壊れる前に
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
森を抜け、砂漠地帯に出る
初めて来たはずなのに、見覚えがある景色だ
『………!』
頭上の広い大空を、一羽の大きな鳥が優雅に飛んでいる
ちらりとその鳥を見た時、違和感を持った
鳥にしては、飛び方が変だ
『……気付かれたようですね』
「あ?」
「………あの鳥か」
じ、と鳥を見上げる
目が合ったような気がした
『(………いのの、心転身の術)』
鳥に意識を飛ばし、空からターゲットの行動を探る
これは第十班の常套手段だ
つまりこれを指示したのは、シカマル
手の内を知ってる私にあえてこの方法を取ったのは、彼なりの考えがあるのだろう
おそらく、私に関する何かだ
胸がきしむ
目の前を歩く2人の背中と、予知夢の映像が重なる
覚悟は決めたはずなのに、私の心はいともたやすく崩れてしまう
「来たぞ」
『!』
角都さんの言葉には、と意識を戻す
背後から黒い影が忍び寄っていた
バッ、と3人がバラバラに飛ぶ
『角都さん!飛段さん!』
タン、と近くの大木の枝に飛び移り、下を覗き込む
だがその時、背後に気配を感じた
『………!』
後ろを振り向くと、ヒュ、と拳を振り上げる見慣れた大きな身体の彼の姿が
チョウジ、その名を呼べば、彼は分かりやすく動揺した
『っ、らあ!』
その隙を逃さず、一気に間合いを詰めて彼の身体を木の枝から下に投げ落とす
殺気を失った気の抜けたパンチを利用し、そのまま投げたのだ
「うわっ!」
「チョウジ!」
ドゴ、と大きな音と煙を立ててチョウジが地面にぶつかる
そこに、すぐさまいのが駆け寄った
二人の様子を木の枝の上から見つめる
ふつふつと湧き上がる怒りを、そのまま口にした
『チョウジ、今のパンチは何?
そんなんで私を殺せるとでも思ってるの?』
「………!」
「ちが、私たちはアンタを連れ戻しに来たのよ!」
『誰がそんなこと頼んだ?!!』
「「!!」」
ビリビリと響くトキの怒号に、戦っていた角都や飛段も動きを止めた
『言ったはずよ、二度と私の前に現れるなって
私は木の葉の裏切り者、里に戻るつもりはない
私を連れ戻すって言うけれど、私にその意思がないのよ?
連れ戻したところで私はまた里を抜ける
無意味なの
私を里に連れ戻したいと喚くあなたたちの言葉は、私からしたらただのエゴよ!
吐き気がする!!』
矢継ぎ早に放たれる言葉に、チョウジもいのも言葉を失っていた
戸惑う二人を無視し、キン、と腰に差してあった短刀を取り出す
風で暁の衣が揺れる
『暁の私の前に立ち塞がるというのなら、私はそれを排除する
私は、お前たちを殺す』
刀を大きく振り上げ、そのまま枝から飛び降りる
着地と同時に一気に間合いを詰め、チョウジに向けて刃を振るった
キィィィィィン!!
『!!』
刃がチョウジを襲う
だがそれをギリギリのところで防いだのは、カカシだった
『………カカシ先生』
「トキ、やめるんだ
仲間に刃を向けろとは、アスマも自来也様も教えなかったはずだろ」
『……ヤマト隊長にも言われたセリフですよ、それ』
グッと刀を押す
それをはね返そうとカカシが強く押し返したその力を利用して、後ろに飛んだ
カカシと距離を取り、ギロリと彼を睨みつける
その視線を受けたカカシは、硬い表情を崩さないまま声を発した
「トキ、君はなぜ暁にいるんだ
10年前から組織の一員だったというが、君が暁に執着する理由はなんなんだ」
『………暁は、私にとっては家族同然なんです
家族のそばにいたいと願うのは普通でしょう?』
「………それは幻想だ、暁は君の家族じゃない
君は利用されてるんだ」
『それが何ですか』
「!」
カカシが目を見開く
その様子がおかしくて、彼女はくつくつと笑った
『利用されてるなんて百も承知です
暁が求めてるのは私じゃなくて、私の”時遁の力”
でもそれでも良い
私は望んでここに戻ってきた
誰かにとやかく言われる筋合いはない』
「………木の葉は、君の仲間は、君自身を求めてる
俺たちは君の仲間だ
だから仲間を取り戻すためにここまで来たんだ」
『あなた方からしたら、私は仲間かもしれない
けど私にとっては違う
私はもともと任務のために木の葉に潜入した
仲間になったのも、ナルトに近付くため
みんなが知ってる、”木の葉の仲間である私”は、全部嘘偽りの姿なんですよ』
キン、と刀を鳴らす
日の光を受けて鈍く光るそれに、自分の顔が映った
『(……ひどい顔だ)』
自分の顔にふ、と笑う
そしてカカシに向かって駆け出そうとしたその時、後ろから腕を掴まれた
『!
……角都さん』
「お前は下がっていろ」
『私も戦います』
「そんな状態で戦ったところで足手まといだ
見ていろ」
『………。』
何かを言い返そうと口を開く
だが角都は、トキを見ていなかった
「……10年経ってもお前はやはり子供だな
かつての仲間と戦うことに躊躇している
そんな状態で戦ったところで無駄なだけだ
”暁”として戦える覚悟が出来たら、戻ってこい」
ドン、と角都がトキの背中を押す
そして彼女の前に角都と、そして飛段が並んだ
『……………気を付けて、』
消え入りそうな声でそう呟き、後ろに下がる
そのまま近くの大木の枝に登った
『…!』
シカマルと目が合う
彼の視線に耐えられなくて、目を閉じた
夢の通りにならないようにと心の中で唱えながら
***
「……トキ」
「………シカマル、どうする?」
木の上でじっと下を見つめるトキ
青い髪が空と相まって、溶けているように見える
カカシ先生の声に、そっと口を開いた
「トキが戦闘に加わらないのなら、こっちの作戦がやりやすくなるだけっすね
作戦通り、あの二人を二手に分かれさせる」
「………トキはどうする?」
「いのの心転身で意識を乗っ取ることが出来れば良いが、それはほとんど不可能だろうな
トキは俺たちの手の内を知り尽くしてる
トキが戦闘に加わってくる前にケリをつけよう」
シカマルの言葉に、全員が真剣な顔で頷く
そして、角都と飛段を見た
「行くぞ」
***
眩い閃光が角都の胸を貫いた
その景色に息を飲む
『角都さん!!』
カカシ先生の雷切が角都さんの心臓の1つを潰したのだ
だが心配も束の間
彼の身体から、3つの分身が現れた
いや、あれは分身ではない
それぞれが心臓を持ち、自分で動く、人に近いもの
それを見た木の葉の面々が目を見開く様子が見えた
『(……違う)』
角都さんが倒れる場所ではない
夢では、大きな穴があいていた
あんな大きな穴を開けられる力を持ってる人間は、いない
チョウジの倍化の術でもなかった
『(………違う誰かが、あの大穴を作ったんだ)』
どくどくと胸が騒ぐ
迫り来るその時間を前に、私はまた、ただ見ていることしか出来ないのだ
『………っ、ごめん、みんな』
私はまた、指をくわえて見ていることしか出来ないんだ
視界が歪む
その時、シカマルの影真似の術に飛段さんが捕まった
「………飛段と俺を離れさせる作戦か
賢いやり方だ」
余裕そうに笑う角都さん
だが私の頭の中では、警鐘が鳴り響いていた
飛段さんがシカマルと消えた
夢と同じだ
『(飛段さんが)』
やられる
焦る気持ちが身体を支配したその時、下から名前を呼ばれた
「トキ!!」
『!!』
大きな声にびく、と肩を震わす
私の名を呼んだのは角都さんだった
「飛段とあの小僧が気になるのなら、行ってこい
ここは一人で十分だ」
『けど…!』
「早く行け!!」
『っ!!』
背を向けたままの角都さんから厳しい声が飛んでくる
私をシカマルたちの元へ向かわせたいように聞こえた
『………ご武運を…!!』
木から降りて、シカマル達の後を追う
頭の中で、警鐘はさらに大きくなった
『……やめて……、これ以上、誰にも…!!』
はやる気持ちと、頭の中で鳴り響く警鐘
しっかり地に足をつけているのかも分からない状態で、真っ直ぐにシカマルと飛段さんを追いかけた
***
トキの気配が遠くなったのを確認し、カカシが口を開いた
「………トキを向かわせたのは何故だ?」
「………アイツはまだ幼く、心が脆く、弱い
そしてその脆さと弱さを助長しているのは、アイツ自身が持つ予知夢の力だ
トキが見る予知夢は全て、自分の周りの人間が不幸になる夢
そして大半は、その人間の死を予知する
それを見るたびに、アイツは未来を変えようともがき、あがき、苦しむ
だが、結局は予知夢の通りになる
アイツは、大切な人間の死に様をいつも二度、見てるのだ
この間の賞金首の時と同様にな」
「……!
じゃあ、アスマ先生の夢も…」
は、といのが神妙な面持ちで小さく呟く
その声が聞こえた角都は、ふん、と鼻を鳴らした
「あの賞金首は、トキの師だそうだな
アイツは恩師の死に様を二度も見た
夢で見たのに、未来を変えられなかったと自分を責めた
そしてそれが積み重なれば、アイツはやがて……」
角都はそこで一度言葉を区切り、ちらりと視線を彼方に向けた
その方角は、彼女が走って行った方角だ
「心をなくす」
心をなくす
あまりに曖昧なその表現に、カカシは顔をしかめた
「……それとトキを向こうに行かせた理由に何の関係があるんだ?」
「………あの小僧は、トキにとって大切な人間なんだろう?
暁とも、木の葉とも違う特別な人間
あの小僧なら、トキを……」
「?」
ふいに、また角都が言葉を止める
続く言葉を待っていると、角都は視線をカカシに戻した
「………トキを向こうに行かせたのは、気まぐれだ
それにこちらとて、一人で十分なのは事実
それだけだ」
「………どうやら続きを言うつもりは無いようだな」
バチバチとカカシの手から閃光が走る
それを見つめ、角都は目を閉じた
そしてまぶたに焼きついた鮮やかな空色を思い浮かべる
「ここまでだ、トキ」
トキはおそらく、予知夢を見た
そしてその未来を変えようと、また心を痛めているのだろう
「運命に逆らい続ける事が、お前自身を壊していくんだぞ
トキ」
だがそれは彼女に課せられた宿命なのかもしれない
時間を操る一族の、その中でも稀有な「未来」を見ることが出来る能力を持って生まれてしまったが故の、悲しい運命なのかも知れない
「壊れる前に、止めてくれる者が現れることを」
誰にも聞こえないその声は、乾いた風にさらわれていく
目の前に現れた、新たな木の葉の忍
九尾の人柱力の手によって、俺は死ぬ
せめてお前は生きて、そして
「壊れる前に、誰かに」
自ら闇に堕ちていきながら、本当は心のどこかで光を求めている
助けてと叫んでいる
その声に気付いてくれる者が現れることを祈ろう
まぶたに浮かぶ鮮やかな空色の髪の毛が、目の前に広がる青空と重なり合って溶けていった
「さらばだ、トキ」
***
『………!』
は、と後ろを振り返る
誰かに呼ばれたような気がした
だがそこには誰もいなくて、近くには鬱蒼と生い茂る木々、そして遠くには砂漠地帯が見えるだけだ
『………角都さん…?』
名前を呼ぶ声が聞こえたような気がした
だが、角都さんとの距離はもうかなり離れている
声が届くはずがないのだ
『……行かなきゃ』
まずは飛段さんのもとへ
ザザ、と草むらをかき分けて走る
気配がだんだん近くなるのが分かった
ドォォォォォォォォン
『!!』
大きな爆発音、そしてすぐに爆風が襲ってきた
思わず体勢を崩し、膝から地面に崩れた
『………何、今の音』
ドクドクと心臓が激しく鳴る
やめて、お願いだから
『飛段さん……!!』
誰にも死んでほしくない
そう願えば願うほど、現実はさらなる悲劇を迎える
目の前には大きな穴、そしてそばで佇むシカマルの姿
飛段さんの姿は無かった
『飛段さん…!!!』
また、失った
第13話
壊れる前に
.