大切な人
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『(……夢の通りか)』
シカマルの部下が伝えてきた情報は、昨夜の予知夢とおおむね一致していた
賊が村を襲う夢
その夢を思い出し、景色を浮かべる
あの景色は確か川に近い場所だった
そひて昨日のあの嵐だ、普通の山道は倒木だらけでまともに歩けまい
村人ならば慣れた道だが、慣れない賊があの山を、しかも正規ルートではない道で進むのは難しい
となれば考えられるのは川だ
川は消えたりしないし、川沿いさえつたえれば山は確実に下りられる
夢の景色と状況証拠から考えて、賊は川沿いの道で逃げたに違いない
自警団に伝えると、すぐに救出準備が始まった
村にある武器は、作られた場所も時代もバラバラな寄せ集めばかりだ
だがそれだけで事足りるくらい、平和だという証拠でもある
準備を終えて集まると、予想通りシカマルたちがいた
賊の討伐は自警団だけでも問題はない
だが念のため、シカマルたちも同行するようだ
*
「いたぞ!」
自警団の男が声を上げる
川沿いの道に、確かに見慣れない男たちが歩いていた
そして男の一人が、村の子どもを抱えていた
「その子を返せえええええ!!」
村の近くの森は庭同然
立ち回りも地理も把握している村人たちの方が優勢だ
そう思っていた
「こいつら忍びだ!!!!」
だが賊はただの賊では無かった
自警団が攻め入ると、すぐに印を結んで忍術を使ってきたのだ
『(まずいな)』
自警団は忍術への免疫はないし、対抗する術も持っていない
分が悪すぎる
「ここは俺たちの出番だろ!」
『!』
自警団が忍術に苦戦していると、シカマルたちが颯爽と現れて応戦し始めた
だが賊は大人数、対しシカマルたちは小隊
分が悪いのに変わりはない
『ナリ!』
賊の隙をつき、拉致されていた子供を助けに向かう
ナリを抱えていた男は私の接近に気付くと、刀を取り出した
「止まれェ!ガキの命が惜しけりゃ言う通りにしな!」
刀はナリの首元にあてがわれている
人質に取られては動きづらい
『(……まずいな)』
ギリ、と唇を噛み締める
場を打開できないかと考えを巡らせていると、賊は思い出したように口を開いた
「そうだ、この村には医者がいたな?
そいつを連れて来い、このガキと交換だ」
『………医者?』
「いるだろう、妙な術が使える珍しい医者が
噂だけじゃねえのは分かってるんだぜ
さあ交換条件だ!
そいつを連れて来い!!」
賊が大声を上げると、ナリはビクッと体を震わせ、泣き始める
早く解放してあげるのが一番だ
『その医者は私だ
私が代わりになるから、その子を離せ』
「何?お前が噂の医者なのか?
………仮面で顔を隠しているお前が?」
『そうだ』
賊は私を睨み、ジトっと値踏みするように上から下まで見る
「………信じられねぇな、まずは仮面を外してもらおうか
それとそのフードもだ!」
『………。』
「出来ねぇのか?!」
ジャキ、と刀がナリの首に触れる
わずかに血が滲むのが見えた
『!
やめろ、刀を下ろせ!』
「うるせぇ!!
いいからさっさと面を外せこの男女!!」
周りの賊はシカマルたちがどんどん倒していってる
それが見えているのだろう、目の前の男には焦りが見え始めた
『(……仕方ないか…!)』
血継限界は素性がバレてしまうから使えない
ならばと、瞬身の術の印を結び、男の背後をとった
「ぐあっ!」
手刀で気絶させ、ナリを解放する
「先生ェ!」
ナリは男の手を逃れると、泣きながら私に抱きついてきた
『ごめんねナリ、遅くなって
怖かったね』
よしよしと頭を撫でてあげる
ぐすぐすと鳴く声が聞こえてくる
「おい、そっちは無事か?」
『!
えぇ、おかげさまで』
残りの賊を掃討したシカマルが、すぐにこちらに駆け寄ってきた
ほとんど無傷のようだ
『あ…、ナリ、首を見せて
怪我を治すわ』
ナリの首に手を当て、チャクラを練る
黄緑色の光に包まれ、ナリの傷はみるみる塞がっていった
「……やっぱり医療忍術か」
『………もう隠しても無駄ですから
それに、目の前で傷ついている子がいるのなら、助けたいので』
ブゥゥン、と光が包み、傷を癒す
怪我が治ったナリは自警団に任せ、自分は負傷した自警団の治療に向かった
*
医療忍術の様子を見る限り、腕はなかなかなものだ
いのやサクラに引けを取らないチャクラコントロールと、おそらく経験がある
「(…医療忍術が使える抜け忍のデータはもう一通り見た
性別はおそらく女、世代は俺と同じくらい、だが所属していた隠れ里は不明…
もう少し縛りてえな)」
じ、と医者の様子を観察しつつ、部下に任せたままの賊の尋問に合流する
「あ、隊長、木の葉に連絡取れました
こいつら、里でも討伐依頼が来ていた賊ですね
数日で暗部が来るので、こいつらをまとめて引き渡すように、との事でした」
「数日、ってことは、俺たちはもう少しこの村に滞在することになりそうだな」
「そのようですね
どうします?あの医者は」
「………。」
村に来た本来の目的は、大名の治療を行ってくれる凄腕の医者を探すこと
先ほどの賊の発言で少し気にかかることがあったので、意識を取り戻したばかりの賊に声をかけた
「なぁ、さっきあの面をつけた奴に何か言ってたよな
噂がどーのって
その話を詳しく聞かせろ」
「あ?」
拘束されたままの賊の前に座り、質問をする
反抗するかと思いきや、殴られた腹いせなのか、スラスラと答えてくれた
「この村には噂があったんだ
大国の医者よりも優秀で、どんな怪我も病も治せる医師がいるってな
その医者は大の人嫌いでなかなか姿を見せないが、治療さえしてもらえれば、まるで時間が巻き戻ったかのようにすべて綺麗さっぱり治ってるって噂だ」
「……時間が、巻き戻る」
特徴のある文言に、一人の人物が思い当たる
いやまさか、そんなはずがないと
*
賊の討伐と子供を奪還したことを村長に告げると、大層感謝された
そのまま暗部が引き渡しに来るまで滞在させて欲しいことも頼むと、心良く承諾してくれた
「暗部の方々が来るまで、賊は村の近くの洞窟に入れておけば良いでしょう
抜け穴はないので監視も楽です
監視はうちの自警団がやりましょう」
「いや、俺らも監視にはつきます
一緒にやってくれるとありがたいッスね」
「そうですか、ではそのように伝えておきます」
お願いします、と頭を下げ、医者がどこに行ったのかを探した
村の中にはいないようだし、村人に聞いても見かけていないと答えた
「……朝の場所か」
*
丘に上がると、医者がいた
『ありがとうございました』
後ろも見ずに、背中を向けたまま医者が答える
気配は消していたつもりだが、やはりかなりの手練れだろう
「暗部が2、3日で賊を捕まえに来る
で、そのまま木の葉に連行するよ
それまでは俺たちも滞在させてもらうぜ」
『……そうですか』
「………。」
しん、と静寂が訪れる
聞こえるのは風の音と、揺れる木の葉の音だけだ
「………これは予測の話だが、暗部が来たらアンタ、木の葉に連れて行かれると思うぜ
逃げるなら今の内だ」
『……。』
「良いのかよ?捕まるぞアンタも」
これは予測ではなく、ほぼ確定事項だ
木の葉は俺たちの報告により、この村に抜け忍がいることを知っている
里を問わず抜け忍は大罪だ
捕まえて尋問するのがセオリーだ
だがこの医者は、大罪を犯した人間には見えなかった
『もしそうなったとしたら、私を殺すのはあなたがいい』
「は?」
そこで初めて医者が振り返った
面もつけてフードもかぶっているから、表情はうかがえない
だがどこか、悲しさを感じた
『私を殺して』
「………何言ってんだよ、おかしくなったのか?」
『……そうね、おかしいのかも
そんな約束、とうの昔の話なのに』
「約束?」
何でもありません、と言うと、医者は村に戻るために歩き出す
『もう限界なのかもしれません
暗部の方々が私を連行するというのなら、謹んでお受けしますよ』
それは諦めの言葉
生きることに執着がない人間の言葉だ
「殺されてもいいのかよ」
『もともと私はあの時死んでいたはずなんです
なのにここまで生きながらえてしまった
もう終わりにしてもいいと思っただけ』
「……自分の命を軽んじる発言はやめろ、いい気分じゃねぇ」
『優しいのね』
「違う
………俺の大切なやつも、似たようなこと言ってたからだ」
『!』
シカマルの表情が一瞬で暗くなる
その顔をさせるのは私なのだろう
『……その人は、もう亡くなってるのですか』
「さあな、生きてるのか死んでるのか、どこにいるのかも分からねえ」
『……………大切なのね』
「あぁ
俺の、一番大切なやつだ」
カチ、とシカマルはライターを取り出す
それはアスマ先生の形見だ
『(………まだ、私が彼を苦しめてるんだ)』
ずきりと胸が痛くなる
私が逃げたばかりに、残された彼は、まだ苦しめられているのだ
.