5年生6月編

13─学校うさぎのトキくんがいない!?

木曜日までの学校は、何も起こりませんでした。
テトリちゃんもとっても大人しくしててくれたもんね。
家にはおじいちゃん達がいてくれるし、学校にはテトリちゃんが付いてきてくれる毎日。
わたしが魔法を使えなくても、平和でした。
そんなふうにみんなに見守ってもらえていて、幸せだったよ。
ただ火曜日から木曜日まで、毎日すごい雨が降っていました。
まるで空からじょうろでお水をかけているみたいです。
魔法が使えても、毎日歩きだったね。
この雨のせいで、金曜日のお昼休みに大変なことが起きました。

飼育委員の彩ちゃんは、この日お当番でした。
中庭のチャボさん、うさぎさん達にご飯をあげに行きます。
その彩ちゃんが慌てて戻ってきました。
その時わたしは、のんびりと教室にいました。
今日は雲半分のいい青空。
お昼休みだから、遊びに行っていた子も多かったです。
彩ちゃんは教室のドアを開けると、入り口からいいました。
「大変なことになっちゃったよ。誰か一緒に来て。
みかんちゃんはお願い!」
その彩ちゃんの様子に、みんなはなんだかわからなくてもうなずきました。
「ぼくも行くよ」
「わたしも」
「おれも」
お昼休みなので、テトリちゃんは机の上に乗ってみんなとお話していました。
いきなりのそんな雰囲気にきょろきょろし始めます。
わたしはそんなテトリちゃんにいいました。
「わたしも行ってくるね!テトリちゃんは待ってて」

そうして5人で彩ちゃんに付いていきます。
彩ちゃんがみんなを案内したのは、今来たばかりのはずの中庭でした。
ここで何があったのかな?
彩ちゃんはうさぎ小屋の前に走っていきます。
するとその前の地面に穴が空いていました。
今までに見たことのない穴です。大きさは直径が10cmくらいあります。
そして彩ちゃんは小屋の中を指差しました。
「見て!1番小さいトキくんがいないの」
そういわれて見てみると、いつもは5匹いるうさぎさんが4匹しかいません。
今この雪湖小学校には、1家族のうさぎさんがいます。
お母さんのナラちゃん、お父さんのミキくん、そして子ども達がアスくん、ミサちゃん、トキくんです。
子うさぎちゃん達は、人でいうとわたし達より少し小さいくらいです。
わたしも時々会いに来て、お話していました。
トキくんはやんちゃで、穴掘りが大好きな子でした。
高志くんは真面目な顔で分析します。
「ずっと雨で、地面がかなりやわらかくなってたもんな。
だからこんな穴が掘れたんだ」
みゆきちゃんは困った顔でいいます。
「だからあの好奇心いっぱいのトキくんは、外に飛び出しちゃったんだね」
そして彩ちゃんは、とっても不安そうな顔です。
「どうしよう?早く探さないと」
わたしの感覚だと、トキくんはもう中庭にはいそうにありません。
「トキはまだ小さいし、外に出るなんて危ないよ」
その港くんの言葉で、わたしはこの状況が本当に心配になりました。
そこで早速始めます。
こういう時こそ、わたしの力を使わなくちゃね。
いつものようにペンダントを外します。
「まずはナラちゃん達や、チャボさん達に話を聞いてみよう!
ミラクル…」
そう呪文を唱え始めます。
すると、みゆきちゃんが慌てて止めてくれました。
「みかんちゃん!」
「え?」
呼ばれたわたしは、上げていた手を下ろしました。
みゆきちゃんは、その理由をすぐに教えてくれます。
「魔法のお休み中は、呪文を唱えるのもいけないんだったよね?」
そう聞いて、やっと思い出しました。
「あ、そうだった。わたし、今は魔法使えないんだったね」
この出来事にびっくりして、忘れていました。
みゆきちゃんのいう通り、お休み中は呪文を唱えるのもだめなんです。
ペンダントはいつも通りだから、呪文を聞いて魔法の種が働かないことに驚くんだそうです。
そう魔法が使えないことに気付いたわたしは慌てます。
彩ちゃんに呼ばれた時から、魔法があるから大丈夫と思っていたからです。
「じゃあどうしよう?
みんなからの話が聞けないと、ヒントが全然ないよ」
でもすぐに、動物とお話のできるテトリちゃんがこの学校にいることを思い出しました。
「そうだ!テトリちゃんに通訳してもらえる」
そう思い付いて、わたしは立ち直ります。
すると高志くんが心配して聞きます。
「テトリに来てもらう途中で先生に見つかったりしたら、大変じゃないのか?」
テトリちゃんが学校に来ているのは、先生達には内緒にしているもんね。
見つかったりしたら、すごく叱られそうです。
そう確かに危ないけれど、今はそういうことをいっていられません。
わたしは決めました。
「なんとか見つからないように来てもらうよ。待ってて!」
そういうと、わたしは急いで教室に戻りました。

「テトリちゃん、通訳してほしいの。一緒に来て!」
急いでいるわたしは、さっきの彩ちゃんのように、理由を説明する前にそう頼みました。
でもテトリちゃんは、すぐにうなずいてくれました。
「はい!」
そんなわたしに、教室にいたみんなが聞きます。
「みかんちゃん、どうしたの?」
「彩ちゃんの大変なことって?」
急いでいるわたしはテトリちゃんを抱いて、駆け出しながら答えます。
「子うさぎのトキくんがいなくなっちゃったんだよ。
それでテトリちゃんに、他のうさぎさん達から詳しい話を聞いてもらうの」

教室を出てからは、できるだけ人がいない通りを進みます。
その間に、さっきみんなにいったよりも詳しい説明をしました。
わたしの話を聞いたテトリちゃんは、力強くうなずいてくれました。
「それは大変ですね。私も一緒に探します」
「うん、ありがとう、テトリちゃん。
まずはみんなに話を聞いてみようね」
そう決まった時には、中庭まで後1本道というところまできました。
「よし!誰もいないね」
確認してから、その最後の通りを走ります。
良かった。誰にも見つからなかったよ。
そう少し安心していたら、後ろからガラッとドアの開く音がしました。
えっ?
なんだか嫌な予感がします。
そう思ったわたしは、声までかけられました。
「こんにちは。白石さん」
あっ!その声は勝子先生。
「こ、こんにちは」
わたしは立ち止まって答えます。
振り返るとテトリちゃんが見つかっちゃうので、後ろを向いたままです。
ちょうどここは先生がたくさんいる職員室の前。
勝子先生がいるのは当たり前です。
ど、どうしよう…。
そうとってもドキドキしているわたしの様子に、勝子先生は気が付きました。
さっきまでとってもご機嫌だったのに、怪しんでいる時の聞き方になります。
「どうしたんですか?
あっ!さては私に見られては困る物でも持っているんですか?」
さすがは先生です。
ここまで当てられて、こんな状況の時に言い訳なんて思い付きません。
「あの先生、わたし、とっても急いでいるので」
わたしはそういって、一生懸命走って逃げました。
「あっ!白石さん?」
そう後ろから勝子先生の声がします。
でもわたしは急いで通りを曲がって、中庭へと向かいました。

はあ はあ。
中庭についたわたしは、そう大きく息をつきます。
そこでテトリちゃんが心配そうに聞きました。
「みかんちゃん、大丈夫ですか?」
わたしはなんとか気持ちを落ち着かせながら答えます。
「うん。大丈夫。さっきあんまりびっくりして、こうなっちゃっただけだよ」
ふう。
1つ大きな息をつくと、あ、やっと落ち着きました。
勝子先生は追いかけては来なかったみたいです。
テトリちゃん、見つからなかったかな?
そう後ろを振り返ります。
そんなわたしに気が付いて、高志くんが来てくれました。
「大丈夫だったか?」
わたしは正直に、だけど心配はかけないようにいいました。
「うん。実はさっき見つかりそうになったんだけど、なんとか大丈夫だったみたい。
さあ。テトリちゃんが来てくれたし、話を聞いてみよう」

そうわたし達は、彩ちゃん達が待っているうさぎ小屋の前に駆けつけました。
「彩ちゃん、テトリちゃんが来てくれたから、もう安心だよ」
そうとっても心配している彩ちゃんにいいます。
それから今度はうさぎさん達に向き直ります。
誰か知ってますように。
うさぎさん達もいつもと違って、落ち着かない動きをしています。
やっぱりトキくんがいないからかな。
わたしは願いを込めて、トキくんのお母さんに聞きました。
「ねえナラちゃん、トキくんはどこに行ったの?」
そのナラちゃんの返事を、テトリちゃんは首を振りながら教えてくれます。
「わからないそうです。朝、目が覚めたらいなかったって…。
トキくんが穴を掘って遊ぶのはいつものことだったから、寝ている間に聞こえてきても、気にしていなかったそうです」
そのテトリちゃんの言葉に、彩ちゃんは泣きそうなくらいショックを受けたみたいです。
「そんな…。誰も知らないなんて…」
わたしは慌てていいました。
「待って!まだチャボさん達がいるよ」
チャボさん達はいっぱいいるから、きっと誰かは知ってるよね。
わたしとテトリちゃんは、今度はチャボさんの小屋に走ります。
チャボさん達はいつも元気なので、小屋はにぎやかです。
わたしはそんなチャボさん達に聞こえるように、口の周りに手をあてて、大きな声で聞きました。
「すみませーん。
うさぎさんが通るのを見た子はいませんかー?」
すると大きな声で答えてくれたチャボさんがいました。
それをテトリちゃんが教えてくれます。
「チャボさんは早起きだから、見たそうです。
小さなうさぎが向こうへ跳んでいったって」
そうテトリちゃんが向いた方は、外への道です。
やっぱりトキくんは、中庭を出たんだ!
わたしはそれがわかると、彩ちゃん達にいいました。
「わたし、トキくんを探しに行ってくるよ!」
朝飛び出したのなら、もう結構遠くまで行っているはずです。
今すぐ探しに行かなくちゃ。
もし車とかに引かれちゃったりしたら…。
学校が終わるまでなんて、待っていられません。
学校を抜け出すことになっちゃうけど、わたしは行く決意をしました。
すると彩ちゃんも強くいいます。
「わたしも行く。
みかんちゃんに頼んだのはわたしだし、飼育委員だもん」
それから高志くんもいってくれます。
「おれも行くよ」
そして…。
「わたしも!」
えっ!?
ここにはいないはずの優香里ちゃんの声が、突然聞こえました。
わたし達は驚いて振り返ります。
するとそこには、クラスのみんなが揃っていました。
みんなも心配して来てくれたんだ!
「わたし走るの早いし、役に立てるよ」
そうまじめな顔で、優香里ちゃんが頼もしくいってくれます。
「だったらおれも」
光くんもそういってくれます。
「みんなで探そうぜ!」
そういう温広くんに、みんながうなずきます。
わたしはそんなクラスのみんなに感動しました。
でも首を振ります。
「ううん。わたし1人で行くよ。テトリちゃんもいるし」
いきなりクラスみんながいなくなるのは、良くないです。
友子先生にまた心配をかけることになっちゃうし。
「でも、みかん1人で探すなんて…」
そう高志くんが心配してくれます。
それから彩ちゃんは握り拳を作って、一生懸命いいました。
「わたしは行かなくちゃ!
だってわたしの仕事なんだから」
そんな2人に、わたしは魔法使いの誇りを持っていいます。
「大丈夫。わたしは魔法使いだもん。
この力とテトリちゃんがいてくれれば、ちゃんとトキくんを見つけられるよ。
だから、わたしに任せて!」
本当は、今は魔法を使えないけど、少しは感覚が残っています。
自信満々でもないんだけど、こういえばみんな安心してくれるよね。
するとみんなはうなずいてくれました。
「わかった!先生の方は、おれ達が何とかする」
それから正くんがまじめに約束してくれます。
「授業の内容は、後で僕がちゃんと説明するよ」
そうだね。正くんならしっかり教えてくれそうです。
「みかんちゃん、本当にごめんね。
じゃあお願い!」
「うん。行ってくるね」
彩ちゃんや、応援してくれるみんなの声に見送られて、わたしはテトリちゃんと中庭を飛び出しました。

そして教室に戻ってきたみんなは、早速相談を始めました。
みんなで輪になって、健治くんが中心になって話しています。
「それでみかんがいなくなった理由を、何ていうことにするかだな」
そう先生に聞かれた時に、何て答えるかを考えています。
「普通に、具合いが悪くて早退したじゃだめなのか?」
そう温広くんがいうと、秋子ちゃんが首を振ります。
「それはだめだよ。
魔法使いは普通具合いが悪くなったりしないってことくらい、友子先生も知ってるよ」
「うーん、そうだなー」
みんなで首をひねって、一生懸命考えます。
その中で、健治くんはいい考えが浮かんだようでした。
「よし、これだ!みんな安心しろ。
オレがいい理由を思い付いたから」

カラーンコローン♩
チャイムが鳴って、友子先生が入ってきました。
そしてすぐにわたしがいないことに気が付きます。
「あら?みかんちゃんがいないけど?」
そう不思議な顔をします。
すると健治くんは、元気よく手を上げていいました。
「先生!みかんはお母さんに呼ばれていきました。
何でも、今すぐみかんの魔法が必要とかで」
(これならつじつまは合うし、絶対にみかんが早退しなきゃならない、いい理由だ。)
そう健治くんは自信満々でしたが、1つ大事なことを忘れていました。
そう間違えたのは、わたしがさっき魔法の力を話に出したからかな。
「あら、そうなの?
でもみかんちゃんって、今は魔法が使えないんじゃなかったかしら?」
そう首をひねる友子先生に、みんなはどっきりします。
怪しまれないように、美穂ちゃんが慌てていいました。
「先生、今のは健治くんの冗談です。
本当の理由は、えーと…」
健治くんが思い付いたといっていたので、安心していたみんなは、とっさに理由が思い付きません。
(どうしよう…。早く答えないと、後でみかんちゃんが大変だ。)
そうみんなは焦ります。
するとその中で、高志くんが真っ先に思い付きました。
嘘を付くのが苦手な高志くんは、たどたどしくいいます。
「先生、実は…、みかんが夏から入る魔法の森の学校の入学手続きに行ったんです…。
今日の夕方が締め切りなのに忘れていたみたいで…、慌てていきました…」
そういいながらきょろきょろもしていました。
でもまだ高志くんの癖を知らない友子先生は、その理由に納得しました。
「そうだったの。
それは大事なことだものね」
そううなずいて、友子先生は黒板に向かいます。
すると今の話について、桜ちゃんがももちゃんにひそひそと聞きます。
「魔法の森の学校って?」
桜ちゃんは忘れていたけれど、覚えていたももちゃんは説明します。
「みかんちゃん、いってたよ。
毎年夏休みに魔法の森っていうところにいってるって。
そこで今年からは魔法を教えてもらえるんだって」
それを聞いた美穂ちゃんが感心していいました。
「そうだったよね。
それにしても、よくとっさに出てきたね。高志くん」
すると安心して立ち直った健治くんがいいます。
「ほら、なんたって高志は、みかんに対する気持ちがオレ達とは違うからさー」

その言葉に、高志くんは振り返って怒りました。
「おい!こういう大変な時にまで、そういうこというな!」
その声が大きかったので、友子先生はびっくりして振り返ります。
「みんな、どうしたの?」
そうきょとんとします。
みんなは慌てて前に向き直って、返事をしました。
「なんでもありませーん」
それからはないしょ話を止めて、授業に集中します。
(みかんちゃん、頑張ってね。)
そうわたしのことを心の中で応援してくれながら。
その中で高志くんは、まだ怒っていました。
(全く健治のやつ、ああやってしょっちゅうおれのことをからかって。
みかんにもばれたら、本当に絶交するからな!)
そして窓の向こうを見て、気持ちを切り替えます。
(また置いてきぼりになったけど、みかんは本当に1人で大丈夫かな?)


14─友達の動物達

まず学校の前で、どっちの方に行こうか考えます。
「いなくなったうさぎさん、無事だといいですね」
そのテトリちゃんの言葉にうなずきます。
「うん。ちょっと待ってね」
それから気持ちを集中させます。
するとかすかに使える力で、感じとることができました。
「大丈夫!トキくんは無事だよ。
でもどっちにいるかまではわかんないな」
いつもなら、どこにいるかもわかるんだけど…。
右左ときょろきょろしてしまいます。
そんなわたしに、テトリちゃんが力強くいいました。
「探しにいきましょう!
きっと見つけられます」
「そうだね!」
わたし達はとりあえず、知っている場所を回ってみることにしました。

「うさぎって、狭いところが好きっていいますよね」
街中を走り回っていると、そうテトリちゃんが教えてくれました。
「そうだね。じゃあこんな狭い道にいたりして…」
路地を期待してのぞいてみます。
でもトキくんはいませんでした。

学校の近くにある商店街の八百屋さんにも聞いてみました。
朝出掛けたんだったら、トキくんはお腹がすいているよね。
だからうさぎさんが大好きな野菜を並べている、八百屋さんに来なかったかなと考えました。
お店にはちょうど他のお客さんはいなくって、おじさん1人でした。
「すみません。小さいうさぎさんを見かけませんでしたか?」
するとおじさんは不思議そうな顔をします。
「いや、見なかったよ。
お嬢ちゃん、どうしたんだい?」
わたしは急ぎながらも、きちんと答えます。
「学校のうさぎさんが1匹いなくなっちゃって、探してるんです」
するとおじさんはお店の奥に向かいました。
「そりゃあ大変だ。
じゃあちょっと待ってな」
そしてすぐに戻ってきて、何かが入った袋をわたしにくれました。
「キャベツの外皮だ。
そのうさぎもおなかが空いているだろうから、見つかったら食べさせてやりな」
わたしはそんな親切に感謝します。
「おじさん、ありがとう」
「いいってことよ。
元々捨てる物だったしな」
そのおじさんの元気な笑顔に、わたし達はますますやる気が出ました。

キャベツのお土産を持って、わたし達は探し回ります。
公園は隠れるところがたくさんあるので、慎重に。
「やぶの中にいたりするかもしれませんね」
そのテトリちゃんの言葉にうなずきます。
街の中よりも、こういう植物がたくさんある場所の方が喜びそうです。
いるかもしれません。
「だったら、トキくんは白と灰色が混ざっているから、見つけやすいよ」
でも木の周りや茂みの中にはいませんでした。

公園に遊びに来ていた、小さな子達にも聞いてみます。
砂場でお山を作っている、幼稚園くらいの2人の女の子達に。
「あのね、お姉ちゃん、うさぎさんを探してるんだけど、どこかで見かけなかったかな?」
「うさちゃん?ううん」
そう首を振ってから、その女の子はテトリちゃんをじーっと見ます。
「そのおねえちゃんといっしょにいるねこさん、ぬいぐるみみたいだね」
わたしはにっこりうなずきます。
「うん、テトリちゃんは生きてるぬいぐるみなんだよ」
するととっても喜ばれました。
「わー。すごーい」
「ねこさん、こっちに来て」
そうちょっとの間、テトリちゃんは頭をなでられます。
本当にテトリちゃんは、大人気です。
そうみんなでちょっと気持ちが和みました。

池にも見に行きました。
池の周りにはいなかったけれど、もしかして落ちてしまったかもしれないという危険もあります。
それはとっても怖い話なんだけど、念のために。
わたしは池をのぞき込みます。
「先生がいっていたんだけど、この池ってとっても深いんだって」
そう注意されたことを思い出しました。
それでなくても今水着とかは持っていません。
だから水の中に入るのは難しいです。
テトリちゃんも無理だし。
「やっぱり池に住んでる、かえるさんに聞いてみようか。
テトリちゃん、聞いてくれる?」
「はい!」
テトリちゃんはうなずいて、かえるさんがいるところに走っていきました。
「こんにちはー」
でもテトリちゃんが寄っていくと、かえるさんはぴょこんと水の中に飛び込んでしまいます。
なんでかな?
すぐにはわからなかったけれど、思い出しました。
あっ、そういえば、かえるは猫が苦手だったんだっけ。
テトリちゃんは怖くないって、わかってもらわないと。
わたしはそう考えて、テトリちゃんのところに行きます。
「なんでいなくなってしまうんでしょう?」
わからないテトリちゃんは、首をかしげています。
わたしはテトリちゃんに、そのことを教えました。
「そうなんですか。
私、猫ですもんね」
そのテトリちゃんの手を、こちらの様子をうかがっている、かえるさんに見せます。
「ねえ!テトリちゃんは本物の猫じゃないから、怖がらないで。
ほら、手もふかふかでしょ?」
そういっても、かえるさんはまだ怪しんでいるようです。
猫さんって、自由に爪を出したりできるしね。
だったらわたしが魔法使いだってことを証明するしかないかな。
そうしたら信じてもらえるかもしれません。
でも今は魔法を使えない時です。
どうしようかな?うーん。
考えたわたしは、ペンダントに行き当たりました。
そうだ!
このペンダントはいつも通りの力を持っています。
他のアイテムには変えられないけど、このままなら使えます。
でもわたしが今思い付いたことは、いつもお世話になっているペンダントに対してひどい使い方です。
でも信じてもらう方法がこれしか思い付きません。
「かえるさん見て!
わたしは魔法使いで、この子は魔法で生きているぬいぐるみの猫なんだよ。
その証拠に、このペンダントは魔法で浮きます」
そうわたしはペンダントを持って、池の上でぱっと手を離しました。
でもペンダントは池の中には落ちません。
水の上ぎりぎりのところに浮かびます。
持ち主が付けていない時は、沈んで無くなったりしないように、こうなるそうです。
話には聞いていたけど、やってみるのは初めてです。
大丈夫かちょっと心配しました。
するとこれを見た、かえるさんが寄ってきます。
そして口をぱくぱく開けて、何かいっています。
(まったく、大事な物にこんなことをして、困った魔法使いさんだよ)
(もし沈んだりしたら、どうするんだい?)
テトリちゃんはそれを聞いて、苦笑いしました。
わたしはなんていっていたのかわかりません。
でもかえるさんはもう遠くに行ってしまいそうにないので、一安心です。
まずはペンダントを首にかけます。それからテトリちゃんに聞いてもらいました。
「この池に、うさぎが来ませんでしたか?」
でもかえるさんは見かけていないそうです。
他の池で聞いてみても、同じでした。
でもトキくんが水の中に落ちたりしていなくて、良かったです。

通りがった、お花屋さんにも聞きました。
外に高橋さんがいます。
このお店の高橋さんと野沢さんの2人と、わたしは時々お話しています。
わたしとテトリちゃんは高橋さんのところに駆けていきます。
「みかんちゃん、今日は学校終わるの早いのね」
わたしはその言葉に首を振ります。
「ううん。みんなはまだ授業受けてるの。
私はうさぎのトキくんがいなくなったのが心配で、探しているんです」
そして短めに事情を話します。
すると高橋さんも困った顔になっていいました。
「それは大変ね。
私はしばらく外にいたけど、見かけなかったなあ」
「そうですか…」
そう聞くと、やっぱりがっかり。
もう心当たりのあるところは回った後だからです。
すると高橋さんは、励ましてくれました。
「私の仕事が終わってもまだ見つかっていなかったら、手伝うよ。
だから元気出して」
その言葉に、わたしは顔を上げて答えました。
「ありがとう。その前に見つけられるように、がんばります」
そう手を振って、また他の場所へと向かいました。

でもそれから少し経って、わたしはため息をついていました。
はあ。どうしよう…。
わたしが知っている場所はみんな行ってみたけれど、見つかりません。
ほうきが使えれば、もっと遠くまでも探しに行けるんだけどな。
こうやって走って回るには、もう限界です。
北へ南へ東へ西へ、2時間以上走り回りました。
こういう時のために、普通魔法使いは疲れないようになっています。
それだけは今も効いているんだけど、気持ちが落ち込みました。
いろいろなところに行って聞いて回ったのに、どこにいるのか全然わかりません。
最後にわたしは色瀬川に来て、土手に座り込みました。
クラスのみんなに「まかせて」っていって出てきたのに、見つけられなかったなんていえません。
わたしは自分から、みんなの代表になることにしたのに…。
辛くって、ちょっと涙も出てきました。
テトリちゃんはそんなわたしを、とっても心配して見ています。
でもこんな状況で、とても元気を出せそうにありません。
そんなところに、カンさんがやって来ました。
(あれ?みかんちゃんとテトリちゃん、どうしたんだよ?)
「あっ、カンさん」
落ち込んでいるわたしの代わりに、テトリちゃんが答えます。
今までの話を聞いたカンさんは、翼を動かしながらいいました。
(なるほど。そういうことで落ち込んでたのか)
わたしはカンさんが元気付けようとしてくれているのは、わかりました。
わたしは顔を上げてカンさんを見ます。
するとカンさんは、ぱっと飛び立ちました。
(みかんちゃん、いつもの魔法が使えなくて大変なんだろうけどさ。
オレ達がいるだろ。仲間みんなで探せば、きっと見つかる)
そしてカンさんは大きな声で鳴きました。
カー カー。
話がわかっていないわたしは、びっくりします。
「えっ?何?」
するとテトリちゃんが教えてくれます。
「カンさんが鳥さん仲間を呼んで、みんなでトキくんを探すのを手伝ってくれるそうですよ」
そんな思いがけない助けに、わたしは言葉が出ませんでした。
カンさんのところに、だんだんと鳥さんが集まってきます。
それはわたしが知っている鳥さんだけじゃなかったし、ヒナちゃん達も来てくれました。
そうみんなが集まると、カンさんは大きな声でいいました。
(みんな、集まってくれてありがとう。
それが、みかんちゃんの学校の子うさぎがいなくなったそうだ。
それで2人で探したんだが、見つからないらしい。
空を飛べるオレ達が探してやろう!)
するとわたしと仲良しのお母さん鳥が答えます。
(あら、そんなことがあったのね。
通りでみかんちゃん、元気ないわ。
ずいぶんがんばったのね)
そうたくさんの鳥さんに注目されます。
(でも私達に任せれば安心よ。
空の上から、こんなにたくさんで探すんだもの。
すぐに見つかるわ)
ピチチ ピチチ
そして鳥さん達は、色々な方向へ散っていきました。
そのことをテトリちゃんに教えてもらうと、わたしも元気を出して立ち上がりました。
「鳥さん達も手伝ってくれるんだもん。
またわたし達も探しに行ってみよう!」
そうテトリちゃんにいって、走り出そうとします。
すると1羽残っていたカンさんに、服をくわえられました。
「えっ?」
なんだかわからなくてわたしが止まると、カンさんがいいました。
(そうやって何でも自分でやろうとするのが、魔法使いの困ったところだ。
今までに充分探したんだろ?
あとはオレ達、友達を信じて待っていればいいんだよ。
友達としては、任せてもらった方がうれしいこともあるんだから)
そうテトリちゃんからのカンさんの言葉を聞いて、わたしは考えます。
その話で、さっきのクラスの友達とのことも思い出しました。
確かにそうだよね。
あの時もみんなで探そうっていってくれていました。
なのにこうしてわたし1人で来て、結局1人では見つけられませんでした。
わたしは魔法使いだからって、やっぱり特別に思っているところがあります。
もちろん本当にわたしでなきゃいけない時もあります。
でもみんなと解決できる時は、もっと頼りにしていいんだね。
そうわかって、心があたたかくなりました。
わたしは晴れ晴れとした顔になって、カンさんにいいます。
「うん、わかった。カンさん。
わたし、みんなを待ってるね」
カー カー
するとカンさんは、うれしそうに鳴きました。

いくらか待っていると、急いで戻ってきた鳥さんがいました。
そしてテトリちゃんがうれしい報告をしてくれます。
「トキくんが見つかったようですよ!」
わたしは安心しました。
「よかった!
カンさんも、鳥さんみんなも、ありがとう」
わたしにできなかったことを、こうやって助けてもらって、心から感謝しました。
「鳥さんが案内してくれるそうです。
迎えに行きましょう」
テトリちゃんの言葉に、わたしは元気にうなずきます。
「うん!」
そしてその鳥さんの案内に付いて、駆け出します。
カンさんはこれから戻ってくる鳥さんに、このことを伝えるために残りました。

着いた場所は、わたしが来たことのない大きな道路でした。
場所としては、そんなに遠いところではありません。
でも車がたくさん走る大きな道だから、わたし達は来ないようにいわれていました。
ここにいたんだったら、わたしには見つけられないはずです。
その歩道のわきの草むらに、トキくんがいました。
背中を向けて、ふるえています。
そんなトキくんに、わたしは落ち着いて呼びかけました。
「トキくん。わたし、みかんだよ。
もう安心だよ」
トキくんは耳をぴくぴくっと動かして振り向きます。
そしてわたしにジャンプしてきました。
(うわーん。みかんちゃん、こわかったよー。
外はどんなところかなって探検に来たら、びゅんびゅん速く走ってる物はあるし、家の場所はわからなくなるし…)
そう泣きながら、一生懸命いいました。
でもわたしはそれがわからないまま、手に持っていた袋を差し出します。
「八百屋のおじさんが、トキくんにキャベツの葉っぱをくれたんだよ。
おなかすいてない?」
そして袋から1枚取り出して、トキくんに渡しました。
やっぱりトキくんはおなかが空いていたみたいです。
少し落ち着くと、ゆっくり食べ始めました。
そして突然、びくっとしました。
その視線の先で、わたしは理由がわかりました。
だから笑っていいます。
「テトリちゃんは、本物の猫さんじゃないよ。
わたしの家族だし、礼儀正しいから心配しないで」
さっきかえるさんに見せたように手を出して、テトリちゃんもにっこりといいます。
「ほら、私の手は爪がないでしょう?」
そんなテトリちゃんの様子にも、トキくんは安心したみたいでした。
今日のテトリちゃんは、隠れたり、こわがられたり、色々と大変です。
トキくんがレタスを食べ終わると、わたしがだっこしたまま色瀬川へと戻ります。
トキくんもいっぱい疲れたよね。
隣にはテトリちゃん。そして上には、お手柄の鳥さんが一緒です。
「近所の鳥さん達みんなで、トキくんを探してくれたんだよ。
みんな色瀬川に集まってきてると思うから、お礼をいって、それから学校に戻ろうね」
歩きながら、わたしはそうトキくんにいいます。
(勝手に出てきて、なのに迷惑をかけてごめんなさい)
そうトキくんは、ずっとしょんぼりしています。
そこで鳥さんとテトリちゃんが励ましました。
(まあしょうがないわよ。
ずっと狭いところにいたら、出てきたくもなるわね)
「そうですよ。
元気でないと、お母さん達が心配しますよ」
わたしはそのテトリちゃんの言葉しかわかりません。
でも3匹で何を話しているのかが、なんとなくわかりました。

色瀬川に付く前に、お花屋さんがあります。
心配してくれた高橋さんに、早速報告しました。
「トキくんが見つかりました。
この鳥さんが見つけてくれたんです」
そうわたしは、トキくんと鳥さんを紹介します。
すると高橋さんはほっとした顔になっていいました。
「良かったわね。気になっていたの。
みかんちゃんは、友達がたくさんいて良かったね」
「うん。本当」
そう心から実感しました。
テトリちゃんは、一生懸命手助けしてくれました。
カンさんや鳥さん達は、あんなに大勢で探してくれました。
そしてクラスのみんなも、一緒に探そうっていってくれました。
そんなみんなに、とっても感謝しているんだよ。

色瀬川には、たくさんの鳥さん達が集まっていました。
わたし達はそこに走っていきます。
カンさんがトキくんを見つけていいました。
(無事に会えたんだな。良かった!
さあ早く学校に戻った方がいい。
もう夕陽になりそうだ)
その言葉を聞いて、学校のみんなを思い出します。
そうだね。あれから大分時間が経ってしまいました。
きっとみんなも心配してるよ。
もう授業は終わっている頃です。
「みんな、探してくれて本当にありがとう!
トキくんを送ってくるね」
わたしは鳥さんみんなに手を振ります。
そして今度は学校に急いで戻ります。
ピチチ ピチチ ピチチ
鳥さん達は、みんなで元気に見送ってくれました。
今は急いでて簡単にしちゃったから、また改めてお礼をいわなくちゃね。
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