5年生6月編
13─学校うさぎのトキくんがいない!?
木曜日までの学校は、何も起こりませんでした。
テトリちゃんもとっても大人しくしててくれたもんね。
家にはおじいちゃん達がいてくれるし、学校にはテトリちゃんが付いてきてくれる毎日。
わたしが魔法を使えなくても、平和でした。
そんなふうにみんなに見守ってもらえていて、幸せだったよ。
ただ火曜日から木曜日まで、毎日すごい雨が降っていました。
まるで空からじょうろでお水をかけているみたいです。
魔法が使えても、毎日歩きだったね。
この雨のせいで、金曜日のお昼休みに大変なことが起きました。
飼育委員の彩ちゃんは、この日お当番でした。
中庭のチャボさん、うさぎさん達にご飯をあげに行きます。
その彩ちゃんが慌てて戻ってきました。
その時わたしは、のんびりと教室にいました。
今日は雲半分のいい青空。
お昼休みだから、遊びに行っていた子も多かったです。
彩ちゃんは教室のドアを開けると、入り口からいいました。
「大変なことになっちゃったよ。誰か一緒に来て。
みかんちゃんはお願い!」
その彩ちゃんの様子に、みんなはなんだかわからなくてもうなずきました。
「ぼくも行くよ」
「わたしも」
「おれも」
お昼休みなので、テトリちゃんは机の上に乗ってみんなとお話していました。
いきなりのそんな雰囲気にきょろきょろし始めます。
わたしはそんなテトリちゃんにいいました。
「わたしも行ってくるね!テトリちゃんは待ってて」
そうして5人で彩ちゃんに付いていきます。
彩ちゃんがみんなを案内したのは、今来たばかりのはずの中庭でした。
ここで何があったのかな?
彩ちゃんはうさぎ小屋の前に走っていきます。
するとその前の地面に穴が空いていました。
今までに見たことのない穴です。大きさは直径が10cmくらいあります。
そして彩ちゃんは小屋の中を指差しました。
「見て!1番小さいトキくんがいないの」
そういわれて見てみると、いつもは5匹いるうさぎさんが4匹しかいません。
今この雪湖小学校には、1家族のうさぎさんがいます。
お母さんのナラちゃん、お父さんのミキくん、そして子ども達がアスくん、ミサちゃん、トキくんです。
子うさぎちゃん達は、人でいうとわたし達より少し小さいくらいです。
わたしも時々会いに来て、お話していました。
トキくんはやんちゃで、穴掘りが大好きな子でした。
高志くんは真面目な顔で分析します。
「ずっと雨で、地面がかなりやわらかくなってたもんな。
だからこんな穴が掘れたんだ」
みゆきちゃんは困った顔でいいます。
「だからあの好奇心いっぱいのトキくんは、外に飛び出しちゃったんだね」
そして彩ちゃんは、とっても不安そうな顔です。
「どうしよう?早く探さないと」
わたしの感覚だと、トキくんはもう中庭にはいそうにありません。
「トキはまだ小さいし、外に出るなんて危ないよ」
その港くんの言葉で、わたしはこの状況が本当に心配になりました。
そこで早速始めます。
こういう時こそ、わたしの力を使わなくちゃね。
いつものようにペンダントを外します。
「まずはナラちゃん達や、チャボさん達に話を聞いてみよう!
ミラクル…」
そう呪文を唱え始めます。
すると、みゆきちゃんが慌てて止めてくれました。
「みかんちゃん!」
「え?」
呼ばれたわたしは、上げていた手を下ろしました。
みゆきちゃんは、その理由をすぐに教えてくれます。
「魔法のお休み中は、呪文を唱えるのもいけないんだったよね?」
そう聞いて、やっと思い出しました。
「あ、そうだった。わたし、今は魔法使えないんだったね」
この出来事にびっくりして、忘れていました。
みゆきちゃんのいう通り、お休み中は呪文を唱えるのもだめなんです。
ペンダントはいつも通りだから、呪文を聞いて魔法の種が働かないことに驚くんだそうです。
そう魔法が使えないことに気付いたわたしは慌てます。
彩ちゃんに呼ばれた時から、魔法があるから大丈夫と思っていたからです。
「じゃあどうしよう?
みんなからの話が聞けないと、ヒントが全然ないよ」
でもすぐに、動物とお話のできるテトリちゃんがこの学校にいることを思い出しました。
「そうだ!テトリちゃんに通訳してもらえる」
そう思い付いて、わたしは立ち直ります。
すると高志くんが心配して聞きます。
「テトリに来てもらう途中で先生に見つかったりしたら、大変じゃないのか?」
テトリちゃんが学校に来ているのは、先生達には内緒にしているもんね。
見つかったりしたら、すごく叱られそうです。
そう確かに危ないけれど、今はそういうことをいっていられません。
わたしは決めました。
「なんとか見つからないように来てもらうよ。待ってて!」
そういうと、わたしは急いで教室に戻りました。
「テトリちゃん、通訳してほしいの。一緒に来て!」
急いでいるわたしは、さっきの彩ちゃんのように、理由を説明する前にそう頼みました。
でもテトリちゃんは、すぐにうなずいてくれました。
「はい!」
そんなわたしに、教室にいたみんなが聞きます。
「みかんちゃん、どうしたの?」
「彩ちゃんの大変なことって?」
急いでいるわたしはテトリちゃんを抱いて、駆け出しながら答えます。
「子うさぎのトキくんがいなくなっちゃったんだよ。
それでテトリちゃんに、他のうさぎさん達から詳しい話を聞いてもらうの」
教室を出てからは、できるだけ人がいない通りを進みます。
その間に、さっきみんなにいったよりも詳しい説明をしました。
わたしの話を聞いたテトリちゃんは、力強くうなずいてくれました。
「それは大変ですね。私も一緒に探します」
「うん、ありがとう、テトリちゃん。
まずはみんなに話を聞いてみようね」
そう決まった時には、中庭まで後1本道というところまできました。
「よし!誰もいないね」
確認してから、その最後の通りを走ります。
良かった。誰にも見つからなかったよ。
そう少し安心していたら、後ろからガラッとドアの開く音がしました。
えっ?
なんだか嫌な予感がします。
そう思ったわたしは、声までかけられました。
「こんにちは。白石さん」
あっ!その声は勝子先生。
「こ、こんにちは」
わたしは立ち止まって答えます。
振り返るとテトリちゃんが見つかっちゃうので、後ろを向いたままです。
ちょうどここは先生がたくさんいる職員室の前。
勝子先生がいるのは当たり前です。
ど、どうしよう…。
そうとってもドキドキしているわたしの様子に、勝子先生は気が付きました。
さっきまでとってもご機嫌だったのに、怪しんでいる時の聞き方になります。
「どうしたんですか?
あっ!さては私に見られては困る物でも持っているんですか?」
さすがは先生です。
ここまで当てられて、こんな状況の時に言い訳なんて思い付きません。
「あの先生、わたし、とっても急いでいるので」
わたしはそういって、一生懸命走って逃げました。
「あっ!白石さん?」
そう後ろから勝子先生の声がします。
でもわたしは急いで通りを曲がって、中庭へと向かいました。
はあ はあ。
中庭についたわたしは、そう大きく息をつきます。
そこでテトリちゃんが心配そうに聞きました。
「みかんちゃん、大丈夫ですか?」
わたしはなんとか気持ちを落ち着かせながら答えます。
「うん。大丈夫。さっきあんまりびっくりして、こうなっちゃっただけだよ」
ふう。
1つ大きな息をつくと、あ、やっと落ち着きました。
勝子先生は追いかけては来なかったみたいです。
テトリちゃん、見つからなかったかな?
そう後ろを振り返ります。
そんなわたしに気が付いて、高志くんが来てくれました。
「大丈夫だったか?」
わたしは正直に、だけど心配はかけないようにいいました。
「うん。実はさっき見つかりそうになったんだけど、なんとか大丈夫だったみたい。
さあ。テトリちゃんが来てくれたし、話を聞いてみよう」
そうわたし達は、彩ちゃん達が待っているうさぎ小屋の前に駆けつけました。
「彩ちゃん、テトリちゃんが来てくれたから、もう安心だよ」
そうとっても心配している彩ちゃんにいいます。
それから今度はうさぎさん達に向き直ります。
誰か知ってますように。
うさぎさん達もいつもと違って、落ち着かない動きをしています。
やっぱりトキくんがいないからかな。
わたしは願いを込めて、トキくんのお母さんに聞きました。
「ねえナラちゃん、トキくんはどこに行ったの?」
そのナラちゃんの返事を、テトリちゃんは首を振りながら教えてくれます。
「わからないそうです。朝、目が覚めたらいなかったって…。
トキくんが穴を掘って遊ぶのはいつものことだったから、寝ている間に聞こえてきても、気にしていなかったそうです」
そのテトリちゃんの言葉に、彩ちゃんは泣きそうなくらいショックを受けたみたいです。
「そんな…。誰も知らないなんて…」
わたしは慌てていいました。
「待って!まだチャボさん達がいるよ」
チャボさん達はいっぱいいるから、きっと誰かは知ってるよね。
わたしとテトリちゃんは、今度はチャボさんの小屋に走ります。
チャボさん達はいつも元気なので、小屋はにぎやかです。
わたしはそんなチャボさん達に聞こえるように、口の周りに手をあてて、大きな声で聞きました。
「すみませーん。
うさぎさんが通るのを見た子はいませんかー?」
すると大きな声で答えてくれたチャボさんがいました。
それをテトリちゃんが教えてくれます。
「チャボさんは早起きだから、見たそうです。
小さなうさぎが向こうへ跳んでいったって」
そうテトリちゃんが向いた方は、外への道です。
やっぱりトキくんは、中庭を出たんだ!
わたしはそれがわかると、彩ちゃん達にいいました。
「わたし、トキくんを探しに行ってくるよ!」
朝飛び出したのなら、もう結構遠くまで行っているはずです。
今すぐ探しに行かなくちゃ。
もし車とかに引かれちゃったりしたら…。
学校が終わるまでなんて、待っていられません。
学校を抜け出すことになっちゃうけど、わたしは行く決意をしました。
すると彩ちゃんも強くいいます。
「わたしも行く。
みかんちゃんに頼んだのはわたしだし、飼育委員だもん」
それから高志くんもいってくれます。
「おれも行くよ」
そして…。
「わたしも!」
えっ!?
ここにはいないはずの優香里ちゃんの声が、突然聞こえました。
わたし達は驚いて振り返ります。
するとそこには、クラスのみんなが揃っていました。
みんなも心配して来てくれたんだ!
「わたし走るの早いし、役に立てるよ」
そうまじめな顔で、優香里ちゃんが頼もしくいってくれます。
「だったらおれも」
光くんもそういってくれます。
「みんなで探そうぜ!」
そういう温広くんに、みんながうなずきます。
わたしはそんなクラスのみんなに感動しました。
でも首を振ります。
「ううん。わたし1人で行くよ。テトリちゃんもいるし」
いきなりクラスみんながいなくなるのは、良くないです。
友子先生にまた心配をかけることになっちゃうし。
「でも、みかん1人で探すなんて…」
そう高志くんが心配してくれます。
それから彩ちゃんは握り拳を作って、一生懸命いいました。
「わたしは行かなくちゃ!
だってわたしの仕事なんだから」
そんな2人に、わたしは魔法使いの誇りを持っていいます。
「大丈夫。わたしは魔法使いだもん。
この力とテトリちゃんがいてくれれば、ちゃんとトキくんを見つけられるよ。
だから、わたしに任せて!」
本当は、今は魔法を使えないけど、少しは感覚が残っています。
自信満々でもないんだけど、こういえばみんな安心してくれるよね。
するとみんなはうなずいてくれました。
「わかった!先生の方は、おれ達が何とかする」
それから正くんがまじめに約束してくれます。
「授業の内容は、後で僕がちゃんと説明するよ」
そうだね。正くんならしっかり教えてくれそうです。
「みかんちゃん、本当にごめんね。
じゃあお願い!」
「うん。行ってくるね」
彩ちゃんや、応援してくれるみんなの声に見送られて、わたしはテトリちゃんと中庭を飛び出しました。
そして教室に戻ってきたみんなは、早速相談を始めました。
みんなで輪になって、健治くんが中心になって話しています。
「それでみかんがいなくなった理由を、何ていうことにするかだな」
そう先生に聞かれた時に、何て答えるかを考えています。
「普通に、具合いが悪くて早退したじゃだめなのか?」
そう温広くんがいうと、秋子ちゃんが首を振ります。
「それはだめだよ。
魔法使いは普通具合いが悪くなったりしないってことくらい、友子先生も知ってるよ」
「うーん、そうだなー」
みんなで首をひねって、一生懸命考えます。
その中で、健治くんはいい考えが浮かんだようでした。
「よし、これだ!みんな安心しろ。
オレがいい理由を思い付いたから」
カラーンコローン♩
チャイムが鳴って、友子先生が入ってきました。
そしてすぐにわたしがいないことに気が付きます。
「あら?みかんちゃんがいないけど?」
そう不思議な顔をします。
すると健治くんは、元気よく手を上げていいました。
「先生!みかんはお母さんに呼ばれていきました。
何でも、今すぐみかんの魔法が必要とかで」
(これならつじつまは合うし、絶対にみかんが早退しなきゃならない、いい理由だ。)
そう健治くんは自信満々でしたが、1つ大事なことを忘れていました。
そう間違えたのは、わたしがさっき魔法の力を話に出したからかな。
「あら、そうなの?
でもみかんちゃんって、今は魔法が使えないんじゃなかったかしら?」
そう首をひねる友子先生に、みんなはどっきりします。
怪しまれないように、美穂ちゃんが慌てていいました。
「先生、今のは健治くんの冗談です。
本当の理由は、えーと…」
健治くんが思い付いたといっていたので、安心していたみんなは、とっさに理由が思い付きません。
(どうしよう…。早く答えないと、後でみかんちゃんが大変だ。)
そうみんなは焦ります。
するとその中で、高志くんが真っ先に思い付きました。
嘘を付くのが苦手な高志くんは、たどたどしくいいます。
「先生、実は…、みかんが夏から入る魔法の森の学校の入学手続きに行ったんです…。
今日の夕方が締め切りなのに忘れていたみたいで…、慌てていきました…」
そういいながらきょろきょろもしていました。
でもまだ高志くんの癖を知らない友子先生は、その理由に納得しました。
「そうだったの。
それは大事なことだものね」
そううなずいて、友子先生は黒板に向かいます。
すると今の話について、桜ちゃんがももちゃんにひそひそと聞きます。
「魔法の森の学校って?」
桜ちゃんは忘れていたけれど、覚えていたももちゃんは説明します。
「みかんちゃん、いってたよ。
毎年夏休みに魔法の森っていうところにいってるって。
そこで今年からは魔法を教えてもらえるんだって」
それを聞いた美穂ちゃんが感心していいました。
「そうだったよね。
それにしても、よくとっさに出てきたね。高志くん」
すると安心して立ち直った健治くんがいいます。
「ほら、なんたって高志は、みかんに対する気持ちがオレ達とは違うからさー」
!
その言葉に、高志くんは振り返って怒りました。
「おい!こういう大変な時にまで、そういうこというな!」
その声が大きかったので、友子先生はびっくりして振り返ります。
「みんな、どうしたの?」
そうきょとんとします。
みんなは慌てて前に向き直って、返事をしました。
「なんでもありませーん」
それからはないしょ話を止めて、授業に集中します。
(みかんちゃん、頑張ってね。)
そうわたしのことを心の中で応援してくれながら。
その中で高志くんは、まだ怒っていました。
(全く健治のやつ、ああやってしょっちゅうおれのことをからかって。
みかんにもばれたら、本当に絶交するからな!)
そして窓の向こうを見て、気持ちを切り替えます。
(また置いてきぼりになったけど、みかんは本当に1人で大丈夫かな?)
木曜日までの学校は、何も起こりませんでした。
テトリちゃんもとっても大人しくしててくれたもんね。
家にはおじいちゃん達がいてくれるし、学校にはテトリちゃんが付いてきてくれる毎日。
わたしが魔法を使えなくても、平和でした。
そんなふうにみんなに見守ってもらえていて、幸せだったよ。
ただ火曜日から木曜日まで、毎日すごい雨が降っていました。
まるで空からじょうろでお水をかけているみたいです。
魔法が使えても、毎日歩きだったね。
この雨のせいで、金曜日のお昼休みに大変なことが起きました。
飼育委員の彩ちゃんは、この日お当番でした。
中庭のチャボさん、うさぎさん達にご飯をあげに行きます。
その彩ちゃんが慌てて戻ってきました。
その時わたしは、のんびりと教室にいました。
今日は雲半分のいい青空。
お昼休みだから、遊びに行っていた子も多かったです。
彩ちゃんは教室のドアを開けると、入り口からいいました。
「大変なことになっちゃったよ。誰か一緒に来て。
みかんちゃんはお願い!」
その彩ちゃんの様子に、みんなはなんだかわからなくてもうなずきました。
「ぼくも行くよ」
「わたしも」
「おれも」
お昼休みなので、テトリちゃんは机の上に乗ってみんなとお話していました。
いきなりのそんな雰囲気にきょろきょろし始めます。
わたしはそんなテトリちゃんにいいました。
「わたしも行ってくるね!テトリちゃんは待ってて」
そうして5人で彩ちゃんに付いていきます。
彩ちゃんがみんなを案内したのは、今来たばかりのはずの中庭でした。
ここで何があったのかな?
彩ちゃんはうさぎ小屋の前に走っていきます。
するとその前の地面に穴が空いていました。
今までに見たことのない穴です。大きさは直径が10cmくらいあります。
そして彩ちゃんは小屋の中を指差しました。
「見て!1番小さいトキくんがいないの」
そういわれて見てみると、いつもは5匹いるうさぎさんが4匹しかいません。
今この雪湖小学校には、1家族のうさぎさんがいます。
お母さんのナラちゃん、お父さんのミキくん、そして子ども達がアスくん、ミサちゃん、トキくんです。
子うさぎちゃん達は、人でいうとわたし達より少し小さいくらいです。
わたしも時々会いに来て、お話していました。
トキくんはやんちゃで、穴掘りが大好きな子でした。
高志くんは真面目な顔で分析します。
「ずっと雨で、地面がかなりやわらかくなってたもんな。
だからこんな穴が掘れたんだ」
みゆきちゃんは困った顔でいいます。
「だからあの好奇心いっぱいのトキくんは、外に飛び出しちゃったんだね」
そして彩ちゃんは、とっても不安そうな顔です。
「どうしよう?早く探さないと」
わたしの感覚だと、トキくんはもう中庭にはいそうにありません。
「トキはまだ小さいし、外に出るなんて危ないよ」
その港くんの言葉で、わたしはこの状況が本当に心配になりました。
そこで早速始めます。
こういう時こそ、わたしの力を使わなくちゃね。
いつものようにペンダントを外します。
「まずはナラちゃん達や、チャボさん達に話を聞いてみよう!
ミラクル…」
そう呪文を唱え始めます。
すると、みゆきちゃんが慌てて止めてくれました。
「みかんちゃん!」
「え?」
呼ばれたわたしは、上げていた手を下ろしました。
みゆきちゃんは、その理由をすぐに教えてくれます。
「魔法のお休み中は、呪文を唱えるのもいけないんだったよね?」
そう聞いて、やっと思い出しました。
「あ、そうだった。わたし、今は魔法使えないんだったね」
この出来事にびっくりして、忘れていました。
みゆきちゃんのいう通り、お休み中は呪文を唱えるのもだめなんです。
ペンダントはいつも通りだから、呪文を聞いて魔法の種が働かないことに驚くんだそうです。
そう魔法が使えないことに気付いたわたしは慌てます。
彩ちゃんに呼ばれた時から、魔法があるから大丈夫と思っていたからです。
「じゃあどうしよう?
みんなからの話が聞けないと、ヒントが全然ないよ」
でもすぐに、動物とお話のできるテトリちゃんがこの学校にいることを思い出しました。
「そうだ!テトリちゃんに通訳してもらえる」
そう思い付いて、わたしは立ち直ります。
すると高志くんが心配して聞きます。
「テトリに来てもらう途中で先生に見つかったりしたら、大変じゃないのか?」
テトリちゃんが学校に来ているのは、先生達には内緒にしているもんね。
見つかったりしたら、すごく叱られそうです。
そう確かに危ないけれど、今はそういうことをいっていられません。
わたしは決めました。
「なんとか見つからないように来てもらうよ。待ってて!」
そういうと、わたしは急いで教室に戻りました。
「テトリちゃん、通訳してほしいの。一緒に来て!」
急いでいるわたしは、さっきの彩ちゃんのように、理由を説明する前にそう頼みました。
でもテトリちゃんは、すぐにうなずいてくれました。
「はい!」
そんなわたしに、教室にいたみんなが聞きます。
「みかんちゃん、どうしたの?」
「彩ちゃんの大変なことって?」
急いでいるわたしはテトリちゃんを抱いて、駆け出しながら答えます。
「子うさぎのトキくんがいなくなっちゃったんだよ。
それでテトリちゃんに、他のうさぎさん達から詳しい話を聞いてもらうの」
教室を出てからは、できるだけ人がいない通りを進みます。
その間に、さっきみんなにいったよりも詳しい説明をしました。
わたしの話を聞いたテトリちゃんは、力強くうなずいてくれました。
「それは大変ですね。私も一緒に探します」
「うん、ありがとう、テトリちゃん。
まずはみんなに話を聞いてみようね」
そう決まった時には、中庭まで後1本道というところまできました。
「よし!誰もいないね」
確認してから、その最後の通りを走ります。
良かった。誰にも見つからなかったよ。
そう少し安心していたら、後ろからガラッとドアの開く音がしました。
えっ?
なんだか嫌な予感がします。
そう思ったわたしは、声までかけられました。
「こんにちは。白石さん」
あっ!その声は勝子先生。
「こ、こんにちは」
わたしは立ち止まって答えます。
振り返るとテトリちゃんが見つかっちゃうので、後ろを向いたままです。
ちょうどここは先生がたくさんいる職員室の前。
勝子先生がいるのは当たり前です。
ど、どうしよう…。
そうとってもドキドキしているわたしの様子に、勝子先生は気が付きました。
さっきまでとってもご機嫌だったのに、怪しんでいる時の聞き方になります。
「どうしたんですか?
あっ!さては私に見られては困る物でも持っているんですか?」
さすがは先生です。
ここまで当てられて、こんな状況の時に言い訳なんて思い付きません。
「あの先生、わたし、とっても急いでいるので」
わたしはそういって、一生懸命走って逃げました。
「あっ!白石さん?」
そう後ろから勝子先生の声がします。
でもわたしは急いで通りを曲がって、中庭へと向かいました。
はあ はあ。
中庭についたわたしは、そう大きく息をつきます。
そこでテトリちゃんが心配そうに聞きました。
「みかんちゃん、大丈夫ですか?」
わたしはなんとか気持ちを落ち着かせながら答えます。
「うん。大丈夫。さっきあんまりびっくりして、こうなっちゃっただけだよ」
ふう。
1つ大きな息をつくと、あ、やっと落ち着きました。
勝子先生は追いかけては来なかったみたいです。
テトリちゃん、見つからなかったかな?
そう後ろを振り返ります。
そんなわたしに気が付いて、高志くんが来てくれました。
「大丈夫だったか?」
わたしは正直に、だけど心配はかけないようにいいました。
「うん。実はさっき見つかりそうになったんだけど、なんとか大丈夫だったみたい。
さあ。テトリちゃんが来てくれたし、話を聞いてみよう」
そうわたし達は、彩ちゃん達が待っているうさぎ小屋の前に駆けつけました。
「彩ちゃん、テトリちゃんが来てくれたから、もう安心だよ」
そうとっても心配している彩ちゃんにいいます。
それから今度はうさぎさん達に向き直ります。
誰か知ってますように。
うさぎさん達もいつもと違って、落ち着かない動きをしています。
やっぱりトキくんがいないからかな。
わたしは願いを込めて、トキくんのお母さんに聞きました。
「ねえナラちゃん、トキくんはどこに行ったの?」
そのナラちゃんの返事を、テトリちゃんは首を振りながら教えてくれます。
「わからないそうです。朝、目が覚めたらいなかったって…。
トキくんが穴を掘って遊ぶのはいつものことだったから、寝ている間に聞こえてきても、気にしていなかったそうです」
そのテトリちゃんの言葉に、彩ちゃんは泣きそうなくらいショックを受けたみたいです。
「そんな…。誰も知らないなんて…」
わたしは慌てていいました。
「待って!まだチャボさん達がいるよ」
チャボさん達はいっぱいいるから、きっと誰かは知ってるよね。
わたしとテトリちゃんは、今度はチャボさんの小屋に走ります。
チャボさん達はいつも元気なので、小屋はにぎやかです。
わたしはそんなチャボさん達に聞こえるように、口の周りに手をあてて、大きな声で聞きました。
「すみませーん。
うさぎさんが通るのを見た子はいませんかー?」
すると大きな声で答えてくれたチャボさんがいました。
それをテトリちゃんが教えてくれます。
「チャボさんは早起きだから、見たそうです。
小さなうさぎが向こうへ跳んでいったって」
そうテトリちゃんが向いた方は、外への道です。
やっぱりトキくんは、中庭を出たんだ!
わたしはそれがわかると、彩ちゃん達にいいました。
「わたし、トキくんを探しに行ってくるよ!」
朝飛び出したのなら、もう結構遠くまで行っているはずです。
今すぐ探しに行かなくちゃ。
もし車とかに引かれちゃったりしたら…。
学校が終わるまでなんて、待っていられません。
学校を抜け出すことになっちゃうけど、わたしは行く決意をしました。
すると彩ちゃんも強くいいます。
「わたしも行く。
みかんちゃんに頼んだのはわたしだし、飼育委員だもん」
それから高志くんもいってくれます。
「おれも行くよ」
そして…。
「わたしも!」
えっ!?
ここにはいないはずの優香里ちゃんの声が、突然聞こえました。
わたし達は驚いて振り返ります。
するとそこには、クラスのみんなが揃っていました。
みんなも心配して来てくれたんだ!
「わたし走るの早いし、役に立てるよ」
そうまじめな顔で、優香里ちゃんが頼もしくいってくれます。
「だったらおれも」
光くんもそういってくれます。
「みんなで探そうぜ!」
そういう温広くんに、みんながうなずきます。
わたしはそんなクラスのみんなに感動しました。
でも首を振ります。
「ううん。わたし1人で行くよ。テトリちゃんもいるし」
いきなりクラスみんながいなくなるのは、良くないです。
友子先生にまた心配をかけることになっちゃうし。
「でも、みかん1人で探すなんて…」
そう高志くんが心配してくれます。
それから彩ちゃんは握り拳を作って、一生懸命いいました。
「わたしは行かなくちゃ!
だってわたしの仕事なんだから」
そんな2人に、わたしは魔法使いの誇りを持っていいます。
「大丈夫。わたしは魔法使いだもん。
この力とテトリちゃんがいてくれれば、ちゃんとトキくんを見つけられるよ。
だから、わたしに任せて!」
本当は、今は魔法を使えないけど、少しは感覚が残っています。
自信満々でもないんだけど、こういえばみんな安心してくれるよね。
するとみんなはうなずいてくれました。
「わかった!先生の方は、おれ達が何とかする」
それから正くんがまじめに約束してくれます。
「授業の内容は、後で僕がちゃんと説明するよ」
そうだね。正くんならしっかり教えてくれそうです。
「みかんちゃん、本当にごめんね。
じゃあお願い!」
「うん。行ってくるね」
彩ちゃんや、応援してくれるみんなの声に見送られて、わたしはテトリちゃんと中庭を飛び出しました。
そして教室に戻ってきたみんなは、早速相談を始めました。
みんなで輪になって、健治くんが中心になって話しています。
「それでみかんがいなくなった理由を、何ていうことにするかだな」
そう先生に聞かれた時に、何て答えるかを考えています。
「普通に、具合いが悪くて早退したじゃだめなのか?」
そう温広くんがいうと、秋子ちゃんが首を振ります。
「それはだめだよ。
魔法使いは普通具合いが悪くなったりしないってことくらい、友子先生も知ってるよ」
「うーん、そうだなー」
みんなで首をひねって、一生懸命考えます。
その中で、健治くんはいい考えが浮かんだようでした。
「よし、これだ!みんな安心しろ。
オレがいい理由を思い付いたから」
カラーンコローン♩
チャイムが鳴って、友子先生が入ってきました。
そしてすぐにわたしがいないことに気が付きます。
「あら?みかんちゃんがいないけど?」
そう不思議な顔をします。
すると健治くんは、元気よく手を上げていいました。
「先生!みかんはお母さんに呼ばれていきました。
何でも、今すぐみかんの魔法が必要とかで」
(これならつじつまは合うし、絶対にみかんが早退しなきゃならない、いい理由だ。)
そう健治くんは自信満々でしたが、1つ大事なことを忘れていました。
そう間違えたのは、わたしがさっき魔法の力を話に出したからかな。
「あら、そうなの?
でもみかんちゃんって、今は魔法が使えないんじゃなかったかしら?」
そう首をひねる友子先生に、みんなはどっきりします。
怪しまれないように、美穂ちゃんが慌てていいました。
「先生、今のは健治くんの冗談です。
本当の理由は、えーと…」
健治くんが思い付いたといっていたので、安心していたみんなは、とっさに理由が思い付きません。
(どうしよう…。早く答えないと、後でみかんちゃんが大変だ。)
そうみんなは焦ります。
するとその中で、高志くんが真っ先に思い付きました。
嘘を付くのが苦手な高志くんは、たどたどしくいいます。
「先生、実は…、みかんが夏から入る魔法の森の学校の入学手続きに行ったんです…。
今日の夕方が締め切りなのに忘れていたみたいで…、慌てていきました…」
そういいながらきょろきょろもしていました。
でもまだ高志くんの癖を知らない友子先生は、その理由に納得しました。
「そうだったの。
それは大事なことだものね」
そううなずいて、友子先生は黒板に向かいます。
すると今の話について、桜ちゃんがももちゃんにひそひそと聞きます。
「魔法の森の学校って?」
桜ちゃんは忘れていたけれど、覚えていたももちゃんは説明します。
「みかんちゃん、いってたよ。
毎年夏休みに魔法の森っていうところにいってるって。
そこで今年からは魔法を教えてもらえるんだって」
それを聞いた美穂ちゃんが感心していいました。
「そうだったよね。
それにしても、よくとっさに出てきたね。高志くん」
すると安心して立ち直った健治くんがいいます。
「ほら、なんたって高志は、みかんに対する気持ちがオレ達とは違うからさー」
!
その言葉に、高志くんは振り返って怒りました。
「おい!こういう大変な時にまで、そういうこというな!」
その声が大きかったので、友子先生はびっくりして振り返ります。
「みんな、どうしたの?」
そうきょとんとします。
みんなは慌てて前に向き直って、返事をしました。
「なんでもありませーん」
それからはないしょ話を止めて、授業に集中します。
(みかんちゃん、頑張ってね。)
そうわたしのことを心の中で応援してくれながら。
その中で高志くんは、まだ怒っていました。
(全く健治のやつ、ああやってしょっちゅうおれのことをからかって。
みかんにもばれたら、本当に絶交するからな!)
そして窓の向こうを見て、気持ちを切り替えます。
(また置いてきぼりになったけど、みかんは本当に1人で大丈夫かな?)