私は普通
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
翌朝、部屋の扉がノックされる
扉を開ければ、面をした暗部の忍びが待ち構えていた
「空目トキ
火影様がお呼びだ」
その一言に頷き、部屋を出る
まだ日が登ったばかりの早朝
人の気配も少なく、外は静かだった
*
「来たか」
暗部のあとを追って歩き続け、火影がいる建物に入る
だが案内されたのは、地下だ
それも一般の人間が来ることはほとんど無い
禁書の類が並ぶ本棚があり、上忍でさえも中々入ることはできないような場所
その一番奥に、薄暗い開けた場所があった
そして床一面に描かれた模様
その真ん中に、カカシ先生と綱手様が立っていた
『……これが、術式ですか』
カ「そう
今からこれを使って、君の夢見の力を封じ込める」
綱「そうすればお前はもう、予知夢を見ることも無くなるだろう
だがそれと引き換えに、お前の時間は正しく戻る」
『………。』
綱「………。
夢見の力は、空目一族を象徴する力でもあり、お前を幾度となく救ってきた力でもあるのだろう
だがそれと同時に、お前を苦しめてきた力でもある
……その力を封じる
異論は無いな?」
『………………はい』
ふと目を閉じる
目に意識を集中させて、もう一度目を開く
カ「………その緑色の目を見るのは、初めてだね
けどそれも最後だ」
綱「………。
力を封じれば、おそらく体調に異変が起こるだろう
だがすぐに慣れる」
『はい、大丈夫ですよ
この力の役目はもう終わったと思っていますから』
目を閉じ、もう一度目を開ける
目はまた青空を写したかのような、青い瞳に戻っていた
『もう夢に囚われる生活は終わらせたい…
だからカカシ先生、よろしくお願いします』
術式の中心に足を進め、その場に正座をする
不思議な力が足元にめぐっているのを感じる
カ「……分かった
始めよう」
綱手様が部屋を出ていき、カカシ先生と2人になる
先生は私の前に立つと、私の額に手を当てた
私も習うように目を閉じる
*
部屋の中に風が起こり、光が溢れる
カカシは苦悶の表情を浮かべながらも、トキから手を離さないよう集中した
床に書いた術式が輝き、そして、数時間が経過する
バチン、という破裂音のような音が響くと、床の術式はトキの身体に取り込まれていった
「!
トキ!」
部屋の光が四方に飛び散り、術式も消え去る
どっと疲れがカカシを襲うが、目の前のトキを見下ろした
「トキ!大丈夫か?」
術式を取り込むと、トキはパタリと倒れる
慌てて身体を抱き起こし、彼女の様子を見る
術式が身体に取り込まれた反動だろうか、意識を失っていた
*
「シカマル!」
休暇はまだ続いているため、外を歩いていると、いのが店番の格好のまま俺のもとに走ってきた
慌てた様子のいのを見て、すぐに察する
「トキに何かあったのか」
「今さっき、シズネさんがうちの店に来て、シカマルとチョウジにも伝えてくれって…
トキ、呪いの封印をしたって!」
「!
無事に終わったのか?!」
「術式自体は滞りなく終わったそうよ
けどトキは意識を失って、今木の葉病院にいる
命に別状は無いし、おそらく術式を取り込んだ身体の反発だろうって」
「木の葉病院…」
「私はチョウジに伝えてくるから、シカマルは行ってきて!」
いのはそれだけ伝えると、すぐに走り出してチョウジを探しに行く
俺はいのの背中を見送り、すぐに病院に向かった
*
自分が眠っているという自覚がある
こういう時はいつも、夢を見るのだ
大抵は未来、つまり予知夢。それも、大切な人が死ぬ夢ばかり見てきた
だが今は、頭の中がぐるぐると回るだけで、何も見ない
予知夢を見ない眠りなんて、久しぶりだった
『(…封印式が身体に馴染んでいないんだろうか)』
時間が経てば身体に馴染むのだろう
今はそれの途中だ
夢を見させる夢見の力を、カカシ先生の術式で押さえ込もうとしている
その戦いが、自分の身体の中で起きているのだろう
それがこの、長く暗い夢なのだ
『(……この夢から醒めた時には、)』
私は夢見の力を失い、ただの空目トキになれるのだろうか
ただの人間になれるのだろうか
そんな事を思いながら、暗い暗い闇の中に自分の意識を沈めていった
*
『………!』
ふ、と目が覚める
目の前に広がる白い天井を見て、ぼーっと考える
自分はなぜこんな場所にいるのだろうと、モヤがかかる頭で考える
「トキ?」
『!
シカマル?』
「……良かった、意識が戻ったな
大丈夫か?」
『………私、何でここに…』
ぼーっと微睡んでいると、視界にシカマルが入ってくる
少し驚きつつも、懐かしい景色に口元が緩んだ
私が寝込んでいる時、起きてすぐに声をかけてくるのはだいたいシカマルだった
「ここは木の葉病院だよ」
「!
カカシ先生」
「そろそろ起きるかなと思って
良いタイミングだったみたいだね」
ガラガラと病室の扉が開き、カカシ先生が入ってくる
トキは身体を起こし、あぁ、と気の抜けた返事をした
『封印の儀式を行って、そこから記憶が無いです
どうなりましたか』
カ「儀式は無事に成功
だけど、終わった途端に気絶しちゃったんだよ
たぶん、術式を身体に取り込んだことによる一種の拒絶反応が起こったんだ
時間が経てば身体に馴染むだろうけどね
それで、調子はどう?」
『……まだ、頭にモヤがかかってるような感じはありますけど…
問題はないです』
カ「そう?
ま、しばらく経過観察ということで、時折様子は見に来るよ
あとはシカマルに任せるね」
シ「うす」
『ありがとうございます、カカシ先生』
ぺこ、と頭を下げると、カカシ先生はへらりと笑って病室を後にした
*
カカシ先生が病室を後にしてから、トキはぼんやりと外に視線を向ける
何か声をかけようかと思ったが、内容が思い浮かばなかった
『私、自分のことを特別な人間だと思ってた』
「!」
不意にトキが口を開く
顔を上げて彼女を見れば、彼女は顔を外に向けたまま、静かに話し始めた
『……人とは違う、私は特別で、異端な人間なんだって、ずっと思ってた
特に空目の、夢見の力を使うたびに、そう思う気持ちが強くなってたの
人の死が見えるなんて、バケモノみたいだとも思ってたな』
「………………。」
『でも今回は、眠っていたのに何も夢を見なかった
自分の手から夢見の力がこぼれ落ちていくのを感じた
……私はようやく、普通の人間になれたのかな』
手を握りしめ、それを見つめるトキ
その横顔は穏やかで、優しいものだった
「お前は最初から普通の人間だよ」
『!』
両手を握りしめる私の手に、シカマルが手を重ねる
「ほかの奴らと何も変わらない
怒ったり泣いたり笑ったり…、いろんな顔を見せる普通の人間だ
普通になれたんじゃねぇよ、最初から普通だったんだ」
『……そっか
シカマルには、私は普通の人間に見えてたんだ』
シカマルにとっては、私は普通の人間だった
それがどうしようもなく嬉しくて、少し泣きそうになった
空目の生き残り
元暁
里の裏切り者
色んな肩書きを背負ってきた
でもシカマルの前では、それらは全部取り払われるみたいだ
シカマルの前でだけは、私はただの"空目トキ"になれる
『………ずっと、分かってたんだよなぁ』
「あ?」
『何でもない』
「?」
自分にとって彼は、かけがえのない人間なんだ
それはもう偽れない
自分の心を認めると同時に、この気持ちにどう区切りをつける必要があるか、考えなければいけないということも分かってる
シカマルはあの丘で好きだと言ってくれた
その後はその話について何も言ってこない。それはきっと私への配慮だろう
だが本心は、返事を欲していると思う
『(……ちゃんと、向き合わないと)』
シカマルは大切な人だ
だからきちんと考えたい
嘘偽りの無い、自分の気持ちを彼に伝えたい
『シカマル』
トキの声の感じが変わる
それで何となく、大切な話をされると悟った
「…何だ?」
聞き返せば、彼女はこちらを振り向いた
吸い込まれそうなほどの青い瞳と、空と同化しそうなほど鮮やかな青い髪が、風に揺れた
『あの丘で私に言ってくれた言葉…
あの言葉に、私の返事を求めてる?』
「!」
それが告白のことだとすぐに気付く
あの時彼女に好きだと告げたのは、彼女に話を聞いて欲しかったのと、逃げないで欲しかったのと、色んな事情をはらんでいた
だがその言葉に嘘偽りは無い
幼い頃から抱いてきた想いに間違いは無い
できればそれを、彼女に受け取って欲しいとも思っている
「………………あぁ
告白の返事、聞かせて欲しい」
『……分かった
…けど、ちゃんと、向き合って考えたい
だから考える時間を、私にください』
「……もちろん
色々混乱させちまったしな
俺はいつでもいい、待ってるから」
『うん
……ありがとう、シカマル』
少しだけ申し訳なさそうに笑うトキ
同じように笑顔を見せて、その日は病室を後にした
.
1/1ページ