違和感と疑いと絶望と
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シカマルの言葉に、すぐに言葉を発することは出来なかった
だって私は、近くでずっと見ていたんだ
ずっとサスケを追いかけていた、サクラという仲間のことを
彼女がどんな思いでサスケを追いかけていたのかを、私はよく知っている
報われない想いを何度も味わいながら、それでも健気に、懸命にサスケを追う彼女の姿に、何も思わないはずがなかった
そしてそれが、どんなに辛いことなのかも、私は知っていた
『………何で、私なんか』
サクラのような思いをしている人間がもう一人いたなんて、思っていなかった
いや、シカマルの気持ちには気付いていたが、気付かないフリをしていた
"私"がシカマルを苦しめる元凶になっていたことを、認めたくなかったのだ
「何で、なんて知らねえよ
気付いたらずっとお前のことが好きだった、放っておけなかった、離したくなかった
……俺も、サクラのことは言えねえ立場だよ」
は、と自分に呆れているのか、シカマルは力無く笑う
「…たぶん、アカデミーに入る前からずっと、お前のことが好きだった
だから空目が滅んでお前がいなくなった時、親父に何度も楯突いた。もっと真剣に探せよ、って
それでもお前は見つからなくて、でも俺もチョウジも忘れるなんて出来なくて…
だから、それから青い花束を買うようになった
俺たちだけでもお前を忘れないようにしよう、って」
『!
そうだったんだ…』
「それで数年後にチョウジと青い花束を持って墓参りに行ったら、お前と再会できた
……嬉しかったんだ、お前とまた会えて
その時に、俺はずっとお前のことが好きだったんだって気付いた」
話すのが恥ずかしいのか、シカマルは目を逸らし、そっぽを向く
だが話すのをやめないのは、私のためなんだろう
彼は優しい人だから
「けど、違和感はあった
お前はやけに大人っぽい笑い方をするし、突然現れたくせにサスケ並みに強かった
いなかった3年間で何があったのか知りたかった
でもお前は覚えて無かったから、俺が近くにいて支えようと思ってた
………ま、俺なんかが支えなくても、お前はめちゃくちゃ強かったけどな」
『……。』
「その違和感はずっと残ってた
それで、綱手様からお前の過去を知らされて、ようやく納得したんだ
お前が強い理由、大人っぽい笑い方をする理由、そして、記憶がない矛盾…
全部理解できた、納得できた
でも納得しちまった自分に絶望した」
『え…』
「……俺がお前に抱いてた違和感は間違ってなかったんだって思うと同時に、俺は…
俺は、里に戻ってきたお前を、心のどこかでずっと怪しんでたんだって気付いた」
*
私は言葉を失った
まさか、シカマルがそんな事を言うなんて、と
言葉を失う私に、彼は項垂れ、はは、と乾いた笑いを発した
「………笑っちまうよな
お前のことが好きだと思ってたのに、心のどっかで何年間も、お前のことをずっと怪しんでた
お前を本当の意味では信用していなかった
………それに気付いて、自分で自分に絶望した」
『……………。』
「だから、確かめたかったんだ」
ぐしゃ、と自分の髪を掴むシカマル
空いた片手には、アイスの棒が握られている
「空目が滅ぶ前のお前と、アカデミーで再会したお前は…
俺にはまるで、違う人間に思えた」
『……。』
「俺が好きになったのは誰なんだって思った
だから確かめたくて、お前を追いかけた
バカみてえだろ」
『………………そんな事ない』
「………っはは、優しいな」
彼の声が震える
それで、シカマルが泣いていることに気付いた
でも何も言わなかった
「追いかけて、やっと会えたあの森…
飛段を埋めた場面にお前が現れて、それで、お前が俺に「助けて」って言ったあの時
………そこでやっと、気付いたんだよ」
ふ、と息を吐き、もう一度吸い込む
この言葉は、トキにとって大切な言葉だ
俺はそれを慎重に選ぶ必要がある
「俺の目の前で、暁と木の葉の間で苦しんで泣くお前の姿を見て、やっと気付いた
全部お前なんだって
………暁だったお前も、木の葉で過ごしてきたお前も、全部同じ人間で、他の何者でもない」
『………私にとっては、暁も木の葉も、私という人間を作ってくれた大切な場所だった』
「あぁ…、そうだよな…
あの時にやっと気付いて、それで、改めて思った
暁のお前も木の葉のお前も、全部ひっくるめてお前が好きなんだって」
『!』
視線を合わせ、シカマルはまたはっきりと告げる
目元には擦った跡があったが、それには気付かないふりをした
「……やっと言えた
トキ、ガキの頃からずっと、俺はお前が好きだ
その気持ちは今も変わらない」
『………。』
「お前にそばにいて欲しい
………もう、逃げないで欲しい」
『……私、は』
言葉がのどにつかえる
シカマルは、全て打ち明けて私に向き合ってくれている
私もそれに応えるべきなのは分かっている
でも、その勇気が出ない
その時、ゴーン、と鐘の音が響き渡る
それは街の子どもたちに向けた鐘の音で、もうじき日が暮れることを伝えていた
「………………混乱させちまったよな
そろそろ戻るか」
シカマルは立ち上がると、何事もなかったかのように歩き出す
少し歩いて私を振り返り、行こうぜ、と笑いかけた
*
シカマルと共に病室に戻る
ガラガラと扉を開けて病室内に目を向けると、思わぬ人物が窓辺で立っていた
『………え、嘘、どうして』
「!
ずいぶんお早い到着っすね」
病室の中で、こちらに背を向けているものの、その背中は見覚えがあった
それと同時に、懐かしさも感じた
二つ結びの髪、背中に大きく書かれた「賭」の文字
「サスケから連絡を受けてすぐに来たからな」
「仕事は平気なんすか」
「シズネに任せてある、心配はいらないさ
………さて、久しぶりだなトキ
元気そうで何よりだ」
『………………綱手、様』
私の病室にいたのは、現火影である綱手様だった
『な、何故、ここに』
「そう警戒するな
私はお前を捕まえに来たわけではない
話をしに来たのだ」
『話…?』
綱手様はにこりと綺麗に笑う
昔から変わらない若さと美しさは、相変わらずだ
「先に言っておくが、私はお前があの村にいることを元から知っていた」
『えっ?』
「は?」
隣にいるシカマルも、綱手様の言葉に聞き返していた
どういう事だ
なぜ私の所在を知っていたのだ
「お前の居場所を突き止めたのはサスケだ
そして私はずいぶん前から、お前があの村で流れ者の"アマノ"という名で生きていることを知っていた
………もちろんこの事は、私とサスケしか知らなかった」
「なっ…!何で俺たちにも教えてくれなかったんすか?!
せめて第十班くらいには…!!」
「もちろんお前たちに伝えることも考えた
だが、サスケから止められたんだ」
「サスケが…?!」
綱手様の言葉は初めて知るものばかりで、自分も頭が混乱し始める
なぜサスケはトキを見つけていて、それを俺たちに伏せるように伝えていたのか
「……サスケは、お前と親しかったんだな、トキ」
『……。』
「トキに真正面からぶつかったところで、お前はきっとシカマルから逃げる
だから状況を整えないと、対話は不可能だとサスケが言った
私はそれに同意し、お前たちにトキの存在を伏せ、状況が整うのを待ったのだ
………そして、大名からの依頼が来た」
「……………え、は?
まさか、あの依頼も、最初からトキのことだと分かってて…?!」
隣でシカマルは分かりやすく狼狽えている
綱手様は、珍しいものが見れた、と軽く笑い飛ばしていた
「シカマルの言う通りだ
噂の医者がトキのことで、"何でも治せる"の正体が時遁だと察していた
だからそれを好機と捉え、お前を行かせた」
「………………………。」
シカマルは綱手様から話を聞くと、はー、と長いため息を吐いた
かくいう私も、今の話はかなり衝撃的だった
「シカマルが自分の正体に気付かずに、ただ任務に従事する忍びとして接してくるのであれば、トキは逃げないかもしれない
乗るかどうかは賭けだった
…ま、私の博打運もたまには当たるということだな」
『………そうだったんですね』
「けどまさか、大名の屋敷が各里の抜け忍に乗っ取られ、しかも大名は生死を彷徨っていたとは…
そこはさすがに予想外だった
トキ、お前のおかげで大名は快方に向かっている」
『…………それは良かったです』
トキはもう理解の範疇を超えているのか、返事が気の抜けたものになっている
それに気づくと綱手は大きく笑った
「お前が混乱するのも分かる
だがもう少しこちらの話を聞いてもらいたい
……やっと役者が揃ったみたいだしな」
「え?」
『?』
綱手様は私たちの後ろに目を向けて、ニヤリと笑う
その時、背後から近づく気配に気づいた
ぱ、と二人して後ろを振り向く
そしてそこにいた人物に、また目を見開いた
今日はいったい何なんだ
これ以上私を混乱させないでくれ、と人知れずため息をついた
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やっとトキとシカマル邂逅
そしてシカマルと初めて向き合う事となるトキ
初期が暗い話だったので、この未来編はハッピーエンドを目指して進めています
が、トキちゃんの抱えてるものが大きすぎるので、時間をかけてほぐしていく予定です
下手すると今までの本編より長くなるかも
最後までお付き合いいただけると嬉しいです
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