すべて許そう
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
目の前のサスケから出て来た言葉に目を見開く
「……は?マジかよ」
「本当だ
大戦の直前、アイツと会った時に好きだと言った
ま、断られたがな」
「何でそんな話…」
サスケがトキを好きだったのは知っている
それが現在進行形なのかどうかは分からないが
アカデミーの頃から何かとトキを気にかける素振りを見せていたし、サスケが唯一まともに話す女はトキだけだった
それに中忍試験の時のサスケの態度は顕著だったし、いのもそれで気付いていた
同期の連中は、きっとほとんどがその可能性を感じていたと思う
「俺とトキは、お互い一族を滅ぼされ、生き残った者同士
似たもの同士だと思っていた
その二人だけの特別感を、好意だと思っていたのだろうな」
「……思ってた、って」
「今は別に、そういう気持ちを持ち合わせているわけでは無い
だが昔の俺は、お前にトキを取られるのが嫌だった
何とか視界に入り込もうとしたが、アイツの目にはいつもお前が映っていた」
「………。」
変な緊張感があった
サスケから直接そんな話をされるとは思っていなかったし、告白していた事ももちろん知らなかった
なぜ彼女を見つけたこのタイミングでこの話をするのか、俺には分からなかった
「……トキと話して分かった
アイツにはシカマルの言葉しか届かない」
「え?」
「お前から許されなければ、アイツは里には戻らないと思う」
「ちょっと待てよ、許すって何を?」
「アイツが仲間を…、お前を裏切った事を、だ」
「そんなの…」
許すに決まっている
それに俺は裏切られたなんて思っていない。アイツは被害者だと思っていた、だから助けたい、その一心だったのに
「トキは多分、お前の言葉を待っている
里に連れ戻す役目は、お前以外には務まらない」
「………何だよ、それ…」
サスケに言われ、ふと頭にある光景が蘇った
ナルトとの修行を終えて里に戻ってきたトキとの会話だ
"隠し事をしたら絶交"
その約束をした時、彼女の笑顔は暗かった
後から判明したのは、その時はもう暁の記憶を取り戻しており、里抜けの算段を企てていたという事
そしてナルト達との任務で大蛇丸とサスケと接触し、彼女は里抜けを決行
ナルト達のもとから去る直前に、俺に伝言を残した
"約束破ってごめん"と
その時の光景が頭に浮かんだ
過去の記憶が、サスケの言葉とリンクする
「俺は言いたいことをトキに伝えた
あとはお前に任せる」
「…あぁ、必ずアイツと一緒に里に戻る」
「…、期待してる」
サスケは最後に小さく笑うと、フッと姿を消した
彼女は、自分は許されてはいけないと言った
それはきっと、裏返しの言葉だったのだ
もう一度話す必要はある
好きだと伝える以上に、もうひとつ大切な話を
高く登った月を最後に見上げ、明日を待つことにした
*
サスケがいなくなったあと、大人しく病室のベッドに潜った
そして目を閉じて、襲いくる眠気に身を委ねていると、足が浮くような感覚に襲われる
予知夢の兆候だ
受け入れるように目を開ける
真っ暗な天井だったはずの自分の視界には、まるで違う景色が広がっている
『……木の葉の、大門…』
私の夢見の力、もとい予知夢を見る能力はほとんど失われている
だから予知夢も、断片的なカケラしか見えないため、どんな経緯があってその景色に繋がるのか分からない
だがこれははっきりと分かる
この景色に私を導くのはシカマルだと
木の葉の大門を遠くから眺めていると、大門のところに複数の人影を見つける
誰だろうと目を細めたが、人を確認する前に視界がさらわれた
次に目を開けた時は、病室特有の白い天井だった
*
病院を訪ね、看護師に退院手続きの説明を受ける
確認事項を済ませて、病室に向かった
「………………………。」
扉に手をかける
ドクドクと鼓動が早まる
扉を開けた先に彼女が待っているかどうか、その賭けの答えが分かるのだ
何度か深呼吸をして、手に力を込める
数回ノックをし、扉を開いた
『おはよう』
ベッドに腰かけ、彼女は俺を振り返った
青い髪が窓から入ってくる風で揺れる
トキは、逃げなかった
「………おう、待たせたな」
自分の声は震えていたと思う
トキが俺から逃げないで待っていてくれた
その事実に、自分のこの数年間が報われるようだった
昔のように、第十班で笑い合える日まで、そう遠くないのかもしれない
*
シカマルは私が病室にいる姿を見て、驚くと同時に、心の底から安心したような柔らかい笑顔を浮かべた
小さい頃に見た懐かしい笑顔だった
「退院したし、外行くか」
シカマルはベッドに近づき、きょろ、と周りを軽く見回す
私は荷物をほとんど持っていなかった
持っていたのは、割れた仮面とアスマ先生のライターだけ
『行く前に、これ』
「え?これ…」
『アスマ先生のライター
シカマルたちを逃した後に見つけた。多分、大名様を運んで走った拍子に落ちたんだと思う
………大切なものでしょう』
「……あぁ、ありがとう
戻ってきてくれて良かった」
シカマルはライターを受け取ると、大事そうに握り締めた
その顔が少し泣きそうな顔に見えた
「………悪い
行くか」
シカマルが手を差し出す
少し戸惑いつつも、その手を取った
*
病院の外に出て、また昨日のように歓楽街を歩く
昨日行った駄菓子屋を通り過ぎ、彼女がナルトと修行をしていたという丘にもう一度来た
丘に着くと、トキはするりと手を解く
そのまま歩みを進め、丘の上から歓楽街を見下ろし、気持ちよさそうに風を感じている
柔らかい風が彼女の青い髪を揺らし、その青が空の青と混ざり合う
目を離せば消えてしまいそうなほど、彼女は空に溶け合っている
『シカマルは、私が逃げると思った?』
彼女は背中を向けたまま問いかける
少し考えて、口を開いた
「……少し、な
もし居なくなったとしても、もう一度探し出すつもりだけど」
『………。』
なびく髪を片手で軽く抑えながら、彼女はちらりとこちらを振り返る
青い髪は、空と同化していた
「なぁ、帰って来いよ」
シカマルの声は風に混ざりながらも、はっきりと私の耳に届く
低い声に、切れ長の三白眼
大人の男性の顔になっている幼馴染に、少しだけ緊張する
昨日よりもどこか凛々しく、憑き物が落ちたような顔をする彼に、何となく、サスケと会ったのでは無いかと感じた
「"隠し事をしたら絶交"……
いつだかそんな話したよな」
『………やっぱり、シカマルなら覚えてるよね』
「当たり前だろ、俺が言ったんだから」
ふ、と小さく笑うと、シカマルはその場に腰を下ろし、街を眺め始めた
私は隣には行かず、顔を逸らし、同じように街を眺める
「あの時、お前の様子がおかしかったのには気付いてたんだ
何となくだったが…
笑顔がいつもと違うように見えた」
『…そうだったんだ』
「あぁ
……後から聞いた
その時にはもう、暁だった記憶を取り戻してたって」
『………。
そうだよ、全部思い出してた
だからシカマルにそれを言われた時、もうお終いだと思ったの』
私は暁の一員であるという大きな隠し事をしていた
そしてその話をされた時は、里抜けの算段を立てていた
私は約束をした時点で、もう約束を破っていた
「……お前にとってあの約束がどんなものだったのかは分からねぇ
でもな、実はあの時、俺も隠し事してた」
『えっ?』
思わぬセリフに後ろにいる彼を振り向く
シカマルは上を向き、空を見上げながら少し笑っていた
「お前のこと好きだってこと、隠してた
だから、自分で約束しておいてアレだが、約束した時点で約束破ってたんだよな、俺も」
『!!』
「お互い様だな」
に、と笑うシカマルに、トクトクと鼓動が早くなる
シカマルが私のためにこの話をしてくれているのは痛いほど分かっている
そして彼の言葉に、自分の心がほぐれていくのも、気付いていた
「なぁ、俺たちはお前に騙されたなんて思ってない
少なくとも、暁の記憶がなかった頃のお前の行動は、いつだって仲間を想ってのことだったって知ってる
サスケ奪還任務で、お前は自分の命をかけた
そのおかげで仲間が救われたのは事実だ
元は暁で、ナルトに近付くのが目的だったとしても、お前は俺にとって大事な幼馴染で、大事なチームメイトで、大事な親友だ」
『……あり、がとう』
「だから全部許す
あの約束も、おあいこって事で」
『!』
「ま、許すも何も、俺たちは怒ってるとかそんなんじゃねぇんだけどよ
お前にはこう言わないと話聞かねえって、サスケが教えてくれた」
『…サスケが………』
昨夜、やはりシカマルとサスケは話をしたのだろう
彼から視線を外していると、ふと自分に影がさす
顔を上げると、シカマルが私の前に立っていた
彼の目から視線が逸らせない
「トキ」
「俺たちはお前を待ってる」
「一緒に木の葉に帰ろう」
シカマルの真っ直ぐな言葉が胸に刺さる
気付けば頬を涙が伝い落ちていた
静かに、音もなく涙を流すトキを美しいと思った
彼女は俺から視線を逸らすと、手で涙を拭う
『……私を許してくれて、ありがとう』
「!
そんなの、当たり前だろ」
ふ、と小さく笑うシカマルに釣られるように、私も小さく微笑んだ
彼がここまで言ってくれる
私もサスケのように、仲間と向き合う時が来たんだ
逃げるのはもう終わりにして、仲間と共に、この罪を抱えて生きていくのもまた、運命なのかもしれない
『里に戻るよ』
憑き物が落ちたように明るい表情で、トキがそう言ってくれた
思わず彼女の華奢な身体を抱き寄せて、強く抱きしめた
*
木の葉隠れの里、火影室
パタパタと少し慌ただしい足音を立てて部屋を開け、シズネが笑顔で綱手に声をかけた
「綱手様!奈良シカマルから連絡が来ました!」
「!
見せてみろ」
シズネが渡した小さな巻物を受け取ると、すぐに執務机に広げ、文面を確認する
最後まで確認すると、ニヤリと笑った
「シズネ、第十班を呼べ
それと、手筈通り進めておいてくれ」
「はい!
……良かったですね、綱手様」
「あぁ、そうだな
私の賭けも、今回は勝てたようだな」
ばさ、と巻物を机に放る
そこにはシカマルからの連絡が記述されており、最後の文章は
"空目トキが木の葉隠れの里に帰還します"
と書かれていた
*
トキが里に戻る、と決めてくれた
だがその前に行きたいところがあると
「村?村ってあの、お前が住んでた…」
『そう
急にいなくなる、なんて不義理なことはしたく無い
私の素性も、本名も、全部ちゃんと話さないと、今までお世話になった恩を返せないから…
村に一度戻りたい』
「……分かった
けど、それなら俺も一緒に行く」
『……うん、良いよそれで』
「……疑うわけじゃない
けど里に戻るなら、一人よりも俺がいた方が…『分かってる』
………。」
『大丈夫』
困ったように笑うトキに、それ以上は何も言わなかった
『一緒に来て欲しい
あの村も、私にとっては大切な場所だから』
そして、そのまま俺たちは村に向けて出発することにした
.