不穏な夢
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
まだ暗くなるには時間があるから、村の中でも歩いてみるといい
そう言って笑う村長の腹の中が見えぬまま、言われた通りに村の中を歩くことにした
古い家屋、豊かすぎる自然
村人たちのほとんどが農業に従事しているのか、畑や牧場が目立つ
子供も多く、見知らぬ人間がいると、わらわらと集まってきた
「お兄ちゃんたち忍者なの?!」
「悪いやつ捕まえるの?!」
「忍術使って!」
大人たちとは違い、屈託無く笑いながら駆け寄ってくる様子は微笑ましく、自然と笑顔が溢れる
のどかな村だった
「何も無い村っすね」
隊員の1人がボソッと呟く
確かにその通りだ
火の国の中でもここまでの田舎はそうそう無いだろう
「何も無いが、何も必要としていない
地図にも載っていないこの村に流れ着いたあの医者…」
「怪しさしか無いっすよ
なのに村の連中は、あの医者を信用してるみたいですし
訳がわからない」
アマノと名乗ったあの医者
ここまで辺鄙な村にわざわざやって来て、医者として村の仲間になった
メリットはほとんど無い
「………木の葉に伝令を送ろう」
「!
なんて送ります?」
村から少し離れ、家屋がない山の中に入る
そこで隊員の1人に声をかけ、口寄せで伝令用の忍鳥を呼び出してもらった
「木の葉に限らず、各里の抜け忍を照合する」
「!
抜け忍で、かつ医療忍術を使える人間ですか?」
「あぁ
すぐに送ってくれ」
「了解」
バサ、と忍鳥が文書を運ぶために飛び立つ
返事にはしばらく時間がかかるだろう
その間になんとか時間を稼ぎ、あの医者の素性を明らかにしたい
素性が明らかになれば、正式に任務依頼を遂行するために動くことが出来る
「なんとなく思うんですけど、」
「あ?」
ふいに、隊員の1人が口を開く
「あの医者、女じゃないですか?」
***
静かになった集会場で、村長と向かい合う
『……あの木の葉の忍たちを滞在させて、大丈夫なんですか?』
かぽ、と面を外す
真っ直ぐに村長を見ると、ふふ、と穏やかに笑った
「ここはどんな人間でも受け入れる村
あなたもよく知ってるでしょう?」
『…。』
「数年前にここに流れ着いた女の子は、素性も、本当の名前さえも分からないけれど、それでも我々は受け入れる
受け入れた結果、その子は医者として、我々を支える存在になった」
『……。』
「何があるか分からないね、先生」
『………そうですね』
ふ、と笑う
この人はそういう人だ
だからこそ私は助けられ、今を生きることができている
***
空が少しずつ暗くなる
だがそれは、夜が訪れているわけではなく、厚い雲に空が覆われているからだ
「一雨来そうっすね」
ゴロゴロと遠くから音が響いてくる
『お客人方』
「「「!」」」
くぐもった声に振り返ると、面をしたあの医者が、村の子どもたちとともに現れた
『この村の地盤は弱く、大雨が降ると土砂崩れを起こす場合があります
雨が降ったらくれぐれも、森の中には入らないように』
「……わざわざどうも」
『集会場といえど、あれも古い建物です
お気をつけて』
ぺこりと頭を下げると、子どもたちとともに村の中心部に向かい始める
子どもの1人が医者に笑顔で話しかけると、医者は優しく子どもの頭を撫でた
「………。」
流れ者の医者は、どこかの里の抜け忍の可能性があると考えている
素性を晒さないのは追われているから
地図に載っていないこの村は、抜け忍にとっては都合のいい場所だ
村人たちも忍び世界からは隔離されている
こんなに身を隠しやすい場所はない
だが、あの医者は本当にこの村の人間として生きているようだ
少なくとも、この村の人間にとって、あの医者は仲間だ
***
夜、予想通り雨が降り始めた
「この後のことを決めよう」
集会場に集まり、輪になる。自分の手元には、先ほど送った伝令の返事が届いていた
「各里の抜け忍で医療忍術を使える者は、このリストにある忍者のみです
性別も年齢もバラバラなので、ここから断定するのは難しいかと…」
隊員の1人がそう言いながら、リストにある忍びの名前を挙げていく
「……それと、空目トキ
彼女も医療忍術に精通しています」
「………。」
いつぶりだろうか、彼女の名前を聞いたのは
行方をくらました幼馴染みで、同じチームのメンバーだった彼女
そして、自分が想いを寄せていた相手だ
「…シカマル隊長は、空目一族の生き残りと知り合いだったんですよね」
「あぁ、だがアイツの生死は不明…
今回の枠の中には入るが、可能性は低いだろう
ほかの人間で考えていこう」
「「「はい」」」
里から届いた抜け忍のリストに目を通し、明日以降の行動を決める
この村での滞在はせいぜい明日まで
それまでにあの医者の素性を調べ、目的の医者であれば任務の依頼をする
それで話がまとまり、ひとまずその夜は寝ることにした
外は嵐のようだ
その嵐に紛れ、何かの気配が近付いてきていることには、誰も気が付かなかった
*
『………!』
ざわ、と胸騒ぎがした
住んでいる家で薬品の調合に勤しんでいると、何かが近づく気配がした
だが外は嵐、音がかき消され、詳細が掴めない
『(獣の類ではない、ならばシカマルたち?
……いや、違う
何だろう)』
妙な胸騒ぎがするが、それは一瞬のことだった
そのあとは気配を探っても何もない
『(……シカマルたちのことで過敏になってるのかもしれない
それに、前線から退いて勘が鈍ってるのかも)
……寝よう』
ガタガタと家の扉が揺れるのを聞きながら、朝には嵐が止むと信じて目を閉じた
だがすぐに、違和感から目が覚めた
『………久しく見ていなかったのに』
数年前のあの戦争で、私は夢見の能力を失った
だがそれは大半で、まだほんのわずかだが力は残っている
『………これは、予知夢だ』
視界が奪われ、目の前には天井とは違う景色が広がる
森の中に、見知らぬ人影が複数
村の近くだ
身なりからして山賊の類
村に山賊が侵入し、荒される
そこにシカマルたちが駆けつけ、山賊を捕らえる
そこまでの流れが見えた
『(……?
いや、違う)』
おかしい
いつも私の予知夢は、私が第三者視点に立って未来を見ているものだ
ざざ、と視界が歪み、新しい予知夢が始まる
『………えっ?』
新しく開けた視界
最初に目に映ったのは、目に刺さるほど鮮やかな赤
それは私の両手を染めていた
『……血、だ』
両手を赤く染める大量の血、そしてそれは、目の前で倒れるシカマルの身体から流れ出ていた
『なん、で、シカマルが』
カラン、と落ちる金属音
ふと自分の足元を見ると、赤く染まったクナイが落ちた
それは私が愛用しているクナイだ
私が、シカマルを殺した?
.