたって真面目な顔で俺を見ているサンデー毛利。
「はぁ、はぁ…ここはチカに任せた。俺は戦えそうにない」
「……アンタ、笑いの沸点低いんだな」
「行かせぬぞ、我が貴様を止めて見せよう」
毛利が俺に武器を向けるが、それを長宗我部が振り払った。
「テメェの相手はこの俺だ。この長宗我部元親様が遊んでやるよ」
「……よかろう、いずれ貴様とも決着をつけねばならぬと思っていた所よ」
長宗我部、いやアニキ。やっぱりなんだかんだいい人だ。
俺は二人を置いて先に向かった。
この先にいるのは島津義弘。
鉄製の支柱を選んだのもこのためだ。彼の大剣をその辺の木の棒で受け止め切れるとは思えない。
肖像画の前で島津は祈りを捧げていた。
「なんじゃ坊主。入信希望者か?」
「いえ、この城をいただきに。俺の拠点にしたいと思っているんだ」
「そりゃ思い切ったことを…それならおいを倒さんと無理だがの」
「そうですよねー」
武器を構える。
「その、一つ提案なんですけど……この城を陥落することが出来たら俺についてきてくれないでしょうか。今後徳川…いや本田忠一と戦うことにもなると思うから。
島津さん、ぜひともに戦ってほしい」
「おいを倒せたらその話、のってもええ」
島津の目が楽しそうに輝いた。
「ありがとう。絶対負けないから」
あまり力のない俺は速さで勝負をするしかない―――
と思っていたのに、島津の剣戟に耐えていた。
打ち付けられる衝撃で多少腕が痺れはしたが、耐えきれない程ではない。けれどさすがに究極バサラを放たれた際にはしのぎ切れなかった。
「がはっ!!げほげほ…」
「こんだけ打ち込んで、一撃しか与えられんとはおいも老いたのう」
……負けた雑兵は消えていくだけだったが、俺はどうやらけがをするらしい。今の一撃で肋骨付近に痛みを感じる。それに口の中には血の味が広がる。肺…傷ついていないといいけど。はは…懐かしいな。ああ痛いはずなのに、それ以上にテンションが上がる。
口の中の血を吐き捨てて、もう一度島津と対峙する。
「やられっぱなしってのは好きじゃないんだ」
「ぬぅ、さらに速度が増したじゃと?」
倍返しと言わんばかりに棒術を叩き込んでいく。速さについていけず、俺の攻撃をいなし切れなくなった島津はやっと俺の攻撃をまともに受けてくれた。
「…流石じゃな……げほっ」
「大丈夫ですか?すいません、でも貴方相手に手加減なんてできるわけもなく」
「わかっちょる。それこそ手加減なんてしたらおいはお前さんについてなど行かんわ」
にかっと笑って俺を安心させようとしてくれているのがよくわかる。
「お前さんの怪我もひどいと思うぞ」
「あー…俺は慣れているんで。このくらい大したことないんで」
昔はこんな怪我日常茶飯事だった。
「それじゃあ、城陥落させますか」
ひとり呟いて、俺は先を目指した。長宗我部が毛利を殺さない内に戦いを終わらせないと……。
ザビー城にはお宝が多い。けど今はそちらを気にしている時間はない。それに俺が勝てばお宝は自動的に俺のものだ。
お宝を手にするためにザビーの元へひた走った。城内マップ覚えていてよかった。
ザビーとの闘い。
それはなかなかに苦戦を強いられた。
メカザビーがなかなかに邪魔な存在で、ザビー本体になかなか近づけない。
「無駄ナ抵抗ハ辞メテ、ザビー教へ入リマショウ!入信者募集中!」
「いやー、俺の配下になってくれるとありがたいんだけどなー」
信者という部下たち、兵力になる存在が欲しい。
教祖という立場の人間がいるのは本当に都合がいいんだが、向こうは完全に俺を殺す気なので仲間への勧誘は難しそうだった。
「残念だ……」
「諦タンデスネー。デハ―――」
こちらに止めを刺そうと一斉に攻撃を仕掛けてくるザビー&メカザビーに対し、俺は支柱の端をもって大きく振りかぶった。
「和海」
長宗我部が俺の名を呼んだ時、フルスイングで吹き飛ばされたメカザビーの爆発に巻き込まれザビーも昇天するところだった。
いいネタキャラだったのに。惜しいキャラを無くした……。
「よし、城は手に入れた。チカ、毛利はどうなった?」
「ああ?一応は生きてるよ。それよかアンタ、島津まで倒したのか」
傷だらけで長宗我部は結構ダメージを貰ったようだ。
「もちろん、じゃなきゃここまで来れないから。どう?一応俺がそれなりに戦えるって納得してもらえた」
にっこり笑って俺って戦えるんだとアピールしたが、すごい勢いで目をそらされた。
俺、やっぱり笑顔作るの下手なんだな……。よく目をそらされるもんな……。
「…はぁ。とにかくここは俺の拠点だ!
あれ?ってことは俺は南の大将ってことになるのか?」
はてなを浮かべていると、拍手をしながら竹中と豊臣が現れた。
「想像以上に早く城を攻略できたようで驚いたよ。おめでとう和海」
「我が同盟軍としても鼻が高い」
「やったー!褒められた!」
「ふふ、この程度で喜んでくれるとは。君は本当に単純なんだね」
「だって褒めてもらう事って殆どないから…さ」
ははっ…と乾いた笑いがこぼれてしまった。
いけない、せっかくの祝賀モードだ。気持ちを切り替えていこう。
「南は制圧、次はどこへ行く予定なんだ」
「その前に、君は少し休むべきだ」
つんと赤いしみができている胸部を触られ、痛みで悶絶した。
ザビーと戦っているときは何とも感じなかったのに、戦いが終わって痛覚が戻ってきてしまったらしい。
「くっそ……痛い」
「こんなに早く南を陥落させることができるとは周りも思っていないだろうからね。少し君が休むくらいの時間はあるよ」
なんだろう…作戦会議の後からちょっとだけ竹中が優しくなった気がする。多分気のせいだろうけど……。
こうして俺はザビー城と周辺諸国を手中に収めることになり、南の大将としてこの後名を轟かせていく事となる
そして誰かが争っているのか、賑やかな声が響いていた。
おかしいな、夢というにはあまりにも鮮明で、太陽の温かさも潮の香りも感じられる。
頬を抓ってみると、痛みも感じる。
異世界転生…するには、まだ死んでいないはず。大体服が私の私服そのまんまだったからだ。転生しているなら、この世界に合った格好をしているはずだ。
何かしらに召喚された…という事なのだろうか?いやいや、そんなゲームや小説でもあるまいし、ありえない選択肢だろう。
それなら、これは明晰夢だと思う方は筋が通る。
この船……どこかで見た事があるからだ。
とりあえず声が集まる方へを足を進める。無数の人々が争い、倒れて消えていく。消えてしまうあたりが現実ではないと告げているようなものだ。
戦う兵たちにもやはり見覚えがある。極めつけは雑兵とは違う大将クラスの人物の姿と声だ。
「…竹中半兵衛、長宗我部元親」
そうだ、見たことがあるはずだ。
彼らはゲームの登場人物だ。戦国武将をモデルに作成されたスタイリッシュアクションゲーム、戦国BASARAの面々だ。
どうしたらいいんだろうか。巻き込まれて死んだら、雑兵のように消えてしまうんだろうか?それで目が覚めるのなら試す価値はある。
別に…死んで悲しむ人がいるわけでもない。
ゲームのエンディングまでたどり着けば目が覚めるだろうか?
命を長らえさせるなら、強い軍に入るべきだろうか。
戦う二人を眺め思考を巡らせる。そして妙案が思いついた。
「豊臣の兵になったらどうだろうか?」
問題は兵力と認められるだけの実力が自分にあるかどうかだ。少しばかり体は鍛えているが、実践に対応できるかどうかは分からなかった。
試してみるしかないだろう。船の上で逃げ場はない。ここで戦が終わった際に、不審者として何も言い訳もできずに処分されるよりはいいはず。
「どうかお目通りを!」
戦っている二人に大きな声をかける。
「ああ?なんだテメェ」
乱入者である私を見て二人は動きが止まる。
「豊臣軍に仕官したく」
「…君のような子供が?面白い冗談だね」
非常に不機嫌な長宗我部とあきれて鼻で笑う竹中にこちらも苦笑いを浮かべるしかなかった。
私だってこんな奴が急に現れたら同じような顔をしそうだ。
「どうか一度機会を。私が彼を打ち倒すことができれば考えてはいただけないでしょうか?」
「鬼を舐めてんのか?」
彼が怒るのもご尤もだ。彼よりも小さく華奢な子供が出てきて、いきなり倒すなんて言われればそういう反応にもなるだろう。
「舐めてはいません。貴方ほどの方と戦える機会は今を逃せばもう二度とないかもしれません」
恭しく頭を下げ、どうか私に機会をと情に訴えてみる。
「ちょっと待ってろ、このよくわかんねぇガキの相手が済んだらテメェの番だからな!」
そういってため息をつきながらも長宗我部は私と戦う気になってくれた。竹中は高みの見物とでもいうように武器を下げて数歩後ろに下がった。
「そもそもテメェは得物を持っていねぇじゃねぇか」
「この体が武器ですので、お気になさらず。いきますよ」
一気に距離を詰めるために駆け出す。長宗我部の持つ錨をかわし、懐へ飛び込み拳を腹部へ叩き込む。バランスを崩して前のめりになったところを下から顎を思い切り蹴り上げた。思い切り脳を揺さぶられ、彼はその場に倒れこんだ。
「…さて、どうでしょうか?」
「止めは刺さないのかい?」
「生きていれば、使える兵になると思います」
…というより、できれば殺しはしたくない。
「そうだね、確かに君は強い。けれど信用には値しない」
「そうですか……それは残念です」
長宗我部が手放した錨を拾い上げて竹中へ向けて構える。
「交渉決裂、豊臣軍の兵になることは諦めます。代わりに私が大将になります」
「それがどういう意味か分かっているのかい」
竹中も武器を構える。丁寧なふるまいはもう、必要ないだろう。
「ああ、アンタをぶっ飛ばして豊臣もぶっ飛ばすって事さ!」
「猫をかぶっていたのかい?やはりね、君はどこか信用できない感じがしていたんだよ」
流石に竹中の武器と素手でやり合うのは怖かった。長宗我部の武器で長く撓る竹中の刀をからめとり、力任せに引っ張る。
バランスを崩して倒れそうになった竹中だが、さすがに自身の刀の扱いに長けている竹中は鞭のように撓らせ、絡まった刀をほどいてすぐに反撃に移ってくる。
「豊臣軍へ入ってどうするつもりだったんだい?味方のふりをして秀吉を狙うつもりだったのかな」
「いいや、そんなつもりはない。ただ豊臣に天下を取ってほしいと思っていただけだ」
政治とか難しい事は私にはわからない。駆け引きもできない。今みたいにすぐにぼろが出る。
「それならおとなしく、ここで倒れるといい」
「それじゃ楽しくないだろう」
知らなかった。命を懸けた戦いがこれほどまでも気持ちを高揚させることを。
楽しくて、戦うこと以外の事がすべてどうでもよくなる。
「俺はもっと戦いたいんだよ!」
錨を竹中に向けて投げつける。いなし切れないと察して身を翻した彼の背後に回り首を締め上げる。
「そのためには、豊臣軍って肩書が欲しいんだよ。俺じゃ誰にも相手にされないから…安心してよ。殺す気はないよ、軍師様がいないと困るからね」
気を失った竹中をなるべくきれいな地面に寝かせて、豊臣のいるであろうこのステージの最終面へ向かう。
「お前は…どこから現れた」
腕を組み、こちらを睨みつける豊臣秀吉。
サイズがおかしい、ゲームでも思ったけど大きいな…。
「さぁ?俺もよく分かんねぇ。それで……一つお話があります」
「それがお前の遺言か?」
「もうせっかちだな。先ほど竹中軍師には断られたんだけど、俺を雇う気はない?悪いようにはしないよ」
「はっ、半兵衛に断られたという事はお前は我が軍には不要という事よ」
「……やっぱりダメか。それじゃあ仕方がない。俺がアンタを倒して豊臣軍をもらい受けよう」
「はっ、何を馬鹿なことを。お前のような餓鬼がこの天下を取ろうとでもいうのか!」
大気を揺らす豊臣の覇気に怯えるどころか、俺の体は闘争心に満ち溢れていく。
「やってみなきゃわかんねーだろう!手始めにアンタを倒して、俺の配下にする。負けたら従ってもらうからな」
「世迷いごとを!」
「ははっ、世迷いごとかどうか。いっちょやってみましょうや!」
突き出された豊臣の拳を自身の拳で受け止める。
こちらは籠手の一つもつけていない。身を守れるようなものは何一つない以上、攻めるしかない。
攻撃こそが最大の防御とはよく言ったものだ。守っているだけではこちらは消耗するだけだ。
とはいえ、打撃に打撃で応戦していても削られるのは俺の方だ。殴打の隙をついて飛び上がり豊臣の首に足を絡めてそのまま、自身の上半身をひねった勢いで地面に倒し、首を絞めつける。
「ぐはっ…」
「ははは…これは俺の勝ちかな」
息も絶え絶えになった豊臣から技を解いた。
「対人では有効でも戦向きではないな」
負けを認めたのか、反撃をしてくる様子はない。
「今日は得物持ってないからね…次に戦場に出るときは何か用意しておくよ」
「そうか……お前はどうして天下を狙う」
「どうして……か。
早いところ戦を終わらせて太平の世を迎えたいっていうのが建前で」
「……建前」
「この国の強い奴らと戦いたい。豊臣軍ならいろいろな国と戦うことになるだろうから、ここに居るのが一番いいと思ったんだよ。
だから、俺はアンタたちを利用しようと思ったんだ。アンタ達は俺を利用してよ。片っ端から俺が国を取ってくるからさ」
横たわる豊臣に手を差し伸べる。
「よかろう。ならば我とお前は今日より同盟軍だ」
「あー…そのことなんだけど、軍っていうか兵とか俺持ってないんだよね。俺単体しかいないんだ……やっぱり領地とか兵持ってた方がいいよな?」
「単身でこの場に乗り込んできたというのか…なんと命知らずな」
自分でも笑ってしまう。普通どこにも逃げ場がない、船上での戦になんか乗り込んでいくなんてありえないだろう。
「そう、俺は無鉄砲なわけ。うまく使ってくれよ」
俺の手を取り、豊臣と同盟という形で天下統一をいったん目指すことになった。
「半兵衛はどうしている」
「気絶させた。下で寝ていると思う」
「そうか……ところで名は何という」
「和海だ、よろしく」
「和海か…。身を粉にして働いてもらうぞ」
「ほどほどに頑張りますよ」
俺は笑いながら気絶した二人を迎えに行った。
まだ竹中は気を失っているが、長宗我部は意識を取り戻して周りを見回している。
あ……武器を投げたとき竹中がよけちゃったから海に沈んだんだった……
「あー…どうも?」
「お前は!おい、俺の武器どこに行ったか知らないか?」
「その…不幸な事故がありまして海に落ちてしまいました」
「なんだと!」
「まぁ落ち着けって。というか、仮に武器があったとしても渡すことはできない。アンタは俺に負けた。今は捕虜なんだ」
「捕虜だと!」
胸倉をつかまれ宙に浮く。豊臣も大きいけど、長宗我部も背が高い方だよなと意識を明後日の方向にもっていく。
いけない、現実逃避をしている場合ではない。
「このまま大人しく捕まるか、俺の配下となるか、海に沈むのとどれがいい?俺としては部下募集中だから配下になってくれると嬉しいんだけど」
「なんだ、俺を倒して晴れて豊臣軍に入ったってわけか」
「豊臣とは同盟だよ。入れてもらえなかったんだ。だから俺の下に着いたからって、豊臣の兵になる訳じゃないから安心してよ。気に入らなきゃ俺の寝首をかけばいいだけだから、簡単だよ」
長宗我部は俺から手を離した。
「…俺の部下はどうした」
「戦が終えた時点で生き残った人たちは全員捕虜となっている。俺の部下になるなら全員解放するよ」
「…俺に選択肢なんてねぇだろうが……」
「仲間思いなんだね、素敵な人を部下に迎えられて俺は満足だよ。それじゃあこれから宜しく」
手を差し出したが叩き落とされた。仲良くするのは難しそうだ。
その後、俺は豊臣の船に乗せてもらい南を目指すことになった。
一応部下である長宗我部も一緒に南を目指し、ザビ―城攻略を命じられた。
「君も一応は豊臣との同盟軍なんだから、城の一つも構えてもらわないと困るからね」
と竹中に言われたからだ。
本来は竹中と豊臣がザビー城を制圧予定だったが、俺の城にするために俺が戦に出ることになった。ザビー城を足掛かりに島津、毛利も手中に収める予定らしい。
ザビー……か、首を絞めるにも首太くて難しい。本格的に得物をどうするか考えないといけないな。
「それにしても自分の城か……手に入ったら嬉しいな」
「なぁ……アンタはなんでここに居るんだ。一人で天下を目指せるんじゃねえのか?」
甲板で黄昏ていると、声をかけてきたのは長宗我部だった。
「一人きりで天下を取ってどうするんだよ。俺以外誰もいないなんて……それこそどこのぞ魔王のような独裁者になっちまうよ。
正確にはいろんな奴と戦いたい、天下を取るっていうのはおまけみたいなもんなんだよ。そんなおまけ感覚の奴に天下取られたら死んでいった奴らは報われないだろう?
だから表向きは豊臣軍が天下を取るって形にしたいんだ」
「……天下を取ったら、アンタはどこに行くんだ?ずっと豊臣と戦いを共にすんのかよ」
いつの間にか俺の隣に立って、同じように海を眺めていた。
いい男だよな、長宗我部って。体格もそうだが顔もいい。兄貴として慕われているところも、結構好きだったりする。
「さぁ…天下の先は考えていないな。そういえばチカはどうして海の上で豊臣とやり合っていたんだ?」
「いきなり馴れ馴れしいな…。俺は大海原へ旅立とうとしていきなり豊臣軍と遭遇しちまったんだよ」
「運悪いね」
「うるせえ…さらにわけわかんねぇガキに負けて部下になれとか…ほとほとついてねぇよ」
「本当だな、まぁそのうち良いことあるさ」
俺は笑っていたけど、長宗我部の表情は暗い。どこか悲しそうな顔で俺を見ていた。こんな奴の部下になってしまったと本当に悲しんだろうな。
「あ、そうだ。武器…本当に悪かった。まさか海に落とすことになるとは思わなかったんだよ。ザビー城を手に入れたら、その資金で武器買って返すから」
「別に予備があるから問題ねぇよ。それよか、アンタの得物は何なんだ」
「特にこれといったものがある訳じゃないんだ。なんだって使えるから。でも…そうだな手になじむのは
「戦を舐めてんのか?」
ひどい顔で睨まれた。
「違う、っていっても信じられないか。まぁ次の戦は俺一人で出るから結果を楽しみにしててくれよ」
「……いいや、俺もついていく。俺がアンタに負けたってのまだ信じられねぇよ。アンタの実力、見させてもらうぜ」
「どうぞご自由に。……所で雑談するために出てきたのか?」
「いや、竹中がアンタを呼んでるぜ」
「おい!そういうことは早く言ってくれよ!それと、アンタじゃなくて和海だから。覚えておけよ」
俺は急いで竹中のいる場所に向かった。
急いだけど、それ前にゆっくり長宗我部と会話をしていたせいで到着時間は遅かったため、非常に竹中は不機嫌だった。
「秀吉が同盟を認めたから仕方がないけど、僕はいまだに君を認めてはいないから」
「分かってますよーっと。それより、何の話だ。問題でも起きたのか?」
「いや、朗報だよ。ザビー城に島津と毛利が現在滞在しているようだ。一網打尽にできるんじゃないかな」
「……え」
その状態、記憶に残っている。
二人はすでにザビー教の信者になっているという事だ。
「どうしたんだい、まさか怖気づいたとか…?どうしても無理だというのなら僕と秀吉が出るよ」
「怖気づいたわけじゃないし、ぜひとも俺が戦に出たいと思っただけだよ。いやホントよ?ちょっと笑いを堪えていただけだから」
つまり、俺はサンデー毛利に会えるのだ。初めて見たとき腹筋が死んだ。今回は耐えられるだろうか……。
「所で、部下とはうまくやって行けそうかい?」
「まぁ、ぼちぼち。何とかやっていくつもりだよ……出会い方が悪かったからものすごく嫌われているんだよな」
「僕はどんな出会い方でも君と仲良くなれる気がしないよ」
ズバッと冷たい声で切り捨てられてしまった。
「手厳しい」
「始めは物腰が柔らかいかとおもったけど、随分と口調が荒くなって。そちらが本性かな」
「本性でもあるし、舐められないように?ほら、俺ってば迫力無いからせめて口調だけでもね?」
身長は低く、どちらかといえば童顔だといわれる。
それに鍛えているとはいえ、武将に比べれば細い。
なにより女ともなれば、相手から舐められる可能性が高い。
「確かに君のような男の子がポンと戦場に現れても、だれも武将とは思わないだろうね」
「つまり奇襲向け?」
「相手の動揺を誘う事はできそうだね」
「いいね、いいね!驚かせるのは好きだよ」
そのあともしばらく竹中と戦場での行動について議論をした。意外と話が合い、楽しい時間だったけど、竹中がむせ込んだため、おしゃべりは終わりを迎えた。
……やっぱり竹中の未来はそれほど長くないのだろうか。
ゲームで見ている分にはまだ平気だったけど、目の前で血を吐かれるとやはり心配になるし、不安になる。
とはいえ、俺が何かできるわけでもない。
俺にできるのは戦に勝つことだけだ。……あれ?そういえばさっき竹中は俺の事を「男の子」って言ってた?
男子に見えるって事だろうか?それはそれでありがたいな。
翌日、船は予定していた港にたどり着いた。
「はぁー…すっごい城だ」
目の前にはザビー城。ここを落とせば俺の城となるんだが……
「趣味悪いな」
部下からは不評です。
「珍しくていいと思うんだけどな。それに、日当たりはいいし、畑づくりに向いてそうな気がする」
「なんだ、農民を目指すのか」
「天下統一後の楽しみ的な?まぁ食料を自給自足できるのはいいことだよ。城内の敷地に畑を作れたら兵糧攻めの心配とかなさそうだし」
「そうか?」
俺の話を胡散臭そうに聞きながら、後ろからついてくる。
「しかし、こんな場所に毛利の野郎がいるってのは本当なのか?」
「竹中の情報だからあっていると思うけど……どうする?チカが相手したいなら譲るけど」
「まぁ…本当にいるっていうなら俺が相手してやってもいい」
まだまだ壁はあるけれど、一応俺の味方してはくれるようで安心した。
「それじゃあ、ザビー城攻略と行こうか!」
城門の閂に使われている金属の支柱を引き抜く。
「おい、まさかそれが得物だなんて言うんじゃねーだろうな?」
「そのまさかだよ。さあ、行くぞ。遅いと置いていくからな」
俺は置いていくつもりで走り出した。
思った以上に、雑兵が弱い。刃のない支柱を選んだというのに一撃当たれば消えてしまう。雑兵は消える宿命なのか……。
「おい!ちょっと待て!!」
息も絶え絶えに走ってきた長宗我部。俺が雑兵は倒し切ってしまったから走ってくるだけのはずでそれほど疲れることはないはずなのに何故?
「どんだけ足が速いんだよ!」
……そういえば、この世界に来てから今までと自分の体が違う気がする。
今まで以上に力の加減ができていないんだろうか?
「チカを置き去りにするつもりで走っていたからね。追いつけなくて当然だ。それより……扉を開けるぞ。覚悟しておけよ」
「なんだよ急に…ああ油断はしねぇよ」
この先に誰がいるのか、俺は知っている。
耐えろ、俺の腹筋。
扉の先にいたのは、ザビーの肖像画に祈りをささげる緑の男。
「来たな…我が名は日輪の申し子、サンデー毛利!!」
俺は耐えきれず膝をついて崩れ落ちた。
「本当に居やがった…おい、どうした和海」
「ダメだ……俺はもうだめだ…笑いが堪えられない。日輪の申し子じゃな無くて日曜日の申し子じゃん、無理…しんどい」
ひーひー言いながら笑っていると、すごくかわいそうな子を見るような目で見てくる長宗我部といたって真面目な顔で俺を見ているサンデー毛利。
「はぁ、はぁ…ここはチカに任せた。俺は戦えそうにない」
「……アンタ、笑いの沸点低いんだな」
「行かせぬぞ、我が貴様を止めて見せよう」
毛利が俺に武器を向けるが、それを長宗我部が振り払った。
「テメェの相手はこの俺だ。この長宗我部元親様が遊んでやるよ」
「……よかろう、いずれ貴様とも決着をつけねばならぬと思っていた所よ」
長宗我部、いやアニキ。やっぱりなんだかんだいい人だ。
俺は二人を置いて先に向かった。
この先にいるのは島津義弘。
鉄製の支柱を選んだのもこのためだ。彼の大剣をその辺の木の棒で受け止め切れるとは思えない。
肖像画の前で島津は祈りを捧げていた。
「なんじゃ坊主。入信希望者か?」
「いえ、この城をいただきに。俺の拠点にしたいと思っているんだ」
「そりゃ思い切ったことを…それならおいを倒さんと無理だがの」
「そうですよねー」
武器を構える。
「その、一つ提案なんですけど……この城を陥落することが出来たら俺についてきてくれないでしょうか。今後徳川…いや本田忠一と戦うことにもなると思うから。
島津さん、ぜひともに戦ってほしい」
「おいを倒せたらその話、のってもええ」
島津の目が楽しそうに輝いた。
「ありがとう。絶対負けないから」
あまり力のない俺は速さで勝負をするしかない―――
と思っていたのに、島津の剣戟に耐えていた。
打ち付けられる衝撃で多少腕が痺れはしたが、耐えきれない程ではない。けれどさすがに究極バサラを放たれた際にはしのぎ切れなかった。
「がはっ!!げほげほ…」
「こんだけ打ち込んで、一撃しか与えられんとはおいも老いたのう」
……負けた雑兵は消えていくだけだったが、俺はどうやらけがをするらしい。今の一撃で肋骨付近に痛みを感じる。それに口の中には血の味が広がる。肺…傷ついていないといいけど。はは…懐かしいな。ああ痛いはずなのに、それ以上にテンションが上がる。
口の中の血を吐き捨てて、もう一度島津と対峙する。
「やられっぱなしってのは好きじゃないんだ」
「ぬぅ、さらに速度が増したじゃと?」
倍返しと言わんばかりに棒術を叩き込んでいく。速さについていけず、俺の攻撃をいなし切れなくなった島津はやっと俺の攻撃をまともに受けてくれた。
「…流石じゃな……げほっ」
「大丈夫ですか?すいません、でも貴方相手に手加減なんてできるわけもなく」
「わかっちょる。それこそ手加減なんてしたらおいはお前さんについてなど行かんわ」
にかっと笑って俺を安心させようとしてくれているのがよくわかる。
「お前さんの怪我もひどいと思うぞ」
「あー…俺は慣れているんで。このくらい大したことないんで」
昔はこんな怪我日常茶飯事だった。
「それじゃあ、城陥落させますか」
ひとり呟いて、俺は先を目指した。長宗我部が毛利を殺さない内に戦いを終わらせないと……。
ザビー城にはお宝が多い。けど今はそちらを気にしている時間はない。それに俺が勝てばお宝は自動的に俺のものだ。
お宝を手にするためにザビーの元へひた走った。城内マップ覚えていてよかった。
ザビーとの闘い。
それはなかなかに苦戦を強いられた。
メカザビーがなかなかに邪魔な存在で、ザビー本体になかなか近づけない。
「無駄ナ抵抗ハ辞メテ、ザビー教へ入リマショウ!入信者募集中!」
「いやー、俺の配下になってくれるとありがたいんだけどなー」
信者という部下たち、兵力になる存在が欲しい。
教祖という立場の人間がいるのは本当に都合がいいんだが、向こうは完全に俺を殺す気なので仲間への勧誘は難しそうだった。
「残念だ……」
「諦タンデスネー。デハ―――」
こちらに止めを刺そうと一斉に攻撃を仕掛けてくるザビー&メカザビーに対し、俺は支柱の端をもって大きく振りかぶった。
「和海」
長宗我部が俺の名を呼んだ時、フルスイングで吹き飛ばされたメカザビーの爆発に巻き込まれザビーも昇天するところだった。
いいネタキャラだったのに。惜しいキャラを無くした……。
「よし、城は手に入れた。チカ、毛利はどうなった?」
「ああ?一応は生きてるよ。それよかアンタ、島津まで倒したのか」
傷だらけで長宗我部は結構ダメージを貰ったようだ。
「もちろん、じゃなきゃここまで来れないから。どう?一応俺がそれなりに戦えるって納得してもらえた」
にっこり笑って俺って戦えるんだとアピールしたが、すごい勢いで目をそらされた。
俺、やっぱり笑顔作るの下手なんだな……。よく目をそらされるもんな……。
「…はぁ。とにかくここは俺の拠点だ!
あれ?ってことは俺は南の大将ってことになるのか?」
はてなを浮かべていると、拍手をしながら竹中と豊臣が現れた。
「想像以上に早く城を攻略できたようで驚いたよ。おめでとう和海」
「我が同盟軍としても鼻が高い」
「やったー!褒められた!」
「ふふ、この程度で喜んでくれるとは。君は本当に単純なんだね」
「だって褒めてもらう事って殆どないから…さ」
ははっ…と乾いた笑いがこぼれてしまった。
いけない、せっかくの祝賀モードだ。気持ちを切り替えていこう。
「南は制圧、次はどこへ行く予定なんだ」
「その前に、君は少し休むべきだ」
つんと赤いしみができている胸部を触られ、痛みで悶絶した。
ザビーと戦っているときは何とも感じなかったのに、戦いが終わって痛覚が戻ってきてしまったらしい。
「くっそ……痛い」
「こんなに早く南を陥落させることができるとは周りも思っていないだろうからね。少し君が休むくらいの時間はあるよ」
なんだろう…作戦会議の後からちょっとだけ竹中が優しくなった気がする。多分気のせいだろうけど……。
こうして俺はザビー城と周辺諸国を手中に収めることになり、南の大将としてこの後名を轟かせていく事となる