大切な人


 我らがリーダー、帝アキラこと酒寄朝日が、最近おかしい。
 原因は、分かっている。
 かぐや姫が月に帰ってからだ。
 かぐや卒業ライブこと、あの月人との戦いの後から朝日はおかしい。
 いつも通り飄々としていように見えて、なんだか遠くを見つめているような感じがする。

 でも、原因は分かっていても、理由が分からない。
 もしかして、本気でかぐやと結婚したかったのかな、とか、俺は考えてしまっている。
 おかしいのは、俺もかもしれない。
 あの事件から、俺もなんだか色々考えている。
 俺の恋なんか、なんも生産性のない馬鹿げた一過性のモノ。そう思っていたのに。
 ぽっと出のかぐや姫に朝日の気持ちが盗られているのかもしれないと思うと、嫉妬で狂いそうになる。
 そして、ようやく自分の気持ちがゆるぎないものであると気づく。

 ねぇ、好きって言ってもいい? 朝日。


「朝日さ」
「ん~?」
「かぐや姫のこと、本気だった?」

 ある日、俺は朝日を糾弾することにした。
 秋のある日だった。

「は? 本気って?」
「だから、本気で結婚したかったんかなって」

 朝日の目が少し見開かれた。
 それが、肯定を表すのか、何なのかは分からない。
 最近の朝日は、よくわからない。

「……別に、そんなことあるわけないじゃん」
「じゃあ、最近おかしいのは何?」
「……」

 俺が指摘すると、朝日は、少し観念したように溜息を吐く。
 もうどうにでもなれ。
 さよなら、俺の初恋。

 俺だったら朝日にそんな顔させないのに。
 なんで、かぐやなの。

「……彩葉のこと思うとな、なんか、やるせなくて」
「は? 妹ちゃん?」

 意外な名前が一番に出てきた。
 確かに、彩葉とかぐやはニコイチだったし、かぐやがいなくなった今、妹の彩葉の心配をするのも当たり前か、って感じだけど。
 正直、俺は納得していなかった。

「きっと、彩葉はかぐやちゃんのこと大切だったと思うし、俺も大切な奴いるからそいつがいなくなったらって考えたら、ちょっと、な」

 『大切な奴』。
 そっか。な~んだ。俺、ちゃんと失恋してんじゃん。
 あ~あ、なんだ、もう。

「……乃依?」
「……え?」
「何で泣いてんの?」
「え?」

 朝日の骨ばった手が俺の頬に伸びてくる。
 いつもゲームをするときコントローラーを握っているその逞しい手が、俺の頬を撫でる。
 泣いて、たのか? 俺、泣いてしまったんだ。

「どったん? お前も最近変じゃん」
「……好き、だったんだ」
「……かぐやちゃんを?」
「違う、あんたが! 俺は朝日が好きなんだよ!! でも、朝日に大切な人がいるなら、邪魔しないから……。傍に、いさせてよ……」

 朝日は、泣きじゃくる俺を、そっと抱きしめた。



 そん時、俺は17歳とかそこらだった。
 朝日はとっくに成人してた。
 そんな俺たちは、三年間、関係性が変わらず、ブラックオニキスのメンバーという仲から後退も発展もしなかった。
 ただ、変わったこととすれば、彩葉がなんだかかぐや帰還のために試行錯誤してるらしかった。

 そんな俺の二十歳の誕生日の翌週。

「乃依」
「うん?」
「あ~、その、今日宅飲みしないか。お前、成人したし」
「うん。いーよ。兄貴も呼ぶ?」
「いや、あの、二人で」
「? うん?」

 またなんか朝日がおかしい?
 そわそわして落ち着きなさげに、俺を誘ってくる。
 もしかして、結婚でもすんのかな。
 兄貴にはもう話してるから、朝日に好意持ってる俺に伝えようとして緊張してるとか?
 あーあ。この関係も終わりか、って、思ったのに。

「乃依、俺、お前がずっと好きだったよ」
「へ?」

 急な告白に、俺は素っ頓狂な声を出してしまう。
 朝日の腕の中は爽やかな香りがして、温かくて、めっちゃ安心する。
 告白は、酒に酔って、とかではない。
 まだ俺たちは缶チューハイを開けたばかりだ。

「た、大切な、人って、」
「……お前、だよ」
「……っ」

 ああ、そうか。
 あの時、朝日は、俺を失う想像をして不安になっていたのか。

 ねぇ、朝日。
 俺も怖かったんだよ。
 あんたに拒絶されると思って生きてきたから、この恋心を持って生きていたから、ずっと怖かったんだよ。

 ねぇ、朝日。
 俺の大切な人。

「朝日、俺の事、離さないでね」

 ずっとずっと、離さないでいて。

―end―
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