5年生6月編

14─友達の動物達

まず学校の前で、どっちの方に行こうか考えます。
「いなくなったうさぎさん、無事だといいですね」
そのテトリちゃんの言葉にうなずきます。
「うん。ちょっと待ってね」
それから気持ちを集中させます。
するとかすかに使える力で、感じとることができました。
「大丈夫!トキくんは無事だよ。
でもどっちにいるかまではわかんないな」
いつもなら、どこにいるかもわかるんだけど…。
右左ときょろきょろしてしまいます。
そんなわたしに、テトリちゃんが力強くいいました。
「探しにいきましょう!
きっと見つけられます」
「そうだね!」
わたし達はとりあえず、知っている場所を回ってみることにしました。

「うさぎって、狭いところが好きっていいますよね」
街中を走り回っていると、そうテトリちゃんが教えてくれました。
「そうだね。じゃあこんな狭い道にいたりして…」
路地を期待してのぞいてみます。
でもトキくんはいませんでした。

学校の近くにある商店街の八百屋さんにも聞いてみました。
朝出掛けたんだったら、トキくんはお腹がすいているよね。
だからうさぎさんが大好きな野菜を並べている、八百屋さんに来なかったかなと考えました。
お店にはちょうど他のお客さんはいなくって、おじさん1人でした。
「すみません。小さいうさぎさんを見かけませんでしたか?」
するとおじさんは不思議そうな顔をします。
「いや、見なかったよ。
お嬢ちゃん、どうしたんだい?」
わたしは急ぎながらも、きちんと答えます。
「学校のうさぎさんが1匹いなくなっちゃって、探してるんです」
するとおじさんはお店の奥に向かいました。
「そりゃあ大変だ。
じゃあちょっと待ってな」
そしてすぐに戻ってきて、何かが入った袋をわたしにくれました。
「キャベツの外皮だ。
そのうさぎもおなかが空いているだろうから、見つかったら食べさせてやりな」
わたしはそんな親切に感謝します。
「おじさん、ありがとう」
「いいってことよ。
元々捨てる物だったしな」
そのおじさんの元気な笑顔に、わたし達はますますやる気が出ました。

キャベツのお土産を持って、わたし達は探し回ります。
公園は隠れるところがたくさんあるので、慎重に。
「やぶの中にいたりするかもしれませんね」
そのテトリちゃんの言葉にうなずきます。
街の中よりも、こういう植物がたくさんある場所の方が喜びそうです。
いるかもしれません。
「だったら、トキくんは白と灰色が混ざっているから、見つけやすいよ」
でも木の周りや茂みの中にはいませんでした。

公園に遊びに来ていた、小さな子達にも聞いてみます。
砂場でお山を作っている、幼稚園くらいの2人の女の子達に。
「あのね、お姉ちゃん、うさぎさんを探してるんだけど、どこかで見かけなかったかな?」
「うさちゃん?ううん」
そう首を振ってから、その女の子はテトリちゃんをじーっと見ます。
「そのおねえちゃんといっしょにいるねこさん、ぬいぐるみみたいだね」
わたしはにっこりうなずきます。
「うん、テトリちゃんは生きてるぬいぐるみなんだよ」
するととっても喜ばれました。
「わー。すごーい」
「ねこさん、こっちに来て」
そうちょっとの間、テトリちゃんは頭をなでられます。
本当にテトリちゃんは、大人気です。
そうみんなでちょっと気持ちが和みました。

池にも見に行きました。
池の周りにはいなかったけれど、もしかして落ちてしまったかもしれないという危険もあります。
それはとっても怖い話なんだけど、念のために。
わたしは池をのぞき込みます。
「先生がいっていたんだけど、この池ってとっても深いんだって」
そう注意されたことを思い出しました。
それでなくても今水着とかは持っていません。
だから水の中に入るのは難しいです。
テトリちゃんも無理だし。
「やっぱり池に住んでる、かえるさんに聞いてみようか。
テトリちゃん、聞いてくれる?」
「はい!」
テトリちゃんはうなずいて、かえるさんがいるところに走っていきました。
「こんにちはー」
でもテトリちゃんが寄っていくと、かえるさんはぴょこんと水の中に飛び込んでしまいます。
なんでかな?
すぐにはわからなかったけれど、思い出しました。
あっ、そういえば、かえるは猫が苦手だったんだっけ。
テトリちゃんは怖くないって、わかってもらわないと。
わたしはそう考えて、テトリちゃんのところに行きます。
「なんでいなくなってしまうんでしょう?」
わからないテトリちゃんは、首をかしげています。
わたしはテトリちゃんに、そのことを教えました。
「そうなんですか。
私、猫ですもんね」
そのテトリちゃんの手を、こちらの様子をうかがっている、かえるさんに見せます。
「ねえ!テトリちゃんは本物の猫じゃないから、怖がらないで。
ほら、手もふかふかでしょ?」
そういっても、かえるさんはまだ怪しんでいるようです。
猫さんって、自由に爪を出したりできるしね。
だったらわたしが魔法使いだってことを証明するしかないかな。
そうしたら信じてもらえるかもしれません。
でも今は魔法を使えない時です。
どうしようかな?うーん。
考えたわたしは、ペンダントに行き当たりました。
そうだ!
このペンダントはいつも通りの力を持っています。
他のアイテムには変えられないけど、このままなら使えます。
でもわたしが今思い付いたことは、いつもお世話になっているペンダントに対してひどい使い方です。
でも信じてもらう方法がこれしか思い付きません。
「かえるさん見て!
わたしは魔法使いで、この子は魔法で生きているぬいぐるみの猫なんだよ。
その証拠に、このペンダントは魔法で浮きます」
そうわたしはペンダントを持って、池の上でぱっと手を離しました。
でもペンダントは池の中には落ちません。
水の上ぎりぎりのところに浮かびます。
持ち主が付けていない時は、沈んで無くなったりしないように、こうなるそうです。
話には聞いていたけど、やってみるのは初めてです。
大丈夫かちょっと心配しました。
するとこれを見た、かえるさんが寄ってきます。
そして口をぱくぱく開けて、何かいっています。
(まったく、大事な物にこんなことをして、困った魔法使いさんだよ)
(もし沈んだりしたら、どうするんだい?)
テトリちゃんはそれを聞いて、苦笑いしました。
わたしはなんていっていたのかわかりません。
でもかえるさんはもう遠くに行ってしまいそうにないので、一安心です。
まずはペンダントを首にかけます。それからテトリちゃんに聞いてもらいました。
「この池に、うさぎが来ませんでしたか?」
でもかえるさんは見かけていないそうです。
他の池で聞いてみても、同じでした。
でもトキくんが水の中に落ちたりしていなくて、良かったです。

通りがった、お花屋さんにも聞きました。
外に高橋さんがいます。
このお店の高橋さんと野沢さんの2人と、わたしは時々お話しています。
わたしとテトリちゃんは高橋さんのところに駆けていきます。
「みかんちゃん、今日は学校終わるの早いのね」
わたしはその言葉に首を振ります。
「ううん。みんなはまだ授業受けてるの。
私はうさぎのトキくんがいなくなったのが心配で、探しているんです」
そして短めに事情を話します。
すると高橋さんも困った顔になっていいました。
「それは大変ね。
私はしばらく外にいたけど、見かけなかったなあ」
「そうですか…」
そう聞くと、やっぱりがっかり。
もう心当たりのあるところは回った後だからです。
すると高橋さんは、励ましてくれました。
「私の仕事が終わってもまだ見つかっていなかったら、手伝うよ。
だから元気出して」
その言葉に、わたしは顔を上げて答えました。
「ありがとう。その前に見つけられるように、がんばります」
そう手を振って、また他の場所へと向かいました。

でもそれから少し経って、わたしはため息をついていました。
はあ。どうしよう…。
わたしが知っている場所はみんな行ってみたけれど、見つかりません。
ほうきが使えれば、もっと遠くまでも探しに行けるんだけどな。
こうやって走って回るには、もう限界です。
北へ南へ東へ西へ、2時間以上走り回りました。
こういう時のために、普通魔法使いは疲れないようになっています。
それだけは今も効いているんだけど、気持ちが落ち込みました。
いろいろなところに行って聞いて回ったのに、どこにいるのか全然わかりません。
最後にわたしは色瀬川に来て、土手に座り込みました。
クラスのみんなに「まかせて」っていって出てきたのに、見つけられなかったなんていえません。
わたしは自分から、みんなの代表になることにしたのに…。
辛くって、ちょっと涙も出てきました。
テトリちゃんはそんなわたしを、とっても心配して見ています。
でもこんな状況で、とても元気を出せそうにありません。
そんなところに、カンさんがやって来ました。
(あれ?みかんちゃんとテトリちゃん、どうしたんだよ?)
「あっ、カンさん」
落ち込んでいるわたしの代わりに、テトリちゃんが答えます。
今までの話を聞いたカンさんは、翼を動かしながらいいました。
(なるほど。そういうことで落ち込んでたのか)
わたしはカンさんが元気付けようとしてくれているのは、わかりました。
わたしは顔を上げてカンさんを見ます。
するとカンさんは、ぱっと飛び立ちました。
(みかんちゃん、いつもの魔法が使えなくて大変なんだろうけどさ。
オレ達がいるだろ。仲間みんなで探せば、きっと見つかる)
そしてカンさんは大きな声で鳴きました。
カー カー。
話がわかっていないわたしは、びっくりします。
「えっ?何?」
するとテトリちゃんが教えてくれます。
「カンさんが鳥さん仲間を呼んで、みんなでトキくんを探すのを手伝ってくれるそうですよ」
そんな思いがけない助けに、わたしは言葉が出ませんでした。
カンさんのところに、だんだんと鳥さんが集まってきます。
それはわたしが知っている鳥さんだけじゃなかったし、ヒナちゃん達も来てくれました。
そうみんなが集まると、カンさんは大きな声でいいました。
(みんな、集まってくれてありがとう。
それが、みかんちゃんの学校の子うさぎがいなくなったそうだ。
それで2人で探したんだが、見つからないらしい。
空を飛べるオレ達が探してやろう!)
するとわたしと仲良しのお母さん鳥が答えます。
(あら、そんなことがあったのね。
通りでみかんちゃん、元気ないわ。
ずいぶんがんばったのね)
そうたくさんの鳥さんに注目されます。
(でも私達に任せれば安心よ。
空の上から、こんなにたくさんで探すんだもの。
すぐに見つかるわ)
ピチチ ピチチ
そして鳥さん達は、色々な方向へ散っていきました。
そのことをテトリちゃんに教えてもらうと、わたしも元気を出して立ち上がりました。
「鳥さん達も手伝ってくれるんだもん。
またわたし達も探しに行ってみよう!」
そうテトリちゃんにいって、走り出そうとします。
すると1羽残っていたカンさんに、服をくわえられました。
「えっ?」
なんだかわからなくてわたしが止まると、カンさんがいいました。
(そうやって何でも自分でやろうとするのが、魔法使いの困ったところだ。
今までに充分探したんだろ?
あとはオレ達、友達を信じて待っていればいいんだよ。
友達としては、任せてもらった方がうれしいこともあるんだから)
そうテトリちゃんからのカンさんの言葉を聞いて、わたしは考えます。
その話で、さっきのクラスの友達とのことも思い出しました。
確かにそうだよね。
あの時もみんなで探そうっていってくれていました。
なのにこうしてわたし1人で来て、結局1人では見つけられませんでした。
わたしは魔法使いだからって、やっぱり特別に思っているところがあります。
もちろん本当にわたしでなきゃいけない時もあります。
でもみんなと解決できる時は、もっと頼りにしていいんだね。
そうわかって、心があたたかくなりました。
わたしは晴れ晴れとした顔になって、カンさんにいいます。
「うん、わかった。カンさん。
わたし、みんなを待ってるね」
カー カー
するとカンさんは、うれしそうに鳴きました。

いくらか待っていると、急いで戻ってきた鳥さんがいました。
そしてテトリちゃんがうれしい報告をしてくれます。
「トキくんが見つかったようですよ!」
わたしは安心しました。
「よかった!
カンさんも、鳥さんみんなも、ありがとう」
わたしにできなかったことを、こうやって助けてもらって、心から感謝しました。
「鳥さんが案内してくれるそうです。
迎えに行きましょう」
テトリちゃんの言葉に、わたしは元気にうなずきます。
「うん!」
そしてその鳥さんの案内に付いて、駆け出します。
カンさんはこれから戻ってくる鳥さんに、このことを伝えるために残りました。

着いた場所は、わたしが来たことのない大きな道路でした。
場所としては、そんなに遠いところではありません。
でも車がたくさん走る大きな道だから、わたし達は来ないようにいわれていました。
ここにいたんだったら、わたしには見つけられないはずです。
その歩道のわきの草むらに、トキくんがいました。
背中を向けて、ふるえています。
そんなトキくんに、わたしは落ち着いて呼びかけました。
「トキくん。わたし、みかんだよ。
もう安心だよ」
トキくんは耳をぴくぴくっと動かして振り向きます。
そしてわたしにジャンプしてきました。
(うわーん。みかんちゃん、こわかったよー。
外はどんなところかなって探検に来たら、びゅんびゅん速く走ってる物はあるし、家の場所はわからなくなるし…)
そう泣きながら、一生懸命いいました。
でもわたしはそれがわからないまま、手に持っていた袋を差し出します。
「八百屋のおじさんが、トキくんにキャベツの葉っぱをくれたんだよ。
おなかすいてない?」
そして袋から1枚取り出して、トキくんに渡しました。
やっぱりトキくんはおなかが空いていたみたいです。
少し落ち着くと、ゆっくり食べ始めました。
そして突然、びくっとしました。
その視線の先で、わたしは理由がわかりました。
だから笑っていいます。
「テトリちゃんは、本物の猫さんじゃないよ。
わたしの家族だし、礼儀正しいから心配しないで」
さっきかえるさんに見せたように手を出して、テトリちゃんもにっこりといいます。
「ほら、私の手は爪がないでしょう?」
そんなテトリちゃんの様子にも、トキくんは安心したみたいでした。
今日のテトリちゃんは、隠れたり、こわがられたり、色々と大変です。
トキくんがレタスを食べ終わると、わたしがだっこしたまま色瀬川へと戻ります。
トキくんもいっぱい疲れたよね。
隣にはテトリちゃん。そして上には、お手柄の鳥さんが一緒です。
「近所の鳥さん達みんなで、トキくんを探してくれたんだよ。
みんな色瀬川に集まってきてると思うから、お礼をいって、それから学校に戻ろうね」
歩きながら、わたしはそうトキくんにいいます。
(勝手に出てきて、なのに迷惑をかけてごめんなさい)
そうトキくんは、ずっとしょんぼりしています。
そこで鳥さんとテトリちゃんが励ましました。
(まあしょうがないわよ。
ずっと狭いところにいたら、出てきたくもなるわね)
「そうですよ。
元気でないと、お母さん達が心配しますよ」
わたしはそのテトリちゃんの言葉しかわかりません。
でも3匹で何を話しているのかが、なんとなくわかりました。

色瀬川に付く前に、お花屋さんがあります。
心配してくれた高橋さんに、早速報告しました。
「トキくんが見つかりました。
この鳥さんが見つけてくれたんです」
そうわたしは、トキくんと鳥さんを紹介します。
すると高橋さんはほっとした顔になっていいました。
「良かったわね。気になっていたの。
みかんちゃんは、友達がたくさんいて良かったね」
「うん。本当」
そう心から実感しました。
テトリちゃんは、一生懸命手助けしてくれました。
カンさんや鳥さん達は、あんなに大勢で探してくれました。
そしてクラスのみんなも、一緒に探そうっていってくれました。
そんなみんなに、とっても感謝しているんだよ。

色瀬川には、たくさんの鳥さん達が集まっていました。
わたし達はそこに走っていきます。
カンさんがトキくんを見つけていいました。
(無事に会えたんだな。良かった!
さあ早く学校に戻った方がいい。
もう夕陽になりそうだ)
その言葉を聞いて、学校のみんなを思い出します。
そうだね。あれから大分時間が経ってしまいました。
きっとみんなも心配してるよ。
もう授業は終わっている頃です。
「みんな、探してくれて本当にありがとう!
トキくんを送ってくるね」
わたしは鳥さんみんなに手を振ります。
そして今度は学校に急いで戻ります。
ピチチ ピチチ ピチチ
鳥さん達は、みんなで元気に見送ってくれました。
今は急いでて簡単にしちゃったから、また改めてお礼をいわなくちゃね。
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