5年生6月編

12─テトリちゃんと学校へ

「気を付けてな」
「2人とも、行ってらっしゃい」
「テトリ。よろしくね」
そうおじいちゃん、おばあちゃん、お母さんが温かく声をかけてくれます。
そんな声に見送られて、わたしはテトリちゃんと一緒に学校へ出掛けます。
「はーい。行ってきまーす」
こうやってテトリちゃんと学校へ行くのは、もちろん今日が初めてです。
おしゃれもしてるし、特別な今日に、わたしはうきうき気分です。
そんなわたし達はいつものように、真樹子おばさん家の前を通りかかりました。
すると庭にいた真樹子おばさんが、あいさつをしてくれます。
「ああ。みかんちゃん、テトリちゃんも。おはよう」
わたしとテトリちゃんも、立ち止まってあいさつをします。
「おはようございます」
真樹子おばさんはこうやって、よくご近所の人に声をかけてくれます。
特にわたしのような子どもを気にかけてくれているよ。
わたしは4歳の時にお引っ越ししてきた時からずっと、いろいろとお世話になっています。
その真樹子おばさんには、大学生の息子さんがいます。
そのお兄さんは、学校も帰りが遅くて、よくお出掛けもしています。
だからわたしは、時々見かけるくらいです。
そうお付き合いの長い真樹子おばさんは、わたしの事情も知っています。
いつもとは違うわたし達に不思議な顔もせずに、テトリちゃんに聞きました。
「今日から6月だものね。
テトリちゃんも一緒に行くの?」
テトリちゃんはしっかり答えます。
「はい。みかんちゃんも色々と大変だと思うので、私もお手伝いするんです」
その言葉に、真樹子おばさんはにっこり笑っていいました。
「そう。テトリちゃんはしっかりしていて頼もしいから、安心ね」
それからわたしにも、温かい言葉をかけてくれました。
「いちごちゃんの方が頼りになるだろうけど、困ったことがあったら、私もいつでも相談にのるからね」
そういってもらって心強いです。
でも心配って思われないように、わたしは元気にいいます。
「ありがとうございます。
今年はテトリちゃんもいてくれるし、元気にがんばります」
そんなわたしに、真樹子おばさんは安心した顔をしてうなずきました。
それから話題を変えます。
「そうそう今年も、一昨日かられもんさんと椎さんが来ていたわね」
そうおばあちゃん達が毎年来ていることも、真樹子おばさんは知っています。
おばあちゃん達、ごあいさつしているみたいだし。
おばあちゃん達といえば、昨日のことを真樹子おばさんにもお話しよう!
わたしはそう思い出しました。
でも学校に行く前だから、簡単にお話します。
「はい。昨日はおじいちゃんとおばあちゃんに、サンタさんの家に連れて行ってもらったんだよ」
そう突然サンタさんといったので、真樹子おばさんは驚いたみたいでした。
だけどすぐに、いつものように落ち着いて聞きました。
「あら、サンタさんに?
サンタさんはやっぱり、白いお髭の優しいおじいさんだった?」
サンタさんのイメージはみんな同じだね。
そう思いながら、わたしはうなずきます。
「はい。いろいろなお話を聞かせてもらったよ」
そのこともお話したいけど、時間がかかるから今度にしよう。
そう思うわたしの後に、テトリちゃんがもう1つ付け加えました。
「サンタさんの家には、トナカイさんもいましたよ」
そうだね。それもとっても大切なことです。
そんなわたし達を交互に見て、真樹子おばさんは微笑みました。
「そうなの。サンタさんは本当に聞いていた通りなのね。
2人とも、とっても楽しかったみたいね」
「はい!」
わたし達は元気にうなずきます。
それから真樹子おばさんが時計を見てあわてました。
「あ!大分引き留めちゃったね。
みかんちゃん、テトリちゃん、いってらっしゃい」
「行ってきまーす」
わたし達は手を振って、学校へと歩きます。
時間に余裕を持って出て来たから、まだ急がなくても大丈夫です。
そうそうテトリちゃんには、最初から汚れない魔法がかけられています。
地面を歩いたり、水がかかってもきれいなままなんだよ。
この魔法は、魔法使いが生き物に変えた物には大抵かけるそうです。
生きていても、体は本物の猫になったわけじゃないもんね。
あんまり洗うと、毛がごわごわになっちゃいます。
でも、あれ?テトリちゃんって、ご飯は一緒に食べるよね。
ぬいぐるみのままのところと、生き物らしいところがあるみたいです。
そんなテトリちゃんと、のんびり町並みを眺めながら向かいます。
歩くと、空を飛んでいた時にはわからない発見がたくさんあります。
前に見た時にはつぼみだったお花が咲いていたりね。
テトリちゃんとこの道を通るのも初めてなので、いろいろ教えてあげました。

学校に着くと、テトリちゃんにはカバンの中に入ってもらいました。
それからわたしは元気良く、教室のドアを開けます。
「おはよーっ」
「おはよー。あれ?みかんちゃん。
今日は晴れてるのに、ほうきを持ってないね」
そう不思議そうに美穂ちゃんが聞きます。
そして龍太郎くんが、ポンと思い出しました。
「ああ、そうか。6月だもんな」
クラスのみんなにも去年話したので、そう知っています。
美穂ちゃんも、その言葉で思い出したようでした。
「うん!だから今月は、テトリちゃんも一緒に学校に来てくれることになったの」
そういって、わたしはカバンを開けます。
そしてテトリちゃんが顔を出しました。
「おはようございます!」
そんなテトリちゃんを見て、みんなは喜びました。
「わあっ。テトリちゃんだ」
もうテトリちゃんには、1度会っている子が多いんです。
その中、秋子ちゃんが確認しました。
「でも…、学校にテトリちゃんを連れて来ていいって許可はもらってないんだよね?」
わたしは正直にうなずきます。
「うん。昨日急に決まったことだし、さすがにテトリちゃんまでは許してもらえないかなあと思って、いってないの。
だから先生に見つからないように、授業中はカバンの中にいてもらうことになってるんだ」
これが、昨日わたしが気になっていたことです。
テトリちゃんが学校に来ているのは、先生達には秘密。
テトリちゃんはいい子だし、来たことで何か問題が起きたりはしないんじゃないのかな?
それでもいけないことなんだけどね。
そのわたしの言葉に、秋子ちゃんはうなずきました。
「そっか。テトリちゃんなら大人しくしていられるし、大丈夫だよね」
そうわたしとテトリちゃんを心配して聞いてくれたみたいです。
「テトリちゃん、45分もじっとしてるなんて平気?」
そう優香里ちゃんも心配そうに聞きます。
テトリちゃんは、自信を持って答えました。
「大丈夫です。私は元々ぬいぐるみですから。
じっとしていようと思えば、ずっと動かないままでもいられます」
そうなんだ!
そのことはわたしも初めて聞きました。
そうテトリちゃんの良く出来ているところに感心します。

そうしてその大事なお話が終わると、女の子達はわたしの格好に注目しました。
「あ!みかんちゃん、いつもと違う髪飾りを付けてるね」
そう真っ先にいったのは、いろんなことに気が付く彩ちゃんです。
わたしは昨日もらったお星様のをちゃんと付けてきていました。
いつもはお気に入りのみかん色のボンボンを付けていて、めったに変えないもんね。
「そう。おばあちゃんがお土産にくれたの」
わたしがそう答えると、周りにいた女の子みんなでうなずいてくれました。
「かわいいよね」
「本当?」
ほめてもらって、わたしはとってもうれしくなりました。
そして今度は美穂ちゃんに聞かれます。
「それからその服って、みかんちゃんのお気に入りのだよね」
そう前に着てきた時に、みんなにもいっていたようです。
わたしはうなずきながら、はしゃぎます。
「うん、そうなの。似合う?似合う?」
すると男の子達も答えてくれます。
「いつもと少し、雰囲気違って見えるよね」
そんな中健治くんが、わたしの隣の席に座っている高志くんにいいます。
「似合ってるよなー?高志」
その言葉に、みんなが高志くんを注目しました。
その高志くんは、怒った顔になっていいます。
「それはそうだけど、そういうことをいちいちおれにいうなよ」
そしてみんなとは逆の方を向いてしまいました。
ありゃ。わたし、はしゃぎすぎたかな?
そんな高志くんの様子に、ちょっと反省しました。
でもやっぱり、昨日のことはみんなにお話しておきます。
そんな雰囲気を変えられるように、明るく話し始めます。
「そうだ!わたし昨日ね、サンタさんに会いに行ったんだよ」
そういうとクラスの半分はうれしそうに、そして半分は驚いた顔になりました。
「サンタ・クロースって本当にいるのか?」
そう聞く温広くんに、わたしは大きくうなずきます。
「うん。ずっと北の国にね。
昨日から来ているおばあちゃん達に連れて行ってもらったの。
サンタさんお手製の、木のおもちゃも見てきたよ」
そう説明すると、麻緒ちゃんがうらやましそうにいいました。
「いいなあ、みかんちゃん。
わたしもサンタさんに会ってみたい」
その言葉に、わたしはちょっと考えます。
そうだよね。みんなも会ってみたいよね。
でも魔法使いのわたしでも、サンタさんのところには簡単に行けません。
おばあちゃんくらいの一人前の魔法使いでないとね。
わたしはまたサンタさんに会う約束はしました。
でもあの移動の魔法はみんなには秘密だし、お友達も一緒には無理だよね。
そこでわたしは、普通の方法をいってみます。
「わたしもおばあちゃん達に連れて行ってもらったから、めったに行けないの。
でもサンタさんは、この世界に普通に住んでいる人だから、飛行機に乗れば行けるよ。
サンタさん、お客さんを待ってるって」
そういうと麻緒ちゃんはうなずいてくれたけど、ちょっと残念そうです。
「そうだね。大きくなってから行くね」
その顔を見て、わたしはまた考えます。
うーん。これじゃあ先すぎるもんね。
わたしだけ楽しんできたんだから、できるだけいいことを教えてあげたいです。
そう思って、他のことも思い出しました。
「それからね、サンタさんはお手紙も喜んでいたよ」
すると麻緒ちゃんは、ぱっと明るい顔になりました。
そしてわくわくしていいます。
「お手紙?うん、書こうかな。
いつもプレゼントをもらってるお礼。
お手紙なら、今でも書けるよね」
「うん」
そう喜んでくれて、わたしは安心しました。
するとこの話に、柾紀くんもいいました。
「ぼくもお手紙を書いたんだ。届いてるかな?」
そう聞かれて、わたしは思い出しました。
!そうだね。お手紙っていえば、柾紀くんに伝えなきゃいけなかったんだよ。
柾紀くんのお手紙を見つけて、うれしかったこと。
「うん。ちょうどわたしが行った時に、机の上にあったよ。
柾紀くんのお手紙」
テトリちゃんもうなずきます。
「はい。サンタさんに届いたお手紙の中から、みかんちゃんが見つけたものですよね?」
そう教えると、柾紀くんはとってもうれしそうな笑顔になりました。
「本当?良かった。
ちゃんとサンタさんが読んでくれてるんだ」
この話に、麻緒ちゃんも燃えます。
「すごいね!わたしも絶対書こう!」
それからテトリちゃんが、話題を変えて話し始めます。
「トナカイさんにも会ったんです。
サンタさんの家には、3頭のトナカイさんがいました。
みんな優しくて、私を背中にも乗せてくれたんです」
そんな様子を見て、テトリちゃんは本当にトナカイさんが大好きなんだなあって感じます。
わたしも大好きだけど、もっといっぱいにね。
みんなにも、そんなテトリちゃんの気持ちが伝わったみたいです。
にこにことうなずいてくれました。
「いいね、テトリちゃん」
それから桜ちゃんとももちゃんが、息をぴったり合わせていいます。
「サンタさんって、本当にトナカイと一緒なんだ」
「空飛ぶソリもあるの?」
わたしは聞いてきたことを説明します。
「うん。ちゃんとあるよ。
トナカイさんは、飛行機くらい速く飛べるんだって。
そして空でサンタさんが袋を逆さまにすると、ちゃんとプレゼントがみんなの家に届くみたい」
みんなもその仕組みに感心します。
「へえ。すごいねー」
そう話をしていたら、わたしはまた思い出しました。
昨日のあの疑問です。
それをみんなにもいってみます。
「そういえばわたしが会ったサンタさんは、プレゼントを配っているのはサンタさんの国だけなんだって。
わたし達には違うサンタさんがいるっていっていたんだけど、どういう人なのかな?」
「えっ、そうなの?」
わたしの言葉に、柾紀くんと麻緒ちゃんも驚きます。
すると健治くんが何かいいかけました。
「あっ。それはさ、おれ達の…」
でも龍太郎くんに口を抑えられます。
「健治!そういうことはいうな!」
そして美穂ちゃんと正くんも続けます。
「そうだよ。
本当に健治くんって、何でもしゃべろうとするんだから」
「全く大人気ないよ」
そんなみんなを見て、疑問いっぱいのわたし達。
???健治くん達は何か知っているの?
健治くんを静かにしてから、龍太郎くんはわたし達に向き直りました。
そして人差し指を立てていいます。
「確かにおれ達のサンタ・クロースは、そのおじいさんじゃない。
でもおれ達のために考えて、プレゼントを届けてくれる優しい人だ」
そう説明をする龍太郎くんも、サンタさんを知っているみたいです。
だから麻緒ちゃんは聞きました。
「龍太郎くんは、そのサンタさんに会ったことがあるの?」
すると龍太郎くんは困った顔になりました。
それから少し考えます。
そしていつものように落ち着いて、わたし達にいいました。
「いや…、ないけどさ。
でも毎年届くプレゼントを見たら感じるだろ?
みかんも麻緒も柾紀も。
なんたって、魔法使いや精霊がいる世界なんだからな。
実際会ったことがなくたって、そういう人がいるって、ちゃんと信じられるだろ?」
そう龍太郎くんのいうことを聞いたら、なんだか心が落ち着きました。
わたしのサンタさんは別の人って聞いてから今まで、その人について気になっていました。
でもそう色々考えるよりも、今まで通り素直に、わたし達にもサンタさんがいてくれることを大事に思えばいいんだね。
わたしは魔法使いなのに、大切なことを忘れていました。
誰よりも、信じる心を持っていないといけないのにね。
「うん、そうだね」
麻緒ちゃんと柾紀くんも納得して、3人でうなずきます。
そう一件落着しました。
するとそう解決させてくれた龍太郎くんを、彩ちゃんがほめます。
「龍太郎くん、かっこいい!どこでそういうやり方を覚えたの?」
龍太郎くんは、少し首をひねってから答えます。
「うーん。美紅がいるから、いつの間にか…」
美紅ちゃんは、幼稚園に通っている、龍太郎くんの妹です。
美紅ちゃんに聞かれたことも、こうやって答えているのかな?
そんな場面を想像すると、とってもいいお兄ちゃんだなあと思います。
あんなふうに人に教えてあげられるって凄いなあ。
そう龍太郎くんに感心します。
それからわたしは、麻緒ちゃん達に向き直ります。
おばあちゃんからいわれたことを、麻緒ちゃん達にも伝えなくちゃって思って。
わたしは一生懸命いいます。
「わたしが昨日会ったサンタさんはね、そのわたし達のサンタさんもお手本にしている人なんだって。
だからわたし達のところに来てくれている人じゃなくても…」
そうわたしがいいたいことを、麻緒ちゃんと柾紀くんはちゃんとわかってくれました。
2人とも元気にうなずきます。
「うん!やっぱりわたしは、そのサンタさんにお手紙書くよ。
わたし達のサンタさんの住所がわからないからっていうのもあるけど、最初のサンタさんなんだもんね。
だからどっちも、感謝しているサンタさんだよ」
そうしっかりいう麻緒ちゃんに続いて、柾紀くんも自信を持った顔でいいます。
「ぼくもお手紙を書いて良かったよ。
ぼく達の憧れているサンタさんに変わりはないもんね」
そんな2人の返事に、わたしはうれしくなりました。
「そうだよね。サンタさんはどこの国でも、子ども達を喜ばせてくれるステキな人だよ」
そう話がまとまったら、ちょうど朝のチャイムが鳴りました。
カラーンコローン♪
「あっ。席に着かなきゃ」
急いでテトリちゃんには、カバンの中に入ってもらいます。
そして今のお話のおかげで、ほんわかした気分で席に着きました。
それから隣の席なので、さっきの高志くんのことを思い出しました。
わたしはちょっと緊張して聞いてみます。
「ねえ、高志くん。まだ怒ってる?」
すると高志くんは普通に答えてくれました。
「いや、みかんには怒ってないよ。
健治がおれのことをからかったりするから、あいつに怒っただけ」
そういわれて、わたしは安心しました。
「良かった。ついわたしも調子にのっちゃったから」
そんなわたしに、高志くんはいつも通りにいいました。
「それよりも、サンタクロースに会えて良かったな」
「うん!とってもうれしかったよ」
そうつられてわたしも、いつもの笑顔で答えます。
そうみんな解決すると、友子先生が入ってきました。
「みんな、おはようございます」
「おはようございまーす」
わたし達も、今日も元気にあいさつをします。
テトリちゃんもいるし、とってもいい始まりだね。
そんなうれしい気分で、6月が始まりました。


2004年5月制作
2/7ページ
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