裏切り
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
穏やかな風の音が、場違いなほどによく聞こえた
トキの発言は、ナルト達の思考を奪うには十分すぎたのだ
「……何、言ってるのよ」
『………。』
「こんな時に冗談言ってるんじゃないわよ、アンタ何考えて…!」
サクラがトキの両肩を掴み、彼女の顔を覗き込む
だが、彼女の顔を見て、は、と息を飲んだ
トキは、あまりに穏やかに笑っていたからだ
「教えてあげなさい、トキ
そいつらにあなたの真実を」
崩れた壁の上から大蛇丸が声をかける
その声は楽しげで、サクラはキッと大蛇丸を睨んだ
『サクラ』
「!
何?」
サクラがトキに視線を戻す
トキは穏やかに笑ったまま、サクラの目を見つめた
『私が3年分の記憶を無くしていたのは、木の葉に潜入する上で暁の記憶があると危険だと判断されたから』
「……何言ってるの…?」
『リーダーがそう判断して、私が暁にいた頃の記憶を封じ込めたの
サソリさんの術を使って』
「!!」
『カブトさんが以前かけられていた術と同じ術が、私にもかけられていた』
「トキ!」
ナルトが声を荒げる
それ以上しゃべるなと言わんばかりに
トキはナルトをちらりと一瞥し、すぐにサクラに視線を戻した
『術者が死ぬと、術は解ける
分かってるでしょ?』
「………。」
サクラの顔がみるみる曇っていく
この先の言葉を聞きたくないと、やめて、と小さくつぶやいた
だがトキは、口元に笑みをたたえたまま、残酷にも言葉を紡いだのだ
『ありがとうサクラ、私の記憶を取り戻してくれて
それと、よくもサソリさんを殺してくれたわね』
「っ!!」
「サクラ!!」
突然向けられた殺意に、サクラはビクリと肩を揺らす
その一瞬の隙を見逃さず、トキは短刀を取り出してサクラに向けた
だが、ほぼ同じタイミングで、ヤマトもクナイをトキの首筋に突きつけていた
「トキ!!何考えてるんだってばよ!!」
『何?
何って、見たまんまよ
私の仲間を殺した憎い相手を、殺そうとしてるの』
「トキ!!」
ナルトの怒鳴り声に、うるさいな、と小さく呟いた
ヒヤリとしたクナイを首に感じつつ、後ろのヤマトを睨む
「……トキ、これは大きな裏切りだよ
仲間に刃を向けろとは、自来也様もアスマさんも教えなかったはずだ」
『木の葉では、そう習いました
ですが暁では、暁以外の全てに刃を向けろと教わった』
「……そうかい
仕方ない、君の身柄も拘束して、木の葉の尋問部隊に引き渡す
大人しくしろ」
チャキ、とクナイが首に触れる
少しでも動けば刺さってしまいそうだ
「トキ!バカな事言ってないで頭冷やせこのバカ!」
『バカ、ね
私がバカなら、ナルト、あなたはそれ以上のバカだわ』
「あぁ?!」
刀をサクラに突きつけたままナルトを睨む
その目は完全に敵を見る目で、サクラは胸が痛むのを感じた
『私がなぜ、暁の記憶を消してまで木の葉に潜入したか分かる?』
「なぜ…?」
よろ、とナルトが立ち上がり、トキを見る
だがその問いの答えは見つからなかった
『九尾の人柱力に接触するためよ』
「!!!」
ナルトが大きく目を見開く
この答えは予想外だったのだろう、ヤマトやサイも同様のリアクションだ
『暁の至上命令は、尾獣の生け捕り
けど、当時まだ幼かった私は尾獣狩りには参加せず、諜報員として活動してた
その延長で下されたのが、九尾の人柱力との接触命令
九尾の人柱力が尾獣とどの程度呼応しているのか、チャクラを扱い切れているのかいないのか、自分の意志で尾獣化できるのかどうか
それを調べるように命令された』
「…嘘、だろ」
『記憶を消した状態で潜入し、うまくターゲットと接触できるかは賭けだった
……けど、天は私に味方した
ナルト、私はあなたの”友達”になれた
この時点で、私の任務は始まってたのよ
アカデミーに来て、あなたと出会ったその瞬間から、私は知らず知らずの内に暁の任務を全うしていたの』
「ふざけんな!!」
ビリビリとナルトの怒号が鼓膜を震わす
そう言うと思った、と笑う姿すら、偽りだと言うのか
「今までのが全部嘘だとでも言うのかよ!
お前は正真正銘、俺たちの仲間だろ!!」
「そうよ!
それに、アンタの帰る場所は木の葉の里でしょ?!」
『違うよ』
「「!!」」
ぴしゃりと言葉を返す
感情を感じさせない冷たい言葉は、いやに響いた
『私の帰る場所は木の葉じゃない
暁だ』
サクラの喉元に向けていた刀を天にかざし、大きく振り下ろす
そのまま後ろにいるヤマトを刺そうとするが、いち早く察知した彼は、ギリギリのところでかわした
『これ以上は時間の無駄ね』
「!
トキ!」
『ヤマト隊長、この発信機はお返しします
私にはもう必要ないものだ』
ポケットにしまっていた発信器を取り出し、ヤマトに向けて投げる
それを受け取ったヤマトは彼女をじっと見つめた
『私は私の任務を果たす、って言ったでしょサクラ
そのためにここまで来た』
ふっ、とトキの姿が消え、大蛇丸の隣に現れる
大蛇丸はそれを分かっていたように、にやりと笑った
『私は暁
組織から下された命令により
木の葉を抜け、暁に帰還する』
するりと首元に巻いていた額当てを解く
そして、持っていた短刀で、木の葉のマークに傷を付ける
裏切りを表す、真一文字に結ぶ大きな傷を刻みつけて
『九尾の人柱力
次会う時は、お前を生け捕りにして暁に連れて行く』
崩れた壁の上からナルト達を見下ろし、はっきりとそう告げる
ナルトは目を見開き、嘘だろ、と叫んだ
「っざけんなよトキ!!
お前までいなくなるって言うのかよ!!」
「戻ってきてよ!ねぇ!!」
ナルトとサクラの悲痛な叫びを聞いても、トキは顔色1つ変えず、白けた眼差しで見下ろしていた
行きましょう、と優しく肩に手を置く大蛇丸に、はい、と返事をする
「シカマルはどうするんだってばよ?!!」
『!!』
背中を向けていたトキの肩がぴくりと揺れる
それに気付かないナルトやサクラではない
「十班の奴らはお前の帰りを待ってるだろーが!!」
「シカマルとチョウジは幼馴染なんでしょ?!
行方知れずになったアンタを、ずっと信じて待っててくれたんでしょ?!
その2人を裏切るって言うの?!!」
シカマル、その名前だけは、無視する事が出来なかった
産まれた時から一緒で、信頼のおけるパートナーで、仲間で、誰よりも大切な人
家族がいない私にとって、かけがえのない人だ
「トキ?」
足を止めたトキを振り返る大蛇丸
だがその横を抜け、もう一度ナルトを見下ろした
ザリ、と砂利を踏みしめる音でナルトが顔を上げる
トキ、と紡がれた言葉には悲しみがこもっていた
『シカマルに伝えて』
その言葉に、サクラも弾かれたように顔を上げ、彼女を見つめた
『……隠し事するなって約束破ってごめん、て、シカマルに伝えて』
はじめて見せた悲しみの表情に、ナルトもサクラも首をブンブンと振った
「んなこと…っ!お前が自分でシカマルに伝えなきゃ意味ねーだろ!
シカマルはお前を待ってるんだよ!!」
『………待つだけ無駄だよ
ナルトもよく分かってるでしょ
サスケは、待っててもあなたの元には戻ってきてくれなかったじゃない』
そこまで言った時、後ろからぐいと腕を引っ張られた
視線を後ろに向けると、サスケがトキの腕を掴んでいた
『サス「行くぞ」
……。』
最後にもう一度だけナルトとサクラを見下ろし、背を向けてサスケの後を追う
『さよなら』
さよなら、シカマル
ここにはいないその人の名を口にした
***
ナルトとトキが任務を出てから数日
五代目に呼ばれて火影室に行くと、そこには同期がずらりと揃っていた
「……第十班も来たか」
綱手様の声は暗く、何かあったのかと眉を寄せる
その時ふと、トキがいないことに気付いた
ナルトやサクラ、それにサイとヤマト隊長はいるのに、アイツの姿だけ無かった
全員が揃ったのを確認し、綱手様はごほんと1つ、咳払いをする
「単刀直入に言う
空目トキが、里を抜けた」
綱手様の口から出た言葉に、耳を疑った
どういう事だ、何を言ってるんだ
突然の言葉に頭がついていかない
それは他の同期も同じで、みなが綱手様に食ってかかった
だがそれを止めたのは、トキと一緒に任務に出ていたサクラだった
「……私達はこの任務で、大蛇丸のアジトを発見した
そのアジトには大蛇丸とカブト、そしてサスケくんがいたわ」
次に出てきたサスケの名前に、また火影室の中がざわつく
トキは、サスケに会ったんだ
「トキは、自分に課された任務を果たしに来たといって、私に刀を向けた
あの目は、本気の殺意だった」
「な…」
トキがサクラに刀を向けた?
そんなバカな事があるわけないと、いのがサクラに食いかかる
だがサクラの悲しげな顔を見て、いのは顔を曇らせた
「トキが課された任務というのは何だ?
誰から受けた任務なんだ?」
同期が騒めく中、ネジが顔をしかめながらサクラに尋ねる
その問いに、サクラはぎゅっと唇を噛んだ
「……トキの任務は、木の葉を抜けて暁に戻ること
命令したのも、暁」
「暁?!」
キバの素っ頓狂な声は、どこか遠くに聞こえた
暁はS級犯罪者組織であり、どの忍び里も警戒している集団だ
うちはイタチもメンバーに入ってる、危険な奴ら
「暁に戻る、ってどういう事だ」
気付けばそう声に出ていた
俺の声に、サクラが弾かれたように顔を上げる
そして、弱々しく声を発した
「……トキは、暁の一員だったのよ」
しん、とその場が静まり返った
第7話
裏切り
.