懐かしいアイス
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ずるずると座り込み、両手で顔を覆うトキ
肩を震わせ、泣きじゃくっていた
「……俺は屋敷の方に戻る
あとはお前に任せた」
「………あぁ」
サスケは泣くトキを一瞥し、俺にそう声をかけると病室を後にした
*
『本当の目的は何ですか
私に、何の御用でしょうか』
白いマントに暗部が付けるような面を被った人物
初めて会った時から、何となく、懐かしい感覚を覚えていた
ずっと頭の片隅に、トキの姿が浮かんでいた
アマノと名乗った彼女とトキを、ずっと重ねていたように思う
思えば初めて会った時から、俺は気付いていたのかもしれない
彼女はトキだと
だがそれを認められなかったのは、もう彼女のことを忘れなくちゃいけないと思い始めていた自分の気持ちと、
本当に彼女ならば、俺と会ったら何かしらの動きを見せると思いたかったからだろう
だが彼女は"他人"に徹した
俺と知りながら、俺に気付かれないように他人で居続けた
彼女は、俺と会いたくなかったんだ
病室の窓からは、今のこの状況を嘲笑うかのような澄み切った青空が広がり、雲が穏やかに流れていた
小さい頃、彼女と何度も見上げた景色だった
「………。」
やっと見つけた
やっと手が届く場所に彼女がいる
ずっとずっと探していた彼女をやっと見つけたのに、言葉が喉につかえて、何も出てこなかった
何を言えば良いのか
全く分からなくなってしまった
「……トキ」
ただ、彼女の名前を呼ぶことしか出来ない
*
「トキ」
泣いているような声だった
悲しさや悲痛さが声に表れていた
シカマルがどんな思いでいたのか、私は一度も向き合うことはしなかった
彼が私を特別に想っていることを知りながら、それを無視し続けた
シカマルはたぶん、私のことが好きだった
けどその想いを受け取る訳にはいかなかった
だから離れた
だから何も言わなかった
私のことが好きなら、早く忘れて、違う人と出会ってくれたら良いと願っていた
けどこの幼馴染は、私を探し続けてくれた
「終わりにしてもいいんじゃないか」
サスケの言葉が蘇る
涙はやがて止まり、泣きすぎたせいか、少し頭がぼーっとする
どのくらい時間が経ったのかも分からないが、短い時間ではなかっただろう
涙を拭って、ようやく顔を上げた
「!
……泣き止んだな」
困ったように笑うシカマルに、こく、と小さく頷いた
「身体は?もう何ともねェか」
『……大丈夫』
「だったら、ちょっと外行こうぜ」
『えっ』
彼からの予想外の提案に、思わず素っ頓狂な声が出た
仮にも私は里の抜け忍だ
本来なら拘束して、行動を制限させなきゃいけない人間だ
そんな私を外に、しかもシカマル一人で連れ出すのは、あまりにも危険な賭けだ
『……本気で言ってるの?
私を外に出すなんて』
「お前はもう逃げねえだろ」
『………。』
「行こうぜ、いい天気だしよ」
座り込む私の前で、私と視線を合わせるようにしゃがんでいたシカマルは、のそりと立ち上がる
そして、座り込む私に手を差し伸べた
その景色は、あの時と同じだった
飛段さんが殺され、私がシカマルに初めて「助けて」と叫んだあの時と同じだ
ゆっくりと、手を伸ばした
その手はきっと震えていただろう
すぐ目の前にあるはずのシカマルの手は、ずいぶん遠くにあるように感じた
「ほら」
『!!』
戸惑う私の気持ちを取り払うように、シカマルは力強く私の手を取る
それだけで、また泣きそうだった
*
病院の外に出る
よく見たらこの街は、過去に来たことがある場所だった
確か、ナルトと自来也様と一緒に修行をしていた時に、少しの間滞在していた街だ
「少し歩こうぜ、どっか行きたい場所とかないか」
『………………。』
「つっても、俺もこの街のことよく知らねーんだけどな
トキは?」
『………知ってる
ナルトと自来也様と一緒に来たことがある』
「!
そうだったのか」
とりあえず商店街をぶらりと歩いてみる
店の種類は変わっていたりするが、道はそのままだ
少し歩くと、見覚えのある店を見つけた
『(……この駄菓子屋、)』
老婆が店番をする駄菓子屋には、この街の子どもたちが数人集まっていた
店先でお菓子を食べる子どもたちを、店の主人の老婆が穏やかに見つめている
この店は、ナルトと自来也様と修行をしていた時、よく通っていた店だ
自来也様が私とナルトのために、二人で半分こにできるアイスキャンディーを、いつも買ってくれてた
修行を頑張ったご褒美だと
私もナルトもそのアイスが大好きで、喜んで食べる私たちを、自来也様はいつも笑顔で見ていた
*
「!
トキ?」
トキを外に連れ出し、近くの商店街を歩く
ナルトと一緒に修行で訪れたことがある、ということは、おそらくサスケ奪還任務のあとの話だろう
この街に来たのは本当に偶然だったが、彼女にとっては、思い出がある場所だったようだ
「……駄菓子屋?」
商店街を歩いていると、トキが足を止める
その視線の先には、小さな駄菓子屋があった
『………あの駄菓子屋で、よく自来也様がアイスを買ってくれたの
それをナルトと半分こにして、修行のあとに食べてた』
「………。
よし、行ってみるか」
『えっ
いいよ、気を遣わなくて』
「いいから」
に、とシカマルは笑うと、私の手を引いて駄菓子屋に向かう
店の主人の老婆に話しかけ、あのアイスを買った
「………そこのお嬢ちゃん、もしかして」
『え?』
「昔よくここでアイス買っていた女の子じゃないかい?
金髪の男の子と、白髪のお爺さんと一緒に」
『………そう、です
でも、よく私だって…』
「そりゃ分かるよ、アンタの髪は印象的だったからね
金髪の男の子と、お爺さんは元気かい?」
『……。』
店の老婆に尋ねられ、少し言葉に詰まる
そして小さく、自来也様が死んだことを老婆に告げた
老婆は残念そうに目を伏せ、そうかい、と呟いた
「また来ておくれ、今度は金髪のあの子も一緒にね」
ひらひらと手を振り、老婆に見送られる
少しだけ俯くトキの手をまた引っ張った
「ナルトといつもどこで食ってたんだ?このアイス」
『……修行で使ってた、小さな丘があるの
そこで』
「よし、じゃあそこ行くか
案内してくれよ」
『………。』
トキは戸惑うように視線を泳がせるが、やがて諦めたのか、俺の手を引っ張った
*
少し歩くと、小高い丘にたどり着く
穏やかな場所に見えるが、そこらに生えている木は不自然に抉られた形跡があり、地面もところどころ禿げていたりと、修行で使われた形跡が残っていた
だがそれ以外は穏やかで、空も街も一望できる、景色のいい場所だった
『………ここ、好きだった』
「!」
『空がよく見えて、雲が流れるのもよく見えた
シカマルならきっと気に入るだろうなって、修行中に思ってた』
そよそよと吹き抜ける風に、彼女の青い髪が揺れる
その顔色は伺えなかった
「……そうだな、いい場所だ
ここも良い特等席だな」
『!
……そうでしょ』
ふ、と小さく笑う声が聞こえる
彼女の手をほどき、両手でアイスをぱき、と割った
「せっかく買ったんだし、食おーぜ」
『………うん』
こちらを振り向いたトキは、病室の中よりも穏やかな表情をしていた
昔、よくナルトと半分こにしたアイス
あの頃と同じ味だ
たまに自来也様が半分こにするのを失敗した時は、決まって大きい方を私にくれた
ナルトは「不公平だ!」と騒いだけど、自来也様はいつも私に大きいアイスをくれた
その懐かしい思い出が、鮮やかに脳裏に蘇った
『……美味しい』
「!」
ぼそ、とトキが呟く
トキにとってナルトは兄弟のようなもので、自来也様は父親のような存在だった
彼女にとって3人で過ごした修行の思い出は、大切なものだったのだろう
「……なぁ、里に戻って来ないか」
『!』
アイスを食べ終えると、シカマルは空を見上げたまま、小さな声で呟いた
それに、私の心臓は分かりやすく騒がしくなる
「……もう、逃げる生活はやめろよ」
『………そ、んなの、』
「無理だって言うのか?
何が無理なんだ
サスケも罪滅ぼしをしながら、里に貢献してる
アイツはもう里に認められた立派な忍びだ
だったら、お前だって戻って来れる」
『………。』
「………また、第十班で集まろう
いのもチョウジも、他の奴らも、お前のことをずっと待ってる」
遠くから商店街のざわめきが、微かに聞こえてくる
風が吹き抜ける音と、木々が揺れる音が、やけに大きく聞こえてきた
『………私の罪は消えない
里を裏切り、世界を裏切り、空目一族の名に泥を塗った
……………私は、許されちゃいけない
だからみんなのもとには帰れない』
「………だがもう、脅威は消えた。今のこの世界は、ナルトのおかげで平和になった
それに、お前が月の眼計画を潰すために戦争中に動いていたことも、俺たちを守るために死のうとしたことも、全部知ってる!
みんな分かってる…!
もう誰も、お前に罪が残ってるなんて思ってねえよ!」
シカマルの声が大きくなる
彼がこんなに感情的になるのは、久しぶりに見たように思う
「……お願いだ
戻ってきてくれ…」
『………………。』
シカマルは真っ直ぐに私の目を見て、はっきりと告げる
私はその視線から、目を逸らせなかった
『………どうして、そこまで私を…』
思わず口をついて出た言葉に、は、と気付いて手で押さえた
だがシカマルには聞こえていたようだ
彼は少しだけ視線を泳がせると、意を決したように、もう一度私の目を見つめた
「お前のことが好きだからだ」
.