第二の試験 予選
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「………。」
一通り話し終えた瑞乃さんは、私を見ると困ったように小さく笑った
『……いきなりこんな話されても、困りますよね
今のは聞かなかった事にしてください』
「あ……、いや、そんな」
あわあわと胸の前で両手をぶんぶん振ると、瑞乃さんはまた笑う
何て言えばいいのか分からずに困っていたら、会議が終わったらしい複数人の足音が聞こえてきた
会議から戻った一団にはシカマル先輩もいたが、先輩は後ろの方でまだ何やら話し込んでいる
一団の先頭にいた医療班の人が瑞乃さんに気付くと、パタパタと寄ってきた
「虹色上忍、ちょうど良かった
少し話があるのですが、お時間よろしいですか?」
『はい、かまいませんよ
アカリさん、失礼しますね』
「あ……、はい」
ぺこりとわざわざ会釈し、その医療班の方と会議室に向かう瑞乃さん
空色の髪は、どんなにたくさん人がいてもすぐに分かるくらい目を引いた
「アカリ?」
「!
シカマル先輩、お疲れ様です」
「おう、お疲れ
こんなとこで何してんだ?」
「瑞乃さんとお話ししてました」
「へー
カンタと言いお前と言い、瑞乃に懐いてんな」
はは、と軽く笑うシカマル先輩に、また胸がキュンと鳴る
ダメなのに、もうこの人には相手がいると言うのに
「…瑞乃さんに色々話してもらったんです、シカマル先輩と出会った時の話とか
木の葉崩しの時の話とか…」
「!」
「瑞乃さんってすごく優しそうに笑うけど、色々な事を経験してきてるんですね
木の葉崩しにしろ、忍界大戦にしろ…、ペイン襲撃の際も木の葉にいたって言ってました
………あの人、凄いですね、本当に大人で
私だったら、あんな風に笑えるか分かりません
私は、何も経験していませんから」
「…………。」
そう呟いて、瑞乃さんの後ろ姿を見る
遠ざかっていくその背中を見つめ、自分の経験の無さを実感していた
「自分が経験してきた事を、お前らには経験させたくない」
「?」
「アイツが昔言ってた言葉」
ガタ、と先ほど瑞乃さんが座っていた場所に座ると、シカマル先輩は資料の束でパタパタと顔を仰ぎ始める
シカマル先輩の顔を見る
先輩の視線も、瑞乃さんの背中に向けられていた
「アイツは砂隠れの忍の中でも優秀だ、だから前の大戦でも医療部隊の副隊長に抜擢されてた
その時は15か16だったな、アイツ」
「凄いですね、本当に優れてて
大戦でも活躍されたんでしょうね」
「……活躍、ね」
「?」
シカマル先輩がふと言葉を途切れさせる
何故だろうと先輩の顔を見た
「医療忍者ってのは人の命を救える貴重な人材だ
小隊に医療忍者がいるかいないかで、任務の成功率に大きな差が出るほどに
それは知ってるだろ」
「え…はい、知ってます」
「けど医療忍者は、誰よりも精神的な負担が多い
それは優秀であればあるほどに、な」
ふう、と息を吐くシカマル先輩
この話はきっと、瑞乃さんの話と関わっているんだろう
「瑞乃は医療部隊で重要なポストに就いていた
アイツは戦場で倒れていく忍の命と、それに加えて多くの部下の命を背負ってたんだ
目の前で救える命とそうじゃない命、その両方を見てきたんだよ
だから俺たちよりも、アイツは命の重さを知っている」
「………。」
「アイツは、俺たちなんかよりも何倍もの数の人間が死んでいくのを目の当たりにしてきた
それでだろうな
大人に見えるのは」
パラ、と手元の資料をめくり始めた先輩
今の話も、自分にとっては次元が違うように感じた
自分はもちろん医療忍者ではないし、目の前で人が死ぬところを見たのも数える程度しかない
けどあの人は、私はおろか、シカマル先輩よりもたくさんの人が亡くなっていく場面を見てきたのか
「……瑞乃さんて、弱ったりする事あるんですか?」
「……あー…、あるな、たまに
大戦の時も、色んな人の訃報を聞いて参った時があった」
「その時はどうしたんですか?」
「その時は、アイツは誰にも言わないで一人で人気のないとこに行って、夜空を見上げてた」
「夜空…」
「アイツ、人一倍強がりだからな
誰かの前で泣くのは苦手なんだと
それにあの時は、アイツはひとつの部隊を動かすリーダーだったし、余計に部下の前では泣けなかったんだろ」
ふっと笑うシカマル先輩は、その時のことを思い出したのか優しい顔をしていた
瑞乃さんはシカマル先輩の前でも泣かなかったのだろうか
そのままそれを問いかければ、先輩は「まさか」とケタケタ笑う
「俺の前では強がったりしないし、それをさせないからな
俺の前でだけ泣けば…いい……って……
待った今のなし」
「……照れてるんですか」
自分の言ってる事に恥ずかしくなったのか、先輩は資料で顔を隠す
その耳は真っ赤に染まっていた
「……素敵ですね、お二人」
「あ?」
「そういう風に思ってくれる相手がいて、羨ましいなって思ったんです
私も見つかるかなー、シカマル先輩みたいな人」
少しだけ、欲を出してみた
まだシカマル先輩への思いを捨て切れない自分は、子供だなと思いながらも
まぁ、きっとこんなアピールじゃこの人は気付かないだろうけど
「お前なら良いやつが見つかるだろ
俺みたいなイケてねータイプじゃねーやつ」
「………そうですね!シカマル先輩イケてねー派ですもんね!
いの先輩達がよく言ってますし」
「……お前、後輩のくせに生意気だなおい」
「先輩がご自分で言ったんじゃないですか
それに、そんなに卑下したら先輩を選んだ瑞乃さんに失礼ですよ!
あんな素敵な人に選ばれたシカマル先輩も、十分イケてるんじゃないんですか?」
「………。」
ふふ、と笑いながら先輩の顔を覗き込めば、また先輩は顔を赤くした
「っ、うっせーな!
瑞乃はアレだよ、その…、趣味が変わってんだよ!」
「うーわ、それ後で言っておきますね」
「!
バカやめろ!」
「あはは!」
ほんのりと頬を赤く染め、焦った様子のシカマル先輩をケタケタと笑う
だがその反面で、心は泣いていた
***
翌朝、合格者が出揃った
本戦に出る出場者をふるいにかけるため、予選を行う運びになっている
『ここからは一対一で戦ってもらいます
片方が戦闘不能、もしくはギブアップをした時点で戦闘はやめ
また、試験官がこれ以上は危険だと判断した場合のみ、仲介に入って戦闘を強制的に終わらせます
本戦への出場条件はもちろん勝利すること
組み合わせはランダムです
質問がなければ、今から予選を行います』
凛とした声が闘技場に響く
受験生たちは緊張した面持ちで瑞乃の話を聞いていた
そして最初の組み合わせが発表された
『ではこれより、中忍試験・第三の試験の予選を行います
初戦の二人、前へ
他の者は上へ上がってください』
瑞乃の声に受験者たちがぞろぞろと移動する
そこで彼女の役割は違う者と交代になった
「お疲れ、これで終わりか?」
『いえ、あとは救護班に
怪我人の手当がありますので』
「そうか」
試験係が集まる場所に戻ってきた彼女と少し会話をし、試合の流れを見守る
途中、負傷によるリタイア者には瑞乃の指示のもとで救護班が保護をするなど、スムーズに試合は進んでいった
『………あの頃とは、大違いですね』
「え?」
負傷者を救護する医療忍者チームを見ながら、瑞乃がポツリとつぶやいた
医療忍者チームは、木の葉の忍びはもちろん、砂隠れの忍びや他の里の忍びも混ざっている
『規模も大きくなって、参加国も多くなって、私たちが試験を受けた頃とはまるで違う
すごいなって思ったんです
あの頃じゃ考えられなかったですよ、多里と交流をはかって、なおかつ同じチームで働くなんて』
「………。」
瑞乃が感慨深そうにしみじみと言う
同じように、バラバラの額当てをつけて活動する試験係や、多里同士で話をしている受験生たちを見た
「………確かにな、あの頃に比べて時代は変わった
多里との交流なんて昔はあってないようなものだったし、そういうのは戦争の火種になりかねないものだったしな」
ふ、と小さく笑うシカマルに、瑞乃は顔を上げて彼を見上げた
『けど、そんな中で私たちは出会ったんですよ
それってすごい事ですよね』
ふわりと微笑む瑞乃
その笑顔は、ここで初めて出会ったあの頃と比べてずっと大人になっている
そしてあの頃は短かった青い髪は、そよよと風になびいて彼女の背中を隠す
時の流れを感じた
それと同時に
こうして出会って、親しくなって、恋仲にまでなった自分たちの関係や出会いは、とても稀有なものなのだと感じた
.