自分はだれか
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
暁の一人、飛段を拘束した
身体中に起爆札をまとわせ、火をつけた
アスマの命を無駄にはしない
身体がバラバラになった飛段を見下ろした
「おいテメェ」
「………。」
身体がバラバラになっても息がある飛段がギロリと睨みつけてくる
黙って視線を合わせた
「お前、トキを追いかけてるんだろ」
「………それが何だ」
「忠告してやるよ
お前ら木の葉がトキや暁を追えば追うほど、アイツは苦しむ
アイツは壊れていく」
「……どういう意味だ」
カチン、とライターの蓋を閉じる
飛段はニヤリと笑うと、楽しげにまた話し始めた
「アイツは暁と木の葉を切り分けて考えられてねぇんだよ
本人は切り分けてるつもりかもしんねぇが
お前ら木の葉が暁を追えば、必ず誰かが死ぬ
トキからしたら、暁が死のうと木の葉が死のうと、「自分の大切な人間が死ぬこと」と同義だ
どう足掻いたって、アイツは誰かを失う」
「………。」
「それに、アイツは予知夢の力がある
最初から誰が死ぬのか、アイツはいつも知ってるんだよ
暁が死ぬのか、木の葉が死ぬのか
この間のあの賞金首、あの男が死ぬのも、トキは知ってたんだ」
「!!」
アスマが死んだときの、トキの姿が頭をよぎる
目に涙をためて、けれど流すことはなかったあの姿が
トキは、アスマが死ぬことを知っていたのか、夢に見ていたのか
「トキは木の葉を捨て切れない」
「!」
「だが暁の事も大事に思ってる
だから、苦しんでる
片方を救おうとすれば、もう片方が死ぬ
足掻けば足掻くほど、アイツは自分の無力さに絶望する
お前らが中途半端にアイツを追うことが、アイツを追い込んでるって気づかねぇのかよ
仲間が聞いて呆れるぜ」
ふん、と笑う飛段の姿を睨む
だが話の内容は、聞き逃せないものだった
顔をしかめるシカマルに、飛段は言葉を投げた
「アイツは、暁には向かねぇよ
優しすぎる
その優しさで、いつか自分を殺す
その前に」
ガラガラと岩が崩れていく
飛段の言葉はそこで途切れた
瓦礫で埋め尽くされた大穴
あたりが静けさに包まれたその時、ガサリと音がした
『飛段さん…!!』
鮮やかな空色が現れた
「………トキ」
目の前に広がる光景を見つめ、言葉を失うトキ
その瞳は青ではなく、緑色に変わっていた
「この未来も、お前は知ってたんだろ」
空目一族の予知夢の力は絶大だ、簡単に夢で見た未来を変えることはできない
未来を変えるにはそれ相応の代償がいる
だが何もしなければ、未来は夢と同じになる
「!」
トキの緑色の目から透明な涙がこぼれる
シカマルには目もくれず、ただ目の前の大穴を見つめて立ち尽くしていた
『夢で見てた』
「!」
ポロポロと静かに涙を流しながら、トキが口を開く
シカマルは黙って彼女を見つめた
『………もうすぐ、角都さんも死ぬ
誰かが角都さんを殺す
飛段さんも、角都さんもいなくなる
サソリさんもいなくなった
アスマ先生も、死んだ』
「……。」
『全部知ってた
夢で見たの
誰が、どうやって殺すのか、どこで殺すのか
全部全部分かってた
私は、ただ見てるしかできなくて』
ガク、と膝から崩れるトキ
そのまま地面に両手をついて、肩を震わせている
『私は…っ、もう、誰にも死んでほしくない…!
誰かが誰かに殺されるのも、誰かが誰かを殺すのも、見たくない……!
大切な人がみんないなくなる…!私に関わったせいで、みんなが死ぬ…!!
お願いだから、もう放っておいて…
私に関わらないで!!』
初めて吐露した本音は、グサリと自分自身の心を刺す
自分がいかに弱くて、自分勝手なのか、そんなのは分かっている
だが、もう大切な人に死んでほしくない
その願いを止めることはできない
「………放っておくなんて出来るわけねぇだろ」
『!』
シカマルがトキの肩を掴む
力強いその手に、彼女は顔を上げた
「トキ」
『………!』
久しぶりに彼の口から聞いた自分の名前
その声が優しくて、また涙がこぼれる
その声に名前を呼ばれるのが、好きだった
「俺に助けを求めろ
そしたら、必ずお前を助ける
暁からお前を連れ戻す
俺を信じろ」
『………シ、カ』
「お前の本心はどうなんだ
どうしたいんだ
お前の気持ちを言え!」
『っ!』
ぐ、と手の力が強くなる
シカマルの目に、自分の情けない顔が写り込んでいる
私の本心は、私は、私の気持ちは
『……っ、助けて…!!』
「!!」
暗闇から引っ張って
私を闇から逃して
ここは苦しい
私には、耐えられない
暁の仲間が殺されるのも、木の葉の仲間が殺されるのも、それを夢で見るのも
未来を知っていながら、何もできない自分に絶望するのも
もう嫌なんだ
『私を、助けて…!!』
涙と一緒に溢れた、本当の気持ち
暁のトキでも、木の葉のトキでもない
空目トキの本当の気持ちは、心は、助けを求めてる
壊れかけている心は、すべての絶望から引きずり出してくれる誰かを探してる
その言葉を聞いたシカマルは、トキの肩を掴む手に力を込めた
すぅ、と息を吸い、口を開く
彼女の名前を紡ごうとしたその瞬間、違う誰かが彼女の名を呼んだ
「トキ」
「!!」
『!
トビ、さ』
何もない空間から突如として現れた、暁の衣を着た仮面の男
その男がトキの名前を呼んだ
「こんなところで何をしている」
淡々と言うその男の声に、トキは目を見開き固まる
咄嗟にトキを背中に隠そうとしたが、その前に男が彼女の頭に手を乗せた
「トキを返してもらおう」
その言葉とともに、空間が歪む
そして仮面の男の目に吸い込まれていった
トキもだ
『シカマル……っ』
身体全部を吸い込まれる直前に、彼女が俺の名を呼んだ
そして伸ばされた手に、自分も手を伸ばす
だがその手を掴む前に、彼女の身体は歪んだ空間に消えていった
「トキ!!」
叫んだ声は、森の中で虚しく響いた
***
『シカマル……っ』
トビさんの異空間に取り込まれる直前に、気付いたらその名を呼んでいた
手を伸ばした先で、シカマルも私に手を伸ばしていた
だがそれを掴む前に、視界が闇に包まれた
***
姿が消え、気配も完全に消えた
仮面の男もトキもいない
とりあえず森を出ると、ちょうどサクラとサイが援軍としてこちらに向かっていた
「シカマル!」
「!
おう、終わったぞ」
ぱん、と身体についたホコリを落とす
サクラはキョロキョロと周りを見回した
「……こっちに、暁の一人とトキが行ったって聞いたんだけど
トキは?」
「暁の仮面をつけてる男が、時空間忍術で連れてった
もうここにはいねぇよ」
「……そう」
「………。」
残念そうに沈むサクラ、それを見たサイが、ふと口を開いた
「……君は、ナルトがサスケを追うのと同じようにトキを追っているよね
どうしてそこまでするんだい?」
サイの言葉に、サクラが焦ったようにサイの背中を叩いた
「そんなの決まってる」
「「!」」
ぼそ、と呟いた言葉に二人が動きを止める
シカマルは空を見上げた
「アイツが助けを求めたんだ、俺に
私を助けて、って、ハッキリ言った
だから俺は、これからもアイツを追いかける」
「トキが、そう言ったの?」
「言った
連れ去られる直前に、俺に」
ぐ、と拳を握りしめる。脳裏には、連れ去られる直前の彼女の姿が思い浮かんでいた
涙を流す、彼女の姿が
シカマルのその言葉に、サクラもサイも小さく笑った
「仲間が助けを求めてるのなら、協力しない理由はないわね
私たちもトキを追いかけるわ」
「そうだね
サスケもトキも、二人とも追いかけよう」
に、と笑う二人に、シカマルもゆるく笑いかけた
***
ぐるぐると視界がうずまき、気付くと不思議な空間にいた
空が無く、地面も違う
大きな柱のようなものが乱立しており、その中の1つの上に乗っていた
「ここは俺の異空間忍術の中だ」
『!』
周りを伺っていると、後ろから声がかかる
びくりと肩を震わせ、恐る恐る後ろを振り向いた
「無事で何よりだ、トキ」
『………トビ、さん』
無機質な仮面からは表情は読み取れない
だが、ぞく、と背筋が凍った
「………角都も飛段も死んだか
残念だ、暁に尽力してくれていたのに」
『……………。』
どくんどくんと心臓が激しく鳴る
漠然とした恐怖が身体に残っていた
「お前は何者だ」
『!』
「木の葉の人間なのか、それとも暁の人間なのか
どちらだ」
『わた、し、は』
胸が痛い、息が苦しい
どちらかを選ぶなんて、そんな事、私には
「間違えるなよ」
『!』
ギン、と画面の奥の目が赤く染まる
その目が、また私の身体を支配した
「お前の木の葉に対して思う気持ちは、すべてまやかしだ
任務のために木の葉に紛れていたにすぎない
それ以上でも、それ以下でもないのだ」
『……木の葉は、私の故郷です
思うところもある』
「……空目一族が滅ぼされ、お前が行方不明になった時
木の葉はどうした?何をしていた?」
『え……?』
「行方知れずになったお前の捜索は早々に切り上げられ、悲劇の一族として哀れんだだけだ
木の葉は空目を見限り、捨てたのだ
それでもお前は、木の葉を愛すると言うのか?」
『!!』
捨てた、その言葉に目を見開く
嘘だ、とつぶやいた声は情けなく震えていた
「空目一族は特殊な血継限界を保持する強力な一族で、木の葉の中でもその力は絶大だった
それこそうちはや日向にも劣らない力を持っていた
それ故に、危険性も危ぶまれていた」
『………。』
「もし空目が里に反旗を翻したら……
そんな事をほざく輩もいた」
『馬鹿なことを…』
「事実だ
力がありすぎるが故に、その存在を疎まれていた
そこにあの、大蛇丸による一族滅亡の惨劇が起きた
里の上層部にとって、それは都合の良いものだったんだ
里の中にある危険性が一つ減ったのだからな」
『っ、ふざけないで!』
ガッ、とトビの胸ぐらをつかむ
カタカタと震える手は、彼女の気持ちを表していた
「空目の滅亡も、そしてうちはの滅亡も、木の葉にとっては嬉しいものだった
だから里は、行方不明になったお前を探さなかった」
『嘘だ!!
空目一族は、みんなは、木の葉を愛してた!!
木の葉のために時遁の力を使ってた!!
それなのに木の葉が私たちを捨てるなんて、そんなの…っ!』
「里とはそういうものだ」
『!!』
ぱし、とトビがトキの手を掴む
容易くほどけたその手は、だらりと下に垂れ下がった
「お前たちが木の葉を愛していたとしても、里側は違う
現に上層部の中には、お前が空目一族滅亡の犯人だと考えている奴もいた
これが現実だ」
『………。』
頭がくらくらする
何故だ、今の話が本当ならば、私は、一族は、何のために木の葉に力を尽くしていたんだ
滅んで喜ばれるなんて、いなくなって都合が良いなんて
そんなの
「もう一度聞こう」
がくりとこうべを垂れたトキ
青い髪が顔にかかって、表情をうかがうことは出来ない
「お前は、何者だ?」
トビの声が、異空間忍術の世界の中に溶けていく
『………………私は、”暁”の空目トキです』
ガラガラと自分の中の何かが崩れる音がした
まぶたに焼きついた木の葉の仲間たちの姿が、闇に消えていった
自分の中の何かが歪むのが分かった
第14話
自分は誰か
.