大人ではない
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
我愛羅からまとまった休みをもらい、久しぶりにゆっくり羽を休めていた
せっかくだから最近忙しくて行けなかったお墓まいりをしようと、砂隠れでは数少ない花屋に行き、綺麗な花を買ってお墓に向かった
”チヨ”
そう刻まれた墓石の前に花束を置き、ゆっくり両手を合わせる
『……お久しぶりです、チヨばあ様』
にこりと墓石に微笑みかけると、砂漠特有の乾いた風が吹き抜けていった
『………チヨばあ様、私どうすれば良いんでしょうか』
墓石の前にしゃがんで、小さく呟く
だがもちろん返事が来ることはなくて、ただただ胸に寂しさが広がるだけだった
『……いつか、私かテマリに政略結婚の話が来ると思ってました
テマリは先代の風影の娘で、現風影の姉
私も、我愛羅と同じ班で医療班長だから、大名の目に留まるには十分だと思います
けど、いざ自分がその状況におかれたら、怖くなって』
膝を抱え、そこに顔を埋める
彼女の目からは、一筋の涙が流れていた
『政略結婚なんてしたくない
シカマルさん以外の人と結婚なんてしたくない
シカマルさんの事は本当に好きなんです、でもそれと同じくらい、我愛羅たちの事も好きなんです…』
我愛羅たちの前でははっきり言えなかった言葉を口にする度に、ぽろぽろと涙がこぼれる
それは砂漠の乾いた砂に、シミを作っていった
『我愛羅が風影になる前、里の大半は我愛羅の事を恐れていた
けど我愛羅はたくさん努力して、少しずつ里のみんなに認められるようになった
それでやっと我愛羅は風影になれた
我愛羅が風影になるまで、私もテマリもカンクロウも、たくさん泣いて、笑って、怒って、努力した
我愛羅のために必死になった
その全部があるから今の我愛羅があって、今の私があるんです
私が医療班の班長になれたのも、我愛羅たちのおかげ
その今までを、全部私が壊してしまうかも知れないんですよ』
はは、と乾いた笑いがこぼれる
自分でも、自分が不安定なのが分かった
『私がナイ様と結婚しなければ、我愛羅たちの行く道が閉ざされる
けど私が結婚すれば、道は開かれる
………こんな二択、すぐ決められるわけない…
私はシカマルさんを諦めることも、我愛羅たちの邪魔をすることも出来ないです…!!』
ザァ、と強い風が吹き抜ける
それがまるで、私の背中を押してくれているように感じた
『………会いたい……』
そよそよと風に揺れる花束を見つめ、ぼそりと呟いた
『………会いたいよ……、シカマルさん……!』
***
「瑞乃」
『!
テマリ…』
チヨ様と両親の墓参りを終え、里の中を歩いていると、テマリに声をかけられた
その後ろには顔見知りの砂忍たちが数人立っている
その身なりからして、任務に行くんだろうと思った
テマリはその忍び達に一言断りを入れ、私の元に来た
「これから合同任務に出かける」
『……気を付けてね』
「それだけか?」
『………。』
じ、とテマリの目が真っ直ぐに私を見つめる
その目に映る私は、情けない顔をしていた
「シカマルに、本当に言わなくて良いのか」
『……言わないで、巻き込むわけにはいかないから』
「私は巻き込むべきだと思う
あいつはこの問題に口を出す権利があるだろう
お前を助けられるのは、あいつしかいない」
『……。』
「会いたくないのか、あいつに」
「テマリ隊長、そろそろ行かないと約束の時間に遅れますよ!」
言葉を詰まらせていると、部下の一人がテマリを呼んだ
それにテマリは「あぁ」と短く返す
『………会いたいに、決まってる…!』
「!」
ぱ、とテマリが振り返って瑞乃を見る
けど彼女は顔を上げていなかった
『会いたいよ、会って、全部ぶちまけて逃げてしまいたい
けど逃げる訳にはいかない』
「………。」
『大丈夫だよ、テマリたちに迷惑はかけない』
テマリが何か言いたげに見つめるが、瑞乃はにこりと笑うだけだ
その目元が赤くなっていることに気付いたが、何も言えなかった
***
テマリ達が合同任務に出る数日前の木の葉では、シカマルが綱手に呼び出されていた
「で、呼び出された理由は何すか
合同任務についてですか」
「……いや、任務とは関係ない
だがお前に関係のある事だ」
「?」
そう言うと、綱手はバサリと1つの巻物を開いた
見た感じ、砂から送られた物のようだ
「我愛羅からある報告が届いた
私宛てではあるが、お前に向けたものだろう
これを読んでどうするかは、お前に一任するそうだ」
「?
はぁ…」
我愛羅が俺に何の用だと首を傾げるが、ふと思い当たる事はあった
「……瑞乃絡みっスか」
「……まぁ、そうなるな
我愛羅からの報告は、要約するとこうだ
虹色瑞乃は、砂隠れの大名に求婚されている」
「……………はっ?」
綱手の言葉に、ポカン、とあっけに取られる
出てきた話が予想をはるかに越えていたので、すぐには理解出来なかった
「聞き取れなかったのか?」
「いや、聞こえて、ました、けど」
「こういった話は珍しい話ではない
隠れ里と大名の絆を深めるために、大名と忍が結婚することは今までも数多くあった
いわゆる政略結婚だな
その相手として、瑞乃は適任だ
砂隠れで一番の医療忍者で、現風影と同じ班の出身、先の大戦では医療部隊の副隊長も勤め上げた逸材
名前も力も知れ渡っている優秀な忍だ
その瑞乃を引き入れる事は、今後の砂との関係はもちろん、大名の中のヒエラルキーも大きく関わってくることになる」
「………………。」
開いた口が塞がらないとはこういう事を言うのだろう
まさか自分が何年も付き合ってきた恋人が、違う男に結婚を申し込まれるなんて思いもしなかったのだから
驚きと戸惑いで固まるシカマルを見て、綱手は大きくため息をついた
「………政略結婚でも断る事は出来る
だが今回は、少しばかり厄介らしい」
「………厄介、っていうのは?」
「瑞乃に求婚してる大名は、結婚しなければ今後、風影と砂隠れの里に一切協力も援助もしないと言ってるらしい」
「は?脅しじゃないすか」
「ほとんどそうだな
その求婚してる大名も焦っているのだろうな、自分の一族の存亡や大名の中の立場とか、力関係に
だから無理やりにでも瑞乃を取り込むことで、立て直したい考えがあるのだろう」
ぽいと巻物を放り投げ、嫌なやり方だ、と顔をしかめる綱手
シカマルは放り出された巻物を手にし、中身に目を通した
「我愛羅が言うには、瑞乃は自分たちとシカマルを天秤にかけているそうだ
それで悩み、苦しんでいると
瑞乃が本当の気持ちを殺し、望んでいない答えを導かないためにも、力を貸して欲しいとの事だ」
「………望んでいない、答え」
「お前との縁を切り、砂隠れの里のために政略結婚を選ぶことを言ってるんだろう」
「…!」
どき、と心臓が嫌な音を立てた
瑞乃は自分と別れ、その大名と結婚するつもりなのだろうか
自分に笑いかける彼女の笑顔が脳裏をよぎる
「どうする」
「え………」
「我愛羅はお前の答えを待っている」
「………。」
綱手の真っ直ぐな視線に、耐えられず思わず視線を逸らした
「……いきなり、そんなこと言われても」
「………まぁそうだろうな、混乱もあるだろう
まずは自分に聞いてみろ」
「え?自分?」
「お前はどうしたいのか、だ
瑞乃が自分以外の男と結婚しても良いのか、それとも自分と一緒になって欲しいのか」
「そんなの………」
彼女を取られるのは嫌だ
その答えは変わることはない、だがその前に
「俺たちはまだガキです」
「………。」
「今すぐどうこうすることは出来ません
アイツがその大名を選んでも、まだガキで力もない俺が奪い取ることも出来ない
大名以上のものを、俺は持ってないっスよ」
「………瑞乃はお前に地位や力を求めてるわけじゃない
そんな事、お前が一番わかってるだろ
たとえお前が何も持っていなくても、瑞乃はお前といる事を選ぶと思うが」
「……。」
「女とはそういうものだ
ま、ガキのお前にはまだ難しいかもしれないな」
ふ、と笑う綱手様に自然と顔をしかめる
「まだ時間はある
合同任務で砂に行くのだから、瑞乃と会ってみろ
ガキだの地位だの、そんなのは考えなくて良い
大事なのはお前の気持ちだ」
「………うす」
失礼します、と頭を下げて火影室を出る
廊下に出て少し歩き、はー、と頭に手を当てた
突然のことで頭がついていかない
合同任務の事も考えなければいけないし、他にもやる事が山積みなのに
「………会いてぇな」
真っ青な空を見上げ、彼女を思う
今頃どうしているのか、何を考えているのだろうか
.