二つの自分
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ふ、と姿を消したトキ
最後に見えた彼女の目には、涙がたまっていた
『二度と私の前に現れるな!』
そう叫ぶ彼女の姿はとても痛々しくて、見ていられなかった
あの言葉は本心ではない
俺たち三人はそう確信していた
彼女は、アスマの死にショックを受けていた
悲しんでいた
青空を連想させる青い瞳は、それを雄弁に語っていた
***
『っ、は、はぁ、はっ』
胸が苦しくてその場に崩れる
今は角都さんと飛段さんのもとを離れ、1人森の中を走っていた
2人は今、意識を飛ばして二尾の封印を行っている
それの護衛のため、見回りをしてくると銘打って出てきたのだ
『あ、ああぁぁぁぁぁ!!!』
誰もいない静かな森の中に叫び声がこだまする
膝から崩れ落ち、ズキズキと痛む胸を押さえながら叫び続けた
アスマ先生が死んだ
殺したのは、飛段さんだ
『どうして…!なんでこんな事になるの…!!
私はこんなの、望んでない!!
私はただ、大切な人たちの元に戻っただけなのに…!!』
ガン、と地面を強く殴る
拳からじんじんと痛みが広がった
『……私がいるから』
一族も滅んだ
サスケも里を抜けた
サソリさんも、アスマ先生も死んだ
私が生きているから
私に時遁の力があるから
予知夢をみる力があるから
他の人とは違うから
だから私の周りの人は、死んでしまったんだ
『……私がいるから』
キン、と短刀を取り出す
自分の喉に刀の先を突きつけた
『私がいなければ良いんだ』
短刀を勢いよく振った
自分で自分の喉を切るために
ひゅ、と風を切る音がする
だが痛みは来なかった
恐る恐る目を開き、そして自分の腕を掴む誰かの手に気付いた
『………トビ、さん
どうしてここに』
私の腕を掴み、自害を止めたのはトビさんだった
何故ここにこの人がいるんだ
戸惑う私を無視し、トビさんは大きく息を吐いた
「……トキ、なぜ死を選ぶ」
『………私がいると、私の大切な人が悲しむ
そんなの、見たくない』
「ならば目を閉じればいい」
する、と手が離れる
力なく地面に降りた手から、短刀が零れ落ちた
「この世界は腐っている
常に戦いがはびこり、誰かが死ぬ
人間は愚かな争いを続けるばかりで、何も学びはしない
だから暁がいるのだ」
『………何を言って』
「この世界を一度終わらせる
そして暁が、悲しみのない新たな世界を作るのだ
誰も死なない、誰も悲しまない世界を」
『………。』
トビさんの話し方に既視感を覚えた
そう、この話し方
私の望みを叶えるために甘言で惑わす、麻薬のような言葉
それがあるシーンと重なった
『………あの日、私を暁に連れてきたのは、あなただったんですね』
「………。
お前の時遁の力は、新たな世界を作るのに必要だ
その力があれば、誰も悲しまない世界を作ることが出来る
暁には、お前が必要なのだ」
トビの言葉は、じわりじわりとトキの心を縛り付けていった
大切な人間を失う悲しみを
木の葉と暁で揺れる心を
壊れそうな心を
すべてを溶かすようだ
トビの無機質な仮面を見つめる
表情をうかがえないものの、彼はおそらく笑っているだろうと感じた
『………暁の目的は、一体何なんですか
尾獣を集める理由は何ですか』
「暁は尾獣を集め、そして
世界を征服する」
『………世界を、征服…?』
漠然とした、そしてあまりに大きいその目的に、トキはぽかんと目を見開く
実感が湧かなかった
『……世界征服のために、尾獣の力が必要なのは分かります
けど私の時遁は、何のために』
「言っただろう、新たな世界を作ると
尾獣で世界を征服したのち、お前の力が必要になる
神と同等と言われる、時間を操るその力
そして、その力の正統な後継者であるお前自身
この2つが無ければ、新たな世界を作り上げることは出来ない
だからお前を暁に連れて来た」
『………あなたは何者ですか
私を暁に連れて来たのはあなたでしょう?なのに今、トビと名乗って暁の新入りのフリをしてる…
何のためにそんな事を』
「それについては、時が来れば話してやる
今の話は俺とお前だけの秘密…、誰にも話すな
いいな」
『…!』
ふ、と仮面の奥に光が宿る
暗闇でも赤く輝くその瞳には、見覚えがあった
『写輪眼…?!
あなたは一体………っ!』
写輪眼を真正面から見てしまった事で、彼女の意識はさらわれる
ぱたりと身体を倒したトキを見下ろし、トビは息を吐いた
「厄介な小娘だ
だが、死なせるわけにはいかない
”無限月読”に時遁の力が加われば、夢の中で永遠に同じ時を繰り返す、完璧な世界が出来上がるのだから」
トキを抱きかかえ、近くの大木の根元に下ろす
意識を失っているのを確認し、トビはズズズと何もない空間に消えた
***
『……………!!』
はっ、と目を開けて身体を起こす
だがそこにトビの姿はなく、代わりに、木々が枯れた、砂漠地帯が広がっていた
気付けば、森の中で眠っていたはずの自分の身体は、水分がほとんどなくなった、枯れた大木の枝の上にあった
そして眼下で繰り広げられる、角都の戦い
戦ってる相手はカカシと、いのとチョウジだった
『………また、予知夢…!』
アスマ先生の復讐をしに来たんだ
大切な仲間が復讐に走った事が悲しくて、また胸が傷んだ
だがその時、ある事に気付く
『………飛段さんがいない』
目の前にいるのは角都さんのみ、そしてコンビである飛段さんの姿は無かった
そして戦っているカカシ先生といのとチョウジ、こちらは三人でいる
だが木の葉の任務は基本四人一組
もう一人いるはずだ
その一人が、おそらく飛段さんと別の場所で戦っている
『………シカマルだ』
姿を見なくても分かる
シカマルが追ってきたんだと
そう呟いた瞬間、遠くから何かが崩れる音が聞こえた
そして視界がさらわれ、違う場所に移動する
『………!!
飛段さん!!』
次に目を開けた時、さっきとは打って変わって、緑が生い茂る森の中にいた
そして目の前で対峙する2人は、どちらも予想通りだった
だが、飛段さんの身体は拘束され、起爆札が身体中を覆っていた
「そいつがてめーの墓穴だ」
シカマルがそう言って、ライターを投げる
そのライターは、アスマ先生が愛用していたものだった
目の前で閃光が走り、強烈な爆風が襲う
耐えきれずに目を閉じたら、またぐるりと視界が変わった
『………………!!』
風が止み、恐る恐る目を開ける
そして視界に飛び込んできた景色に息を飲んだ
『なに…、これ…』
角都が戦っていたはずの場所には、まるで隕石が落ちたかのような大きな穴がぽっかりとあいていた
そしてその中心で、力なく横たわる人の姿
『角、都、さ………!!』
あぁ、まただ
今度は暁の仲間が殺される
私の大切な人が、私の大切な人を殺す
シカマルが飛段さんを殺し
木の葉の仲間が角都さんを殺す
『もうやめてぇぇぇぇぇぇ!!!!』
頭が割れそうなほどに叫んだ
予知夢を壊したくて
この運命に逆らいたい
誰にも死んでほしくない
大切な人には、生きていてほしい
けど私に、この未来を変えることはできるの?
変えたら、どうなる?
もし飛段さんが生きたら?
角都さんが生きたら?
そしたら間違いなく、木の葉の誰かが死ぬ
飛段さんが生き残れば、彼は必ずシカマルを殺す
そして角都さんが生き残れば、必ずカカシ先生やいのやチョウジを殺す
どちらに転んでも、誰かが死ぬ
なら私は、どうすればいい
自問自答を繰り返しても、その答えは出てこなかった
やがて視界が暗くなる
その感覚で、夢が覚めると分かった
***
『………!』
ふ、と目を開ける
するとそこは、木々が鬱蒼と生い茂る、静かな森の中だった
「起きたか」
『あ……』
「あれっ、目が緑色じゃねえか
また予知夢ってやつを見たのか?」
自分が寄りかかっていた大木の裏から、聞き慣れた声がする
角都さんの声だ
そして私の顔を覗き込むのは、飛段さんだった
「何を見たんだ?」
『………え、と』
飛段さんの問いかけに言葉を詰まらせる
早く誤魔化さなければ、と焦る気持ちが募って、声が出なかった
「俺たちが死ぬ夢か」
『!!』
角都さんの確信を持った言葉に、思わず身体が揺れる
だがすぐに、へらりと笑った
『………違います、お二人は死にませんよ
ただこの後、木の葉から襲撃を受けるようです
気を付けないと』
「………そうか
なら、道中は用心しながら進むしかないな」
角都さんはふいと視線をそらす
頭のキレるこの人のことだ、今の私の挙動不審っぷりに気付いただろう
だが角都さんは、初代火影と戦ったことがある人間
人の心臓を奪うことで生き続けてきた、ある意味不死身の人間
そして飛段さんも同じく、心臓を貫かれても生きられる不死身の身体
私の予知夢ごときでは、二人とも死ぬとは思わないだろう
現に私だって、彼らが死ぬとは信じられないのだから
歩き出す角都さんと飛段さんの背中を見つめ、胸を押さえる
ズキズキと痛み続けていた
2人に死なないでほしいと願う自分と
シカマルたちに死なないでほしいと願う自分
2つの心が自分の中で渦巻いているのは事実だった
第12話
2つの自分
.