似た者同士の話
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
誰の気配も無くなった病室
今の話は一体何だったのか、悪い夢でも見ていたのだろうか
痛む頭を抑えるように、ふらふらとベッドに向かった
『……あ、ライター…』
サスケに預けたつもりだったライターは、まだベッドサイドに置いてある
これをシカマルに渡すつもりだったのが、すっかり忘れていた
『………。』
私は明日退院出来るらしい
そのタイミングで迎えに来る、と
その迎えが来る前に逃げ出してしまえば良い
そしてまた、どこか人里離れた場所で、私のことを知る人間がいない場所で、新しい名前で生きれば良い
今までと同じように、そうやって逃げていけば良い
今までと同じだ
何も変わらない
そう思いたいのに、私の頭にはずっとシカマルの顔がちらつく
彼の言葉がひとつずつ蘇る
私を真っ直ぐに想うシカマルの言葉に、自分の心があたたかくなるのを感じてしまっている
だがそれではダメなんだ
私の罪は消えない
私は日の当たる場所で生きてはいけない
顔を上げ、茜色の空から暗い闇夜となった外を見る
そして今度こそ窓枠に足を乗せ、ぐ、と力を込めた
『………………。』
だが、一歩が踏み出せなかった
逃げ出せなかった
自分でも動かない身体に戸惑っていると、ふと、窓の外から気配を感じた
「逃げないのか」
『……サスケ…』
窓枠に引っ掛けていた足を戻し、窓の外を見る
すぐ近くの木の上に、見覚えのあるシルエットが浮かんでいる
真っ黒なコートに身を包む彼は、闇夜に溶け込むようだ
『……シカマルに監視するよう言われたの?』
「…アイツはそんな小細工をするような男ではない
お前の方が知っているだろう」
『………。』
ふい、と顔を背ける
それでサスケは、彼女が本心で言ったわけではない事を悟った
「お前と話がしたくて来た
シカマルには言ってない」
『!』
「お前と俺は、似たもの同士だからな」
ふ、とサスケが小さく笑う
昔は見せなかった穏やかな笑顔に、一瞬、驚いた
「俺がお前を探していたのは、ナルトからの頼みが始まりだった」
『!』
「だがそれが火影の耳に入り、正式な依頼としてお前を探す事を命じられたんだ
俺は里にいない分、動き易かったからな」
サスケは木の上に腰を下ろすと、ゆっくりと顔を上げる
「お前を見つけたのは偶然だった
たまたまあの村の近くで野宿をしていた時に、村の村長に声をかけられた
その時俺は軽く負傷していてな、大した事は無かったんだが、村長が村に医者がいる事を教えてくれた
"人嫌いだが確かな腕を持つ優秀な医者"だと」
『あの人が…』
身分を偽り、明らかに素性が怪しい人間である私を、村の一員として迎えてくれた恩人
その村長の姿が脳裏に過ぎる
だがまさか、サスケと面識があったとは
「村長が教えてくれた医者の特徴は、お前の時遁の力と酷似していた
それにお前の容姿も…
"青い髪"の医者だと言われて、確信した」
『………私が医者として暮らしてることに?』
「そうだ
その後、確認のために村に潜入した
そしてお前を見つけた」
『………そんな気配にも気付けなかったなんて、私もずいぶんと腕が落ちたかな』
ふっと呆れたように笑うトキに、サスケは口を閉ざす
だがすぐに、違う、と否定した
「あの村は、平和をそのまま描いたような村だった
忍びも戦争も、あの村には似合わない
そんな場所で、お前は自分らしく生きてきたんだろ
良いことじゃないか」
『………。』
「あの村でお前は医者として村人からの信頼を得ていた
あの村に腰を据えて生きていた
村のために生きていたお前に、今さら何の罪を問うというんだ」
サスケの言葉は静かな闇夜の中で、よく響いて聞こえた
遠くからは歓楽街の明かりと賑わいが聞こえてくる
だが今この場所だけは、まるで外界との繋がりを断ち切ったような、特別な空間に感じた
『……元暁で、木の葉には九尾の人柱力に近付くために潜入した
その後里を抜けて暁に戻り、第四次忍界大戦では敵として参戦した
………そんな肩書きの人間は、何をしたって、いつまでも、許されてはいけない』
「だが実際は、お前は全てにおいて被害者だ
一族は大蛇丸に滅ぼされ、子供だったお前は暁に誘拐されている
そして大戦でも、お前は月の眼計画の一部として、殺されるところだった
お前は罪人ではなく、被害者だ」
『だから全て水に流して、大手を振って里に戻れるぞ、とでも言いたいの?』
「!」
トキの鋭い声に、サスケはピクリと反応を示す
顔を上げて彼女を見れば、彼女は俯いていた
窓枠に手をかけ、その手を震わせていた
『みんなそう言ってくれる
お前は被害者であって、加害者ではない
だから戻って来れる、って……
けどそれは違う
記憶を取り戻した時、私は確かに暁と木の葉を天秤にかけた
そして、暁を選んだ
私は私の意思で暁の手を取ったのよ
私が木の葉を……、仲間を裏切ったという事実に間違いは無い
そしてそれが消えることも、未来永劫あり得ない
だから私は戻らない
それが私の罪だから』
暗い顔で、自分に言い聞かせるように話すトキ
サスケはしばらく彼女の顔を見つめ、ふう、と息を吐いた
「それを言うなら、俺もまだ罪人か」
『!!
………そういうつもりで言ったわけじゃ無いけど…、気に障ったならごめん』
「いや、意地の悪い言い方をした
だったらその罪は、どうすれば償えるんだ」
『………みんなの記憶から消えることよ』
「極端だな
お前の幼馴染は記憶力の良い男だったと思うが?」
『………。』
「それにその償い方は、お前の都合だろ
みんなの記憶から消えたいという願望を、償いに置き換えてるだけだ」
『ッ、じゃあ…!
じゃあどうしろって言うのよ!!』
ガン!とトキは窓枠を殴る
目付きを鋭くさせ、サスケを睨んだ
「お前が仲間を裏切った事実は消えないかも知れない
だがそれが許される方法は一つだけある」
『………。』
「お前だって分かっているだろう
"仲間が許してくれる"ことだ
アイツら全員と向き合って、裏切った事を許してもらえば良い
お前が今日、初めてシカマルと向き合ったように」
『ッ、そんな綺麗事…』
「その綺麗事で、俺は救われた」
『………。』
随分と優しく、穏やかな表情をするのだなと思った
目の前にいるサスケは、自分が知っているサスケでは無いようだ
イタチさんを殺すことだけを考えていたあの頃とも、木の葉への怒りを露わにしていたあの頃とも違う
彼は、「解放された」んだ
「俺にとってのナルトは、お前にとってのシカマルだろう
アイツはお前と真っ直ぐに向き合おうとしているし、お前がどんな思いを抱いていようとも、全て受け入れる覚悟をしてる
そんな存在が一人いるだけでも、変わるんじゃないのか」
『………あなた、本当にサスケなの?
私が知ってるサスケとは別人みたいね』
思わずそう投げかけたトキに対し、サスケは少し考える素振りを見せる
だがすぐに顔を上げ、小さく微笑んだ
「お前に好きだと言ったあの頃とは、立場も環境も、全部変わったからな」
『!
そんな事もあったわね』
「俺はずっとお前が好きだった、お前なら俺を分かってくれると思ってた
それに、お前のことを理解できるのも、俺だけだと思ってた
………でも違った」
『……。』
「お前を本当に理解できるのは俺じゃない
………アイツは俺なんかよりももっと長く、もっと前からお前のことを想ってきた
そんな奴相手じゃ、勝ち目は無かったな」
『……。』
サスケはそこまで言うと、フッと姿を消した
驚いて彼の姿を探すと、窓枠に飛び乗り、私の顔を覗き込んだ
「お前の幸せを願っている
それはきっと、イタチも同じだ」
『!
サスケ…』
「お前を好きになって良かった
………じゃあな」
サスケは最後に、私のひたいを指で軽く小突いた
それは私が昔見たイタチさんの記憶と同じ
イタチさんがサスケによくやっていた事だった
目を閉じて、次に開けた時には、もうサスケの姿は見えなくなっていた
*
病院から滞在している宿に戻り、夜空に登る月をぼんやりと眺めていた
トキが逃げるかどうかは、賭けだった
彼女が今夜中に病院を抜け出し、再び姿をくらませる可能性は大いに有り得る
明日、彼女の病室に行くまで、この賭けの行方は分からない
そんな博打を打つくらいなら最初から監視を、とも思ったが、それには踏み切れなかった
「シカマル」
「!
サスケ…」
宿のベランダ部分に黒い影が降り立つ
大名の屋敷の後始末を終えたらしいサスケが、わざわざ俺のもとにやって来た事に違和感を感じ、そして考えた
「………トキ、逃げたのか?」
最悪の可能性だが、その可能性は一番大きい
彼女は里に戻ることも、俺と関わる事も拒絶しているのだ
だが俺の不安を感じ取ったサスケは、首を横に振った
「トキは逃げていない、病室にいる」
「!」
「少しアイツと話してきた
それがどう転ぶか分からないが、多分、トキはもう逃げないと思う」
「……?
何でそう思うんだ」
思わず問いかけると、サスケは少し考え、小さく笑った
思い出し笑いのような笑い方だった
「俺は昔、アイツに好きだと言った事がある」
.