任務失敗
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
指先の感覚が戻ってくる
暖かい
誰かが私の手を握ってるんだ
「トキ…!」
泣きそうな声が聞こえる
この声を知ってる、そうだ、いのだ
いのの声だ
『………い……の…?』
「!!
トキっ!!」
ゆっくりと目を開ける
だがすぐに、眩しさで目を細めた
『……ここ、は』
「木の葉病院よ、良かった、目が覚めたのね…!!」
「トキ!」
首を少し曲げると、いのが私の手を握って涙ぐんでいた
そしてその横にアスマ先生が立っていた
『アス、マ、先生…』
声がカサカサで、うまくしゃべれない
喉もひどく乾いている
それを察したのか、いのが手を離し、ベッドサイドに置いてあるコップを取った
「待ってて、水持ってくるから!」
『あり、がと』
「起きれるか?ほら、ゆっくりだぞ」
いのが病室を出て行き、アスマ先生に背中を支えられて身体を起こす
ようやく眩しさに慣れた目を開き、周りを見ると、確かに見慣れた木の葉病院の一室だった
『………!
せん、せ、みんなは』
「大丈夫、みんな無事だ」
『サスケは』
「………サスケは、いない」
『!』
サスケはいない
じゃあやはり、終末の谷からサスケは1人で行ってしまったのだ
お前は光の中にいろ
サスケが最後に残した言葉が耳に蘇った
『……みんなはどこにいますか…』
いのが水を持って戻ってきて、それをゆっくり飲んで喉を潤す
身体の中に水が入っていくのがはっきりと分かった
「チョウジとネジはまだ入院してるが、2人ともほとんど全快だ。すぐに退院できる
キバも入院していたが、先に退院してる
ナルトはまだ入院が必要
シカマルは軽い怪我で済んだよ
みんな、無事に戻ってきた」
『……私は一体』
「トキは、外傷は無かったもののチャクラの消費が激しかった
カカシが保護した時には衰弱してたそうだ
心当たりは、あるな?」
『………はい』
ふっとトーンが下がったアスマの声に、トキは目を伏せる
戦闘をほとんどしていない彼女が誰よりも長く眠っていたのは、衰弱していたのは、もちろん理由がある
誰にも言わなかった理由が
やはりバレてしまうか、と息を吐いたその時、病室の外からバタバタと騒がしい音が聞こえてきた
「トキっ!!」
扉を壊す勢いで入ってきた人物を見て、思わず目頭が熱くなった
無事で良かった、かすれた声でつぶやいたその声は、彼に抱き寄せられた衝撃で掻き消された
***
「はたけカカシがうずまきナルトと空目トキを保護、つい先ほど、木の葉に戻ってまいりました!!」
チョウジの手術が終わって、綱手が治療室から出てくる
そこにシズネが走ってきて、今のことを伝えた
「容態は?」
「は、うずまきナルトは重傷ですが命に別状はありません
ただ、空目トキに関してですが」
「……青髪の…、そいつがどうした?」
「……外傷はないものの、チャクラを激しく消耗しており、意識も混濁。かなり衰弱していて危険です
恐らく何かの術を使った影響かと思われますが、何の術かは…」
「そうか……、すぐに運べ、空目のガキは私が診る」
嵐のような一連の流れが理解できず、その場に立ち尽くす
トキが、危険
ドッドッと激しい鼓動が頭の中に響く
「おい、シカマル」
「!
おや、じ」
シカクがシカマルを呼び止め、ジロリとにらむ
「お前、心当たりはねぇのか」
「………ねぇよ」
「本当に?」
シカクの問いかけに思案する
トキがなぜ、外傷はないのにチャクラを消耗して衰弱したのか
彼女に何があったのか、彼女は何をしたのか
「………!」
は、と息を飲む
それに気付いたシカクがどうしたと尋ねると、シカマルはごそごそとポケットを探った
「出発する前に、お守りだって渡された札があるんだ
それに、アイツの様子もいつもと違った
最初は、サスケが里抜けする予知夢を見て動揺してるんだと思ってた、けど
それを踏まえても、アイツの様子は変だった」
ひら、と札を出す
何も使われていないそれを見て、シカクは顔をしかめた
「トキが衰弱した理由はこれか」
「え?」
「この札は空目一族に伝わる秘伝忍術で使う札だ
だが術の危険度が高いから、一族でも禁術扱いになっていたはず
けどこれのおかげで、チョウジ達は医療部隊が保護するまで生きていれたんだ」
「………どういう事だよ」
が、とシカクの胸ぐらを掴むシカマルをその場にいたテマリが咎める
だがシカクは、じっとシカマルを見つめ返すだけだ
「この術は、札を持ってる人間が重傷を負った場合に自動的に発動する
たとえ術者と怪我人がどんなに離れていても、その札を通して怪我を治療してくれる優れた医療忍術だ
だが、リスクも高い」
「………。」
「もし術者が瀕死の重傷を追っていても、この札は勝手に発動して札を持ってる人間の治療をする
もちろん術者のチャクラを奪ってな
札を離すか、術者のチャクラが底を突くまで、この札は治療をやめない」
「な…!」
「トキはこの札を、全員に渡したな?」
「……渡した」
「チョウジとネジが倒れた時から札が発動したとしたら、トキは瀕死の重傷を負った仲間2人の治療をしながらお前と一緒に走っていた
だが時間が経てば経つほど、トキのチャクラは2人に流れていく
恐らく、終末の谷に着いた頃には、まともに戦う力も残っていなかったんだろう」
「!!」
シカクの言葉は重くシカマルの心に刺さる
自分の隣を走るトキにそんな素振りは無かったし、自分も全く気が付かなかったのだ
「こんな危険な……、下手したら自分も死んじまうようなシロモノを、任務に出る5人全員に渡したんだ
もし5人の札が発動していたら、トキは間違いなく死んでただろうよ」
淡々と語るシカクの声が、静かな病院の廊下に響く
話を聞いていたテマリは、今の話にただただ驚いていた
ずる、とシカクの胸ぐらから手を離し、だらりと下げる
「トキは、自分の命と引き換えにお前らを守る覚悟を決めてた
お前なんかよりずっとずっと、トキの方が中忍として小隊を引っ張る”覚悟”があった
なのにお前はどうだ?」
「!!!」
ガツン、と頭を殴られたような衝撃が走る
シカクの言葉は、他の誰の言葉よりも深く刺さった
「トキに二度と同じ目に遭って欲しくないなら……、アイツを守りてぇんなら!!
自分が優秀になることを考えろ!!!」
父として、そして忍びの先輩としてのシカクの言葉は、病院内に響いた
***
自分は指を一本折っただけの軽症で済んだが、トキはいまだ目覚めない
チョウジもネジも、手術を終えて意識を取り戻し、少しなら病院内を歩けるようになっていた
だがナルトは、まだベッドの上から動けずにいる
トキが渡した札について、ナルト以外の全員に説明をした
全員驚いていた
チョウジとネジは、意識を失う直前に術が発動したのを感じ取ったらしい
「分かるよ、僕だってトキと一緒にチーム組んでるんだよ
あの札からトキのチャクラが流れてきて、僕の身体を包んでくれた
はっきり分かったよ
トキが助けてくれた、って」
優しく笑いながらチョウジが話すその横で、ネジは腕組みをしながら目を閉じていた
だが目を開け、シカマルを見た
「……俺も、うっすらだが誰かのチャクラに包まれた感覚は覚えてる
それがトキのだとは分からなかったが、確かにアレが無ければ、俺は死んでいたかもしれない」
「……そうか」
「トキに助けられたな」
ふ、と小さく笑うネジに、シカマルは何とも言えない顔をする
それを見たキバは、はぁ、と息を吐いた
「怒ってんだろ、お前」
「あ?
………怒るに決まってんだろ、アイツは…」
「なら怒れば良いじゃねぇか」
「…は?」
キバは、ふん、と顔を背け、口を尖らせた
「俺はその札を使ってないから何も言う気はないぜ、助けられたわけではないからな
けどチョウジとネジは、実際にトキの術のおかげで生き延びた
こいつらは多分、トキを怒れない
だろ?」
キバが2人を振り向くと、2人はこくりと頷く
「けどトキにも非はある
隊長であるシカマルに黙って危険な術を使ったこと、それで自分自身が今も意識不明の重体
ま、言っちまえば自業自得だが…」
「……。」
「同じチームの仲間である俺たちに隠し事をした件について、隊長であるお前はトキを怒る権利はあるぜ
だから、代表してお前が説教してこい」
に、と笑うキバに思わずぽかんと目を見開く
だがすぐに、ふ、と口元をゆるめた
「この任務の最後の仕事が説教かよ」
「そういう事になるな」
どこか楽しげなネジと、隣でニコニコと笑うチョウジ
キバも笑っていた
3人は分かっているのだろう
小さい頃から一緒だったトキに隠し事をされて苛立つシカマルの気持ちが
小隊の隊長としてだけではなく、幼馴染として彼女を心配している事も
さらに言えば、幼馴染以上の気持ちを持っていることも
分かっているからこそ、怒れば良いと言ってくれたんだと、シカマルも分かっていた
***
『シカマル』
少しかすれた声だが、彼女の口から自分の名前がつむがれる
抱きしめる腕の中の確かな温もりを感じ、目頭が熱くなった
「バっ、カヤロー…!
何してんだよ…っ!!」
ぎゅ、と腕の力を強くする
こいつの身体はこんなにも小さくて華奢だったのか
こんな身体で、俺たちを守ろうとしたのか
そんな思いがこみ上げてくる
『シカマル、苦しい…』
「…!」
ぽんぽん、と優しく腕を叩かれ、するりと腕をほどく
気付くと、いのもアスマも病室からいなくなっていた
「………おかえり」
『!
……ただいま、隊長』
ふ、と口元をゆるめる彼女の笑顔は、サスケを失ったショックなのか、長い眠りからさめた影響からなのか、いつもの元気は見えなかった
第21話
任務失敗
.