帰還
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
トキが、暁の一員
その一言が頭に響く
呆然と立ち尽くす俺たちに、綱手様が口を開いた
「……報告によると、トキは10年ほど前から暁の一員だったと考えられる」
「10年…?!」
綱手様の口から出てきた10年という時間は、俺たちの人生の半分以上を占めている
そしてその10年という時間に、ふと気付く
「……空目一族が、滅んだ時」
「そうだ、10年前は大蛇丸が空目一族を襲い、滅ぼした時期と重なる
そしてトキは、一族が滅んだ直後に行方不明となった
考えられる結論は1つだ」
「………暁は、空目一族が滅んだ直後にトキをさらった」
冷静に答えを導く自分に嫌気がさす
何か言いたげに俺を見るチョウジには、気づかないふりをした
「そう考えるのが妥当だろう
初めからトキを攫うつもりだったのかは分からないが、暁はトキを攫い、組織の一員として育てた
そして三年間の時を経て、木の葉に潜入させた」
「ちょっと待ってくれよ!
三年間の間に木の葉に帰ってくることは出来るはずだろ?!
なんでアイツは暁に居続けたんだ?!」
淡々と続ける綱手にキバが前に出る、その言葉はもっともであった
「……そこまでは、分からん
ただ、当時のトキは一族を目の前で失って、まともな精神状態ではなかったはずだ
そこに付け込んで、暁に依存するように仕向けた可能性もある」
確かに、6~7歳の少女が目の前で大量虐殺を目撃したら、精神を病むに決まっている
そこを利用するのは、妥当な考えだ
「木の葉に潜入した目的は、九尾の人柱力の情報収集のため
と、トキがナルト達に言ったらしい
間違いないな?ヤマト」
「……えぇ、間違いありません
はっきりと言いました、自分が木の葉に戻ってきたのはナルトに近付くためだと」
「……そして先日、暁のメンバーである赤砂のサソリが死んだ
どうやらそのサソリが、トキの記憶を操作していたらしい
そしてサソリが死んだことによって自分が暁の一員である事を思い出したトキは、里抜けを決行した」
綱手の声が火影室に響く
同期の誰もが言葉を失っていた
いのやヒナタの目には涙が浮かんでいる
「………シカマル、トキから伝言があるってばよ」
「!」
それまで黙っていたナルトが、その時初めて声を出した
全員の視線がナルトに向く
シカマルはゆっくりと息を吸い、なんだ、と尋ねた
「……”隠し事するなって約束破ってごめん”…だとよ」
「!」
それは任務に出る直前に話したことだった
次隠し事したら絶交だ、と言った時の、トキの苦笑いを浮かべた顔が頭に浮かぶ
あの時は、すでに暁としての記憶を取り戻していたのか
「………本当に、隠し事ばっかだな、アイツは
いつも何も言わねえ
誰にも何も言わずに、1人で抱え込む」
「…シカマル……」
「きっと今も、抱え込んでる」
確信を持ったその言葉に、ナルトは不安げにする
だが反対に、いのとチョウジの顔つきが変わった
「五代目」
「………何だ」
「トキは第十班の、俺たちの仲間です
アイツは俺たちが必ず連れ戻す」
シカマルの凛とした力強い言葉に、綱手はふっと笑う
まるでそれを分かっていたかのように
「………ならばお前たちも、ナルト達と同様にトキを追うか?」
「「「追います」」」
シカマル、いの、チョウジの声が重なる
それに綱手は口元を緩め、よし、と立ち上がった
「第十班に暁の捜索・捕縛命令を出す
ターゲットは、空目トキだ
トキを見つけ次第拘束し、木の葉に連行しろ!」
「「「はい!」」」
***
薄暗い廊下に複数の足音が響く
先頭を歩くカブトが、くるりと後ろを振り返った
「大蛇丸様、彼女をアジトに招き入れても良いのですか?
彼女は暁、敵ですよ」
「敵ではあるけれど、トキに戦う気はないわ
そうでしょう?」
『えぇ、用が終わればすぐに去ります』
「……なら、早々に退散願いましょうか」
廊下を抜け、広い空間に出る
そこで立ち止まったカブトにならい、トキも足を止めた
「トキさん、君の用件は何かな
暁からの任務って言ってたけど」
『はい、大蛇丸さんにお願いがあって来ました』
「あら、私?何かしら」
ニコニコと笑顔を絶やさない大蛇丸。その顔は優しく、敵意を感じさせない
最も相手は伝説の三忍の1人。演技だという可能性もある
だがトキは、その笑顔に嘘はないと直感で思っていた
『大蛇丸さんが暁を抜けた穴を、私が埋めることになりました
そこで、あなたが持っていた暁の指輪をいただきたい』
「!
そう、あなたが私の後釜になるの
出世したわね、トキ
あの頃はみんなの後ろをついて回ってたのに」
くく、と笑う大蛇丸に、彼女はにこりと笑う
大好きな人と話す子供のそれと同じだ
「ここで待っていなさい、持ってくるわ
久しぶりに会ったんだし、つもる話もあるんじゃない?」
『………。』
ちらりとサスケを見やる
彼も彼女を見ていた
「………僕も少し外すよ、薬を持ってくる」
カブトも何かを察したようにその場を離れ、サスケと2人きりになる
何か話そうと言葉を告げる前に、サスケが声を上げた
「暁だったのか」
『!
そう、驚いた?』
へらりと笑うと、サスケは刀に手を添えた
だが殺気を感じないその動作に、トキはふっと笑う
「イタチの居場所を知ってるな」
『!』
キン、と刀を抜いてトキに向ける
瞳が赤く染まった
『居場所は知らないし、知ってても教えない
イタチさんを殺させはしない』
「………イタチさん、だと」
『あの人は私にとって兄のような存在だった
私のことを案じてくれていた
暁は私にとっては家族同然、その家族を傷付ける人間は許さない』
はっきりと告げれば、サスケは刀を鞘に収めた
そして赤い瞳で、トキを睨んだ
「とんだ茶番だな
あの時、ボロボロになって俺を追いかけてたくせに、自分もこちら側の人間だったなんて
笑わせる」
『………あの時は、暁の記憶は無かった
自分は木の葉の忍びだと思ってた
だから、命がけであなたを追いかけた
ナルト達も同じ』
「………。」
『サスケ、私はあなたの事を諦めてないよ
あなたの居場所はここじゃない』
「俺は望んでここに来た
お前が何と言おうと、俺は力を手に入れる」
『……。』
ふ、とサスケが目を閉じて、もう一度開く
写輪眼は消えていた
「トキ」
『何?』
「お前はなんで大蛇丸と笑って話せる
アイツはお前の一族の仇だろ」
『………仇だけど、それ以前にあの人は、私の家族だったから』
「家族?」
家族という言葉に、サスケは不快そうに顔をしかめる
だが彼女は言葉を続けた
『木の葉に見捨てられた私にとって、暁は唯一の心の拠り所だった
当時暁にいた大蛇丸さんにもたくさんお世話になった
……私の本当の家族はもういないけど、暁という家族はいる
今いる人の方が、私は大事なの』
『だからサスケ、あなたがイタチさんを殺そうと言うのなら、私はそれを阻止する
たとえあなたと戦う事になっても』
「……俺は、お前と戦う気はない」
おさめた刀に手を添え、サスケはふいと視線をそらす
それを見てトキは、少し頬を緩めた
『………サスケは、いつも私には優しくしてくれたね
サクラやいのや、ナルトの事は適当にあしらうのに、私とはちゃんと話してくれた』
「お前は俺と似ていると思ったからだ、お前なら分かり合えると思っていた」
『……………それに関しては同意見だね
けどサスケ、あなた1つ間違えてる』
「?」
くる、とサスケから視線を外し、薄暗い広間を照らすろうそくを見る
ゆらゆらと揺れるそれは、少し心を落ち着かせた
『三年前、終末の谷で言ったよね
”お前は光の中にいろ”って
あの言葉は間違ってる』
「………。」
サスケがじっとトキの横顔を見つめる
青い瞳に映り込むろうそくの火は、ゆらゆらと揺れていた
『私は光の中になんていない
最初から闇の中にいたの、暁という闇の中にね
サスケが私に何かを感じていたのは、境遇とか共感じゃなく、その闇
あなたは自然と、私の中の闇に惹かれていた』
「………そうかもしれない」
『それにサスケ、私から見れば、あなたの方が光の中にいる
あなたは色んな人に照らし出されてる
ナルトやサクラやカカシ先生…、他にもたくさんの人があなたを照らしてる
私にはそれがまぶしくて、それでいて、私は足を踏み入れることはできない』
ろうそくの光を遮断するように、彼女は瞳を閉じる
その姿は薄暗い闇の中に溶けてしまいそうだ
『サスケには、待ってる人がたくさんいる
光がある
それを見失わないで
その光が見えないあなたじゃないでしょう』
青い瞳の色は闇の中でもよく見える
鮮やかで、青空のようだ
自分とは対照的なその目を見つめ、サスケは口を開いた
「…その光とやらは、お前も見えてるはずだろ」
『………さあね』
「シカマルは」
『………。』
サスケの言葉がぐさりと胸に刺さる
その名前だけは、色々なことを思い出してしまう
「シカマルはお前の事を想ってる
特別だと思ってる
お前だってそうだろ、だからナルトに伝言を託した」
『そうだよ』
「………。」
『シカマルは、大切な人だよ
いなくなった私の事をずっと考えてくれてた、必ず生きてると信じてくれてた
木の葉の中での私の居場所を作ってくれた』
「ならお前の光は『私は暁』
………。」
『暁は闇に生きる人間
私は、光を見る瞳を閉じた
どの光も、私は見ない』
トキの言葉は重く響く
自分に言い聞かせるように告げる彼女に、サスケはそれ以上を口を挟むことはしなかった
沈黙が広がる中、誰かの足音が遠くから聞こえてくる
近付く気配にも気付き、2人は口を閉ざした
「お待たせトキ…
これの事でしょう?」
広間に現れた大蛇丸は、手のひらを彼女に向けて開く
そこには確かに指輪が乗っていた
『ありがとうございます、いただきます』
「つけてあげるわ」
『………お願いします』
ふ、と口元を緩め、大蛇丸に片手を差し出す
大蛇丸は彼女の手を取り、人差し指に指輪を通した
手に加わった重みに表情も引き締まる
「これであなたも一人前の暁のメンバーって訳ね」
『………ありがとうございました
私はこれで』
早々に立ち去ろうと足を踏み出す
だがそこに、カブトが現れた
チャキ、と首元にひやりとした感覚がある
クナイを突きつけられているのだ
『………何か、カブトさん』
「大蛇丸様、暁は我々にとっても邪魔な存在…
今ここで、始末するのがよろしいかと」
クナイを首に突きつけたまま、カブトが大蛇丸に意見を求める
カブトの顔を見た大蛇丸はにやりと口元を緩めた
「暁ではあるけれど、彼女は私のお気に入りでもあるのよ
この子の時遁の力は目を引くものがある…
時の姫君に相応しい人間かどうか、興味があるわ」
『……?(時の姫君?)』
「………そんな理由で彼女を生かして、こちらに不利益があったらどうするんです」
「その時はその時よ
それにカブト、今ここでトキを殺すのは無理よ」
「え?
!」
キン、と刀の音が響く
トキの首元にクナイを向けるカブトの、その首元にサスケが刀を向けていた
「………どういう事かな、サスケくん」
「トキには手を出すな」
「どうしてだい?彼女を殺せばイタチが来るかもしれないよ」
「俺の復讐にコイツは関係ない
コイツがいなくても、俺はイタチを探し出して殺す」
「………はぁ
君と言い大蛇丸様と言い、どうしてこうも彼女に惹かれるのか、僕には理解ができないよ」
そう言うと、カブトはクナイを下ろし、トキから離れる
どうも、とカブトに言えば、彼はやれやれと肩をすくめた
「カブト、この子は見所があるわ
私の求めるに相応しい人間へと成長してる
きっと面白い事になるわ」
「………だから生かしておく、と
君も大変だね、トキさん」
『………。』
カブトの笑顔には返事をせず、サスケに目を向ける
サスケも彼女を見ていた
『では、今度こそ失礼します
また会う事もあるでしょう
その時は、こちらも遠慮はしません』
大蛇丸がニヤリと笑うのを見て、ふっと瞬身の術で姿を消した
いなくなったその場所を、サスケはしばらく見つめていた
***
ふ、と場所を移動すると、すぐ近くにゼツがいた
「おかえりトキ、うまくいったみたいだね」
『えぇ
命令通り、木の葉を抜けました
大蛇丸さんから指輪もいただきました』
「そっか、なら
帰ろうか、暁に」
『………はい』
ゼツのあとを追うように、ざ、と足を進める
この先に、あの人たちがいる
私の大切な人たち
一族を無くし、木の葉に見捨てられた私を育ててくれた、大切な人たち
やっと会えるんだ
喜ぶ反面、頭の中では木の葉の風景が次から次へと浮かんでは消え、浮かんでは消えていった
その中にいる、あの背中
それを振り払うように、頭を左右に軽く振る
私はもう、あの場所には戻らないのに
「待っていたぞ、トキ
任務ご苦労だった」
『!
あ………』
懐かしい声が降ってきて、顔を上げる
日の光を背負うその人は逆光で顔が見えなかったが、あの特徴的な瞳は影になっていてもよく見える
『………ペインさん』
「よく帰ってきた」
あの輪廻眼が私の目を射抜く
あぁ、帰ってきたんだ
第8話
帰還
.