5年生6月編

9-サンタさんのところへ!

「朝だあ」
次の日わたしが目を覚ますと、もうみんないませんでした。
おじいちゃんとおばあちゃんは早起きだし、お母さんももう起きたみたいです。
お母さんはわたしより寝るのも起きるのも早いんです。
でもテトリちゃんはいてくれました。
もう瞳はぱっちりしています。
わたしが起きるのを待っていてくれたみたいです。
起きてきょろきょろしているわたしに、朝のあいさつをしてくれました。
「みかんちゃん、おはようございます」
「おはよう、テトリちゃん」
みんながいなくてなんとなく寂しくなっていたわたしは、そうテトリちゃんがいてくれてうれしかったです。
静かだから、向かいのリビングのお母さん達の声が聞こえてきます。
わたしも早く行こう!
わたしは昨日枕元に置いておいたお洋服に着替えました。
真っ白なセーラー服と、みかん色のキュロットのセットです。
この服を着ると、いつもより元気に見えます。
「どう?テトリちゃん。
テトリちゃんの前でキュロットをはくのは初めてだよね」
そう聞いてみると、テトリちゃんはにっこり笑って答えてくれました。
「はい。いつものスカートの時とは雰囲気が変わって見えますね。
でもそういう服もとっても似合ってます」
そういってもらえて、わたしはうれしい気分です。
「うん。みかん色も白もわたしの大好きな色だから、お気に入りなの」
そう答えながら、大事なペンダントもいつものように付けます。
そして最後に髪を結います。お洋服は変えたけど、これはいつもと一緒です。
みかんの印だもんね。
これで着替えはおしまい!
「テトリちゃん、待っていてくれてありがとう!
早くお母さん達のところに行こう」
準備ができたわたしは、そう張り切っていいました。

「おはよう!おばあちゃん、おじいちゃん、お母さん!」
そうわたしは元気に、リビングに入ります。
お母さん達はお茶を飲んでいました。
「あらみかんちゃん。今日はいつもと違って見えるわね」
そうおばあちゃんがわたしを見て微笑みます。
「元気元気」
「うん。いいでしょ?」
おじいちゃんの言葉に答えて、わたしもみんなのいるテーブルに着きます。
お母さんがわたしの分のお茶も注いでくれました。
お茶を飲んでいる間に、おばあちゃんが朝ご飯を出してくれます。
テトリちゃんの分も出してくれました。
そうして朝ご飯を食べ終わると、早速おばあちゃんが聞きました。
「今日はどこに行こうかしらねえ。
せっかくみかんちゃんやいちごといるんだから、いいところに行きたいんだけど」
そこでおじいちゃんがわたしにたずねました。
「みかんちゃんは、どこか行きたいところはあるかい?」
そう聞かれて、わたしは考え始めます。
「えーとね…」
こうやっておばあちゃん達は、お休みの日にはいつも色々なところに連れて行ってくれます。
おばあちゃん達は、一気に遠くに行ける魔法が使えるんだよ。
だから魔法使いだからこそ行ける場所や、ほうきで飛んでは行けない遠いところにもお出掛けできます。
せっかくだから、おばあちゃん達がいるからこそ行ける場所に行きたいなあ。
色々なところを考えて、わたしは決めました。
「サンタさんのところに行きたいな!」
そういうと、お母さんが真っ先に答えました。
「サンタ・クロース?みかんが小さい時に、1度行ったことがあったわね」
その通り、わたしは前にも行ったことがあります。
でももう1度行きたいんです。
サンタさんっていうと、12月のイメージだよね。
だからこの6月に行こうと思ったのも、ちゃんと考えてのことなんです。
それをみんなに説明します。
「今は6月だから、サンタさん忙しくしてないでしょ?
前に行った時はわたしは4歳だったし、11月だったからサンタさんも忙しくしてて、聞いてみたいこととかきちんとお話できなかったから」
そんなわたしの言葉に、お母さん達はうなずきました。
「そうね。サンタさんのいる国に行きましょう」
そう張り切るおばあちゃんに続いて、おじいちゃんが説明してくれます。
「サンタさんの国は、ずっと北にあるんだよ」
わたしは絵本で読んだのを思い出して、うなずきます。
「うん。雪がたくさん降るんだよね」
そう決まって、おばあちゃんがかけ声をかけます。
「じゃあ準備しましょう。
私達はコートを着て、みかんちゃんはタイツも履いてきてね」
その言葉に、おじいちゃんがうなずいて付け加えます。
「みかんちゃんは寒くてもブレスレットを付けられないから、準備しないとな」
ブレスレットは周りの環境を守ってくれるアイテムだから、付けると暑さや寒さもちょうどよくなります。
わたしは今日から、そんなアイテムを使えないもんね。
でもよっぽどでないと、みんなもそういう使い方はしていません。
「はーい」
わたしは返事をして、テトリちゃんと一緒にタンスのある部屋に戻りました。
用意をしながら、わたしはテトリちゃんにサンタさんのことをお話します。
テトリちゃんの前でサンタさんのお話をしたことがなかったから、きっとよくわからないはずです。
「あのね、12月25日にはクリスマスっていう、お祝いの行事があるの。
その前の日の24日の夜に、サンタさんっていうおじいさんがみんなのお家に来るんだよ。
子どもが寝ている間に、こっそりプレゼントを置いていってくれるの。
子どもは会えないんだって。
だからわたしもそうやっていつも会えないから、ちゃんとサンタさんに会いたいんだ」
そうわたしはできるだけわかりやすいようにお話しました。
するとテトリちゃんも興味を持ったみたいです。
瞳をキラキラさせていいました。
「そんな行事があるんですね。
私もそんな不思議なおじいさんに会ってみたいです」
「そうでしょ?」
そんなお話をして、わたし達はますますわくわくしました。
そう楽しむためには、寒くないように着込みます。
テトリちゃんは、暑さや寒さを感じにくいようにできているそうです。
だからこのままでも大丈夫って、お母さんがいっていました。
リビングに戻ると、もうお母さん達も準備万端です。
「そのコートなら、大丈夫そうだな」
おじいちゃんがそうわたしの格好を見ていいました。
冬の格好なので、今の6月には暑いです。
でもサンタさんのところに行ったら、ちょうどいいのかな?

「念のために、ちゃんと確認しておかないとね」
そうおばあちゃんはノートを開いています。
好きなところへ移動することができる魔法陣の形と、その時に必要な呪文が書いてあるんです。
これから使う移動の魔法は、神様からもらったわたし達の魔法ではありません。
魔法の森の人達が、遠くにいる仲間とすぐに会えるように見つけたって聞きました。
秘密を守るために、呪文ややり方は魔法文字で書いておいています。
だから普通の人が見てもわからないので、安心です。
おばあちゃんは自信を持って、パタンとノートを閉じました。
「よし!覚えたわ。魔法陣を書くには広い場所が必要だから、庭から移動しましょう」
そのおばあちゃんの言葉に付いて、わたし達は庭に出ます。
周りには誰もいませんでした。
まずは魔法陣を描くための杖が必要です。
おばあちゃんは、そのための呪文を唱えます。
「マジカル・テイスティ・スティック」
すると専用の杖になります。
普段わたし達がステッキに変える呪文の後に「スティック」と付けると、こっちの杖に変わります。
胸の高さまである、大きくて立派な杖です。
おばあちゃんはその杖を使って、わたし達の周りに大きな輪を描きます。
そして魔法陣らしく、細かく描いていきます。
さっきお母さんにいった通りに、わたしは今のうちに手袋をはめます。
「こういう魔法のかけ方もあるんですね」
おばあちゃんのやっていることに、テトリちゃんはそう興味を持っていいました。
「うん。そうだよ。わたしも今年から習うから、しっかり覚えてこなくちゃね」
そうテトリちゃんと小さな声でお話します。
おばあちゃんの気が散らないようにね。
そうしている間に、魔法陣が出来ました。
そしておばあちゃんも魔法陣の輪の中に入ります。
それから呪文を唱えます。
それは長くて難しい言葉なので、わたしにはわかりません。
そういよいよ移動する時になって、わたしは強くドキドキしてきました。
これから憧れのサンタさんに会えるんだもん。すっごく楽しみです。
そして呪文を唱え終わった時に、いつものように魔法がかかって、目の前が真っ白になりました。

「わあ…!」
わたしとテトリちゃん、お母さんがそう声を上げました。
その一瞬で、わたし達は別の場所に立っていました。
夏だからか、意外と雪は積もっていません。
何度連れてきてもらっても、この移動の魔法は不思議です。
「ここがサンタさんのいるところなんですか?」
テトリちゃんがたずねると、おじいちゃんがうなずきました。
「そうだよ」
そしてお母さんが前を指差して教えてくれました。
「ほら、あそこがサンタさんの家よ」
丘の上に一軒の家があります。
それを見て、わたしは元気にいいました。
「ログハウスだあ。
あそこにサンタさんが暮らしているんだね」
うれしくて、駆け出したい気分です。
サンタさんの家に向かって歩きながら、おばあちゃんは楽しそうな笑顔でいいます。
「サンタさん、元気にしているかしらねえ」
そうお友達のことのようにいうので、わたしは聞いてみました。
「おばあちゃん、サンタさんとお知り合いなの?」
するとおばあちゃんは、普通のことのようにうなずきます。
「ええ。何度か会いに来ているのよ」
そう聞いて、わたしは驚きました。
「すごーい」
おばあちゃんがサンタさんとお友達だなんて知らなかったです。
そうお話しながら歩いていたら、すぐに着きました。
おばあちゃんが、サンタさんのお家のすぐ近くに移動してくれたからだね。
そのおばあちゃんがトントンと木の扉をノックします。
「もしもし、いらっしゃいますか」
するとすぐに扉が開いて、白い髭のおじいさんが顔を出しました。
そしておばあちゃんとおじいちゃんに、知り合いらしいお返事をします。
「おや、れもんさんと椎さん」
おじいちゃんとお母さんもにっこりあいさつをします。
「お久しぶりです」
「サンタさん、お元気ですか?」
サンタさんはお母さんを見てうれしそうにいいました。
「いちごちゃんか。
わしももちろん元気だとも」
みんながそうお話している中、わたしはサンタさんに会えた感動でいっぱいで、すぐには何もいえませんでした。
この人がサンタさんなんだ!
そんなわたしに、サンタさんは気付いてくれます。
「ああ、みかんちゃんだね。大きくなったね」
そうわたしのことも覚えてくれていました。
その優しそうな顔に、わたしは見覚えがあります。
前にお話したこととか、詳しいことは覚えていません。
でもサンタさんを見ると、懐かしい気持ちになります。
わたしは感動のあまり、大きな声になりました。
「サンタさん!わたし、とっても会いたかったんです」
それから初めて会うテトリちゃんも紹介します。
「このテトリちゃんは新しい家族です」
「はじめまして」
テトリちゃんもうれしそうにあいさつをします。
そんなわたし達に、サンタさんは笑って招待してくれました。
「はじめまして。
ようこそ。サンタの家へ。
今は1人でいたところなんだ。歓迎するよ」
そうわたし達は、久しぶりにサンタさんに会うことができました。


10─サンタさんのお話

お家に入ると、サンタさんはみんなにスープをごちそうしてくれました。
寒い中にいたのは少しだけだけど、温かいスープはやっぱりおいしいです。
猫舌のテトリちゃんのために、お母さんが魔法でスープを冷ましてあげました。
そんな魔法を使うお母さんを見て、サンタさんは感心します。
「いちごちゃんは、本当に魔法が上手くなっているね」
それから今度は、わたしに聞きました。
「みかんちゃんはどうかな?
前に会った時は魔法使いになる前だったからね」
わたしはお母さんみたいにすごくはないけど、元気良くいいました。
「わたしは夢魔法なら、上手に使えるようになりました」
そんなわたしに、サンタさんはにっこりといいます。
「そうか。がんばっているんだね。
ぜひ見てみたいものだ」
わたしもサンタさんに見てほしいけれど、今は使えないのでしょんぼりしました。
お母さんが代わりに説明してくれます。
「みかんは今月が休みなんです」
するとサンタさんは納得します。
「そうか。それは済まないことをいったね。
しかし今度見せてもらえる時がさらに楽しみになったよ」
そういってもらって、わたしはちょっと前向きな気持ちになれました。
今度会えた時には、どんな魔法を使おうか考えておこう。
地球の子ども達に幸せをくれるお礼も兼ねて、サンタさんが喜んでくれるのにしなくちゃね。
そう魔法が使えないわたしが、外国のサンタさんと普通にお話しているよね。
これは魔法で言葉が通じているんじゃありません。
サンタさんがわたし達の国の言葉で話してくれているんだよ。
長く生きている間に覚えたそうです。
たくさんの国の言葉がわかるんだって。
さすが世界中で大人気のサンタさんです。
そのサンタさんを見て、気を取り直したわたしは質問します。
「サンタさんは、いつもあの赤い服を着ているんじゃないんですね」
サンタさんの髭はそのままだったけれど、今日は普通のセーターとズボンを着ています。
だから最初に見た時に、少し不思議な感覚になりました。
サンタさんはこっくりうなずきます。
「ああ。そうだよ。あれはクリスマス専用の服なんだ。
普通はみんなと同じ服を着ているよ」
そうサンタさんも普段はみんなと同じように暮らしているって、知りました。
今までのイメージよりも、身近に感じてきます。家の中を見回してみると、たくさんのお手紙の山が目に入りました。
気になったわたしは、テトリちゃんとそこまで駆けていきます。
そして思わず歓声をあげました。
「わあっ。たくさんのお手紙。
これみんなサンタさんへのなんだよね」
「世界中から来ていますね」
そうわたしは量を見て、テトリちゃんは字を見ていいました。
「本当だ。いろんな国の文字だね」
見たこともないような色々な文字と切手がいっぱいです。
テトリちゃんは、その封筒や切手を楽しそうに見ています。
南の島だったらパイナップルの写真だったり、切手って国の特徴が出るよね。
だから、なんとなくどこから来たのかわかります。
それから魔法使いは、外国の文字も読めるんだよ。
魔法使いのお仕事のために、色々な国の本も読めるようにです。
読もうと集中すると、意味がわかるんだよ。
でもその知らない国の言葉を書いたり、お話したりはできません。
それはきちんとお勉強しないとね。
それはペンダントのまま使う魔法だけど、魔法の種がお休みしている今は使えません。
でもテトリちゃんもちょっと読めるようでした。
そして不思議そうに首をかしげます。
「これはサンタクロース様。
でも、ユール・ニッセ様、クリスト・キント様。
違う宛名のものも多いですね」
そう聞いて、わたしもびっくりします。
「え?これはサンタさんのだけじゃないの?」
するとサンタさんが答えてくれます。
「それもみんなわしのことなんだよ」
続けて、おじいちゃんが教えてくれます。
「サンタさんは国によって、違う呼ばれ方をしているんだよ。
サンタクロースさんというのは、私達の国での呼び名なんだ」
「普通の人は、他の国の人の前でも名前は変わりませんよね?」
そうテトリちゃんが確認すると、お母さんはうなずきます。
「そうね。それだけサンタさんは、地球のみんなにとって特別な人なのよ」
そのお母さんの言葉と、このお手紙の山に、わたしはしみじみ感動しました。
「すごいね。わたしもそんなサンタさんに会いたくて来たんだしね」
そう見ていたら、ふとわたし達の国からのお手紙の1つが目に止まりました。
わたしくらいの子の字だね。
そう思って差出人の名前を見てみると、なんと「種村柾紀」と書いてありました。
!柾紀くんだ!
そうたくさんのお手紙の中から、わたしは偶然お友達からのを見つけました。
それとも、わたしの魔法の力が見つけたのかな?
柾紀くんも、サンタさんにお手紙を出していたんだね。
そうわたしはうれしくなって、手紙の山から離れました。

次は木彫りのおもちゃが並んでいる棚のところに行きました。
「これはみんなサンタさんの手作りなんですか?」
振り返ってたずねると、サンタさんは目を細めてうなずきました。
「そうだよ。わしは普通の人間の時から、こういう物を作るのが好きでね」
そうサンタさんは元々は普通の人でした。
その時から近所の子ども達に、手作りの木のおもちゃをプレゼントしていたそうです。
そして寿命が来た時にも、これからも木のおもちゃを作って配りたいという強い願いを持っていました。
その気持ちを神様が聞いて、寿命をとっても長くしてくれたって聞きました。
これはすごく特別なことです。
そんなサンタさんの作品は、パートナーのトナカイさんや、山に住んでいる熊さんなどの動物が多いです。
どのおもちゃにも、サンタさんの味というものが感じられて、いいなあと思います。
木彫りなこともあって、あったかい感じがします。
そうトナカイさんのおもちゃがあるので、わたしは指差してテトリちゃんに教えました。
「ほら、テトリちゃん。これがトナカイさんだよ」
思っていたのと違っていたのか、それを見てテトリちゃんは驚きました。
「わあ。これがトナカイさん。本当に鹿に似てますね。
羽がないのに、空を飛べるんですか」
その言葉に、わたしははっとしました。
あ、そういわれるとそうだよね。
「うん、本当。わたしも不思議」
そんな疑問に、サンタさんは幸せそうな顔をして答えてくれます。
「わしのトナカイは、神様に特別な力をもらったからね。
そう空飛ぶそりがあるおかげで、たくさんの子ども達にプレゼントを配れる。
そして普段は、そのおもちゃを作って暮らせる。
わしの今の幸せはみんな、本当に神様のおかげだよ」
そううれしそうにいいます。
サンタさんを長生きさせようって決めた神様は、やっぱりすごいです。
今では世界中から大人気の素敵なおじいさんだもんね。
「世界中の子ども達に配っているんですよね?」
そう自信を持って聞きます。
でも驚いたことに、サンタさんは首を振りました。
「いいや。空飛ぶそりを持っていても、一晩ではわしの国の子ども達だけで精一杯なんだよ」
わたしはとってもびっくりしていいます。
「え?でもわたしも毎年サンタさんからのプレゼントをもらってるよ」
だからお礼もいいたくて、会いにきたいと思ったんだもんね。
不思議いっぱいで、わたしは困り顔になります。
するとおもちゃを楽しそうに見ていたテトリちゃんが、わたしに向かってジャンプしてきました。
そのテトリちゃんを受け止めます。
テトリちゃんは、不安になったわたしを支えてくれようとしているみたいです。
そしてそんなわたしに目線を合わせたサンタさんが、優しい顔でいいました。
「そうか。じゃあみかんちゃん。
大きくなったら、君のサンタクロースに会えるよ」
わたしのサンタさん?
じゃあわたしにいつもプレゼントをくれるのは、別のサンタさんなんだ。
サンタさんの言葉で、そうわかりました。
そしてお母さんが付け加えます。
「国によって、サンタさんは色々なのよね」
そしておばあちゃんがまじめに、でも優しい言い方でいいました。
「でもね、みかんちゃん。
たくさんいるサンタさんはみんな、こちらのサンタさんをお手本にしているの。
サンタさんが素敵だから、みんなお手伝いしているのね」
そうおばあちゃんとお母さんは、その人を知っているみたいです。
そしておばあちゃんは付け加えます。
「だからみかんちゃんのサンタさんに会えても、このサンタさんのことも忘れないでね」
?どういうことなのかわからないこともあるけれど、わたしはしっかり約束しました。
「うん!大好きなサンタさんのことは、ずっと覚えてるよ」
お話に聞いていたサンタさんは憧れの人です。
思っていた通りの優しいおじいさんで、わたしはこのサンタさんが大好きです。
わたしの家に来てくれていたサンタさんじゃなくてもね。
わたしはそんな気持ちで、サンタさんの腕に抱きつきました。
でも、わたしの家に来てくれているサンタさんは、どんな人なのかな?
詳しく教えてもらいたいです。
でもみんなのお話だと、大きくなったらちゃんと会えるみたいだよね。
だからその時をお楽しみにしておくことにします。
今はこうやって、世界一のサンタさんに会えたんだしね。



11─サンタさん家のトナカイさん

そうしばらくサンタさんのことを教えてもらったり、わたし達のこともお話したりして、みんなで楽しく過ごしました。
そして最後にトナカイさん達にも会わせてもらいます。
サンタさんの家の隣に小屋があって、そこに3頭暮らしていました。
前に会った時より、わたしは大分大きくなりました。
だからイメージよりも、トナカイさんは小さめに見えました。
それでもわたしよりずっと大きいです。
ここのトナカイさん達は、2mくらいの大きさです。
こちらにいるトナカイさんは大きい方なんだそうです。
そうおじいちゃんが教えてくれました。
わたしくらいの大きさの子もいるそうです。
サンタさんのトナカイさんは、みんな首にリボンとベルを付けています。
鈴とベルではちょっと違うけど、テトリちゃんもお揃いみたいだね。
わたしは元気にあいさつをします。
「トナカイさん、お久しぶりです。
わたし、6年前にも来たみかんだよ」
4歳の時にも会っているので、そういいました。
トナカイさん達、覚えてくれているかな?
トナカイさん達は、しっかりお返事を返してくれました。
でも今のわたしには、何ていっているのかわかりません。
言葉がわからないって、さびしいね。
おじいちゃん達はちゃんとアイテムを変えているので、言葉が通じています。
わたしだけわからないというのが不思議な気分です。
そしてもう魔法のありがたさがわかります。
わたしが動物とお話している時、お友達もこんな気持ちでいるのかな?
うらやましくて、もどかしい気持ちです。
そうそう、おばあちゃんとお母さんのアイテムはカチューシャで、おじいちゃんは帽子になっています。
その帽子には、おじいちゃんの名前の椎の樹の刺繍が入っています。
帽子の形は自分で自由に選ぶことができるそうです。
おじいちゃんはハットタイプ。
おじいちゃんくらいの歳では、この形をかぶっている人が多いです。
他には、つばめくんはシルクハットにしていました。
つばめくんのお母さんに似合うってほめられるから、その形にしているそうです。
確かにつばめくんに似合ってかわいく見えるよ。
でもめったに選ぶ人がいないので、周りからはめずらしいっていわれています。
そう男の人と女の人では、違うアイテムもあります。
ペンダントもバッジになるんだよ。
みんながそんなアイテムを使ってお話しているトナカイさん達。
えーと名前は、ヨセフさん、ジョンさん、トニーさんだったかな。
1晩中空を飛べるだけあって、トナカイさん達はたくましそうです。
でも顔は優しそうだよ。
「ヨセフ達、元気だったかい?」
おじいちゃんがそう聞くと、トナカイさん達はうなずきました。
その様子から、仲良しみたいです。
トナカイさんがとっても喜んでいるように見えます。
おばあちゃんも何度も来てるっていっていたけど、おじいちゃんもそうみたいです。
一緒に来ているのかな?
わたしもこうやってせっかく会えたんだから、トナカイさん達とお話ができたらよかったのになあ。
そうがっかりしたけれど、こういう時のことを思い出しました。
そうだ!テトリちゃんにお願いすればいいんだよね。
そう探すと、そのテトリちゃんはヨセフさんの前にいました。
感動して瞳をキラキラさせています。
そういえばテトリちゃんにトナカイさんの話をしたら、とっても張り切っていたよね。
そして今まで見たことがある中で、1番熱心に話しかけます。
「こんにちは。私、テトリです。
トナカイさんのことを聞いて、会えるのをとっても楽しみにしていたんです」
その言葉を聞くと、ヨセフさんは何かをいって座りました。
「ええっ!?いいんですか?」
そうテトリちゃんが確認すると、ヨセフさんはうなずきます。
そこでテトリちゃんはうれしそうに、そして慎重に背中に乗ります。
その様子から、さっきヨセフさんが何ていったのかがわかりました。
背中に乗ってもいいよって、歓迎してくれたんだね。
わたしも前に、そのヨセフさんに乗せてもらいました。
あの時わたしもとってもうれしかったよ。
だから今のテトリちゃんの気持ちがわかります。
そうテトリちゃんは、トナカイさんと仲良くなれたみたいで楽しそうです。
そんなテトリちゃん達を見ていたわたしに、お母さんが聞きました。
「あら、みかんは行かなくていいの?」
その言葉で、わたしははっとします。
そうだ!わたしもトナカイさんとお話したいんだったよ。
「うん!お話してくる」
そうお母さんにいって、テトリちゃん達のところに駆けていきます。
「わたしも仲間に入れて!」
そうお決まりの言葉をいうと、トナカイさん達はすぐにわたしも入れてくれました。
ヨセフさん達は、わたしのことを覚えてくれていました。
こういうお仕事をしているから、出会った人のことを忘れないそうです。すごいね。
テトリちゃんに通訳してもらいながら、しばらくみんなでお話しました。
トナカイさんはわたしの言葉をわかっています。
だからテトリちゃんは、トナカイさんの言葉をわたしに教えてくれます。
3頭の中で、ヨセフさんがリーダーだそうです。
そういわれてみると、ヨセフさんは体も1番大きいです。
「一晩で国中を回れるなんて、すごく早く飛べるんだね」
わたしがそういうと、トニーさんが答えてくれました。
「飛行機くらいの速さで飛べるって、本当に速いですね」
そう訳してくれた後に、テトリちゃん自身も感心しました。
飛行機って、1番速い乗り物だもんね。
わたしも思っていた以上の速さにびっくりしました。
でもその速さでプレゼントを配れるのかな?って不思議に思いました。
「あれ?でもそんなに速く飛んだら、サンタさんが一軒一軒に寄れないよね?」
サンタさんが枕元にプレゼントを置いていってくれるって聞いているけど?
それはヨセフさんが答えてくれます。
「そうするととても時間がかかるので、プレゼントは空から撒くそうです。
プレゼントの入った袋を逆さまにすると、きちんと子ども達のところへ届くように、神様がしてくれたそうですよ」
そのお話に、わたしはますます感心します。
すごいなあ。
神様はサンタさんのお仕事を、本当に色々助けてくれているんだね。

「この国は、私達の国と同じ位の大きさがあるんですか」
そのジョンさんからの言葉に、わたしも本当に驚きました。
「ここはそんなに大きな国なんだ!
サンタさんの絵本を見て、なんとなく小さな国なのかなって思ってたよ…」
そう返事をしてから、わたしは気が付きました。
わたし達の国と同じ位の大きさってことは、人も本当にたくさん住んでいるよね。
サンタさんは木彫りのおもちゃを手作りしていました。
でもそれを1年間でみんなの分作れそうにないし、どうしているのかな?
そう思って、直接サンタさんに聞いてみます。
「サンタさん、さっきの木彫りのおもちゃが足りない分はどうしているんですか?」
するとサンタさんは詳しく教えてくれます。
「それは、わしのことを応援してくれている人達がいてね。
その人達がそれぞれ得意なおもちゃを作って、わしに届けてくれるんだよ。
おかげで間に合い、プレゼントの種類も増える。
わしは彫刻は得意だけれど、女の子の好きなぬいぐるみなどを作るのは苦手なんでな。
そういう面からも、とてもありがたいことなんだ」
そうサンタさんをお手伝いしている人達がいるって、わたしは初めて聞きました。
サンタさんの国の子ども達は、そんなたくさんの人の気持ちがこもったプレゼントをもらっているんだね。
心が温かくなるお話です。
そうわかってから、わたしはまたさっきの疑問を思い出しました。
わたし達の国のサンタさんはどうしているのかな?
お友達もみんな、ちゃんとプレゼントをもらっているっていっていました。
だからわたし達の国のサンタさんも大忙しだよね。
そのサンタさんにも会えたら、そんなプレゼントをいつももらっているお礼をしっかりいわなくちゃね。
そんな未来を思い描いて、ますます楽しみになります。
そしてテトリちゃんが、ジョンさんからの言葉の続きを教えてくれました。
「サンタさんの国の大きさは私達の国と同じ位だけど、住んでいる人の数は24分の1だそうです」
「あ、そうなんだ。人の多さは大分違うんだね」
広々と暮らしている国なんだね。
そうお勉強にもなることも色々教えてもらいました。

それからおばあちゃん達が、前にここに来た時のお話もしてくれます。
「ヨセフ達と一緒に、ふもとの町まで行ったこともあったわねえ」
おばあちゃんがそう楽しそうにいいます。
するとテトリちゃんがたずねました。
「何をしに行ったんですか?」
わたしも興味があります。
トナカイさんが町まで行くのは、クリスマスの時だけなのかなって思っていました。
そんなわたし達に、おばあちゃんとしては、普通のことのように教えてくれます。
「ずっと小屋にいるのでは、ヨセフ達も窮屈でしょ。
だからサンタさんが町へお買い物に行く時には、一緒に行くの。
ヨセフ達は、町の子ども達の人気者なのよ」
そう聞いて納得です。
そうだね。サンタさんとトナカイさんはとっても有名だけど、普通の暮らしもしているんだもんね。
だからふもとの町の人達の仲間で、お友達なんだね。
おばあちゃんのお話から、そうわかりました。
てもサンタさんやトナカイさんによく会える毎日ってすごいなあ。
わたし達も魔法使いという特別な人ということを忘れて、そう思いました。
「いちごは8歳の時に連れて行ってもらったわね」
そのおばあちゃんの言葉に、お母さんはにっこりうなずきます。
それからわたしにいいました。
「ええ。3年生の秋。
町に行くのも楽しかったわよ」
そううれしそうにいわれると、わたしもわくわくしてきます。
いいなあ。わたしも行ってみたいです。
サンタさんの町も見てみたいし、住んでいる人達にも会ってみたいよ。
そう気持ちが盛り上がってきたわたしに、おじいちゃんも勧めてくれます。
「また来た時に連れて行ってもらうといいさ」
そして具体的にサンタさんに確認します。
「確か町へ行くのは、2週間に1度でしたよね?」
サンタさんはうなずいて、笑顔で誘ってくれました。
「みかんちゃん、ぜひまたおいで。
来る前には、手紙をくれるとありがたい。
そうしたら町へ行く日を調節できるからね」
そういってもらえて、わたしはとってもうれしいです。
「はい!また遊びに来ます」
そう約束すると、本当にまたサンタさんに会いに来ていいんだなあって、しみじみ実感してきました。
そしてわたし達の帰る時間になりました。
たくさんお話したので、来てから4時間も経っていました。
「突然訪ねたのに、気持ちよくお話していただいて、本当にありがとうございました」
おばあちゃんのごあいさつに続いて、みんなでお辞儀をします。
「わしも楽しかったよ。
久しぶりにいちごちゃんとみかんちゃんにも会えてよかった」
そういうサンタさんに、わたしは元気に約束します。
「今日はサンタさんにたくさん教えてもらって、楽しかったし、お勉強になりました。
今度来る時には、わたしもサンタさんがうれしくなる魔法を見せられるように、考えておきます」
そう聞いたサンタさんは、にっこり笑ってほめてくれます。
「そうだね。楽しみだ。
みかんちゃんは本当によい子に育ったね」
そういってもらって、わたしは照れました。
それからサンタさんは、お母さんを向いていいました。
「みかんちゃんを見ていると、いちごちゃんがとても大切にしてきたのが伝わってくるよ。
さすが神様が託したわけだ」
そう讃えられて、お母さんもほっぺが桃色になりました。
「そう思ってもらえてうれしいです」
おじいちゃんとおばあちゃんもうなずきます。
お母さん達を見て、わたしも笑顔になります。
そんなわたし達家族を、サンタさんはにこにこ見ていました。
それからテトリちゃんもごあいさつします。
「トナカイさんによろしく伝えて下さい」
そして最後におじいちゃんが、仲良しの人にいう時のような顔をしていいました。
「お元気で」
そうみんなでサンタさんと手をふりあって、お別れします。

帰り道を向くと、わたしは今日のことを振り返り始めました。
本当に、サンタさんとトナカイさんに会いに来て良かったです。
サンタさん達のことがよくわかったし、とっても楽しかったよ。
そう満足した気持ちです。
そしてサンタさん達は、もうイメージの中の人じゃありません。
お知り合いになったんだもんね。
今度来る時は、トナカイさん達とも直接お話ができるので、楽しみです。
どんな声をしているのかな?
今日通訳をしてくれたテトリちゃんも、とってもにこにこ顔になっています。
さっきもいっていたように、トナカイさんに会えたことがとっても感動的だったみたいです。
お話したり、背中にも乗せてもらって、仲良くなれたもんね。
「私、今日はとってもうれしかったので、記念日にします」
そうテトリちゃんが元気にいいました。
その言葉に、わたしは最近のことを思い出して答えます。
「じゃあテトリちゃんにとって、2つ目の記念日だね」
1つ目はもちろん、テトリちゃんが生まれた5月26日です。
28日にわたしとお母さんの記念日もありました。
それはおいておくとしても、すぐに記念日ができたんだね。
そう指折り数えてみて、気が付きました。
今日はテトリちゃんが来て、ちょうど1週間なんです。
まだそれしか経ってないんだね。
もっと前から一緒にいたような気分です。
───サンタさんが住む国。
サンタさんのお家を見ただけだから、今度はどんな国なのかも知りたいです。
また来る前に、図書館で本を借りてみよう。
そうやってみたいことが増えました。
さっき移動してきた場所に着くと、おばあちゃんが大きな杖を出します。
そのおばあちゃんの周りに、みんな集まります。
それを確かめると、おばあちゃんはその杖で、トンと地面を突きました。
するともう家の庭の魔法陣の上に立っていました。
こうやって、移動してきた場所を魔法陣を描いた杖で叩くと、戻ってこられるんです。
だからその場所を忘れないように、目印を付けておきます。
帰ってきたら、魔法陣はきちんと消すのがお約束です。
おじいちゃんが魔法で水をまくことにしました。
これは自然魔法という種類になります。
風、水、火の精霊さんにお願いして手伝ってもらう魔法です。
水の精霊さんに頼んで、キレイに消してもらいました。
こうすると、普通に水をまくよりも安心です。
そうわたし達が冬服を着ていること以外は、すっかり元通りになりました。
こっちのお天気はお陽さまが元気だから、庭もすぐに乾くね。
さっきまでサンタさんの国にいたのが、なんだか夢みたいです。
でも今度は4歳の時のように、ぼんやりとした思い出にはしないよ。
ずっと覚えてて、また遊びに行きます!

その夜、わたしは明日学校へ行く準備をしていました。
するとおばあちゃんが小さな袋をくれました。
「そうそう。みかんちゃんにお土産を持ってきていたのよ」
何かな?
わくわくしながら開けてみます。
するとそれは、お星様が付いた結いゴム2個セットでした。
「わあっ。かわいい」
そうわたしは喜びます。
いつもみかん印のか、たまにリボンを付けるくらいなので、違う形のは新鮮です。
そんなわたしをよくわかっているおばあちゃんが勧めます。
「明日付けていってみたら?
お気に入りの服に合わせたら、ますますかわいくなるわね」
その提案に、わたしも張り切ってうなずきます。
「うん、そうするね」
みかん印はわたしのこだわりだけど、たまには違うのもいいよね。
わたしは6月最初の学校へ行く日は、特別お気に入りの格好で行くことにしています。
始まりが気分いいと、いつもとは違う1ヶ月も楽しく過ごせそうな気がするからだよ。
おばあちゃんはいつもこの日に家に来るから、そのことを知っています。
今年はね、さくらんぼの刺繍の入った大きな襟の白い服に、ジーンズのジャンバースカートを選びました。
そしてこんなかわいいお星様も付けていけるんだね。
おばあちゃんのお土産のおかげで、明日がもっと楽しみになりました。

用意が終わったら、おふとんに入ります。
そしておばあちゃんとおじいちゃんにいいました。
「今日は本当に楽しかったよ。
連れて行ってくれてありがとう。
サンタさんとトナカイさんに会えたこと、明日みんなにもお話するの。
明日から、ちゃんと学校でがんばってくるからね」
私はそう約束します。
するとテトリちゃんも、バスケットから顔を出して付け加えました。
「私も付いていきますから!」
そうテトリちゃんはこの6月の間、わたしと一緒に学校に行ってくれることになりました。
わたしが心配だからって、お母さんと相談して決めたそうです。
テトリちゃんと一緒に行けるなんてうれしいな。
でもちょっと問題かなあ?
そう後ろめたい気持ちもあります。
そんなわたしに気が付かずに、おじいちゃんがいいました。
「そうか。それは安心だ。
おじいちゃん達も応援しているよ」
わたしは小さな声でテトリちゃんにいいます。
「テトリちゃん、明日から学校でも一緒だね。
クラスのお友達も、テトリちゃんが来てくれたら喜ぶよ」
「私も楽しみです。
学校ってどんなところなのか、とっても興味があったんです」
そう瞳でお話をします。
そしてそんな楽しみな明日のために、早く眠ります。
「お休みなさい」
そうみんなにいいました。
今日はサンタさんとトナカイさんに会えた、特別楽しいことがあった日でした。
だから、とっても素敵な夢が見られそうです。


2004年2~4月制作
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