5年生6月編

9-サンタさんのところへ!

「朝だあ」
次の日わたしが目を覚ますと、もうみんないませんでした。
おじいちゃんとおばあちゃんは早起きだし、お母さんももう起きたみたいです。
お母さんはわたしより寝るのも起きるのも早いんです。
でもテトリちゃんはいてくれました。
もう瞳はぱっちりしています。
わたしが起きるのを待っていてくれたみたいです。
起きてきょろきょろしているわたしに、朝のあいさつをしてくれました。
「みかんちゃん、おはようございます」
「おはよう、テトリちゃん」
みんながいなくてなんとなく寂しくなっていたわたしは、そうテトリちゃんがいてくれてうれしかったです。
静かだから、向かいのリビングのお母さん達の声が聞こえてきます。
わたしも早く行こう!
わたしは昨日枕元に置いておいたお洋服に着替えました。
真っ白なセーラー服と、みかん色のキュロットのセットです。
この服を着ると、いつもより元気に見えます。
「どう?テトリちゃん。
テトリちゃんの前でキュロットをはくのは初めてだよね」
そう聞いてみると、テトリちゃんはにっこり笑って答えてくれました。
「はい。いつものスカートの時とは雰囲気が変わって見えますね。
でもそういう服もとっても似合ってます」
そういってもらえて、わたしはうれしい気分です。
「うん。みかん色も白もわたしの大好きな色だから、お気に入りなの」
そう答えながら、大事なペンダントもいつものように付けます。
そして最後に髪を結います。お洋服は変えたけど、これはいつもと一緒です。
みかんの印だもんね。
これで着替えはおしまい!
「テトリちゃん、待っていてくれてありがとう!
早くお母さん達のところに行こう」
準備ができたわたしは、そう張り切っていいました。

「おはよう!おばあちゃん、おじいちゃん、お母さん!」
そうわたしは元気に、リビングに入ります。
お母さん達はお茶を飲んでいました。
「あらみかんちゃん。今日はいつもと違って見えるわね」
そうおばあちゃんがわたしを見て微笑みます。
「元気元気」
「うん。いいでしょ?」
おじいちゃんの言葉に答えて、わたしもみんなのいるテーブルに着きます。
お母さんがわたしの分のお茶も注いでくれました。
お茶を飲んでいる間に、おばあちゃんが朝ご飯を出してくれます。
テトリちゃんの分も出してくれました。
そうして朝ご飯を食べ終わると、早速おばあちゃんが聞きました。
「今日はどこに行こうかしらねえ。
せっかくみかんちゃんやいちごといるんだから、いいところに行きたいんだけど」
そこでおじいちゃんがわたしにたずねました。
「みかんちゃんは、どこか行きたいところはあるかい?」
そう聞かれて、わたしは考え始めます。
「えーとね…」
こうやっておばあちゃん達は、お休みの日にはいつも色々なところに連れて行ってくれます。
おばあちゃん達は、一気に遠くに行ける魔法が使えるんだよ。
だから魔法使いだからこそ行ける場所や、ほうきで飛んでは行けない遠いところにもお出掛けできます。
せっかくだから、おばあちゃん達がいるからこそ行ける場所に行きたいなあ。
色々なところを考えて、わたしは決めました。
「サンタさんのところに行きたいな!」
そういうと、お母さんが真っ先に答えました。
「サンタ・クロース?みかんが小さい時に、1度行ったことがあったわね」
その通り、わたしは前にも行ったことがあります。
でももう1度行きたいんです。
サンタさんっていうと、12月のイメージだよね。
だからこの6月に行こうと思ったのも、ちゃんと考えてのことなんです。
それをみんなに説明します。
「今は6月だから、サンタさん忙しくしてないでしょ?
前に行った時はわたしは4歳だったし、11月だったからサンタさんも忙しくしてて、聞いてみたいこととかきちんとお話できなかったから」
そんなわたしの言葉に、お母さん達はうなずきました。
「そうね。サンタさんのいる国に行きましょう」
そう張り切るおばあちゃんに続いて、おじいちゃんが説明してくれます。
「サンタさんの国は、ずっと北にあるんだよ」
わたしは絵本で読んだのを思い出して、うなずきます。
「うん。雪がたくさん降るんだよね」
そう決まって、おばあちゃんがかけ声をかけます。
「じゃあ準備しましょう。
私達はコートを着て、みかんちゃんはタイツも履いてきてね」
その言葉に、おじいちゃんがうなずいて付け加えます。
「みかんちゃんは寒くてもブレスレットを付けられないから、準備しないとな」
ブレスレットは周りの環境を守ってくれるアイテムだから、付けると暑さや寒さもちょうどよくなります。
わたしは今日から、そんなアイテムを使えないもんね。
でもよっぽどでないと、みんなもそういう使い方はしていません。
「はーい」
わたしは返事をして、テトリちゃんと一緒にタンスのある部屋に戻りました。
用意をしながら、わたしはテトリちゃんにサンタさんのことをお話します。
テトリちゃんの前でサンタさんのお話をしたことがなかったから、きっとよくわからないはずです。
「あのね、12月25日にはクリスマスっていう、お祝いの行事があるの。
その前の日の24日の夜に、サンタさんっていうおじいさんがみんなのお家に来るんだよ。
子どもが寝ている間に、こっそりプレゼントを置いていってくれるの。
子どもは会えないんだって。
だからわたしもそうやっていつも会えないから、ちゃんとサンタさんに会いたいんだ」
そうわたしはできるだけわかりやすいようにお話しました。
するとテトリちゃんも興味を持ったみたいです。
瞳をキラキラさせていいました。
「そんな行事があるんですね。
私もそんな不思議なおじいさんに会ってみたいです」
「そうでしょ?」
そんなお話をして、わたし達はますますわくわくしました。
そう楽しむためには、寒くないように着込みます。
テトリちゃんは、暑さや寒さを感じにくいようにできているそうです。
だからこのままでも大丈夫って、お母さんがいっていました。
リビングに戻ると、もうお母さん達も準備万端です。
「そのコートなら、大丈夫そうだな」
おじいちゃんがそうわたしの格好を見ていいました。
冬の格好なので、今の6月には暑いです。
でもサンタさんのところに行ったら、ちょうどいいのかな?

「念のために、ちゃんと確認しておかないとね」
そうおばあちゃんはノートを開いています。
好きなところへ移動することができる魔法陣の形と、その時に必要な呪文が書いてあるんです。
これから使う移動の魔法は、神様からもらったわたし達の魔法ではありません。
魔法の森の人達が、遠くにいる仲間とすぐに会えるように見つけたって聞きました。
秘密を守るために、呪文ややり方は魔法文字で書いておいています。
だから普通の人が見てもわからないので、安心です。
おばあちゃんは自信を持って、パタンとノートを閉じました。
「よし!覚えたわ。魔法陣を書くには広い場所が必要だから、庭から移動しましょう」
そのおばあちゃんの言葉に付いて、わたし達は庭に出ます。
周りには誰もいませんでした。
まずは魔法陣を描くための杖が必要です。
おばあちゃんは、そのための呪文を唱えます。
「マジカル・テイスティ・スティック」
すると専用の杖になります。
普段わたし達がステッキに変える呪文の後に「スティック」と付けると、こっちの杖に変わります。
胸の高さまである、大きくて立派な杖です。
おばあちゃんはその杖を使って、わたし達の周りに大きな輪を描きます。
そして魔法陣らしく、細かく描いていきます。
さっきお母さんにいった通りに、わたしは今のうちに手袋をはめます。
「こういう魔法のかけ方もあるんですね」
おばあちゃんのやっていることに、テトリちゃんはそう興味を持っていいました。
「うん。そうだよ。わたしも今年から習うから、しっかり覚えてこなくちゃね」
そうテトリちゃんと小さな声でお話します。
おばあちゃんの気が散らないようにね。
そうしている間に、魔法陣が出来ました。
そしておばあちゃんも魔法陣の輪の中に入ります。
それから呪文を唱えます。
それは長くて難しい言葉なので、わたしにはわかりません。
そういよいよ移動する時になって、わたしは強くドキドキしてきました。
これから憧れのサンタさんに会えるんだもん。すっごく楽しみです。
そして呪文を唱え終わった時に、いつものように魔法がかかって、目の前が真っ白になりました。

「わあ…!」
わたしとテトリちゃん、お母さんがそう声を上げました。
その一瞬で、わたし達は別の場所に立っていました。
夏だからか、意外と雪は積もっていません。
何度連れてきてもらっても、この移動の魔法は不思議です。
「ここがサンタさんのいるところなんですか?」
テトリちゃんがたずねると、おじいちゃんがうなずきました。
「そうだよ」
そしてお母さんが前を指差して教えてくれました。
「ほら、あそこがサンタさんの家よ」
丘の上に一軒の家があります。
それを見て、わたしは元気にいいました。
「ログハウスだあ。
あそこにサンタさんが暮らしているんだね」
うれしくて、駆け出したい気分です。
サンタさんの家に向かって歩きながら、おばあちゃんは楽しそうな笑顔でいいます。
「サンタさん、元気にしているかしらねえ」
そうお友達のことのようにいうので、わたしは聞いてみました。
「おばあちゃん、サンタさんとお知り合いなの?」
するとおばあちゃんは、普通のことのようにうなずきます。
「ええ。何度か会いに来ているのよ」
そう聞いて、わたしは驚きました。
「すごーい」
おばあちゃんがサンタさんとお友達だなんて知らなかったです。
そうお話しながら歩いていたら、すぐに着きました。
おばあちゃんが、サンタさんのお家のすぐ近くに移動してくれたからだね。
そのおばあちゃんがトントンと木の扉をノックします。
「もしもし、いらっしゃいますか」
するとすぐに扉が開いて、白い髭のおじいさんが顔を出しました。
そしておばあちゃんとおじいちゃんに、知り合いらしいお返事をします。
「おや、れもんさんと椎さん」
おじいちゃんとお母さんもにっこりあいさつをします。
「お久しぶりです」
「サンタさん、お元気ですか?」
サンタさんはお母さんを見てうれしそうにいいました。
「いちごちゃんか。
わしももちろん元気だとも」
みんながそうお話している中、わたしはサンタさんに会えた感動でいっぱいで、すぐには何もいえませんでした。
この人がサンタさんなんだ!
そんなわたしに、サンタさんは気付いてくれます。
「ああ、みかんちゃんだね。大きくなったね」
そうわたしのことも覚えてくれていました。
その優しそうな顔に、わたしは見覚えがあります。
前にお話したこととか、詳しいことは覚えていません。
でもサンタさんを見ると、懐かしい気持ちになります。
わたしは感動のあまり、大きな声になりました。
「サンタさん!わたし、とっても会いたかったんです」
それから初めて会うテトリちゃんも紹介します。
「このテトリちゃんは新しい家族です」
「はじめまして」
テトリちゃんもうれしそうにあいさつをします。
そんなわたし達に、サンタさんは笑って招待してくれました。
「はじめまして。
ようこそ。サンタの家へ。
今は1人でいたところなんだ。歓迎するよ」
そうわたし達は、久しぶりにサンタさんに会うことができました。
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